SF-ストライク・フォース 作:田んぼのアイドル、スズメちゃん
土曜日は朝から夕方まで自主訓練をした。
明日は1週間の疲れをいやそうと、自主訓練は休みとなった。
休日にもかかわらず朝から夕方まで特訓を行っていたため、藍那を除く3人は疲れ切っていた。
そのため、いつもよりも早めに夕食を済ませ、自室で休むことにした。
「香奈子、石塚さんの特訓はどうだった?」
シャワーを済ませドライヤーで髪を乾かしている香奈子へ、藍那はシャワーを浴びる準備をしながら問いかける。
「とても丁寧に教えてくれました。来週から放課後に特訓していただけるようになりました。」
「あの石塚さんが・・・。珍しいこともあるものね。」
藍那は軍人時代からの石塚を知っている。
これまで、他人に熱心に何かを教えるなどということは無かった。そのため、藍那は表情には出さないが、心底驚いていた。
「藍那さんに1つ聞きたいんですけど、何で石塚さんのところへ行ったんですか?」
「それは・・・。」藍那は少し考えこむ。「知っている中で、私が絶対に勝てないと思った人が3人いるわ。石塚さんはその中の1人だから。」
香奈子は何故自分を石塚のもとへ連れて行ったのかを聞きたかった。しかし、藍那からの回答は自分の求めているものではなかったため、首を傾げる。
「香奈子は何でSF学園を志望したの?」
藍那のいきなりの予想外の質問に驚き、香奈子は「え?」と聞き返す。
藍那はもう1度香奈子に同じ内容の質問をする。
「それは、軍人を目指しているためです。軍人なら早く自立できますから。」
香奈子は少しうつむき、話始める。
「私の家って、世間一般でいう母子家庭なんです。母と私、それと3つ下に双子の妹がいて、ボロアパートに暮しているんです。父は妹が1歳になる少し前に家を出て行って、それから会っていません。母はいくつも仕事を掛け持ちして、朝から晩まで仕事詰めなんです。だから、私は少しでも早く経済的に独立しないといけないんです。」
藍那は日本の一般家庭について詳しくない。しかし、香奈子の家庭が大変であるということは分かった。
「それで、この学園に入ったのね。ここなら国防大学や国防軍に入るのに有利だから・・・。」
「そうです。大学へ進学する経済力は家にはありません。でも、SF学園は学費がものすごく安いんです。」
SF学園は国家機関である。そのため、授業料は公立高校の半分ほどである。
「あなたがここへ来た理由は理解したわ。それじゃあ、あなたからの質問に答えるわね。」
藍那は一呼吸置く。
「さっきも言ったように、石塚さんは私が勝てないと思う人の1人よ。その中で、あの人はスナイパーとして最高峰だと思ってるわ。それが理由ね。それと、理由はもう1つあるわ。私は香奈子がスナイパーに向いていると思うの。」
「それって、どういうことですか?」
「香奈子は入学早々行われた、模擬戦を覚えてる?」
「えぇ、もちろん。」
「あの時、私はクラスメイトを殺気を頼りに見つけたわ。まぁ、香奈子以外だったけれど・・・。前にも言ったかもしれないけれど、人は銃口を向けたときほぼ確実に殺気を出すわ。けれど、香奈子からの殺気を一切感じられず、最後まで見つけられなかった。」
「それって、たまたま私が藍那さんに銃を向けてなかっただけとか・・・?」
「私は自分以外の人に向けられた殺気でも、ある程度の位置はわかるわ。」
香奈子は「やっぱり藍那さんってただものじゃないんだ・・・。」と呟く。
「こんな体験をしたのは、石塚さんを相手にして以来なの。だから、私は香奈子がスナイパーに向いていると思ったの。」
香奈子は藍那の説明を受け、少し自信を持つ。
自分は運動が昔から得意とは言えなかった。そのため、本当に軍人になれるかという不安があった。しかし、藍那の言葉で自分に向いているものは何かを知ることができた。
(月曜日からの特訓。頑張らないと。)
香奈子は拳を固く握りしめた。
刀華と佳乃も藍那たちと同じように、自室で休んでいた。
刀華は藍那に訓練でナイフをかすらせることすらできなかったことを、ベッドの上でゴロゴロと転がりながら悔しがっている。
佳乃は刀華と対照的に、ベッドに座り込んで打つもいたままずっと考えこんでいるようだった。
ふと、刀華がそんな佳乃を心配に思い、声を掛ける。
「佳乃どうしたの?何か考え事?」
佳乃は顔を上げる。
「えぇ、藍那さんのことで・・・。まさか、あんな過去があったなんて・・・。」
どうやら、佳乃は藍那が元子供兵であった事について考えていたようだ。
「たぶんだけど、藍那自身はあんまり気にしてないんじゃないかな。あいつって、なんて言ったらいいんだろ。過去の事よりも未来志向!って感じじゃない?」
「でも、昔のことを引きずっているかもしれないし・・・。」
「そんなに気になるなら、月曜の朝に直接聞いてみたら?」
「・・・!」
何でもない事のように言う刀華の言葉に、佳乃は言葉を失う。
「だってそうじゃない?ここで悩んで答えが出るならいいけど、出ないじゃん。」
「・・・。そうね。」
佳乃は納得したのか、数度頷く。
それを見て安心したのか、刀華は微笑む。
「フフ~ン。それじゃあ、さっさとシャワー浴びて、もう寝よう!今日は疲れたー!」
刀華は着換えを持って、シャワールームへ駈け込んでいった。
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日曜日は疲れを癒すという大義名分で怠惰をむさぼった。
1週間の再スタートである月曜日。
藍那は香奈子を起こし、朝のトレーニングの為にグラウンドへ向かう。
グラウンドでは金曜日のように、40人ほどの生徒がいた。
藍那は人数が半分ほどになっているだろうと思っていたので、大いに驚いた。
前回と同じメニューをこなし、あまり遅くならないうちに解散となった。今日は1限目から座学であり、授業中睡魔に襲われるなどということは避けなければならない。
まずその前に、SHRに遅刻するわけにはいかないので、皆解散は速かった。
藍那と香奈子も遅刻しないように教室へ向かった。
SHRが始まる前の教室は、いつもであればみな自分の席へ着き静かに待機している。
しかし、今日は様子が違った。
七海の席の周りに人が集まり、人垣ができていた。
七海の席は藍那の席のちょうど1つ前であり、藍那は自身の座席へ行けなかった。
人垣を作っている生徒は2組の生徒だけではなかった。
中には朝のトレーニングの時に見た顔がおり、恐らく1組の者も混じっているのだろう。
藍那は1組と2組の生徒の顔を大体ではあるが覚えている。しかし、その中のどれにも該当しない者がいた。こちらは恐らく1・2組以外の生徒だろう。
この人垣はどうやら金曜日に起きた事故のことが原因のようだ。
皆に七海へ「無事でよかった。」や「飛行機を操縦できるなんてすごい!」といったねぎらいや賞賛の声をかけたり、「どこで操縦を習ったの?」や「いきなりの事故で怖くなかった?」といった質問がされたりしていた。
割合としては質問7割それ以外が3割といった具合であるため、質問攻めといっても過言ではないだろう。
七海を囲んでいる生徒は約20人。
これだけの人数の話を漏らさずに聞き取ることが出来るのは、おそらく聖徳太子ぐらいのものだろう。
人垣の中心の七海はひたすらにオロオロしており、藍那には心なしか怯えているように見えた。
「ごめんなさい。そこに集まられていると席に就けられないのだけれど。それに、もうすぐSHR前の予鈴が鳴るわ。そろそろ自分の教室に帰った方がいいんじゃないかしら?」
藍那は人垣を作っている生徒たちに聞こえるように咳払いをし、とても不機嫌そうに言った。
言葉を受け、数名の生徒が藍那へ顔を向け睨む。
しかし、藍那は自身の目つきの悪さを全力で活かし睨み返す。それを受けた生徒はたまらずたじろぐ。
「もう一度言うわ。そこに集まられていると私は自分の席に就けないの。他人の迷惑というものを少しは考えてほしいものね。」
藍那の声には怒気が混じっており、1人2人と人垣を作っていた生徒が「また話を聞かせてね」などと七海へ声を掛け教室から出て行った。
人垣を作っていた生徒全員が教室から出て行ったことを確認し、藍那は表情をいつものものへと戻す。
藍那は1つため息をつき、自分の座席へ着いた。すると、静が藍那のもとへやって来た。
「ごめんなさい。本当は委員長である私がやらないといけない事だったのに・・・。」
静はとても申し訳なさそうに頭を下げる。
「気にしなくていいわ。どいてくださいと言って素直に聞き入れてくれるわけないもの。それよりも」藍那は静の横で申し訳なさそうにうつむいている七海へ視線を移す。「こんな朝から災難だったわね。少し怯えてる様子だったけれど大丈夫?あんな風に人に囲まれることになれていないようね。」
藍那は「まぁ、普通はなれて無くて当然だけど」と付け足す。
七海は顔を上げ、藍那へ何か言おうとして口をパクパクさせる。しかし、言葉へ出てこず再びうつむいてしまう。
「・・・・・私は、以前いじめられていた経験があるの。それがトラウマで大人数に囲まれるのは苦手なのよ・・・。」
七海はうつむいたまま蚊の鳴くような声で話した。
七海の横にいた静と藍那にはぎりぎり聞き取ることが出来たが、藍那の後ろにいた香奈子は聞き取ることが出来なかった。
「そんな事があったなんて・・・。」
静は七海の過去を聞き、自分のことであるかのように悲痛な表情を浮かべる。
「・・・静、1つ聞いてもいいかしら?いじめって何?」
藍那は『いじめ』という単語の意味がいまいちよく分からず、静へ尋ねた。
「いじめっていうのは・・・。まぁ、説明するのは難しいんだけど・・・。簡単に言うと多人数で少人数に対して嫌がらせとかをする行為、だと思う・・・。」
「そうなのね・・・。私、この学園がはじめての学生生活で、よくわからないことが多いの。」
静は藍那の言葉に少々疑問を持ったが、今はスルーすることにした。
「そんなことより、七海は何でそんな話を私達に?」
静は七海に尋ねる。
この問いは藍那も気になっていたことであった。トラウマになるようなエピソードをわざわざ他人に話す必要は無い。にもかかわらず、自分たちに話したのはどうしてなのだろうかと気になっていた。
「静は私のルームメイトだし、藍那さんにはさっき助けてもらったから・・・。それに、事故の時、パニックになりそうだった私を励ましてくれたから・・・。だからこそ、2人には話しておこうと思ったの。」
今回はちゃんと顔を上げ、はっきりとした声で話した。
「私がこの学園へ来たのは、私をいじめてた奴らよりいい高校に入って見返してやるためっていうのが1つ。それと、ここなら最新の電子機器へ触れる機会もあると思ったからなの。以前はあいつらから逃げるためにネットゲームに熱中して、コンピュータ関連に詳しくなったから・・・。」
「なるほど・・・。もしかして、そのネットゲームっていうのは戦闘機を操縦したりするゲーム?」
七海の話を聞いていた静はふと思ったことを聞いてみた。
「そう、まさかネットゲームの経験に命を救われるとは思わなかったけどね。」
七海は少し笑いながら応えた。
そのタイミングでSHR前の予鈴がなり、各々が自分席へ戻った。
担任である小鳥遊が教室へ来て、いつもと同じようにSHRが始まると思った。
しかし、今日は緊急の全校朝礼が行われることとなった。
小鳥遊曰、この朝礼は今朝急遽決まったらしい。それにより、生徒を大講堂へ集めることが出来ないと判断し、各教室にある大型モニターを使用してのものとなった。
「それでは、学長先生からお話があるようだから、ちゃんと聞いてくださいね。居眠りとかしちゃダメですよ。」
小鳥遊がリモコンを操作し、学長室からの中継へつなげた。
「皆さん。おはようございます。」
モニターへ口髭をたっぷりと蓄えた柔和な笑みを浮かべる老人が映し出された。この老人はおよそ60代後半だろうか、髪の髭も真っ白になっているが頭頂部が薄くなっていたりといったことはない。
この老人はSF学園にいるものなら誰しもが1度は見たことがあるだろう。
藍那も入学式の際に学長あいさつで目にした。
この老人、
「今日は先日あった1年生の実習中の事故に関することを報告したいと思い、こういった形で場を設けさせてもらいました。まず、今回の事故による怪我人であった教員1名は命に別条無く、数日後には通常勤務へ戻ることが出来るということでありました。」
この知らせを受け七海はほっとした表情を浮かべる。
「次に、事故原因ですが、どうやらバードストライクによるものだということが分かりました。今回は幸いなことに大事には至りませんでしたが、以後は一層の―――」
この後は約15分間にも及ぶ言い訳と再発防止策についての説明が行われた。
藍那は学長の話を聞き流しつつ、考え込んでいた。
それは学長の発言に引っかかる部分があったためである。
(学長は今、確かに事故原因をバードストライクと言った。でも、バードストライク程度で戦闘機のキャノピーがあんな風に粉々になるわけはない・・・。それに、私は確かにぐちゃぐちゃになった金属のようなものを見た。事故原因は絶対にバードストライクなんかじゃない。では、何で学長は虚偽の情報を?考えられるとすれば上から口止めをされているから?それだとすると、SF学園は軍管轄の教育機関。であるなら、そのトップは現国防大臣である仁科正純・・・。まさかね。)
藍那は考え込んでいたためか、学長の話が終わっていたことに気づいていなかったため隣にいる香奈子へ不思議そうな顔を向けられていた。
週が明け『年に一度のバカ騒ぎ』が終わったためか、心持ち学校内が落ち着いた雰囲気になっていた。
生徒の環境適応力はかなり高いのか、2組は月曜日に実習がないため放課後まであっという間に放課後になった。
自分の荷物をまとめ、藍那は足早に2組を後にしようとしていた。
「藍那さん。急いでいるようですけど、今日も風紀委員の仕事があるんですか?」
まだ荷物の整理をしている香奈子が声をかけてきた。
「いいえ。今日は非番よ。今から刀華のところへ行こうと思っていたの。香奈子も行く?」
「いえ、私は石塚先生のところへ行くので・・・。また誘ってくださいね?」
香奈子は少し残念そうにする。
「そう。それじゃあ、香奈子。頑張ってね。」
藍那は香奈子へ手を振って教室を後にした。
藍那は刀華と佳代に合流し、武道館まで来ていた。
昨日は藍那の指導で射撃や近接格闘の訓練を行った。
そのため、今日は刀華の指導で剣の訓練をしようと昨日の帰り際に予定していたのだ。
ちなみに、刀華の風紀委員の仕事のシフトは、藍那と合うように、小鳥遊へ頼んで調整してもらった。
武道館へ入るなり、エントランスで談笑していた数名の剣道部員と刀華の目が合った。その瞬間、剣道部員が先ほどのような和やかな雰囲気ではなく臨戦態勢の時のような張りつめた雰囲気になった。
これはいけないと思い、藍那が前に出る。
「今日は武道館の1部を借りられないかと思い、来た次第です。ですので、あなた方と揉め事を起こすつもりはありません。」
今日はあくまでも剣の練習をしに来ているため、刀華もここで揉め事を起こすのは本意ではない。まして、風紀委員である自分たちが率先して問題を起こすわけにはいかない。
そのため、刀華は何も言わずに頭を下げた。
剣道部員は以前刀華1人に部員全員が全滅させられるという経験があり、それに加えそんな刀華を倒してしまった藍那までいる。
そんな彼女たちを敵に回すのはまずいと考えたのか「主将に聞いてくる。」と言いい、張りつめた雰囲気はそのまま奥の道場へ消えていった。
数分後、剣道部の主将が奥から出て来た。
主将の額には汗がにじんでおり、今まで稽古をしていたという事を表している。
「それで、道場の1部を貸してほしいと?」
藍那が前に出て、主将を真っ直ぐ見る。
「はい。私達も県の稽古をしたいと思いまして。」
主将が刀華を睨む。
「俺達は、あんたには少なからず感謝はしている。しかし、横にいる奴には手ひどくやられたからな・・・。」
主将の言葉に少しずつ怒気は混じる。
「この際はっきり言わせていただきます。あなた方が弱いから私に負けた。それを棚に上げて私を憎まれてもお門違いというものなのですが?」
「刀華さん。こっちはお願いに来ているんですよ?それなのに、そんな言い方・・・。」
「私は事実を言っただけよ。負けて悔しいのなら、次は負けないように強くなればいい。」
佳代は刀華を必死になだめるが、刀華は止まらない。
「2人ともいい加減にしてくれるかしら?私が話をするから刀華は黙っていてくれるかしら?」
藍那は自分たちが交渉に来ているにもかかわらず、他人のせいで失敗してしまうのは我慢ならない。それも、相手の失言でなく自分の仲間内での失言で失敗などもってのほかである。
藍那は刀華せいで剣道部主将と話す機会を逃がしてしまうのではないかと考え、イライラが限界に近づく。
そのせいか、藍那の言葉には殺気がまじった。
剣道部主将と刀華、佳代は藍那の殺気にさらされこれまで感じたことのない恐怖を感じ、冷汗と震えが止まらなくなる。
「分かった。道場の端でよければ月曜から水曜の放課後なら使ってくれて構わない。それに、稽古道具も必要であれば貸し出す。それでいいか?」
主将は藍那をこれ以上怒らせるのはまずいと体が判断し、この場を収めるために勝手に口が動いた。
「それは、ありがとうございます。それと、私の友人が失礼なことを申しました。申し訳ありませんでした。」
先ほどまでの殺気は霧散し、藍那が感謝と謝罪を述べている。
本当に先ほどまで自分が震えていたのがうそのようであった。
「それでは有難く使用させて頂きます。刀華、佳代行きましょう。」
刀華と佳代は藍那の後ろをついて道場へ行く道中、先ほどの藍那の殺気を思い出し身震いする。
佳代はともかく、刀華は剣を握る中で幾度も殺気を受けてきた。しかし、藍那のものはこれまで体験したものと全く違うものだった。
刀華の剣術は確かに敵を倒すための技ではあるが、道場で稽古をしている以上命のやり取りはなく、殺気というのは「おまえを倒す」といったものだろう。
しかし、藍那の殺気は本当に相手を殺すというものだった。
(あれが本物の殺気・・・。やっぱり藍那は私たちとは違う・・・。)
刀華はこれまでも度々思っていたことであったが、再認識することとなった。