SF-ストライク・フォース   作:田んぼのアイドル、スズメちゃん

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入学編-12

 藍那と香奈子は昨日と同じく朝5時に起床し、トレーニングへ向かった。

 昨日は刀華と佳乃がグラウンドで待っていた。しかし、今日は40人ほどがおり、その多くは1組と2組二組の生徒で各々ストレッチをしている。

「おーい!藍那ーーーっ!こっちだーっ!」

 どこからか藍那を呼ぶ声が聞こえ、目を凝らすと人ごみの中で手を振っている刀華を発見した。

「この人数、どうしたの?」

 藍那と香奈子が手を振っていた刀華のもとへ行って尋ねる。

「私は一切誘ってないから、藍那が昨日言ったことが原因じゃない?」

 刀華の言葉を受け、藍那は少し考える。

 確かに自分が「5時半を目途にトレーニングをやっているから、その時間なら問題ない。」と言った記憶があり、それが原因なら完全に藍那のせいである。

「まさか本当に来るなんて予想外ね・・・。でも、本当に私が原因なのかしら?」

「私に聞かれても知りませんよ。」

 藍那がいきなり香奈子へ話を振り、話を振られるのを予想していたのか香奈子が藍那にツッコミを入れる。

 十中八九ここに人が集まっているのは藍那が原因だが、もし間違っていた時のことを考え藍那たちは確認をとってみることにした。

「あのー。すみません、皆さん。私が昨日の「早朝なら指導するとことが出来る」ということで集まっていただいた方は、こちらに集まってください。」

 藍那は集まっている全員に聞こえる声量で声を掛ける。

 これを受け、グラウンドに集まっている全員が藍那を囲むように集合した。

 藍那はかすかな頭痛を覚え、「やっぱり・・・。」と漏らしながら額に手を当てる。

 しかし、せっかく集まってもらったにもかかわらず、何も教えられないでは申し訳ない。ということで、ここにいる全員で昨日やろうとしていたメニューを行うことにした。

 

 予想通りといっては何だが、30分を迎えるころにはほとんどの者がリタイアしへばってしまっていた。

 しかし、明日以降の朝のトレーニングにも参加するとのことであり、噂などが広がり回を重ねるごとに人数が増えていくこととなるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 金曜日の午前は昨日と同じくSFの操縦訓練の予定である。これも1組と2組が合同で行われる。

 しかし、今日は第2グラウンドに集合ではなかった。

 

 駐機場の隣の海側に飛行場がある。

 飛行場といっても、空港のような立派な滑走路があるわけではない。

 全長約330m全幅約77mの面積が滑走路と管制塔に割り振られており、見た目としてはメガフロートに大型空母がくっついているといった印象を受ける。

 この滑走路には正規空母のようにカタパルトや着艦用のアレスティング・ワイヤーが設備としては設置されている。

 しかし、現代においてはガルダニウムによる重力制御によって垂直離着陸が可能になっており、残念ながらこれらの設備は使われていない。

 何故、このSF学園にこの様な滑走路があるのかというと、学園周辺の警戒任務を行うためである。

 ガルダニウムの主な産出国は日本と中国の一部を中心とした狭い地域であり、その中でも良質なガルダニウムが多く取れる国は日本であった。

 もちろん、ガルダニウムは火山のある国なら多くはないがとれる場合もある。それでも、ヨーロッパ、北・南アメリカ、アフリカ、オーストラリアの各地域で採れるガルダニウムの量は、すべて合わせても日本に遠く及ばないほどである。

 SFのコアに使用されるガルダニウムは良質かつ純度の高いものが使用され、良質なものほど重宝され、大多数の国はガルダニウムを日本や中国からの輸入に頼っている状態である。

 そのため、SFのコアは高値で取引され、テロリストに狙われる場合もある。

 もちろんSF学園が保有しているSFにもコアが使用されており、このコアもテロリストに狙われる可能性がある。

 警戒任務とは、海空からやって来るであろう敵に対し上空から圧力をかける意味合いを持ち、場合によっては攻撃を行い敵から学園を守るというのが任務である。

 このためには、ただの偵察機では任務が務まらない。

 そのため、SF学園には2機の戦闘機が配備されている。

 

 朝練を終え、昨日と同じくSHRは行わず飛行場に1組と2組の生徒が集合していた。

 隣にいる香奈子を含む朝練を行った生徒の多くは、1日の体力のすべてを使い果たしてしまったようにフラフラであり、小鳥遊や藤林が不思議そうな顔で見ている。

(やっぱり、初めてのメニューにしてはハード過ぎたかしら・・・。)

 藍那は表情を変えずに少々反省する。

 しかし、藍那にトレーニングメニューを優しくするつもりは全くない。

 リタイアする者はそれまでであり、自分についてこられるものだけと真剣トレーニングしようと考えていた。

 今は本当にやる気があるかそうでないかをふるいにかけている段階であるのだ。

 そんなことを考えていると格納庫(ハンガー)からパイロットと思われる2人が歩いてきた。

 1人はがっちりとした体つきをしている白髪の少し混じった黒髪の男性、もう1人は色の薄い大きめのサングラスをかけた栗色の髪をした男性である。

「おお、全員揃ってるか?俺はこの学園でパイロットをしている神田哲男(かんだてつお)だ。それで、こいつが――」

栗原博義(くりはらひろよし)だ。よろしく。」

 藍那は短い挨拶であったが、この2人の性格が何となくだが掴めた。

神田はノリはいいが、熱い男という印象である。栗原は冷静沈着といったところである。

「俺たち2人は共に操縦経験1000時間を超える超ベテランだ。今日は俺たちの後ろに乗って、空を飛ぶ感覚っていうのを体験してもらう。」

 そう、今日は体験と称し、戦闘機の後ろに生徒を乗せ飛び回るというドS科目である。

 神田の言葉を受け、ほとんどの生徒の顔が引きつる。

「まぁ、さっきも言ったが、俺達は超ベテランだ。大船に乗った気持ちでいればいいさ。」

 神田は「ハハハハハッ」と笑いながら生徒の緊張を緩和させるために言葉をつづけた。

「神田も俺も腕は確かだ。後部座席に荷物みたいになって乗っていればすぐに終わるさ。まぁ、座席では吐かないでくれると助かるな・・・。後片付けが面倒だからな。」

 栗原も冗談を交えつつ緊張をとろうとしてくれる。が、冗談のセンスはいまいちのようだ。

「全員を飛ばさないといけないから、時間はあんまりないぞ?付いてきてくれ。」

 神田と栗原を先頭に、戦闘機が収められているハンガーに向かって移動を始めた。

 

 生徒をハンガー前に待機させ、牽引車がハンガー内の戦闘機を牽引して出てきた。

 その戦闘機を見て七海は驚きの声を上げた。

 佐々木七海はオタクである。中でも戦闘機を中心とした飛行機のオタクである。

 数ある戦闘機の中でも七海の1番好きな戦闘機がF-4EJ ファントムⅡであった。

 そんな彼女の前に姿を現した戦闘機はまさしくF-4EJである。それも2機。これを生で見ることが初めての七海は、一気にテンションのメーターを振り切る。

「なんで!?どうして!?なんでここにファントムがいるの!?」

 興奮が抑えられない七海を見て隣にいた静が若干引いている。

 七海は物静かな印象であったため、いつもとのギャップに静がついていけていないのだ。

「お?嬢ちゃん、こいつ(ファントム)を知ってるのかい?」

 1人興奮している七海を見て、神田が左手の親指でファントムを差しながら話しかける。

「はい!私は飛行機の中で1番ファントムが好きなんです!!」

「おお、そうか!だが、こいつの外見はファントムだが中身は最新だぜ?なんせこいつは―――」

「おい、神田。授業中だぞ?」

 七海のテンションに引っ張られたのか、熱くなりかけた神田を栗原が止める。

「あぁ、そうだな。嬢ちゃんとはまたゆっくり話したいもんだ。」

 神田は七海にこう告げると、仕事モードなのか真剣な顔つきになった。

「今からこいつ(ファントム)の後部座席に乗ってもらって、飛行体験をしてもらう。それじゃあ、パイロットスーツを着て再集合してくれ。」

 栗原の号令を受け、生徒が一斉に動き出した。

 七海は飛行体験が楽しみなのか、満面の笑みで移動していた。

 

 パイロットスーツに身を包み、全員が再集合したのは約30分後だった。

「よーし、全員揃ったな。今、お前たちに着てもらっているパイロットスーツに番号が割り振られているだろ?その番号が若い順に乗ってもらう。先ずは1番と2番の奴だな。前に出て来ーい。」

 神田の号令を受け、右胸に1と2と入った1組の生徒が覚悟を決めた顔で前に出る。

 ファントムの後部座席に乗せられ簡単な注意と説明を受け、数分後には離陸準備入っていた。

「こちら神田、離陸準備完了。発進許可を待つ。」

「こちら栗原、同じく離陸準備完了。発進許可を待つ。」

 神田、栗原が管制塔へ離陸許可を求める。

「こちら管制塔。離陸を許可します。お気を付けて。」

 管制塔の許可を受け、2機のファントムがフワッと垂直に浮き上がる。

 F-35B ライトニングⅡのように垂直離着陸できる戦闘機は存在する。しかし、ファントムはそんなことはできない。はずである。

 SF学園に配備されているファントムには、ガルダニウムを使用した重力制御ユニットを搭載している。これにより、垂直離着陸が可能となっている。

 それだけではない、エンジンやレーダーなども最新の物が積まれている。

 よって、この学園のファントムはファントムであって、ファントムでないものとなっているのだ。

 フワッと浮き上がったファントムは轟音を響かせ、あっという間に水平線のかなたに消えていった。

 数分後、ファントムが戻ってきて、発進の時と同じく滑走路の上空に帰ってきた。上空で停止して左のエンジンを切り、ゆっくりと降りてきた。

 これは重力制御によって期待にかかる空気摩擦を増加させることによって、期待を上空で停止させているのだ。

 後部座席のキャノピーが開くと転がり落ちるように生徒が出てきた。左のエンジンを切ったのは、降りる際にエンジンに吸い込まれるという事故を防ぐためである。

 出てきた生徒は青い顔をしており、「次の人、どうぞ・・・。」と言って力尽きた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 八丈島から東に約130㎞の海上に、大型のタンカー船が停泊していた。

 日本は貿易大国であり毎日多くの外国船が往来しているため、この海域に大型のタンカー船が停泊していても何ら不思議はない。

 しかし、この大型タンカーは偽装船であった。

 この船は軍用の輸送船を大型のタンカー船に見えるように、外部パーツを取り付けて民間船に扮しているのだ。

 船内の作戦司令部らしき1室は薄暗く、正面にある大型のモニターと隊員が作業するモニターのみが唯一の光源になっている。

 いくつもあるモニターの前に隊員が座っており、各々手を動かしている。

 そんな者たちの中程の位置に、眼鏡をかけた金髪男性が腕を組んで立てっていた。彼は30代半ばといった様子で中肉中背である。恐らく彼が指揮官であり、ほかの者たちはこの男の部下なのだろう。

「目標まで距離約130。ここからであれば、怪しまれることはないかと。」

 モニターを見ていた隊員の1人が、指揮官に報告する。

「よし。では、小型偵察用全方位高感度カメラ搭載ドローン(HAReS(ハレス))を出せ。絶対に気づかれてはならん。我らは秘匿作戦部隊なのだからな・・・。」

 指揮官の男がモニターを見ている隊員に指示を出す。

 ハレスは

High sensitivity cameras mounted

All range

Reconnaissance use direction

Small Drone

の略称である。

 ハレスは特殊なプロペラに特殊な加工を施しており、特殊な塗料によってレーダーにも映らない。それに加えて、大きさがバスケットボールサイズであり、肉眼でも発見が難しく偵察能力と隠密能力を兼ね備えている。

 今回、彼らに課せられた任務はSF学園が保有しているSFのコアの奪取の為の偵察である。

 そのため、発見されることはおろか、感づかれてもならない。

(ここから130㎞。どうか、見つからずに任務を全うしてくれ。)

 指揮官は真っ直ぐSF学園の方角へ飛んで行くハレスをモニター越し見ながら、無事に作戦が成功することを神に祈った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 飛行体験の科目が約半分終わった。

 日陰でうずくまっている者、気分が悪くなり医務室へ運ばれていった者など、この科目によってファントムによる飛行体験によって、犠牲者が増えていっている。

「次、35番と36番。交代だ。前へ出てこい。」

 藍那の番号は35番であり、ようやく順番が回ってきたようだ。

「あ、藍那さん。頑張って下さい・・・。」

 横にいる香奈子が震えながらエールを送ってくれた。

 香奈子は飛行体験の被害者を見てからというもの、ずっとこの調子である。

「えぇ、行ってくるわ。」

 藍那は短く返し、ファントムのもとへ歩き出した。

 

「お!ようやく嬢ちゃんか。」

 神田は七海の姿を確認すると、直ぐに声を掛けた。

「はい!よろしくお願いします!」

 七海は神田と栗原にお辞儀する。藍那もそれに続き一礼した。

「おう、任せとけ!よし!それじゃあ、若番が俺、そうじゃない方は栗原だな。よし、乗り込むぞ。」

「「はい!」」

 神田の指示を受け、後部座席に乗り込んだ。

「シートベルトはちゃんと締まったか?これがちゃんと締まってないと最悪命にかかわるから、問題があったら今すぐ言えよ。それと―――」

 藍那は後部座席に座り、シートベルトをきつく締め、ヘルメットを被るりマスクを装着する。

 藍那の番号は35番であったため、乗る機体は神田のものだ。

 横を見ると、自分と同じように七海も説明を受けている。先ほどまで楽しみでたまらないといった様子で、ソワソワしていたのが噓のように表情が緊張でガチガチになっている。

 藍那も正直緊張している。

 戦闘機の後部座席に搭乗するなど、初めての経験であり緊張するのは当然である。

「よし、肩の力を抜いてリラックスしろよ?」

 神田は藍那の緊張をほぐすため、ニコッと笑ってくれた。

「はい。」

 神田のおかげで少しばかり気が楽になった。

 

 前の座席に神田と栗原が乗り込み、キャノピーが降りる。

「こちら神田、離陸準備完了。発進許可を待つ。」

『こちら栗原、離陸準備完了。同じく発進許可を待つ。』

 神田と無線越しの栗原の声が聞こえ、少しすると管制塔より離陸許可が下り全身に微かな浮遊感を感じた。

 藍那はこの感覚を昨日も感じた。これは、SFでの浮遊訓練の際に感じた感覚と似ており、離陸したということを認識した。

 その瞬間、エンジンが轟音をあげ、機体が一気に加速し藍那は座席にはりつけにされるようなGに襲われた。

 神田は操縦桿をいきなり右に倒し、右に急旋回する。

 右への急旋回が終わったと思った瞬間、次は左に急旋回を行う。

 藍那は身体にかかる凄まじいGに必死に耐え、奥歯をかみしめる。

「どうだ?楽しいか?」

 神田は後部座席の藍那に楽しげに声をかけてきた。それを受け、藍那は驚愕する。

(こんなGに耐えながら、こんなに余裕があるなんて・・・。)

「それじゃあ、とっておきを行くぞ?!」

 藍那は神田の信じられない言葉を聞き、これ以上の飛行をされるのだと覚悟を決めた。

「イヤホオオオオオオウ!!!」

 神田は垂直に急上昇しながら、右ロールを4+1/4回転を行って空高く抜ける。

 これは、バーティカル・クライム・ロールと呼ばれるもので、これによってかかるGは先ほどに体験したGと比べ物にならなかった。

「どうだ?凄いだろ?」

 バーティカル・クライム・ロールを終え、やっと普通の呼吸が出来るようになった藍那に神田は自慢をする子供のような声で話しかけてきた。

「ここまで凄まじいとは思いませんでした。でも・・・、空を自由に飛び回るなんて、こんなに気持ちいとは思いませんでした!」

 藍那は今自分の心にある気持ちを素直に述べた。

 それを受け、神田は満足げに笑う。

「それは残念だな~。今日はこれでお終いだ。」

 藍那はもっと飛んでいたいと思ったが、これはあくまで授業の一環であり後が使えていることを思い出す

 藍那は残念に思いながら、キャノピー越しに右の空を見る。

 そこには自分の乗っているファントムと同じく、優雅飛んでいる栗原の機体が見えた。

 気づくはずがないと思いつつも手を振ってみる。

 すると、後部座席に乗っている七海が手を振り返してくれた。どうやら、七海もこちらを見ていたのだろう。

 何事もなく飛行体験が終了すると思ったその時、隣を飛んでいる栗原機の前部キャノピーが粉々に砕け散った。

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