絶体絶命 作:ぴのこ
倉庫にあった妃乃子の日記を見つけた晧仁。
蝉の声が懐かしい季節。
晧仁達が子供のころは、どこにいても蝉の声が聞こえたものだったが
都会の研究室は、季節を感じさせない空間がどこか寂しげだ。
猛暑日の室内はエアコンの風が冷たすぎて
長時間同じ姿勢でいると、体が痛くなってしまう。
休日の今日は、早めに研究を切り上げ
ビールを買って、家路へと向かう晧仁だった。
「ただいま~。あれ?ぴの?どこいったんだろう・・
倉庫かな?」
妻の妃乃子の姿が、居間に見あたらない時は、
倉庫で宝探しを楽しんでいることが多々ある。
晧仁は、妃乃子を探しに倉庫の入り口をゆっくりとあける。
「ぴのー、あれ?いないなぁ・・・」
ゆっくり進むと、何か床に落ちているのを見つけた。
「ん?なんだこれ?」
手に取った革装の分厚いノートは、どうやら日記のようだ。
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○月○日 晴れ
最近、体が痛い。先生がしっかり手術をしてくれた筈なのに
膵臓のあたりがきしむ。うん。きっと膵臓のあたり。
膵臓は痛みを感じない筈だけど、私にはわかる。きっと
何かが起こっている。
おそらく、膵臓は人工のものかなにか、先生特性の
臓器だと思う。先生の手術は完璧だけど、成長に
合わせて、たまに交換する必要があるということは
私も知っていた。ただ、先生が生きているときは
私の体はあまり成長しなかったけど
晧仁と一緒になってからは、心身共にいろんな変化があった。
先生にはあこがれと尊敬の気持ちで一杯だったけど
晧仁への想いに気が付いてからは、それが愛だということを
認識するようになった。
晧仁が傍にいてくれるだけでいい。それだけで癒される。
なにもかもがあたしにとって必要なんだ。
仕事してるときの真剣な顔、友人をねぎらっているときの優しい顔、
研究室のみんなとスポーツを楽しんでいるときの笑顔
どの顔もあたしの心の栄養剤だった。
臓器に異変が起きて、筋肉の質も変わろうとしているとき
きしむようなじわじわと来る痛みに悩まされていたときも
晧仁の笑顔は、私の緊張を解きほぐした。
自分の研究も順調に進んだ。彼は決して私を甘やかしたりしない。
なんでもかんでも教えるんじゃなくて、ヒントを与えて
私に考えさせてくれた。
先生と出張に出かけて行って、数ヶ月会えなかったときは
寂しすぎてどうにかなりそうだった・・・
会いたい、会いたい、そればかりつぶやいていたっけ・・・
最近の晧仁は、どんどんバージョンアップしている。
論文も磨きがかかっているし、研究も進んでるみたい。
すごいな・・・彼の強さってどこから来るんだろう。
彼のそんなところも愛して止まない。
いつも前に向かって突き進む、頼もしい彼・・・
あたしも、みんなの研究の役に立ちたい。
晧仁や金木君の、そして、未来さんのために。
膵臓交換のオペ、してくれないかな・・・
このままいったら、絶対ヤバイ気がする・・・・
どうやって晧仁に言おう。
きっと反対するんだろうな・・・・
金木君も晧仁と同じだろうし・・・
おそらく彼らは投薬で抑えようとするに違いない・・・
でも、できれば、今の臓器を摘出して
研究に使ってほしいんだけど・・・・未来さんに
移植が可能なら、不適合でないなら、是非オペってほしい・・
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晧仁は、ゆっくりと日記を閉じ、落ちていたもとの場所に
置いた。
(知らないフリをして、今度採血をしてみよう。
酒の飲み過ぎだから、肝臓が心配だとかなんとか
口実つけて。この間も、みんなで飲み明かしたしな。
そういえば、研究室を出るときに、角刈りで真っ黒に日焼けした上井戸さんが
2リットルのペットボトルを、3本も抱えてたっけ・・・
いくら暑いといっても、1日で3本も飲むって・・・
どんだけだよ・・・・
ぴのがそれをみつけて、ケタケタ笑ってたな。
上井戸さんったら、
「何笑ってんのーーーー!」って、ぴのを追っかけていったっけ。
小学生かっ
検査技師の上井戸さんは、いつも僕らを笑わせてくれる。)
晧仁は思い出し笑いをしていた。
そろそろ金木と研究成果の見合わせをする時期だ。
さっき読んだ日記のことを、密かに相談しようと
晧仁は考えていた。
明るく振る舞っている妃乃子ですが、心の内に秘めている想いは
深いのですね。