ボイロスモーカー   作:草賀魔裟斗

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この小説は自分でいうのも変ですが書きにくい…


幻影的happy

あんな事件はあったものの、イアの心には傷はなかった

イアはそんな自分に恐怖を抱いていた

そしてゆかりが自分のいる世界から離れるような焦りを感じていた

遂には声に出した

「ゆかりん、もうゆかりんはどこにもいかない?」

「え?…」

ゆかりは煙草を咥えたまま、少し目を開いて驚いたようにイアを見た

「どうしたんですか?急に」

「…」

イアは少し黙った後、目を逸らしてなにかを振り払うように首を振った

「なんでもない…急にごめんね、ゆかりん…ツナギん見つかるといいね」

「…はい」

その儚げな笑顔はゆかりの脳を非物理的に揺らした

その苦しさからゆかりは下唇を噛みしめて拳を血が出んとばかりに作り出した

 

「あはは…イアはんは相変わらずやな」

ゆかりは茜の部屋のベッドに横になっていた

茜の部屋は少し狭めのマンションの一室だ

喫煙者の部屋らしく壁はかなり黄ばんでいるがLEDの明かりが青いため少々マシに見える

家具はというと薄型テレビ(といってもかなり安物)、ベッド、机、本棚くらいしかない、本棚にも漫画やラノベしか入っていない

「笑い事じゃありませんよ…イアさん…今にも泣きそうに笑うんです…あの顔は死ぬほど辛い…」

「せやな…人間、身近な人の涙には弱いもんな…うちやて葵に泣かれたら…なにしでかすか分からんな…混乱しすぎて」

「…イアさんの場合、喫煙の時もそうでした…”早死しないで!!”って泣き初めて…あの時は困りました…」

「イアはんも辛いんやろな…ツナギくんにほの字やったんやろ?」

「みたいですね…」

「みたいですねって…あれ見て断定できんとか…あー、姉弟揃って朴念仁もえぇとこや…ともかく、そんな弟さんが居なくなったんやから、イアはんには心配かけんようにせーや」

「分かってますよ…てかこの仕事に誘ったの茜さんですよね?」

「うちみたいなええ女はな、過去は振り返らんのや」

「はいはい…で資料ってなんですか?その話を聞きに来たんですよ?」

茜の顔が真剣になった

「うちは私立探偵会社に就職しとるゆーたやん?」

「えぇ…結束はあってないようなものと聞きました」

「あぁ、システムとしては巨大な枠組みにそれぞれの探偵が所属し、好き勝手に任務をこなす…でも普通の任務では報酬はないか雀の涙や…それじゃ生活でけへんやろ?だから会社から依頼が出るんや…それを資料と言うんや…由来はこの資料やな、まんまやろ?…これはあたりやといいなぁ」

茜がクリアファイルに入った資料をプラプラさせる

「会社は仲買みたいなもんや…仲介料で儲けを出しとる…うちらは報酬で生計を立てる…まさにウィンウィンってわけや」

「…なるほどです…でその資料にはなんの仕事が書いてるんですか?それにあたりって…?」

「依頼にもピンきりがあってな、人探し程度の簡単な奴もあれば、状況説明皆無の物もある…仕事の難易度によっては複数の探偵に同じ依頼が渡ることもあるんや…特にその状況説明皆無のもの…ブランクって呼ぶんやけどな…それが来るといろいろ面倒なんや」

茜は資料を見た

「むぅ…結構やばそうやな…ついてへんなー」

「?なにがです?」

「真っ白や…ブランク…依頼内容しか書いてへん」

 

イアの心配はぬぐえなかった

その心配からか展望台に来ていた

ツナギとゆかりとよく来ていた展望台

クリスマスも近いからかイルミネーションが設置されているが昼間だからか人通りはすくない

「ゆかりん…ツナギん…私どうすればいいのかな…どうすれば、この焦燥感、止まるかな…世界旅行は止められなかったよ…また、どこか遠くに行っちゃうのかな…」

呟きに返事は来ない

「…会いたいよぉ…ツナギん…」

金属の柵を背に踞った

「イアさん」

葵が後ろにたっていた

「葵ちゃん!いつの間に…」

「いえ、遠目にイアさんが見えたんで…お邪魔でしたかね?」

「…ううん…気にしないで…」

葵が少し表情を緩めた

「あの、イアさんが良ければですが…お茶しませんか?」

「…珈琲店は勘弁してね」

「はい」

葵はにこりと笑った

 

「♪~♪~」

鼻歌が聞こえる、歌の主はかなり上機嫌のようだ

「マキマキどうしたの?」

青いツインテールの少女が声の主に話しかけた

「え?あ、なんでもないよ、ちょっと良いことがあってね」

「へぇ…マキマキの良いことかぁ…ちょっと気になるかも」

「へへ~内緒だよ、女ってのはミステリアスの方が魅力的なんでしょ?」

マキマキと呼ばれた少女が先に軽い足取りで進んでいった

「マキマキがミステリアスか…おっかし…」

 

「で…なんで、ここなんです?」

その頃、ゆかりと茜はきりたんの工房に来ていた

「うちやて神さんちゃうしな…情報皆無では動けんわ…やから依頼主に来てもらった…詳しい話を聞きにな」

茜が今まで吸っていた煙草を携帯用灰皿に詰め込む

「…なんできりたんさんの工房…?」

「うちの部屋狭いやん?あ、せや」

茜がゆかりに耳打ちした

「きりたんの姉…じゅん子にはうちらの仕事の事は内緒な…葵やイアはんと一緒や」

「分かりました…」

 

工房内はほぼ民家だった

緑の和服を着た優しそうな女の人が出迎えてくれた

「あら、茜ちゃん、遊びにきたくれたのね」

「あぁ、じゅん子はん、きりたんに会いに来たで」

「きりたんなら奥の作業場にいるよ、なんでも大切な作業があるらしくてね」

「あぁ、その作業の手伝いに呼ばれたんや…人使い荒いであんさんの妹はん」

「うふふ…それでも来てくれるんだものね…きりたんは良いお友達を持ったわね」

じゅん子はゆかりに気付いた

「そちら様は?」

「あぁ、結月ゆかりはん…しばらく旅してて最近帰ってきたんや…旅に出る前からうち通じてきりたんとはしりおうてな帰った報告をしようと思って連れてきた」

「そうなのね…よろしくね結月さん」

じゅん子は軽くお辞儀した

つられるようにゆかりもお辞儀する

「よろしくお願いします、じゅん子さん」

「…うーん、工房は広いからね…茜ちゃん、しっかり案内してあげてね」

「ガッテンや」

 

「よくもああも、嘘がでると思ったやろ」

「え?」

ゆかりは意図しない質問にすっとんきょうな声が出た

「考えてませんでした…」

「なんや…それやったらええんや…ゆかりはんは他の人を守るために嘘はつかんときや…いつか押し潰されるで」

「…肝に命じます…」

 

きりたんの部屋に着くときりたんがオフィスチェアをクルリと回してゆかり達の方を見た

「ずん姉さまの件、ご協力ありがとうございました…」

「ええよ、いつもの事や」

きりたんの部屋に着いてやっと喫煙を始めた。喫煙も秘密らしい

「…すみません、私のわがままで」

「何度言えばええんや?きりたんも葵には内緒にしてくれてるやん、これでおあいこやで…それにイアはんに上手いくらいに誤魔化しを聞かしたんもきりたんやろ?」

ゆかりがきりたんの方を向いた

実際そうだ、茜の職種も「私立探偵だが人探しを専門にしているので荒事はない」といっている

勿論、理由は余計な心配をかけさせないためである

「余計なお世話でしたかね…?」

「いえ、とんでもない、とても助かりました…嘘はつけない性分ですから」

「それならよかったです…さて、入って下さい」

いかに幸が薄そうな女の人が入ってきた

「今回の被害者の幸無子さんです」

「さちむね…?読みにくいなぁ」

「よ、よく言われます…」

ゆかりが単刀直入に聞いた

「で?今回の依頼と言うのは…?」

「は。はい…えっと…変なメモリアの事なんです…もしかしたら都市伝説のモルスメモリアなんじゃないかって…」

 

政府はメモリアが社会に浸透する際、モルスメモリアの存在を隠蔽した

理由は明らかにはされていないが

どうやら当時の総理大臣の親族がモルスメモリアで不祥事を起こしたらしく

それを表沙汰にしないようにするためメディアに情報規制を強いた

その為にいくらかの税金も使われたらしいが真実がどうかは謎である

日本だけでなく世界中でもモルスメモリアの件はひた隠しにされている

モルスメモリアの存在さえも知らない国家もあるらしい

しかし先進国民ではほとんどモルスメモリアの存在を知らない者はいない

所謂、公共の秘密と言うやつだ

 

 

「都市伝説なぁ…まぁええわ…どこでそのモルスメモリアを見つけたんや?」

「ああ、その辺の話は私が聞いてまとめときました、茜さんは忘れっぽいですし」

きりたんが透明なクリアファイルに入った複数枚の資料を茜に渡した

「あんがと、助かるわ…」

茜は目を凝らして資料を睨む

「…これは…洗脳?」

きりたんのが首を横にふる

「残念ながら概念や物質をメモリアできても思想はメモリアには出来ていません…だから洗脳のメモリアは存在しないはずですよ」

「なら、なんやろ…複数の人間が自殺なんて…」

ゆかりも資料を覗き込む

「…自殺ですか…」

 

イアと葵は和菓子の美味しいお茶屋さんに来ていた

「ここの緑茶好きなんです、姉も好きでよく来てて」

「そうなんだ…」

イアは誰から見ても解るくらい元気がない

「イアさんが良ければ、なんで泣いてたのか…教えて戴けますか?」

イアは少し躊躇うもしばらくすると辛くて泣き出すような声で言葉を紡ぎだした

「ゆかりんが何か隠してるみたいで…ゆかりんには!…前科があるから…また、危ない事に巻き込まれてるんじゃないかって…ゆかりんはツムギんのことになると…周りが見えなくなるというか…危なくて…」

しばらくの間を置き葵が微笑んだ

「…ゆかりさんは幸せ者ですね」

「そう…かな…私にはとても不幸にみえる…とても危うくみえる…」

葵はゆっくりと頭を横に振る

「だって貴方が居るじゃないですか」

イアは少し驚いて目を開く

吐息のようなえ…とか細い声が漏れた

「…違いますか?こんなに思ってくれてる人がいるんですよ…昔、ある人が言ってました…会うべき人に会える事を人は幸せと呼ぶそうです…それが幸せの概念ならゆかりさんは貴方がいる限り幸せ者ですよ…勿論、私のお姉ちゃんもです」

「…そっか…」

「そう思わなきゃ…壊れちゃいます」

その一言にイアは察した

あぁそっか…葵ちゃんもなんだ

「…葵ちゃん…」

「だから二人で信じましょ?」

葵はイアの手を握った

「…私達の大切な人はそんなに柔じゃないって」

「……そうだよね……ゆかりんがそう簡単に…負けるわけないよね…だってツムギんのお姉ちゃんなんだから…!」

「ですよ、姉はきっと強い生き物なんですよ…誰よりも…何よりも」

 

とある廃ビルの通風口

「…うわぁ…確かにこりゃ」

窓枠から次から次へと人が飛び降りていく

「酷いですね…これ、なんのメモリアでしょうか…」

「さぁなぁ…でも何かしらの方法で人の精神を乗っ取っている…心強くもちーや、ゆかりはん」

「はい…ああはなりたくないですもんね」

「あそこやな…」

茜が指差した先に男が一人たっていた

「あの男ですか…何か楽器が見えますね…ヴァイオリン…でしょうか…」

「よく見えるなぁ…視力えぇなぁゆかりはんは…しかしヴァイオリンかぁ…」

茜が煙草に火をつけた

「見えたで種…ええか?ゆかりはんうちの言うとおりに動いてくれ」

「…はい」

 

男は一心不乱にヴァイオリンを演奏している

「よぉ、あんちゃん、何やってんや?」

男は茜の呼び声に振り向く

「邪魔しないでおくれ、可憐なお嬢さん、私は今、究極の聖歌を演奏しているのさ」

「究極の聖歌?」

「そうだとも!何故、他の音楽家は理解しないのか、理解に苦しむね、世界での一番の芸術は死さ…死こそ、究極の美!死こそ至福の聖歌!私の音楽は他者の死で完成するのさ!」

「”死”ねぇ…なんで、そんな事教えたんや?うちがそれを止めるために行動しとるかもしれんやろ止めんのか?」

男が怪しく微笑んだ

「それには及ばんよ、お嬢さん、お嬢そんにも死を体験して貰うからね!」

男は弓をヴァイオリンに近づけた

「今や!ゆかりはん!」

耳をつんざくようなエンジン音が響く

「なっ!」

「音楽家さん、エンジン音はお好きですか?お好きなら…エンジンの音で踊りましょ?」

「これは…まさか…チェーンソーかっ!」

茜はまったく表情は変えず男を見た

「あんちゃん…暗い日曜日って知ってるか?、1933年にハンガリーで発表された曲なんやけどな…自殺の聖歌と呼ばれてるんや、でもそもそも曲自体にそんな効力は無い…でもそれを聞いて自殺する人があとをたたなかった…何故だと思う?…その曲は人を自殺させる力はなかったけど人の気持ちを暗くする力を持っていたんや…でや、あんたのその聖歌…暗い日曜日やろ…それをモルスメモリア…テンプターティオーで自殺に誘惑してたんやろ…メモリアインストール媒体はヴァイオリンやろな」

男は図星を突かれたように数歩身を引いた

「あんちゃんしってっか?、ヴァイオリンの音の大きさは80dBから最大でも90dBや、それに比べてチェーンソーは最低でも90dB…最大なら100dBの騒音をだせる…あんたの聖歌なんて聞こえんようになるわ…」

茜がライターに火を灯した

「悪いなぁ…正面から殴り合うような仕事は金髪ホルスタインに任せてるんや…これがうちの喧嘩の仕方や…」

茜が男のヴァイオリンを蹴りで吹き飛ばした

すかさずゆかりが背後から近づき首にチェーンソーを突きつける

「あんま、動かん方が身のためや、そのメモリアはデーストルークティオー…人間の体なんか簡単に肉塊や」

男は顔を歪に歪め舌打ちをする

すぐに怪しく微笑んだ

「私の音は電子音になろうとも効力を持つのさ」

男が指を鳴らす

するとライトがついて廃ビルの広場が明るくなる

そこには巨大なスピーカーがあった

「なっ!」

「この街の住人すべての死が私の芸術の完成形なのさ」

「この街…葵やイアはんもおるんやぞ…やめろ!!!」

リモコンのボタンは押された

 

「?」

葵が窓から外を見る

「どうかした?」

「いえ…なんか聞こえたような…」

「…なんだろね…」

誰かが叫んだ

「おい!伏せろ!何か来るぞ!」

 

廃ビルは激しく振動した

それは優雅なヴァイオリンでも

死を誘う呪われたリズムでもなく

 

 

大音量のエレキギターの音だ

 

 

「さぁ!ギュンギュン行くよー!」

 

「!!!」

「うるっ…!!このリズムは…」

「あぅあ…」

その音はあまりにも巨大で音割れを起こし図々しくもビルを包み込む

男は驚いて気絶してしまった

「茜ちゃーん!!チェーンソーとは考えたねぇ!!でもさ!こうギューンとした感じが足りないよ!!」

「やっぱお前か!金髪ホルスタイン!!なんや!ギューンとした感じって!てか!これとめろや!犯人気絶したわ!!」

エレキギターの音が止まった

「はぅ…耳がキーンって鳴ってる…」

「意識保ってるだけですごいわ、ゆかりはん…多分、街では何枚か窓ガラス割れてるな…」

「いやぁ…なんかね、あの音楽気に入らなかったからさ、私好みにアレンジしてみたよー、名付けて明るい月曜日なんてどうかな?」

「作者に謝ってこい…てかあんな原型のない、アレンジがあるか!てか、あんなん音楽ちゃうわ!ただの騒音や!」

「耳いたい…」

ゆかりは耳を押さえて踞った

「見ろ!うちの助手が被害被っとるやんけ!鼓膜破れてたらどうしてくれるんや!?あぁ!?」

「大げさだよー、茜ちゃんはー」

「大げさちゃうわ!ハゲ!」

「ハゲてないもん!」

「そーゆー意味ちゃうわ!」

ゆかりが顔を上げた

「その方は…?」

「あー、金髪ホルスタインや」

「ひどっ!なにそのあだ名!」

女性はゆかりのほうを見た

「私は弦巻マキだよーマキマキって呼んでね、バンドでギターを担当してるよー」

「よーく知ってます…エレキギターですよね…」

マキがにっこりと笑ってまぁねと言った

「こいつもうちと同じ、探偵や…まぁうちとは違い脳筋探偵やけどな」

「ちなみに私は元ヘビースモーカーなんだよ!」

「おうおう、嬉しそうにゆーなや」

「…マキさんがどんな人か…よくわかりました…」

マキと茜が男に近づいた

「どうする?この人」

「…本社に連絡や…とりあえず、依頼は達成したってな」

「あいよー」

 

茜は屋上に上がった

ゆかりは耳鼻科に行ってきますと言い残し去っていった

マキはいつの間にか居なくなっていた

男はとりあえず、病院に運ばれた…どうするかは本社が決めるだろう

暗殺とかならまた、依頼がくるはずだ

その時はゆかりにも金髪ホルスタインにも言わず、誰にも頼らず始末しておこうと思った

「やっぱ…まだ、ダメな姉なんかなぁ…うちは」

茜は最近、姉としての自分に自信をなくしていた

葵と向き合う時間も少なく

姉として何かしてあげてるか、と聞かれるとなにも応えられない

生活費面の支援も…葵にバイトを強いる位には支えれてはいない

姉としてのアイデンティティーが崩壊せんとしていた

「どうしたの?茜ちゃん」

茜はじゅん子の声がして驚いた

タバコは煙が消えていたので携帯灰皿に慌ててしまい振り向いた

「じゅん子はん、どないしたん?こんな所で」

「それはこっちのセリフだよ…茜ちゃん、どうしたの?」

茜は夕暮れに染まった空を見つめた

「うちは…葵の姉でもええんやろか」

「…らしくないよ?茜ちゃん」

「らしくないかもしれんな…」

茜が皮肉っぽく笑った

「どうして…そんな事いうの?」

皮肉っぽい笑顔はすぐに驚愕の顔になった

「葵…」

「ねぇ…どうして…そんな事いうの!?」

葵はかなり怒ってるようだ

「じゅん子はん…はこたな…」

「ごめんね…でも偶然だったんだ…お茶屋でお茶してたら、窓ガラスが急に割れて、偶然、葵ちゃんとイアちゃんって子と会ってね、高台で様子を見ようと言う話になって…」

茜はふぅと息を吐いてじゅん子に退席を頼んだ

じゅん子は快く受け入れ屋上から出ていった

「…そのまんまの意味や…うちはまだ、姉としての自分を認めてない」

「そんなの…ッ!」

葵のビンタが茜の頬を赤く染めた

「いいに決まってるじゃん!私はお姉ちゃん以外のお姉ちゃんは認めないし…私はお姉ちゃんのこと、世界一の姉だと断言できるよ!」

「妹にバイト強いる姉が世界一な訳ないやろ…葵の幸せの足を引っ張ってんのはうちなんかもな」

茜は二発目のビンタを喰らい視線を下に下げる

「やめてよ…お姉ちゃん」

葵の目に微かに涙が溜まり始めた

「……なぁ」

茜は消え入りそうな声で聞いた

「葵の幸せって…なんなん…?」

「…お姉ちゃんと…皆と一緒にいることだよ」

「そっか…あんがとな」

そう言うと茜はゆっくりと屋上を後にした

「…あれで良かったの?」

マキが建物の影から葵に話しかけた

「お姉ちゃんは…本当にいい姉なんです…でも自虐的過ぎます…あれくらいが丁度いいんですよ、マキさん」

「…葵ちゃんがいいなら…いいけど…」

マキが空を見上げた

「会うべき人に出会える事を人は幸せと呼びます…か…葵ちゃんも茜ちゃんも幸せなのかもね…もしかしたら世界で一番…」

「問うまでもなく…その通りですよ」

葵はただまっすぐ迷いなく言った

 

「イアはん…」

茜はビルを降りてすぐにイアと出会った

「茜さん…目頭赤くありません?」

「気のせいや…いや、もしかしたら寒いからかもな」

「ですね…今日は折り入って寒いですよね…」

「…冬はやっぱ嫌いや…涙が暖かくてなんかエエもんみたいな気がする…ごめん、イアはん、うち帰るわ」

足早に茜が去っていった

「…茜さんもゆかりんと同じ…みたいだな…」

イアの呟きは冬の空に溶けていった




今回のメモリア紹介のコーナー

テンプターティオー 誘惑のモルスメモリア、音や視覚情報にのせて他者にデータを送り込むことで相手に一定の行為をさせることが可能
ただし、そのインストールした情報がかき消されると意味は無くなる
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