SF-ストライク・フォース 作:田んぼのアイドル、スズメちゃん
学校生活とは早く過ぎてゆくものである。
ついこの前入学式をしたような気がするが、もう7月の半ばに差し掛かっている。
SF学園は日本の国防軍直管の教育機関である。しかし、普通の高等学校と同じように3期制が採用されており、8月に入ると待ちに待った夏休みである。
だが、夏休みに突入する前に最大の障害となるものが存在する。
それが期末考査であるのは言うもでもない。
SF学園は国内で1,2を争う高い偏差値の高校である。そのため、定期考査の難易度もかなり高いものになっている。
それに加え、SF学園の期末考査は学力面のみではないのである。
期末に限り、射撃や近接格闘、SFの操縦といった1学期に学んだあらゆる分野の試験が行われるのである。
SFの操縦及び射撃や近接格闘は期末考査直前の実習で行われる。
そして、成績はクラス単位で競い合うということになっている。これは、生徒の競争心を高め、学力向上を図るといったものらしい。
このため、期末考査を終えてすぐにクラス対抗の競技大会が開かれ、その成績に応じてクラス全員の成績に加算されるというものがある。
これにより、SF学園期末はかなり熱気があふれるのである。
期末考査まであと2週間を切り、校内の至る所が慌ただしくなっている。
そんな校内の廊下を鋭い目つきと美しい黒髪を持った少女、仁科藍那が歩いていた。
季節は夏を迎え、スリットの入った膝丈の白色ワンピースに腰骨の辺りまである黒の上着という制服がワンピースはノースリーブになり、黒の上着は半そでになった。
SF学園は八丈島の近くにあり、気候も自然と気候も似通ったものとなる。
八丈島の気候は高温多湿で年間を通して風が強く、雨が多いのが特徴である。年間平均気温は約20度であり、「常春の島」とも呼ばれたりもする。
しかし、夏場ともなると気温は30度近くまで上がるため、夏用の制服が用意されている。
廊下を歩いていた藍那は自分のクラスである1年2組の教室の前で立ち止まり、深いため息をつき入室する。
現在、クラス内では藍那をどの競技に出場させるかという議論が繰り広げられている。
競技大会の種目は3つ。
1つ目はライフルを用いて屋内フィールドに設置された50枚の的を撃ち、そのタイムと命中精度を競うタイムアタック。通称『スピード・シューティング』。
2つ目はSFで決められたコースを飛び20枚の的を撃ち、そのタイムと命中精度を競うといったものである。通称は『フライ・&・ショット』。
そして3つ目はこの競技大会の目玉とも言える種目であるクラス対抗の模擬戦闘、通称『|FFB≪フィールド・フォースバトル≫』である。
模擬戦闘は1クラス5名を1チームとし、特別訓練場で実戦さながらの模擬戦闘を行うものである。
これでは勿論訓練用のペイント弾を使用される。
しかし、短期間とはいえ戦闘訓練を受けた者たちによる模擬戦闘は、毎年軍の関係者が見に訪れるほど本格的なものであり、この競技大会の花形種目となっている。
この競技大会は1人最大2種目まで参加できる。
現在2組のクラス内会議の議題になっているのは、藍那をどの競技に参加させるかということである。
テスト期間の為部活動や委員会が休みとなっている。
そのため、放課後の時間は潤沢になっていた。
これにより毎日のようにクラス内会議が開かれている。議題のほとんどが誰をどの競技に出場させるかといったものであった。
藍那自身としてはどの競技にも参加したくない。というのが正直なところである。
理由は単純にして明快、自分は興味ないので勝手にやってくださいといったものだろ。
しかし、クラスメイトはそれを許してはくれない。
「やっぱりFFBは外せないよ!ほかのクラスも絶対エースメンバー出してくるし、うちだって油断してられないよ!」
「聞いた話によると1組は『|斬姫≪きりひめ≫』と『|氷の姫≪アイス・クイーン≫』がメンバーインしてるらしいし、4組は『|二丁拳銃≪デュアルガンズ≫』が出てくるらしいです。」
ちなみに、『斬姫』は志摩刀華で『氷の姫』は柴田佳乃である。そして、『二丁拳銃』は|白野日向≪はくのひなた≫という女子生徒である。
「それって本当?それじゃあ、こっちもベストメンバーで出るしかないじゃない。」
「やっぱり仁科さんと西原さんに出てもらいましょう。」
クラス内会議の司会をしていた小林静が意見をまとめる。
「勝手に決めないでもらいたいものね。せめて、私の意見を聞くといったことはしないのかしら?」
藍那は入室するなり静に対して苦言を呈す。
「いやいや、藍那はやって下さいって言ってOKって言わないでしょ?それなら予めクラス内の意見を統一させておいて、民主主義的に解決しようと思ったのよ。」
藍那は再び深いため息をつく。
「これは民主主義の悪用ね。それで、香奈子はFFBへの参加は了承したの?」
藍那は自分の話題から無理矢理話題を変える。
「FFBはまだよ。でも、スピード・シューティングへの参加は了承してくれたわよ。」
「そうなの・・・。それじゃあ、交渉頑張ってね。」
藍那は180度回転して扉へ向かおうとする。しかし、静に腕をつかまれてしまった。
「まあまあ、話だけでも聞こうよ?ね?」
静はまさかつい先ほど入ってきた藍那が逃げ出そうとするとは思っていなかったため、若干焦りつつ藍那の右腕を掴んでいる。
藍那は明らかに嫌そうな表情を浮かべたまま静の方へ向き直る。
「・・・分かったわ。話だけは聞くわ。」
藍那は渋々席に着き、会議へ参加するのだった。
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丁度、2組と同じ様に1年4組でもクラス内会議が行われていた。
教室内は重苦しい空気に包まれており、会議は緊張感に満ちている。
教壇の横に司会を務めている4組の委員長の白野日向が座っている。
日向は黒の頭髪をポニーテールにしている美少女である。身長は170㎝を超えるような長身であり、スタイルも抜群。そして、頭脳明晰、スポーツ万能と天が二物を与えたような人物である。いつもクールかつ立ち居振る舞いもカッコイイということで、男女問わず人気がある。
日向が重々しく口を開く。
「どうやら、噂は本当のようね。FFBに『アイス・クイーン』だけなら想定内だったけど、まさか『斬姫』まで出てくるなんて予想外ね・・・。」
日向の言葉に益々空気が重くなった。
現在、1年生の中には他者より圧倒的な実力を持つ者がいる。それが、刀華や佳乃といった『|二つ名持ち≪ネームド≫』である。
二つ名で呼ばれているのは、志摩刀華、柴田佳乃、白野日向、西原香奈子、そして仁科藍那の5名である。
二つ名は各々『斬姫』、『氷の姫』、『二丁拳銃』、『|鷹の眼≪ホーク・アイ≫』『|凶眼の射手≪きょうがんのしゃしゅ≫』である。
『斬姫』と『二丁拳銃』はそのまま戦闘スタイルからついた二つ名である。
刀華は太刀を用いた近接戦闘とハンドガンによる中距離戦闘を得意としている。剣術は言わずもがな、ハンドガンの腕も藍那の指導によりかなりのものとなっており、上級生に引けを取らないほどとなっていた。
日向はハンドガンを両手に持つ戦闘スタイルを得意としている。ハンドガンのほかにもナイフ等による近接戦闘も4組の中では他の追随を許さぬほどである。
しかし、授業中での模擬戦では二丁拳銃のスタイルをとっているため、近接戦闘が得意であるということはあまりほかのクラスには知られてはいない。
『氷の姫』は戦闘中いついかなる時も冷静で取り乱さず、冷酷に相手を追い詰めていくという事により人知れずそう呼ばれるようになっていた。
戦闘能力は藍那の指導により平均よりも優れているといった具合である。しかし、敵にすればとても厄介ということにより恐れられているのだ。
香奈子は石塚の指導の下、最早達人の域に到達しようとしていた。
石塚曰、香奈子は狙撃の天才で国防軍の中でも上位に入るのではないかという程である。
生徒の中で狙われたら最後、あきらめるしかない。という具合に恐れられており、いつしか香奈子は『鷹の眼』と呼ばれるようになっていた。
当の本人は嬉しそうに藍那へ自慢しているため、まんざらでもない様子である。
最後に、藍那の二つ名である『凶眼の射手』は読んで字のごとく、目つきが悪いという理由と圧倒的な戦闘スキルによって呼ばれるようになったのだ。
藍那自身はこのように呼ばれているのは不本意であるが、最近では顔も知らぬ上級生から呼ばれるほどになってしまっているため半ば諦めている。
この5人の中で戦闘能力が1番低い佳乃でさえ、一般の生徒からすれば圧倒的に強いのである。
FFBのメンバーは5名であり、ネームドが1人いるだけでも厄介だというのに2人もいるとは頭輪抱えるしかない事態である。
「これは対策を立てないとまずいな・・・。その他に何か情報をつかんだ人はいる?」
日向は頭を抱えつつ話を進める。
「これは未確認の情報なんだけど・・・。」
気の弱そうな女子生徒が恐る恐る手を挙げ話始める。
「どうやら、2組は『鷹の眼』と『凶眼の射手』がFFBへ出場するみたいです・・・。ちょっと聞こえただけなので、本当かどうかはわかんないんだけど・・・。」
これを聞いた日向は再び頭を抱え、他のクラスメイトがどよめく。
1組だけでも対処が難しいというにもかかわらず、2組までとなると対処不可能である。
日向はクラス内にこれ以上不安が広がるのはまずいと考え、不敵な笑みを浮かべる。
「なぁに、私がその4人を倒せばいいんでしょ?心配することはないわ。」
これはあくまで強がってみせる演技であり、本気で4人のネームドを相手に戦って勝てるとは思っていない。
しかし、日向の演技により多少暗く沈んだ空気を改善することに成功した。
「それじゃあ、私がFFBへ出るのは決定として、あと4人を決めるわよ。まずは―――。」
少し明るくなったこの雰囲気を保っている間に議題を進めようと考えた日向は、FFBへ出場するメンバー決めへと話題を移す。
(4人全員と同時に戦うわけじゃないんだ・・・。うまく潰しあってくれればいいんだけどなぁ・・・。まぁ、これに至っては出たとこ勝負になるから、精々祈っておくしかないわね。)
日向はある程度自分の中で納得し、会議へ頭を切り替えた。
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1組は4組と違い、クラス内では陽気な雰囲気で会議が進められていた。
それは、1組の委員長が竹を割ったような性格であり、物事を深く考えないといった性格だったことが大きかった。
クラス内会議を始めて一言目が「深く考えずに、自分たちが出来ることをやろ~。」というものであったことから理解できるだろう。
その結果、各種目へ出場する選手を選び終え、作戦会議となった現在でも陽気な雰囲気のままなのである。
スピード・シューティングとフライ・&・ショットは個人種目。FFBは団体戦ということもあり、主な議題はFFBのものとなっていた。
FFBへ参加するメンバー5人と委員長を中心に集まっている。
中でも険しい表情を浮かべているのが深い藍色の長髪と紅い瞳を持つ志摩刀華と、深みのある黒の髪とセルリアンブルーの瞳を持った長身の美しい少女の柴田佳乃である。
5人だけのチームであり、連携をとることが出来なければ一瞬では敗北するであろうと予測している。
敵チームに高確率で藍那がいるであろうと予測している刀華は人一倍真剣に作戦を考える。何故なら、総合的に考えて刀華では藍那に絶対に勝てないと考えているためである。
刀華は幼いころより剣術を学び、自身の技には自信と誇りを持っている。しかし、油断していたとはいえ刀華は1度藍那に敗北している。
藍那とは共に自主訓練を行っているため藍那の実力は目にしている。決して油断していい相手ではないのだ。
正直に言って正面から1対1での勝負、それも近接格闘戦の自分に有利な間合いのみに限定すればおそらく自分に軍配が上がるだろう。
しかし、FFBは1対1などというお行儀のいい場ではないのだ。
5組のチームのバトルロワイアル。戦闘中のチームを襲い漁夫の利を狙うもよし、自分たちに有利なエリアでわなを張りおびき寄せるもよし、ほかのチームをおとりに使うもよしである。
つまり、刀華と藍那がさしの勝負などできないと考える方が正解であり、他の敵がいる環境下では勝率はどんどん下がるのである。
どうすれば自分たちが有利に戦えるかといったことを真剣に考える。
そんな刀華たちへ委員長が「その場に合わせて臨機応変に対応でいいんじゃない?」などと言ってきたが、あえて無視する。
刀華はこの委員長が大物なのか馬鹿なのか良く分からなくなってきた。
「私たちが2組のチームを抑えるから、刀華さんは思う存分藍那さんと戦ってくださいな。」
佳乃が刀華へ微笑みかける。
「2組の人たちは私たちよりも実力派上だからかなり厳しいと思うけれど、抑え込んで見せるから刀華さんは大船に乗った気持ちでいればいいわよ。」
佳乃が微笑みを浮かべたまま宣言する。その言葉には力強さがあり、佳乃の真剣さが伝わってきた。
刀華は佳乃の心強い言葉を受けて心に誓う。
絶対に藍那に勝利し、自分達が優勝するのだと。
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渋々席に着いた藍那へ静をはじめ数人が必死になって、競技に参加するように懇願してくる。
ここまでされて断ってしまったら、藍那が悪者のようになってしまう。そのため、仕方なく参加することを了承したのだった。
クラス内で自分だけが悪者のようになるというのは避けたい、という事も了承した理由の1つだろう。
しかし、それ以外に藍那興味を多少なりとも刺激したのは、ネームドがFFBへ参加する可能性は濃厚であるということだ。
自分は『凶眼の射手』という不本意な二つ名をつけられたが、自分と同じように二つ名を付けられている人物があと4人居るということは知っていた。何せ香奈子が嬉しそうに自慢してきたということがあったためである。
このネームドの中で1人藍那に面識のない者がいるため、この者に興味を持ったためであった。
(私の知らない技術を持っているかもしれない。もしそうなら面白いわね。)
藍那は少し期待する。自分が満足できる相手であればいいな、と。
藍那から何とか了承を得た静達は胸をなでおろしていた。
「そうだ。フライ・&・ショットのメンバーってもう決まっているの?」
藍那からのいきなりの問いに、静は意外そうな顔を向ける。
「今から決めようと思っていたところだから、まだ決まっていないけど・・・。それがどうかした?」
「この際ついでだから、フライ・&・ショットにも参加したいのだけれど。お願いできないかしら?」
藍那はSFでの射撃練習なども行っており、この際だから実力を試すいい機会だと考ていた。
静からしても2組一の操縦技術を持っている藍那へ頼もうと思っていたところであったため、2つ返事で了承する。
ほかの者もこの決定に依存は無いようで、反対意見は一切出ることはなかった。
会議はほどなくして終了し、解散となった。
忘れてはならないのが、今現在テスト期間中なのである。
各々自分の勉強をしなければ、競技云々以前の問題である為解散後は皆真っ直ぐ自室へ帰っていった。
藍那にも勿論苦手科目というものは存在するため、ほかのクラスメイトのように自室への帰路へ着くのであった。