絶体絶命   作:ぴのこ

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金木と未来の距離が近づく


小康状態

酷仁と金木は現在大学サークルのオーケストラに所属しているが

この楽団はクオリティが高く、団員の何人かはヨーロッパのオケから

お呼びがかり移籍する者も少なくない。

 

彼らはセミプロというよりは、ほぼプロの実力を持つ。

中川未来は既にプロのピアニストとして活動していたが

姉妹大学出身であることから、酷仁と金木が所属する大学主催の演奏会で

セッションをすることが度々あった。

 

また、ゲスト奏者として招かれることもあり

未来と酷仁そして金木は何度か壇上で顔を合わせていた。

 

はじめは妃乃子もサークルへの入団を希望したが

肺活量が少なかったことから、楽器演奏をすると酸欠で倒れてしまったため

ミキシングなどの裏方を手伝っていた。

 

妃乃子は人には聞こえない音、つまりイルカ並の周波数を

キャッチできる特殊な能力があったため

ミキシング技術も一流で

この楽団では欠かせない人員の一人となっていた。

 

脂汗を流しながらミキシング操作に没頭する妃乃子の姿に

酷仁は心惹かれていった。

 

BJも生前は彼らのコンサートによく足を運んでいた。

そこでBJは酷仁の妃乃子への熱い思いに気が付き、2人の仲を取り持った。

 

妃乃子は以前、自称BJの妻と宣言していたように

BJを心から慕っていたが、酷仁と医学部の研究室でも

共にに実験を繰り返すうちに、次第に酷仁に惹かれるようになっていった。

 

その頃金木には、大切な想い人がいた。

芳村愛支(エト)、喰種として苦悩しながら生きる

悲劇の主だった。

 

金木はどうにかして、愛支を救いたかった。

同大学の文学部国文科に所属し、いくつかの随筆がコンクールで入選する程

文才に優れ、鋭い感性の持ち主である愛支を、普通の人間同様に

生きられるよう、日々研究を重ねていた。

 

ー喰種として苦悩せずに生きる方法ー

 

金木が考案した代替え食糧の研究、

喰種の生物学的遺伝子操作を行う新薬の開発等

それらの研究は米国医学誌に載る程のものであったが

実際の喰種での臨床結果が出せなかったため

ノーベル医学賞を受賞するまでには至らなかった。

 

数々の研究成果を愛支の肉体で試みるが

あと一歩というところで、愛支は喰種を追跡していた

捜査官に一撃をくらい、命を落としてしまう。

 

愛支の脳死判定が行われたその時に、中川未来が事故で

搬送されてきた。一刻を争うその時、BJの元に

愛支と未来が送られてきたのであった。

 

 

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中川未来は時間をもてあましていた。

練習などしなくても、目を閉じればすぐにメロディが頭に浮かび

荒れ狂う嵐のようなほとばしる情熱が、体中で煮えたぎる感触を

常日頃からどうコントロールしてよいか、考えあぐねていた。

 

そんなとき、想定外のセッションを体験し、

日々の沸々としたいらだちを一掃させてくれる存在をみつけたことに

大きな喜びを感じていた。

 

未来は携帯を手に取ると、アドレス帳を開き、画面をスライドさせた。

 

「金木さん?中川です。」

 

研究室にこもっていた金木は、あわててスマフォを手に取る

 

「あ、未来さんですね!金木です。早速のご連絡ありがとうございます!」

 

「もう、待ちきれなくて連絡しちゃいました。もしかして

お仕事中でした?」

 

「いや、仕事というか、自分の趣味のような研究ですから

お気になさらずに」

 

「あたくしね、新しいセッションを思いついたの。

私のピアノとあなたのバイオリン、そして、間奏では

フルートを入れてみたいの。如何かしら?」

 

「そういえば、未来さんってフルートも演奏なさるんですよね?

オーケストラとのセッションではピアノだけですが、

ソロコンサートのときは、フルートも演奏されると伺いました。

 

ぜひ聞いてみたい!」

 

「ふふっ、無料では披露しないのよ。あたくしのコンサートは

高いんだから。でも、あなたとのセッション料ですから、タダで

お聴かせするわ」

 

「そうですか!それはありがたい。では、ご都合の方は?」

 

「今からでも!」

 

「え?今から・・・・ですか?」

 

「あら、お忙しいかしら?」

 

「え、いや・・・無問題です!!!すぐに車とばして

伺います。確か、六区でしたよね?大きなお屋敷だから

すぐにわかりますね」

 

「もし、迷ったら連絡くださいな。あたくし、迎えにあがります」

 

「いやいや、未来さんにお迎えにきていただくなんて。

僕は大丈夫ですから!」

 

「それなら、お待ちしていますわ。ファンの方からいただいた

フィナンシェとお紅茶がありますから、ご用意してお待ちしていますね」

 

「はいっ!ありがとうございます!」

 

金木は、高まる胸の鼓動を懸命に沈めようとしながら、

赤いポルシェに大急ぎで乗り込み、未来の家へと向かった。

 

未来は、急に襲ってきた獣食らいへの衝動が治まり、

金木とのセッション予定で気持ちがそれたため、

抗うつ剤なしで、落ちつくことができた。

 

 




金木は、談笑した中で、未来に現れる症状を既に分析していた。
笑顔で話しているものの、時折のぞかせるチックが彼女の神経系統に
異常が現れているのが見て取れた。

一日も早く、彼女の苦悩を取り除くべく
金木は密かに研究を重ねていた。
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