SF-ストライク・フォース   作:田んぼのアイドル、スズメちゃん

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入学編-8

 深い藍色の長髪と紅い瞳をした少女、志摩刀華(しまとうか)は医務室のベッドの上で目を覚ました。

 窓から見える空は薄暗くなっている。自分が第2武道館にいたときには、まだ明るかったことを考えるとかなりの時間が経過していると思われる。

 しかし、どうしてこうなっているのか、どうも思い出せない。最後の記憶は恐ろしく目つきの悪い女子生徒に脇腹を打ち抜かれたというものである。

 いつまでも横になっているわけにもいかないと思い、起き上がろうとする。しかし、脇腹に鈍痛が響き、起き上がることが出来なかった。

「目が覚めたようね。」

 高身長のおっとりした女性が医務室に入ってきた。確か、1年2組の担任教師の小鳥遊碧だった気がする。

 刀華は起き上がろうとするが、小鳥遊がそれを制止する。

「あなたは1年3組の志摩刀華さんで間違いないかしら?」

 刀華は「はい。」と短く答える。

「もう時間も時間だし単刀直入に聞くわ。どうしてあんな行動に出たの?」

 どうやら、なぜ武道館で乱闘騒ぎを起こしたのかの事情聴取のようなものだろう。

「私が志摩流剣術の直系の家出身ということは知っていますか?」

 小鳥遊は頷く。確か、彼女は剣道中学生の部で連覇していたはずだ。

「この学園の剣道部に入るつもりはなかったんですが、一応のぞいてみようと思って第2武道館へ行ったんです。案の定、剣道部の方々に入部するように勧められたんですが、入部の意思はないと断ったんです。すると、主将が決闘を持ち掛けてきて、私が負けたら入部するように言ってきたんです。もちろん断ったんですが、それが逆に彼らを刺激してしまったらしく、剣道部全員で襲ってきたんです。私は全員を相手して勝ったんですが、それを暴力行為と思ったのか風紀委員の方が乱入してきて、最終的にあんなことになってしまいました。反省はしています。」

 刀華は大雑把ではあるが、事の顛末を小鳥遊に話した。

「だいたい分かりました。暴力行為を行ったものの、原因としては剣道部の無理な勧誘もあったということね。明日にでも剣道部に話を聞く必要があるわね。」

 刀華の聴取を小鳥遊はメモ帳にまとめる。

「あの、私が倒してしまった方々の怪我の具合はどうでしたか?」

「全員打ち身程度だったわ。一番怪我がひどいのはあなたよ。」

 メモ帳に書きながら答えてくれる。

「それと、最後に戦った吊り上がった切れ長の目をした黒髪の女子生徒が誰なのか分かりますか?」

 小鳥遊は少し考え込むようなしぐさをする。小鳥遊の記憶の中ではこの特徴に合致する生徒は1人しかいない。

「違うかもしれないけど・・・、多分、仁科藍那さんね。風紀委員で私のクラスの子よ。」

 そこで、刀華は驚愕する。通常、風紀委員は2年生以降の生徒で構成される。にもかかわらず、1年生が在籍しているなど普通は有り得ない。

「後で寮まで送って行ってあげるから、ここで待っていてね。」

 そう言うと、小鳥遊は医務室から出ていった。

 刀華は仁科藍那という名前を忘れないよう頭の中で何度も言いながら、明日、彼女を訪ねてみようと思った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 小林静は朝から少し気合が入っていた。

 月曜日の放課後に藍那へ話があると声をかけたものの、要件を話すことが出来ずに彼女は教室を出て行ってしまった。

 周りの人の話によると、藍那は風紀委員の用事があったらしく急いでいたとのことだ。

 怒っていないと藍那と仲のいい西原香奈子は言っていたものの、信じることが出来ない。自分にはどうも殺気のこもった目で睨まれたように感じた。

 昨日も昼休みに声をかけようとタイミングを窺っていたのだが、香奈子と星川恵利と話し込んでいた。そして、気が付くと昼休み終了の予鈴がなってしまったのだ。

 放課後も風紀委員の仕事ということで話しかけられなかった。

 静が藍那に言いたいことは、勝手に講習を抜け出すような真似はクラスの統率を乱すからやめてほしいということ。そして、どうしてあのような行動に出たのかという事を聞きたいのだ。

 たったこれだけの事を・・・。と思うかもしれないが、ちょっといい?と聞いていきなり睨まれた相手に話しかけるというのは、かなりハードルが高いことなのである。

 今日こそは話しをするぞ!と気合を入れて、気が付くとまた昼休みになっていた。

 そして、現在藍那は先の授業の片づけをしており、1人なのだ。

 今しかない、と思った静は勇気をもって話し掛ける。

「あの、仁科さ―――」

「仁科藍那ッ!!少し話がしたいから、出てきてくれ!!」

 静の声は、教室の扉を開けて藍那の名を呼ぶ闖入者の声によってかき消された。

 藍那は「いきなりの呼び捨てなんて失礼ね・・・。」と言いながら闖入者のもとへ行ってしまった。

 今回もダメだったと静は心底うなだれる。

 そんな静の元へ香奈子が寄ってきて、「どうかしたの?」と尋ねてくる。静はこうした理由で藍那に用事があったと香奈子へ説明したが、藍那本人ではないので意味はない。

 静は再びうなだれつつ、昼食の準備に取り掛かった。

 

 2組を訪ねた闖入者は志摩刀華であった。

 刀華は藍那を連れて人通りが少ない廊下の突き当りへ来ていた。

 自分の目の前にいる長髪の少女は確か、昨日自分が倒した生徒だったような気がする。

 藍那はこれから昼食を摂ろうと思っていたため、出来れば早く用事を済ませてもらいたかった。

 そんな藍那に対して刀華は藍那に、ずっと睨まれていると錯覚していた。

「昼食前に呼び出してしまって申し訳ありません。私は3組の志摩刀華といいます。お怒りだと思うが、少しだけ話しをしてくれないでしょうか?」

 刀華はまず藍那に怒りを鎮めてもらおうと思い、謝罪から始めることにした。

 藍那は自分を強引に連れ出した相手が、意外にも丁寧な謝罪をしてきたことに少し驚く。

「えぇ、構わないわ。もう知っているだろうけど、仁科藍那です。よろしく。それと、別に怒っていないわよ?」

 藍那はいつもと同じように怒っているという誤解を解こうとする。

「そ、そうなの?ずっと睨まれているように思ったから、てっきり起こっているのかと思ってしまって・・・。」

 刀華の「睨まれている」という言葉を受け、藍那は自分の目尻を人差し指を当ててグリグリと動かす。

「よく間違われるのだけれど、この睨んでいるような目つきは元からなの。そのせいで、さっきの貴方のように怒っていると勘違いされるわ。」

「そうだったんですね。よかった・・・。」

 藍那が怒っているわけではないと分かり、刀華はホッとする。

「それで、用件は何かしら?次の授業は実射実習なの。」

 藍那たち2組の授業スケジュールは、月曜と火曜日が一日を通して数学や国語などの座学、水曜日が午前はSF関連の座学で午後からは実弾を用いた実習、木曜、金曜日は午前にはSFの操縦訓練、午後は近接格闘や銃を用いての市街地訓練などの実習が入っている。

 月曜日と火曜日以外、特に木曜日と金曜日は肉体的にかなりハードなカリキュラムなのである。

「そうだったの・・・。では、まずは昨日のことを謝罪させてください。本当に申し訳ありませんでした。それと、1つ聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」

藍那は話すように促す。

「あなたはどこかで剣術を学んでいたの?竹刀の握り方や構えは素人のようだったけれど、あの動きや野生の狼のような鋭い気配はやろうと思ってもすぐにできるものではない。なら、どこでそれを身に付けたの?」

 刀華は少し興奮したように問いかけてくる。

「剣術は少しだけ習ったことがあるわ。でも、基本的な動きを少しだけ習っただけだから、本格的ではなかったわ。気配は狼のようかどうかわわからないけれど、動きは昔死に物狂いで訓練したから、そのせいだと思うわ。」

 剣術は依然CQCと一緒に正純によって教わった。剣術はCQCと違い軽く教わっただけなので強さは一般人とさほど変わらないが、子供兵時代に身に付けた近接格闘の技術でカバーしている。

「その、昔っていうのは、どういったことがあったの?」

 刀華は相手のプライバシーに関するかもしれないことなので、恐る恐るといった感じで尋ねてきた。

「私は以前、子供兵として実際に戦場に立っていたの。」

 それがどうした、といった様子で藍那は昔のことを話す。それに、どう反応したら良いのかわからず、刀華が少し混乱する。その様子をみて、藍那は最近どこかで見たことがあるようだと思った。

「わたしからも1つ用事があるから、ついてきてくれないかしら?」

「え、えぇ・・・。」

 藍那はいまだ混乱する刀華をつれ、職員室へと移動した。

 

「小鳥遊先生、少しよろしいでしょうか?」

 職員室の中に入り、小鳥遊の机の横まで刀華を連れてきた藍那が小鳥遊へ尋ねる。

「仁科さん、どうしたの?」

 昼食の弁当を食していたが、親切にも藍那たちに応対してくれる。

「風紀委員にまだ、欠員が1人いましたよね?」

「えぇ、確かに1人足りませんけど、それがどうしたの?」

「そのもう一人を連れてきました。」

 藍那は連れて来た刀華を前に出す。

刀華は何が起こっているのか理解できていない様子であり、頭の上に『?』が浮かんでいるようだ。

「確かに彼女なら戦力的にも問題ないわね・・・。」

 小鳥遊は藍那が言おうとしていることを理解し、真剣に悩む。

「志摩さん。少し話があります。この後残ってください。仁科さんはこの後実習だから、遅れないように言ってくださいね。」

 藍那は「はい。」と返事をし、職員室を後にした。

 残された刀華はいきなり小鳥遊手をがっちりと握られた。

「志摩さん。この場では詳しい話が出来ないから、放課後私のところに来てください。そこで風紀委員の仕事内容を説明します。」

 そこで刀華はやっと話の内容を理解する。

「ちょ、ちょっと待ってください!!いいんですか?私はまだ1年生ですよ!?」

 刀華の言葉に小鳥遊はニコニコとした笑顔をする。

「1年生なんてあんまり関係ないわよ?実際、仁科さんの前例があるんだもの。」

 手を小鳥遊に強く握られており、逃げることも断ることも難しい。刀華はここで藍那に嵌められたことに気づく。

(やられた・・・!覚えてろよーーーー!!仁科藍那ぁぁあ!)

 心の中で呪詛を吐く。

 刀華にはニヤニヤ悪い笑顔をしている藍那を幻視した。

 

 藍那は用事を済ませ、昼食を摂るために2組へ戻った。

 すると、香奈子と恵利が心配そうな顔をして出迎えてた。

「藍那っち、大丈夫だった?さっきのって昨日武道館で暴れてたやつだよね?まさか御礼参りってやつ?」

 恵利が心配そうに尋ねてくる。

「違うわ。ただ話をしたかっただけみたい。」

「それじゃ、あの人はどうしたんですか?」

 話をしていたにしては少しばかり短いと思ったため、香奈子が尋ねてきた。

「職員室に置いてきたわ。次は実習だから、あまり長話もしていられないもの。」

 香奈子と恵利はよく分からないといった顔をしているが、藍那はあえて無視することにした。

「私は昼食がまだなの。実習に遅れてはいけないから、少し急ぐわ。」

 藍那の昼食はいつもと同じレーションであるため、飲み物で流し込めば2分とかからないが。

 そこで、香奈子はあることが気になった。

「今日の実習って射撃実習ですよね?藍那さんって出るんですか?」

「流石に毎回さぼったりはしないわ。前回は講習だったから抜け出しただけよ。今回からは自習だからちゃんと出るわ。」

 よくわからない理論ではあるが、香奈子と恵利は何故か理解してしまった。

 

 前回の講習と同じように全員訓練着に着替えている。ただ、前回とは違い射撃訓練場へ現地集合になっている。

 時間通りに射撃訓練場に集まり、実習が始まるのを整列して待つ。

 少しすると担当教官が入ってくる。担当は前回と同じく岸であった。

「全員揃ってるか?ん?仁科がいるのか・・・。」

 岸は少し悩む。

「仁科。お前は1年のこの単位はもうくれてやる。その代わり、俺のアシスタントだ。いいか?」

 岸のまさかの発言にクラスがどよめくが、藍那はこう言われると分かっていたかのように、「はい。」と応えるだけだった。

「それじゃあ、決定だ。仁科は前に来てくれ。これからの予定を説明する。」

 いきなり静が手を挙げた。

「ん?確か、小林だったな。何だ?」

「岸先生、こんな勝手なことをしてよいのですか?それに、生徒をいきなりアシスタントにつけるなんて・・・。」

 静は納得できないといった様子である。

「この実習と単位については俺に一任されているから、特に問題ないぞ?」

「ですが・・・。」

 まだ納得できない静は反論しようとするが、

「それに、お前たちも見たろ?仁科にはこの実習は正直言って不要だ。それなら、教える側に回ってもらった方が、こっちとしても楽だからな。」

 岸の言っていることは正論ではないが、クラスの半数以上を納得させてしまった。

 

 藍那を岸のアシスタントに就けることによって、一人一人にさける時間が増えた。それにより、2組はほかのクラスよりも射撃の上達率が格段に高くなった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 藍那は実習を終えて着替えを済ませ、荷物をとるために2組へ戻っていた。

 教室到着にタイミングを合わせたように、藍那の携帯へ小鳥遊からメールが入った。文面は『この後、職員室の私の所へ来て下さい。』とだけある。

 藍那は何か小鳥遊に用事があったかと思い返し、刀華を小鳥遊へ丸投げしたことを思い出した。

 荷物は予め昼休みの内にまとめておいたため、片づけなどの時間は一切かからなかった。

 職員室へ向かおうと自分の席から移動しようとした時、昼休みの時のようにして刀華が勢い良く2組へ入ってきた。

 しかし、昼休みと違い、刀華は怒りのこもった凄い形相になっている。そのせいか、放課後ということもあり、にぎやかになっていた教室が静まり返った。

「仁科藍那!!よくもはめてくれたな!!」

 刀華は藍那と目が合った瞬間に怒りをぶつける。

「はめた記憶はないけれど?どうかしたの?」

 怒りをぶつけられている藍那は一切気にしている様子はない。それに対し、刀華は更にエキサイトする。

「嘘をつくな!!昼休みにとんでもない目に合ったぞ!いきなり風紀委員にならされるなんて聞いてない!」

 刀華は変なところでまじめらしい。

「うまく言って逃げればよかったのに・・・。それで、仕事内容の説明は受けた?」

「今からだ。」

 ここで先ほどの小鳥遊からのメールの内容が繋がった。どうも小鳥遊は刀華を連れて自分のところへ来いと言いたいのだろう。

「わかったわ。それじゃあ、職員室へ行きましょうか。」

藍那はそう言うと香奈子と恵利の方を向き、今日は一緒に見て回れないことを説明した。

 香奈子と恵利は了解の意思を藍那へ伝え、藍那と刀華は職員室へと向かった。

 

 職員室に着くと、小鳥遊は何の前置きのなく刀華へ風紀委員の仕事内容の説明を始めた。

 藍那としては1度聞いたことのある内容だったが、確認のためと思い聞くことにした。

 一通りの説明が終わり、小鳥遊が刀華へ質問はないかと問う。

「1つ質問があります。風紀委員は武器の携帯が認められているのですか?無手の私では戦力にはなれません。」

 言われてみれば、武装している相手に無手で立ち向かうというのは、危険極まりない。まさに愚か者のすることだ。

 近接格闘訓練を積んだ藍那のような者であれば問題ないかもしれないが、刀華のように得物を持ってこそ真価を発揮するタイプの者には死活問題である。

「武器の携帯は非殺傷武器のみ許可されています。ですが、非殺傷弾を使用した銃火器や木刀といった、相手に大怪我を負わせる可能性のある物は許可できません。志摩さんの場合は、警棒程度なら許可できると思います。」

 藍那は警棒でも相手に大怪我を負わせる可能性も無きにしも非ずだと思ったが、話が長引くとめんどくさいので言わないことにした。

「分かりました。太刀ほどではないでが、小太刀もそれなりに修練を積んでいるので問題ないと思います。」

「警棒は風紀委員室の物品棚に置いてあると思うので、それを使ってください。それと、仁科さんには志摩さんの教育係になってもらいます。今日から数日の間、ペアで行動してくださいね。」

 藍那自身も風紀委員になって数日であるが、小鳥遊がいいというのであれば構わないのだろう。

「では、2人とも頑張ってくださいね。」

 小鳥遊からの激励を受け、藍那と刀華は風紀委員室へ向かった。

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