SF-ストライク・フォース   作:田んぼのアイドル、スズメちゃん

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入学編-13

 七海の乗っている栗原機も、藍那たちと同じくバーティカル・クライム・ロールなどの飛行を体験し、帰路についていた。

(本当にゲームの中で見た景色と同じなんだ・・・)

 七海はこんなことを思っていた。

「楽しかったか?本当はもっと飛んでやりたいんだが、今日は残念ながらここまでだ。」

 栗原は七海へ声を掛ける。

「はい!とても楽しかったです。今回は短時間のフライトでしたが、とても満足です!」

 七海は興奮を隠すことが出来ないといった様子です。

「ハハハ。そうか。そいつは良かった。また、俺たちを訪ねてくるといい。飛ばしてやることはできないが、座席に乗せてやるぐらいはできるからな。」

「はい!喜んで!」

 栗原は七海との短い会話を交わし、神田機と並走する。

「ん?後ろに乗ってるやつが手を振ってるな。振り返してやるといい。」

 七海は「はい。」と返事をし、後部座席に乗っている藍那に手を振り返した。

(はぁ・・・。楽しい時間はすぐに過ぎてしまうものなのね・・・。)

 七海はため息を1つついて前を向いた。

 その時、栗原の乗っている前部座席のキャノピーに何かが衝突し、粉々に砕け散った。

 

「おい!栗原っ!大丈夫か?!応答しろ!おい!!」

 神田は栗原機に起ったことに対し、混乱していた。

 しかし、神田の冷静な部分が緊急事態発生時の対処をとらせた。

「エマージェンシー!!管制塔!こちら神田。並走していた栗原機に何かが衝突した。それにより、前部キャノピーが吹っ飛んだ。栗原に何度か呼びかけたが応答がない。どうすればいい?!」

「こちら管制塔。こちらからも誘導を試みるが、そちらでも試みてほしい。」

神田は「了解。」と応え、栗原機の後部座席に無線をつないだ。

「おい!嬢ちゃん、大丈夫か?!怪我はないか?!」

「は、はい!私は大丈夫です。ですが・・・」

「いいか、よく聞くんだ。ファントム(そいつ)は後部座席からでも操縦が出来る。俺が横から指示を出すから、何とか頑張ってくれ。」

「は、はい。やってみます。」

 七海が戦闘機を好きになるきっかけとなったゲームは、実際の戦闘機の操縦を忠実に再現したものだった。

 いじめられていた自分が逃げ道としていたものは、インターネットとゲームであった。

 そのため、大好きな戦闘機であるファントムは、何度も何度も何度も操縦してきた。

 七海は「ふーっ」と深い深呼吸をし、操縦桿を握り、下がりかけていた機首を元に戻す。

「落ち着いて操縦するんだ。お前ならできる。」

「はい・・・。」

 七海は正直一杯一杯であったが、何とか声を絞り出し返事を返す。

「いいか?速度をできる限り落とし、高度を下げるんだ。」

「はい・・・。やってみます。」

 七海は神田の指示に従って機体を少しずつ減速させ、高度を落とす。

(やっぱり、ゲームとは全く違う・・・。ゲームだったら落ちても死なない・・・。けど、これは現実・・・。)

 最悪のことを考えると吐き気がこみあげ、口の中に酸っぱさが広がる

(落ち着くのよ、私!何千回も操縦したじゃない!私はできるんだ!!生きて帰るんだ!!)

 弱音を吐きそうになる自分を必死で鼓舞し、自分はできるんだと言い聞かせる。

 仮に死んでしまうとしても、何もせずに死にたくはない。ここで弱い自分を捨てるんだ!ずっと何かに怯えていた弱い過去の自分を捨てるんだ!

 心の中で決意を固め、操縦桿を強く握りしめた。

 

 管制塔は神田からの報告を受け、全員が慌ただしく動き回っていた。

 何人もが頭を突き合わせ、情報交換と対処策などを話し合っている。

2番機(栗原機)が返って来るまで、あとどれぐらいだ?!」

「重力制御ユニットは生きているのか?」

「エンジン部に損傷は?!火災は発生していないのか?!」

 ここでいくら話し合っても結論は見つからない。

 そのため、神田へ一度連絡を取ることとなった。

 

 神田と藍那は七海を励ましながら、隣の栗原機と同じ速度でゆっくりと飛行していた。

「こちら管制塔。神田さん聞こえますか?」

「あぁ、聞こえてる。どうした?何か問題でも発生したのか?」

 いきなりの管制塔からの通信を受け、神田は学園側に問題が発生したのではと心配する。

「いえ、こちらは大丈夫です。いくつかお聞きしたいことがあるのですが、大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ない。何だ?」

 神田は質問を促す。

「はい。現在2番機に火災などは発生してはいないでしょうか?それと、重力制御ユニットが正常に機能しているかの確認をお願いしたく思います。」

「エンジンの異常や火災などは確認できない。だが、重力制御ユニットはこちらからでは確認できない。一度向こうに聞いてみるから、少し待ってくれ。」

「了解しました。」

 神田は七海に回線を切り替える。

「嬢ちゃん、聞こえるか?」

「はい。聞こえます。」

「1つ確認してほしいことがあるんだが、いいか?」

「はい。」

「そっちの機体の重力制御ユニットが正常に機能しているかを確認してほしい。モニター画面の右上に『GCU(Gravity Control Unit)(重力制御ユニット)』というアイコンがある。そのアイコンの色は何色だ?」

「・・・。赤色になっています。」

「まずいな・・・。」

 神田は無線を管制塔へ切り替える。

「こちら神田、管制塔聞こえるか?」

「こちら管制塔。聞えています。」

 神田の無線に管制塔からの返事はとても速かった。

「2番機に確認を取った。GCUはいかれっちまてるようだ。アレスティング・ワイヤーの準備を大急ぎで頼みたい。それと、緊急事態の意備え、消火班の手配も頼む。」

「分かりました。」

 管制塔からの返事を聞き、神田は無線を七海へ切り替える。

「嬢ちゃん。落ち着いて聞いてくれ、その機体はGCUつまり、重力制御ユニットがいかれちまっている。今管制塔の方で着艦用のワイヤーを用意してもらってるから、嬢ちゃんはフックを使って着艦するんだ。」

「・・・。」

 七海は神田の言葉を受け困惑する。

(そんなの・・・、絶対に無理・・・。だって、ワイヤーでの着艦って、プロのパイロットでも難しいって聞いたのに・・・。)

 七海は一気に弱気になる。それは無理もない、プロのパイロットでもワイヤーでの着艦は、戦闘がなくても100回無事に着艦出来れば祝杯を挙げるほどらしい。

「・・・み、七海。落ち着いて。あなたは出来る事をするだけよ。」

 藍那が不器用ながらに七海を励ます。

(そうだ・・・。今更何をビビッてるんだ。やらなかったら確実に死ぬんだ。1%でも可能性があるなら、やるしかない!)

 やるしかないという覚悟か、はたまた諦めか、七海は前を見る。

「やってみます!どうすればいいか教えてください!」

 七海の力強い言葉を受け、神田も覚悟を決める。

「分かった。まず―――」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 2番機の緊急着艦の備え、滑走路では慌ただしく準備が行われていた。

 火災に備えての消火班、けが人が出ている可能性を考慮した救護班、そして、最悪の事態を防ぐためのSFを装着した教員達がどんどん集まっており、滑走路は物々しい空気に包まれていた。

 生徒は一旦管制塔の1階の会議スペースに集められていた。

 この会議スペースは滑走路側に大きな窓があるため、滑走路上で何が行われているのかを見ることができた。

 この会議スペースへ引率してくれた事務員は必死に「これは避難訓練だ。」と説明しているが、それに騙されるほど生徒はバカではない。

(小鳥遊・藤林の2人はSFを装着し、滑走路で待機しているため事務員が引率した。)

「事務員さん、上空で何があったんですか?これは、避難訓練などではなく完全に避難ですよね?この慌てようだと、飛行機が緊急着艦でもするんですか?」

 静は事務員に詰め寄り、質問攻めにする。

 事務員はもうこれ以上ごまかしきれないと諦める。

「ええ、私も詳しくは分からないんだけど、どうもここ(SF学園)の飛行機が緊急着艦するらしいの・・・。」

 事務員は混乱を起こさないように、静に聞こえるだけの声量で答える。

 しかし、近くにいた香奈子に聞こえてしまっていた。

「それって飛行機事故ってことですよね!?藍那さんたちは無事なんですか?!」

 香奈子は血相を変え事務員へ詰め寄る。

 その時、滑走路にアラーム音が鳴り響いた。

 

 七海は神田の指示に従って滑走路ギリギリの高度を、機首を少し上げた状態で飛んでいた。

 緊張のためかはたまた失敗に対する恐怖のためか、心臓はうるさいほどに脈打ち汗がとめどなく噴き出す。

 操縦桿を握りしめている手は汗によってヌルヌルして気持ち悪い。しかし、そんなのことを気にしている余裕はない。

 ワームホールによる燃料供給(ガルダニウムの特性であるワームホールを用いた燃料供給技術により、燃料タンクを大幅に減らしている。)がストップしてしまっている今、翼部のタンクにある緊急時の予備燃料で飛んでいる。その燃料量はあくまで予備であり、残量を考えると1度しか着艦のチャンスはない。

 恐らく自分の腕では、失敗すればどの道助からないだろう。つまり、正真正銘1度きりの大勝負である。

 もう目と鼻の先に滑走路が見える。

 戦闘機の目と鼻の先など、それは一瞬である。

 アレスティング・フックとランディングギアを下し、更に高度を下げる。

 次の瞬間、機体が地面にたたきつけるような衝撃を感じた。

(あぁ・・・。失敗だ・・・。私、ここで死ぬんだ・・・。)

 七海はこの衝撃が着艦の失敗によって、滑走路に墜落したと思った。しかし、

「やったな、嬢ちゃん!成功だ!」

 無線から自分を祝う神田の声が聞こえ、目を開ける。

 目の前にはSFを装着した多くの教員達がおり、皆歓喜に沸いている。

 そこでようやく七海は着艦が成功したということを理解した。

 

 2番機の後ろを飛んでいた神田と藍那は、七海の着艦成功に歓喜し胸をなでおろした。

 しかし、心配なことがもう1つあった。

 神田は大急ぎで自分の機体を着艦させ、エンジンを切る。そして、コックピットから飛び下り、2番機へ走った。

 2番機の全部キャノピーは文字通り粉々になっており、無残な状態だったがエンジンに吸い込まれる可能性があるため、あまり近づくことができない。

「栗原ーー!!返事をしろーーー!!」

 神田は力一杯叫ぶ。

 神田に少し遅れて救護班が到着し、SFを装着した教員がファントムのエンジンを停止させるのを確認し、お急ぎで栗原を救出した。

 キャノピーは無残に砕け散っていたが、救出された栗原には幸い目立った外傷はない。

 しかし、意識が戻らないため、担架に乗せられ医務室へ運ばれていった。

 栗原に続いて七海も教員お手を借り、コックピットから降りてきた。それに合わせて、2組の数名が七海のもとへ駆け寄る。

 駆け寄った者たちは口々に賞賛やねぎらいの言葉をかける。

 七海はクラスメイトの顔を見て緊張の糸が切れたのか、その場で膝をつき号泣した。

 

 予想外の事故に見舞われ、まだ乗っていない生徒は後日に回され今日のこれ以上のフライトは中止となった。

 破損した2番機のコックピットからぐちゃぐちゃになった金属製の物が見つかり、これが事故の直接の原因であると推測された。

 意識を失っていた栗原は数時間後意識を取り戻し、命に別状はなかった。

 栗原が意識を失っていた原因は、キャノピーの破損によって酸素マスクが破損。これにより、低酸素状態となって意識を失ったらしい。

 栗原は数日間、検査入院ということになったが、今回は犠牲者が出なかったことが1番の幸運と言えた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 大型タンカーが全速力でSF学園から距離をとっていた。

 それはハレスを使ってSF学園を偵察しようとしていた者たちである。

 その様子は正に脱兎というにふさわしい程に大慌てだった。

 SF学園へ到達するはるか遠くの海上で、突如ハレスが撃墜された。

 今回の任務は学園側に気づかれることはおろか、感づかれてもならない。

 しかし、ステルス性能に長けたハレスが、かなりの距離があったSF学園発見されるとは考えにくい。

 となると、予め自分たちの動きが何者かにつかまれていた可能性がある。

 そうなると、SFのコアを奪取するという計画を延期または中止する必要がある。

 薄暗い司令部の中で指揮官のジョシア・ホワイトは、冷や汗を流し続けて顔色は真っ蒼になっていた。

 作戦の失敗を本部に報告する必要がある。

 報告してしまうと自分や部下の進退はどうなるか。考えるだけで胃が痛くなる。しかし、自分は組織の中の歯車の1つでしかなく、報告しないなどという選択肢は自分にはない。

 覚悟を決め、本部への回線をつなげる。

 報告は無線ではなく、司令室内にある大モニターでテレビ通話のように行われる。

 コール音が室内に響く。いつもはあまり気にならないほどの大きさの音にもかかわらず、今日はひときわ大きく感じうるさく思えるほどだ。

 このまま通じなければいいのに、などと考えているとモニターに自分の上司の顔が映し出される。

「作戦終了にしてはいささか早いようだが、中間報告かね?それとも・・・。」

 モニター越しの男は一切表情を崩さない。おそらく作戦を失敗したことにもう気づいているだろう。自分はこの男の下で長い間働いているため、驚異的な勘の鋭さを知っている。

 気づいているにもかかわらず、表情が変わらないことに恐怖を覚える。

「はい・・・。ブッレト室長・・・。大変申し上げにくいのですが、ハレスが何者かによって撃墜されました。本艦は作戦失敗とみなし、撤退行動に移っております。」

 極度の緊張によって声がかすれそうになる。

「そう。」

 モニター越しのブレットは作戦失敗の報告を聞いても、一切の動揺はない。まるで機械を相手にしているかのようだ。

 ジョシアはますます恐怖を覚える。

「こっちで手を回して、面倒ごとにならないようしておくよ。君は上手く帰ってきてね。それと、一応、学園への強襲作戦は延期ということになったよ。これは、今回の作戦とは関係ないから、気にしなくていいよ。あと、強襲作戦の指揮は君に任せることになったから、今回の失敗を挽回してね。」

 ジョシアは何かしらの処分を受けると覚悟をしていたため、肩透かしを食らった様な気持ちになる。

 ジョシアはブレットの期待に応え、今回の失敗を挽回する意思を込め返事をしようとした時、

「今度失敗したら、わかってるよね?」

 ブレットの顔が怒りに満ちたものとなり、モニターが真っ暗になる。

 最後に見せたブレットの表情は、先ほどまでの無表情とのギャップとも合わさり悪魔のようにも感じられた。

(今後失敗は許されない・・・。)

 ジョシアは手をついている手摺を強く握りしめた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 SF学園内某所

 

 机の上に置かれた固定電が鳴る。

「はい・・・。あぁ、あなたでしたか・・・。」

 自身の名を名乗らず、会話を始める。

 親しい間柄であれば、自身の名を名乗らないということもあるかもしれない。しかし、親しい者との通話にしてはよそよそしい。

『あぁ、私だ。一応の確認だが、そっちに偵察用のドローンとか届いてない?』

 固定電話の受話器を持っている男は偵察用ドローンと聞いて、昼前に起きた戦闘機の事故を思い出す。

 確か、ぐちゃぐちゃになった金属製の物が見つかったと記憶している。

 男は心の中で「あれか・・・。」と思う。

「はい。それかはわかりませんが、らしいものが発見されています。」

 受話器の向こうの男、ブレットは深いため息をつく。

『やっぱりか・・・。悪いんだが、外部に漏れないように上手く処理してくれない?』

「はい!畏まりました!」

 ブレットの言葉を受け、受話器を持つ男は即答する。

『そう。じゃあ、頼んだよ。』

 短く用件のみを話したブレットが通話を切ったのか、受話器からはツーツーと音だけが鳴っている。

「外部に漏れないようにって、どうやって処理すれば・・・。」

 男は座っている椅子の背もたれに体重を預け、天井を仰いだ。


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