SF-ストライク・フォース 作:田んぼのアイドル、スズメちゃん
藍那たちはメガフロートの地下に来ていた。
メガフロートの地下は3層に分かれている。
1層目はシャッター状の金属製の隔壁と太く頑丈な柱で分かれている。今いるこの区画は縦横50m 高さ15mあり、1つ1つの区画はそれなりに広い。隔壁を上げることによって、同じ造りになっている隣の区画と繋げることが可能である。これにより、この階層は倉庫兼SFの屋内訓練場として使われている。
2層目は主に食料プラントになっている。この学園で消費されている食料の多くは日本の本州、主に横浜などから海運で運ばれている。しかし、海運のみに依存するのはそれなりにリスクが伴う。よって、試験的ではあるがトウモロコシなどの穀物や緑黄色野菜などを人工光によって栽培していた。これにより、消費されている食料の約30%を賄うことに成功している。
3層目はこのメガフロートの心臓部ともいえる動力炉が置かれている。メガフロートではガルダニウムによる重力制御を利用した熱核融合炉を主動力として使用している。核融合炉とはウランやプルトニウムに代表される重い原子の原子核分裂反応を利用する核分裂炉に対し、水素やヘリウムといった軽い原子による核融合反応を利用しエネルギーを発生させるものである。
熱核融合炉はメガフロートをはじめとし、日本国内で多く使用されている。
動力源として熱核融合炉が使用されている理由として挙げられるのは、燃料の確保がとても簡単ということである。熱核融合炉で生産されているエネルギーはこの学園内のみで使用しきることができないほど膨大である。その為、海水を電気分解することによって水素と酸素とそれ以外に分解している。これによってメガフロートはエネルギーの自給自足を図り、少しずつであるが海の水質浄化にも貢献しているのである。それに加え、酸素は地下第2層の食料プラントやそれ以外の施設で有効活用されている。
藍那と香奈子は地下第1層にSFを装着した状態で待機していた。
シャッター状の隔壁は上げられ縦横が250mの空間が作られており、SFを装着しているにもかかわらず自分達が小さくなってしまったのではないかという錯覚に陥る。
2人が装着しているSFは小久保のSFと同じく、腰部と肩部にスラスターユニットと背中にメインスラスターが装備されている。
「2人とも、1年生には早すぎるが、先ほども言ったが飛行訓練を行う。先ずはスラスターを一切使わない、重力制御のみでの飛行だ。私が手本を見せる。」
小久保はフルフェイスのヘルメットのような物を被り、ゆっくりと2mほど浮いた。
「これが、重力制御による浮遊だ。」
小久保は藍那たちに説明をしながら左右へ並行移動や垂直移動などを見せる。
「この浮遊がSFでの飛行の基礎になる。まぁ、難しく考えなくてもいい。姿勢制御や重力制御といった人間では難しいことは、
小久保の指示を受け、藍那と香奈子は小久保と同じようにヘルメットのような物を被る。
ヘルメットの中は真っ暗で何も見えない。しかし、被った瞬間『網膜投影開始』という文字が見え、一瞬まぶしさを感じるとヘルメットを被る前と同じ視界になった。
「網膜投影はうまくいったようだな。このヘルメットにはズーム機能はもちろん、暗視とサーモ機能、そして通信機能も付いている優れものだ。それじゃあ、浮遊する練習を始めてくれ。」
藍那と香奈子は小久保の号令を受け、ゆっくりと浮き上がる。2mほど浮くと、そのまま水平移動や垂直移動を始めた。
その姿はともに危なげなく、既に浮遊するという感覚をつかんでいるかのようだった。
そんな2人に小久保は素直に感心する。
「ほー・・・。なかなか筋がいいじゃないか。2人ともどこかでSFのシミュレーションでもやったことがあるのか?」
「いえ、私はやってことはないです。でも、以前友達の家でさせてもらったVRゲームが空を自由に飛び回るというものだったので、その感覚に似ていると思います。」
香奈子は浮いたままゆっくりと右に移動しながら応える。
VRゲームは2020年頃から広く普及し始めた。アミューズメント施設などに行かなくても、自宅で疑似体験できるということで人気を博した。
現在では視覚と聴覚だけでなく一部の触覚までも再現でき、VRゲームは若者だけでなく年配者にも人気のコンテンツとなっていた。
小久保は香奈子がVRゲームによってある程度感覚をつかめているということに納得する。
「私は父に数回シミュレーションをやらされました。」
藍那も上方向への浮遊を続けながら答えた。
小久保は藍那の言葉に違和感を覚える。先ほど自分で冗談のつもりで言ったが、SFのシミュレーションは軍の関係者しか触ることができない。第一、SFに関する事柄の多くは国家機密になっている場合が多く、民間人の身近なものではないのだ。
ここで小久保は藍那の苗字が『仁科』であることに気が付いた。
「仁科。まさかと思うが、お前の親御さんは仁科正純国防大臣ではないよな?」
小久保は半ば恐る恐るといった様子で藍那に問う。
「そうですよ。私は仁科正純の養子です。」
「なるほど、これで納得がいった。SFのシミュレーションができるとは何者だと思ったが、国防大臣の娘さんなら納得だ。」
小久保は疑問が解けたことに満足する。
「このことを明かすと私を特別扱いする人がいますけど、できればやめてほしいです。」
「もちろんだ。ほかの生徒と同じように厳しくいくから覚悟しておけよ?」
藍那と香奈子は浮遊訓練を続けた。
約20分が経過し、小久保は2人が次のステップであるスラスターを使用しての飛行訓練に移っても問題ないと思っていた。
実際、藍那と香奈子は2人とも完全に浮遊する感覚を掴んでいる。
小久保はそんな2人を見てニヤッと笑い
「2人とも、飛行訓練をしてみないか?」
小久保は2人に誘うような口調で問う。
「やりたいです!!」
香奈子は目を輝かせながら即答した。
「香奈子と同じく、私もやりたいです。」
藍那も香奈子へ続く。
「よし!2人ともスラスターの調整は分かるな?飛行は他人から教えられることは少ない。ただ、慣れろということだ。時間はまだ十分ある。ひたすら飛んで慣れろ!」
ここまで嬉々として話していた小久保の声が小さくなる。
「ただ・・・。この空間ではSFを全力で飛ばすには狭すぎる。壁に激突したくなければ、スラスターの出力は絞っておけよ?」
「「はい!」」
藍那と香奈子は小久保へ返事を返し、背中のメインスラスターと肩部と腰部の補助スラスターに火を入れた。各部スラスターは「ゴーーーーーッ」という空気を振動させ唸り声を上げる。
現在はSFのエネルギーシールドは展開しているが、重力制御によるパイロットへのGのカットと疑似的に空気摩擦をゼロにはしていない。
そのため、身体は完成の法則によって、後ろに押さえつけられるような感覚を感じる。
それと同時に藍那と香奈子は瞬く間に加速する。
SFが自動的に姿勢制御を行い、2人は前傾姿勢をとったまま200mの距離を飛行し旋回した。それは、まるで自分の背中に翼が生えたような錯覚にとらわれてしまうような滑らかな飛行で、始めは大きく感じていたこの空間では狭くもっと広い“空”を飛びたいという気持ちにとらわれていた。
藍那と香奈子がいなくなった後は1組の担任の
藤林は小鳥遊と対照的な雰囲気を持っている。小鳥遊はおっとりとした顔立ちをしており、どちらかというと可愛いといった感じである。それに対し、藤林はメリハリがありキリッとしたルックスをしており、スタイルもよい。そのため、美しくよく仕事ができるキャリアウーマンといった感じである。
これにより、藤林は男女問わず生徒たちから人気がある。
2人はともにこのSF学園の出身者である。そのため、SFを扱うことができ、実習の監督をするなど簡単なことであった。
ちなみに、実力は小鳥遊の方が上である。
しかし、生徒からの人気というのはこのような場においては顕著に表れる。
藤林の周りには教えを乞う生徒で人垣ができているが、小鳥遊の周りには数人しかいない。
「SFの腕は律香より私の方が上なのに・・・。」
小鳥遊はため息とともに少し悲しそうにぼやく。
「大丈夫だって~!私たちは先生派だからさ~。」
小鳥遊の隣にいた恵利が何とも言えない笑顔で励ましている。
今回の実習は基本的にルームメイトであるペアと訓練しなくてはならないが、恵利のペアである
「そうですよ!少なくとも私達は小鳥遊のことを尊敬しています!」
恵利に続いて静もフォローに入る。
「七海もそうよね!?」
「う、うん・・・。私も小鳥遊先生のことは好きだよ。」
いきなり静に話題を振られた七海は少々困惑したが、肯定の意味で頷く。
「私と佳乃はクラスが違いますが、先生にご指導願いたく思います。よろしくお願いします。」
静に続き刀華が頭を下げ、それに合わせて佳乃も頭を下げる。
「あなた達・・・。わかったわ!頑張って指導するから、期待してね!」
感動している小鳥遊の声音に力が入る。
この5人は小鳥遊指導の下で藤林の所に比べメキメキと上達した。
これは人数が少ないということに加え、小鳥遊の指導が上手くこの5人にあっていたということがある。
昼を迎えるまでに5人全員が握力制御と歩行、走行を習得し、次回は飛行訓練に移ることが出来るまでになった。
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木曜日の昼からは石塚と岸の下で射撃戦闘訓練が行われ、これも1組と2組が合同で行われる。
今回の訓練が1回目ということもあり、藍那たち2組には馴染みのある第3特別訓練場で行われることとなった。
訓練内容としては1組を1班とし、前回この訓練場を使用した時のように模擬戦闘を行う。その後に模擬戦闘の録画を観ながら反省を行う。
5限目の開始時刻までに第3特別訓練場の講義室へ集合しておく必要があり、午前中の操縦訓練の後片付けを早く済ませないと昼食の時間がどんどん減っていってしまう。
今回は初めてであった為、説明を受けつつということもありかなり時間が経ってしまった。
このため、皆食堂へ行く時間かなく購買へ行くしかなく、最寄りの購買は1組と2組の生徒で大混雑となった。
中には「今日の日替わり定食、楽しみにしてたのに。」やら「こんなに急がないといけないなら、先に買っておけばよかった・・・。」などといった声が聞こえたが、藍那たち早朝のトレーニングを行っていた4人は先に昼食を購入していたためこの混雑を回避できた。
藍那たち朝の面子はSFスーツから運動着に着替え、第3特別訓練場の講義室に先に来て昼食を取っていた。
「それにしても、藍那と香奈子はすごいなぁ・・・。今回で飛行訓練までやったんでしょ?」
刀華がコッペパンを食べながら藍那と香奈子へ話しかける。
「そんなことないですよ。私なんてこれ以外はダメダメですし。」
香奈子が照れながら応える。
「この学園に入学できている時点で、他のことがダメダメということはないと思うわよ?実際、私たちの入試の倍率って45倍超えだったらしいですよ。」
「えっ!そうだったんですか!?」
佳乃の言葉に香奈子は心底驚く。
「知らなかったの?ここには入れている時点で、みんな世間一般でいう天才というやつよ?」
いざ言われてみると恥ずかしい事を藍那に言われ、ほかの三人は苦笑いした。
他愛のない話をしながら昼食を摂っていると午後からの授業が始まる時間が来た。
時間ぎりぎりに入ってくる生徒もいたが、何とか遅刻せずに全員集合出来た。
授業開始時間とほぼ同時に岸と石塚が教室に入ってきた。
「全員集まってるな?今日やることは予め聞いていると思うが、改めて説明する。説明は石塚がしてくれるから、よく聞くように。」
「えっ!俺が~~ぁ?」
どうやら予め話し合っていなかったらしく、岸のむちゃぶりに石塚がたじろぐ。
「まぁ、いいや。今日は前回と同じく模擬戦をやってもらう。その録画を見ながら授業するから、皆真剣にやるように。ああ、そうだ。今回も仁科は参加するな。お前が入ると教材にならねーからな。1人少ない分、2組は頑張れよ~~。」
石塚の言葉を受け、2組の全員が納得という表情をする。しかし、藍那の現実離れした戦闘能力を知らない1組の生徒のうち、数名がムッとする。
それを感じ取った岸がすかさずフォローを入れる。
「これは、仁科を特別扱いしてのことじゃない。仁科は前回の模擬戦闘の時、2組の全員を1人でやってしまったんだ。この意味が分かるか?少し前に初めて銃を握ったようなひよっこじゃあ、仁科の相手にならないんだ。」
岸の言葉を受け、刀華を含む2組の全員が驚く。これを受け、先程ムッとした生徒が何とも言えない顔になる。
その時、藍那が立ち上がった。
「先生。私だけ参加しないというのは、私としても避けたいと思います。クラスのメンバーでの活動ですので、私も参加したく思います。」
「私も仁科さんに賛成です。仁科さんだけを外した場合、最悪クラス内での孤立を生む可能性があります。」
藍那の言葉を委員長である静が賛成する。
静の発言を受け2組の全員が藍那の模擬戦参加を支持したため、藍那には銃を持たせない状態で開始するという条件で参加が認められた。
この条件によって藍那は戦闘に参加しないなどありえないと考えていた岸と石塚の予感は的中し、藍那は1組の生徒の銃を奪い結果的に戦闘へ参加した。
その結果、またしても藍那抜きで再度模擬戦闘を行うという処置をとることになってしまい、石塚は深いため息をついた。
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昼からの実習は5,6、7時限を使用しているため、この強化を終えるとすぐに放課後となる。
普通であれば自分の時間や友人との時間を楽しむべく、今着ている運動着から着替えるために自室に戻るだろう。
しかし、今日は違った。
1組の生徒を中心に藍那の周りに集まっていた。
集まっている生徒は皆無言で藍那を囲むようにおり、はたから見れば入りの生徒が大勢にいじめられている現場に見えるだろう。
しかし、本当は藍那の目つきの悪さに怖気づき、誰も話しかけられず様子を窺っている状態だった。
そんな時「早くいかないと、風紀委員の仕事に遅れるぞ?」と刀華が藍那に話しかけた。
それに藍那も応えてその場を立ち去ろうとした時「ちょっと待って!」と藍那を1組の誰かが呼び止めた。
「あなたの技術を少しでいいから私達に教えてくれないかしら?」
誰かはわからないが、1組の生徒のだれかが藍那に尋ねる。
それを待っていたように2組の生徒もこの人だかりに参加し、自分たちにも教えてほしいとアピールする。
「それはいいけれど、早朝と放課後以外は時間的余裕がないから無理よ?」
「はい。それでもかまいません。それで、早朝は何時から何ですか?」
間髪入れずに回答が返ってくる。
藍那は少し考える。
「一応、5時半を目途にトレーニングをやっているから、その時間なら問題ないわ。」
「分かりました!!」
必要なことを聞けたことに満足したのか、藍那を囲んでいた人垣は消えた。
「いいのか?あんな安請け合いして・・・。」
刀華が心配そうに言ってくる。
「問題ないと思うわ。誰も1人1人個別に教えるなんて言ってないんだし、皆同じメニューを佳奈してもらう予定よ。」
「それならいいんだが・・・。」
刀華は心配そうにしながら、風紀委員の仕事をすべく体育館付近へ足を向けた。
それに続く形で藍那も体育館付近へ向かった。
藍那と刀華は基本的にペアで仕事をするように小鳥遊から言われている。
体育館付近に着いたとき、見慣れた光景とみ言える喧嘩寸前の状態になっていた。
藍那はダメもとでテンプレート化した警告をした。それに対し、険悪な空気を放っていた生徒たちが藍那を威嚇するように顔を向けた。
その瞬間、顔の血の気が引き血相を変えて逃げ出した。
藍那と刀華は何が起こったのか分からず顔を見合わせる。
後でわかることだが、藍那と刀華は一部の生徒から悪魔や鬼などと呼ばれ、恐れられていた。だが、今はそんなこと知る由もない。
今日の仕事は2人が行く先々では喧嘩や揉め事がなりを潜め、とても平和なものとなったのであった。