SF-ストライク・フォース 作:田んぼのアイドル、スズメちゃん
7月27日、雲一つない夏空のもとでSF学園クラス対抗競技大会が始まった。
このクラス対抗競技大会では、軍関係者や生徒の家族など多くの観客が訪れる。
オープニングセレモニーでは学園長のお話と生徒代表の宣誓を終えた後、学園が所有している2機の|F-4EJ≪ファントムⅡ≫がアクロバット飛行を披露する。
2機ということもあり、できる演目には限りがある。
しかし、フォー・ポイント・ロールやスラント・キューピット、バック・トゥ・バックといった技、計12の演目を神田と栗原が見事に披露し、オープニングセレモニーが行われた第1グラウンドは感動と歓声に包まれた。
藍那達2組でもそれは例外ではなかった。
ファントムオタクの七海は2機の曲技飛行に感動しすぎるあまり鼻血を出して倒れ、静に介抱されて医務室に運ばれていくという事件も発生したりもした。
後日、このことを笑い話とされたことに七海は恥ずかしさのあまり真っ赤に赤面し、泣き出しそうになったためこの話は彼女の前では禁止という暗黙のルールができることになった。
オープニングセレモニーが終われば早速、競技が開催される。
初日の競技はフライ・アンド・ショットである。
競技は予選と本戦が有り、予選は1年生から2、3年生の順番で行われその後に本戦が行われ各学年で1位を決定する。
1クラス3名が出場し、1レース3人で行われる。
選手は予選開催直前にくじ引きを行い、自分が何レース目のどのコースになるのかということが決まるのである。
これにより、藍那は4レース目の第2レーンに決まった。
選手は各々開始前の約15分という短い時間を使いウォーミングアップを行い、モチベーションを上げる。
SFは前日のうちにスタート地点の第3特別訓練場に移動されており、学園専属整備士の手によって性能を十二分に発揮できるようにメンテナンスされている。
そのため、ハンガーからSFを生徒が運ぶということはしなくても良い。
しかし、各自SFの設定を自分仕様に変更する必要がある。
スタート地点近くの広場にずらりと並べられたSFは圧巻に一言に尽きる。
レースでは自分に合った機体を使うことがベストであるため、選手の機体選びは真剣そのものである。
藍那も自信が使うSFの品定めをする。
多くの機体の中で自分に合った機体というのはなかなか見つかるものではない。正直なところ、藍那は自分に合った機体というのはどういうものかよくわかってはいない。
機体性能はどれもほぼ同じであり、照準補正機能やスラスターの癖など細々したところの違いはあるものの大きな違いはない。
それよりも、藍那にとってはレースで使用する銃の調整の方が重要であった
競技が始まるまであまり時間もないため、藍那は「飛べるなら何でもいい」と思い偶然近くにあった機体にすることにした。
偶然選んだ機体の機体番号を見て藍那は驚く。
それは一昨日自分が使用していた機体と同じであったのだ。
運命のようなものを感じ、微かに微笑む。
藍那は機体を装着し、手早く設定を変更に取り掛かる。
その時、藍那はかすかにであるが興奮していた。
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柴田佳乃も藍那と同じくフライ・&・ショットに出場する選手である。
彼女は意気揚々と準備を進め、競技が始まるのを今か今かと待ち望み興奮を抑えられないといった様子であった。
それは、いつも冷静沈着であるがゆえに付けられた『氷の姫』の名前からあまりにもかけ離れた様子であり、彼女のいつもの様子を知るものを驚かせた。
佳乃はSFの緻密かつ精密な操作を得意としている。
それは飛行だけでなく射撃にも当てはまることであった。まさに、このフライ・&・ショットにおあつらえ向きであったのだ。
そのため、佳乃はクラス内での選手決めの時際、クラス内の大多数の者から推薦される形で決定した。
佳乃はこの競技に出場することに関し、あまり乗り気ではなかった。
それはひとえに、競い合って面白そうなものがいないということは原因であった。
佳乃自身は自意識過剰ではない。
しかし、自身の技能が学年内で数名を除き頭1つ分抜きんでているという自覚があった。
自分が楽しめそうな相手と言えば、同じくネームドの藍那と香奈子ぐらいのものである。
先週の金曜日、香奈子がこの競技に出場しないと耳にした時は軽く絶望しかけ、モチベーションは最低まで下がった。
しかし、そんなモチベーションを一気に頂点まで上げることがついて数分前にあったのだ。
それは、出場選手の点呼とくじ引きの際、全員が1度整列させられた時だった。
その時に佳乃は確かに藍那の姿を確認したのだ。
その瞬間、佳乃は楽しそうにない競技へ参加するというストレスから一気に開放されたような感覚を覚え、1分でも1秒でも早く藍那と勝負がしたいと待ちきれない思いがこみ上げたのだった。
佳乃はSFの最終調整を行いながら周囲を見回す。
残念ながら藍那の姿を確認することは出来なかった。
少し残念だと思う。
しかし、残念と思う気持ちはこみ上げてくる気持ちが一瞬で飲み込まれた。
佳乃は1度深呼吸をする。
「|藍那≪あなた≫倒すのはこの私よ。他の人に負けたら承知しないわよ。」
どこにいるかわからない藍那に向い、小さな声ではあるが力強く宣戦布告をしたのだった。
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フライ・&・ショットとはSFで決められたコースを飛び20枚の的を撃ち、そのタイムと命中精度を競うといったものである。
予選から本戦に出場可能な選手は、予選の各コースで1位になった者と敗者の中で最も成績の良かった1名の合計6名である。
競技中に使用可能な弾薬は支給される66式15.5mm小銃の弾60発のみである。
66式小銃で使用される15.5mm弾のマガジンの装弾数は30発であり、スタート前にマガジンを2つ渡される。
他の選手への妨害行為は全面的に禁止されており、他選手への攻撃などはもってのほかである。
競技中に他選手への意図的な妨害などの禁止行為及び他選手へ向かって発砲などの危険行為を犯した者は、即刻失格となる。
時刻は10時となり、観客席に設けられている巨大モニターに次々と入場してくる選手が大きく映し出される。
それを観客は特別訓練場内の外に設けられた観客席から割れんばかりの歓声で迎えた。コース内にも届いてくる歓声を選手は手を振り歓声にこたえる。
これにより、観客席のボルテージは更に上がった。
(ここまでの歓声とはね・・・。私はあまり気にしていなかったけれど、かなり大々的なイベントにしているのね。)
藍那はたかが学校のイベントと、あまり気にしてはいなかった。
しかし、この競技大会は軍関係者や生徒の家族のほかにも一般の観覧客を招き、毎年恒例の人気イベントであるのだ。
(まぁ、私は観客のことなんて気にせず、自分の全力を出すだけね。)
藍那は観客の大歓声に驚きはしたが、すぐに気持ちを切り替えて順番を待つ列に並んだ。
第1レースが始まり、藍那はコースを飛んでいる選手を第3特別訓練場内に設けられたモニター越しにつまらなそうに見ていた。
それは、藍那が期待していたようなものでなかったからだ。
藍那は射撃の時、タイムロスを避けるために減速はするだろうが停止はしないと思っていた。
しかし、ふたを開けてみれば藍那の予想は違っていた。
選手達は的を外して無駄な射撃をしないために、SFの照準補正機能をフルに使っていた。
照準補正機能を使った場合であっても移動をしながらの射撃では、命中精度が下がってしまう。そのため、一度完全に停止し照準を合わせ、射撃を行っていた。
藍那は香奈子が言っていたことの方が正解だったのだとため息をつく。
(まさか、本当に私は考え過ぎていたとはね・・・。でも、たまたまこの第1レースだけかもしれない。気を抜くのはまだ早いわ。)
藍那は気持ちを切り替え、顔を上げモニターを見た。
第2レースの1レーンに佳乃がいた。
先程の第1レースを見た限り、佳乃は自分を脅かすような存在はいないと感じていた。
もしも自分が勝てないような強者がおり、本戦に出場できないかもしれないと多少は不安があった。
しかし、自分のレースも先程のレースと同じレベルの選手であるならば、1位になることは正直容易い。
佳乃は気持ちが少し軽くなったような気がした。
Standby
機械音声が流れ、佳乃たち選手3名はエンジン内の回転数を上げる。
Ready
重力制御で機体を数センチ浮かせる。
Go!!
佳乃はスタートの合図とともにトップ飛び出した。それはまさしく弾丸のようである。
瞬く間に一つ目の的が視界に入り、減速を開始する。
そして、佳乃はほんの一瞬停止し射撃を行い弾が的をとらえるのをSFの360度ARモニターで確認、次の目標に向かい再び加速を始めた。
佳乃の流れるような射撃を目にし、モニターを注視していた者はみな感嘆の声を漏らした。
通常、照準補正機能の演算時間は0.3~0.5秒の時間を要する。これはあくまで完全停止状態での演算時間であり、飛行中であればこれ以上の時間を要する。
しかし、先程の佳乃の停止時間は0.1秒ほどであり、演算を終える前に射撃を行っていたのだ。
どのようにして演算時間を短縮したのかと観客席や順番待ちの生徒は初対面であるはずの隣の者と意見を交換する。しかし、結論は出ない。
それは当然である。
佳乃は演算時間の短縮などはしていなかったからだ。
佳乃が行ったことは単純である。
予め自分の射撃体勢をSFに記録し、的が見えた時点でこの射撃体勢をオートで寸分たがわずとった。
そして、射撃体勢のロードを行う直前に自分が停止する位置を変数として入力し、先に演算を終えていただけである。
SFは機体にかかる空気抵抗を限りなくゼロにすることが出来るため、飛行中の急激な体制変化を行ったとしても大きくバランスを崩すということはなく、SFの姿勢制御によって容易にカバーできる。
これにより、予定していた位置に停止し引き金を引くだけとなるのだ。
しかし、予定していた位置に確実に停止するというのは緻密かつ精密な制御が必要であり、何でもないようにこの制御を行う佳乃の技能は恐ろしく高いものなのだ。
佳乃は最初のリードから更に距離を離し、2位とは大差でゴールした。
(さあ、藍那さん。あなたも本戦に上がってきてくださいよ。私を失望させないでくださいね。)
佳乃はモニターを見ているであろう藍那に向かって、挑戦的な表情を向けた。
あっという間に藍那の順番が回ってきた。
先程佳乃が向けた挑戦的な表情は自分に向けたものだと、藍那は感じ取っていた。それは、予感よりも確実なものであった。
藍那も「負けていられない」と一層気合が入る。
スタートラインに立つ。沸々と湧き上がる高揚感が心地いい。
藍那の両隣にいる選手はSFのフルフェイスヘルメットをかぶっているため、表情を窺うことはできない。しかし、ピンっと張り詰めた緊張感が伝わってきた。
Standbyという機械音声が聞こえ、それを合図に藍那たち3人はエンジンの回転数を上昇させる。周囲には『キィィィィィィン』という耳をつんざくような音が響く。
Readyという機械音声が聞こえ、期待を浮かせすぐでも飛び立つ準備をする。
Go!!っと音声が聞こえ、3機はほぼ同時に『ゴーーーーッ』という轟音とともに飛び出した。
藍那はスタートダッシュに遅れてしまい、最下位からのスタートとなった。
SFがトップスピードになる直前で1つ目の的が見え始める。
藍那の前方を飛んでいる2機は照準補正機能の演算のために減速を開始して程なくして停止した。
しかし、藍那は減速するどころか、さらに加速した。
藍那は一切の減速をすることなく銃を構え、引き金を引いた。照準補正機能に頼らず、見事に的を打ち抜いた。
そして、藍那の前を飛んでいた2機を抜き去った。
抜き去られた2人は愕然とする。
この射撃に観客や他の選手も度肝を抜かれていた。
藍那は更に観客や選手に驚きを与えた。
コース上のカーブを曲がる際、普通であれば一度減速する。
しかし、藍那は曲がる方向の腕のみの空気抵抗を増大させ、腕を支点とし極小の旋回半径でほぼスピードを落とすことなく曲がったのだ。
そして、再び減速することなく次の的を撃ち抜いた。
そのまま藍那は一切のタイムロスをすることなく圧倒的大差でゴールした。そして、静に着地しモニター用のカメラに向かって手を挙げた。
観客たちは藍那へ割れんばかりの歓声をあげた。
時刻は12時を超え、2組全員は藍那たちフライ・&・ショットの選手を中心にして、昼食をとっていた。
「まさか、本当に無減速で射撃するなんて、びっくりですよ。」
香奈子の言葉にクラスの半分以上が頷く。
「どうやってあんなことしたの?演算をしいてる時間なんてないはずよね?」
静は不思議そうに聞いてくる。
「簡単なことですよ。藍那さんは照準補正機能を一切使っていないんですから。」
「何で香奈子が答えるのかしら・・・。まぁ、香奈子がさっき言ったように、システムの補助は使っていないわ。」
藍那は香奈子に少し呆れつつ、何でもないかのように話す。
それを聞き、辺りは啞然とする。
「あの速度で飛びながら、あんな正確な射撃を?本当に言っているの?」
静は驚きを隠せないといった様子だ。
「えぇ、慣れればあまり難しくはないわ。」
「そうですね。私もあそこまでではないにしろ、一応はできますし。」
静は驚きを通り越して笑い出した。
「何というか、この2人は次元が違い過ぎてよくわからないや。」
他の者も静と同じような反応である。
「それよりもさ~、どうやったらあんなふうに曲がれるの?あんな旋回半径での曲がり方なんて、授業じゃ教えてくれなかったよ~。」
藍那と同じく、本戦出場が決まった星川恵利が手を挙げた。
「カラクリを聞けば簡単な話よ。旋回を行う方の腕だけ空気抵抗を上昇させただけよ。」
藍那の説明を聞き、恵利の頭の上にはてなマークが浮かぶ。
「船が錨を下ろして無理やり急旋回できるのは知っている?簡単に言えば、それを故意に起こしたのよ。まぁ、船と違って私がやったのは空気の壁をひっかいたということね。」
「ほえ~。私じゃ考え付かないや。それより、SFって飛行機みたいに抵抗を減らすだけじゃなくて増やすこともできるんだね~。しらなかったや。」
「私もちょっと前に実験していて気が付いたのよ。まぁ、SFのコアの劣化版みたいなのを使っている戦闘機に出来て、SFにできない訳はないけれど。」
恵利は「私もやってみようかな~」と呟くが、「ぶっつけ本番はやめて!!」と止められた。
「午後からは本戦よ!2組でワンツーフィニッシュを決めれるように、藍那と恵利には気を抜かないように頑張ってもらわないとな。」
静が選手2人にエールを送ると、他のクラスメイトも口々に応援の言葉をかける。
藍那と恵利は気恥ずかしそうにしていた。
本戦は1本勝負であり、記録タイムで順位が決まる。
レース開始前に本戦出場6名で再びクジ引きが行われた。その結果、神の悪戯か藍那と佳乃の直接対決が実現した。
この1年生最強の対決に観客は大いに湧いた。
藍那と佳乃が同時にコースインした時に観客のボルテージは最高潮に達した。
「佳乃、あなた私を挑発してきたでしょ?」
「やっぱり、藍那さんならわかってくれると思いましたよ。」
「後腐れなく、全力で勝負よ。」
「言われるまでもないわ。」
藍那も佳乃はフルフェイスをかぶっており表情はわからない。しかし、互いに喜悦に満ちた笑みを浮かべていることが分かった。
Standby Ready Go!!
レースが開始された。
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フライ・&・ショット1年生の部の順位は、1位仁科藍那、2位柴田佳乃、3位星川恵利という結果になった。
恵利は藍那と共にワンツーフィニッシュを遂げたいと全力を尽くしたが、佳乃には遠く及ばず3位という結果に終わった。
しかし、2組としてかなり幸先のいいスタートとなり、他の競技に出場するメンバーの士気は更に上がった。
時刻は19時30分、佳乃は自室のベッドの上でうつ伏せになり、一人泣いていた。
ルームメイトである刀華は会場周辺の警備に出ているため居なかった。
佳乃は様々な面で藍那に勝てないでいる。佳乃自身は自分が藍那と同じネームドとして肩を並べられているとは思っていない。
であるからこそ、今回のフライ・&・ショットで今度こそ藍那に勝利し、正真正銘藍那と肩話並べられる存在になろうと意気込んでいた。
にもかかわらず、結果は藍那に大差を付けられた敗北した。
(やっぱり、藍那さんには勝てなかった・・・。)
その事実を思い出すたび、悔しい思いがこみ上げてきた。
「今回は佳乃の負けだ。」
いつの間にか帰ってきていた刀華に改めて事実を述べられ、佳乃は激昂する。
「そんなこと、言われなくても分かってる!私が一番それをわかっているのよ!」
佳乃は体を起こし、刀華へ怒鳴りつけた。
「佳乃、勘違いするなよ。私は佳乃の事実を伝えるために、まして励ますために言ったわけじゃない。」
「じゃあ、どうして!!」
「こんな所で泣いていたら|藍那≪あいつ≫に勝てるのか?」
「・・・・・・?」
「あいつと次に対決するのは金曜のFFBだ。もう時間がない。次こそ勝ちたいなら、今できることを何でもして、備えるしかないだろ?」
刀華の言葉を受け、佳乃はハッとする。
「次は佳乃だけじゃない。私もいるんだ。今度こそあいつを倒す。」
佳乃は刀華の力強い言葉を聞き、涙をぬぐう。
(こんなことをしている暇があるなら、藍那さんを倒すために何かをしなくちゃいけない。技術でも経験でも圧倒的に負けているなら、頭を使うしかない。)
決心を固めた佳乃の表情を見て刀華は微笑む。
「よかった。佳乃がいつもと同じ顔になった。」
「刀華さん。次こそ私たちが勝ちますよ!」
2人は打倒藍那への決心を新たにした。