SF-ストライク・フォース 作:田んぼのアイドル、スズメちゃん
風紀委員室に着き、藍那たちは用具を収めた棚をあさる。
書類などの事務系に関するものは几帳面な相模原が整理をしているため、とてもよく片付いている。
しかし、それ以外の物品は委員長である弓弦が管理をしている。弓弦はよく言えばダイナミックな性格、悪く言えば大雑把なのである。そのため、段ボール箱に適当に放り込まれている物品中から、目的のものを探し当てるのに思いのほか時間がかかった。
風紀委員室に来たのが約20分前であり、現在の時刻は16時になろうかという頃だった。6時限目が終了したのが15時10分であったから、かなりの時間を使ってしまっている。
「では、行きましょうか。」
藍那が警棒を腰につけた刀華へ問う。
「それはいいけど、なんて呼べばいい?私は刀華って呼び捨てにしてくれてかまわないよ。」
「私も呼び捨てにしてくれてかまわないわ。それじゃ、行きましょうか。」
2人は仕事へ向った。
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基本的に部活動同士での暴力沙汰は運動部で起こる。その中でも格闘技や武術部系の部活では特に多かった。そのため、風紀委員の見回りの多くはこれらの部活が集中する武道館周辺がメインとなる。
藍那と刀華も例に漏れず武道館周辺に向っていた。
「よう、風紀委員。ちょっと面かせよ。」
小走りで向っていた藍那たちに物陰から声が掛けられた。決して穏やかな雰囲気ではないが、藍那と刀華は待ち伏せなどを警戒しおとなしく従うことにした。
物陰から声を掛けてきた男子生徒に校舎と校舎の隙間へ連れてこられた。
そこには男女合わせて20数名がおり、その全員が藍那と刀華へ敵意を持っているように感じられた。
藍那と刀華はその全員に見覚えがあった。
「どうなされたのですか?先輩方は仲がいいんですね。」
藍那が言うように、2人の前に立っているのは空手部と剣道部の生徒であった。
「ハハハ、風紀委員のお前には何もしないぜ。でもな、俺たちのメンツをつぶしやがったそっちの女には、復讐してーんだよ。」
剣道部員の一人が刀華に竹刀を向ける。
「それで、こいつらに話を持ち掛けられてな。お前を潰すのに協力することを条件に、俺たちもこいつらに協力することになったんだよ。」
空手部主将を中心に空手部員たちが、藍那を痛めつけるのを楽しみそうに下卑た笑みを浮かべる。
「まぁ、最初はそっちの女だ。」
剣道部員の数名が刀華へ威嚇しながら近づく。
「先輩方は丸腰のか弱い少女を集団でリンチするのが好きなようだね。やれやれ、人間としてどうかと思うね。」
刀華は剣道部員に向かって挑発する。
その言葉で剣道部員たちは頭に血が上る。
「謝ったらちょっと痛めつけるぐらいで終わらせてやろうと思ってたが、二度と歯向かえねーようになるまで痛めつけてやる!おいっ!お前らはそっちの風紀委員の奴を押さえてろよ!」
1人の剣道部員が空手部員たちに命令し、刀華へ竹刀で殴り掛かる。
刀華は懐から伸縮式の警棒を取り出して伸ばす。警棒は伸ばすと小太刀ほどの長さになった。
刀華は警棒で竹刀を受け流し、カウンターで相手の肩口を打ち抜いた。
警棒の一撃をまともに受け、鎖骨を砕かれた生徒は痛みにのたうち回る。
「反撃された!?こんなの聞いてないぞ!」
「なんで武器を携帯してるんだよ!?」
のたうち回る仲間を前に、ほかの者たちはうろたえる。
数人で囲んでしまえば抵抗などされないと踏んでいた剣道部員たちにとって、刀華の反撃は完全に予想外のものだった。
「言い忘れてましたけど、私、今日から風紀委員になったんですよ。ということで、風紀委員に対する動力行為として、全員拘束させていただきますね?」
刀華から更に予想外の言葉を聞き、なお一層うろたえ始めた。
うろたえ、パニック状態になっている相手を倒すのは刀華にとって容易いことである。そのため、剣道部員たちは瞬く間に倒されていった。
「先輩方どうしますか?共闘を組んでいた剣道部の方々はほぼ全滅ですが。何もしないというのなら、今回は大目に見ますが?」
藍那は胸ポケットに入れている携帯端末を操作しながら、空手部員に警告を交えながら問う。
「それじゃあ、今日は引くとするか。」
空手部の部長がポケットに右手を入れ、藍那の前を通り過ぎる。その時、部長が右手で藍那に殴り掛かった。その拳には金属製のメリケンサックのようなものがはめられている。
空手によって鍛えてきた正拳突きが藍那をとらえるかと思われた。しかし、藍那はいとも簡単に躱した。
先ほどの正拳突きは完全に不意打ちだったはずである。にもかかわらず、藍那は完ぺきなタイミングで回避した。それに、部長は動揺する。
「長年、空手という武道に取り組んでこられた先輩が、こんな卑劣な手に出るとは・・・。それに、鍛えられた正拳突きだけでも危険だというのに、メリケンサックまで使うなんて。何を考えていらっしゃるんですか?」
藍那は残念そうに問う。
「何で避けられたんだ!?完全に不意打ちだったはずだ!なのになんで――。」
「簡単なことよ。最初から警戒していた。それだけよ。四方敵に囲まれた状態でリラックスしていたとでも思ったの?」
藍那は部長の逆質問が終わるよりも早く、疑問に答を応える。藍那の言葉には
先ほどとは違い、敬語がなくなっており半ば高圧的な物言いになっていた。
「テッメーーーッ!ふざけやがって!!」
部長に続くように他の空手部員も藍那に襲い掛かる。
しかし、月曜日の再現のように藍那への攻撃は当たらなかった。そのことに空手部員達は苛立ちを覚える。
「そこまで!!」
殺気が充満した空間を切り裂くように、凛とした声が響いた。
藍那たちへ襲い掛かかっていた生徒たちがその声の方を向く。そこには、風紀委員副委員長の斎藤奏恵がいた。
「斎藤!!邪魔すんな!!お前もぶっ飛ばすぞ!」
藍那に攻撃をかわされ続け、苛立ちが募っていた男子空手部員が斎藤を威嚇する。
「やってみなさいよ。あんたらに出来るならだけど。」
斎藤は微笑を浮かべながら挑発する。苛立ちが募っていた空手部員は斎藤の挑発で怒りが頂点を迎え、飛びかかる。
斎藤は空手部員の攻撃を雑に躱す。それによって、斎藤は態勢が崩れる。
この態勢では反撃はおろか、避けることもままならない。しかし、斎藤は崩れた姿勢から空手部員の鳩尾にこぶしを叩き込んだ。
こぶしを受けた空手部員はその場に崩れ落ちる。
普通なら怯みはするかもしれないが、ここまでのダメージは受けない。何故ここまで強打を崩れた体勢から打てたのか藍那には分からなかった。
しかし、この疑問の答えはすぐに分かった。
「発勁・・・。」
刀華がつぶやく。それを藍那は聞き逃さなかった。
「発勁って?刀華は何か知っているの?」
藍那は剣道部員を全員倒した刀華の元へ行き、疑問を問う。
「実際に見るのは初めてだけど、発勁としか考えられない。原理は分からないけど、どんな体勢からでも強打を打てるの。」
刀華は藍那の問いにもったいぶることなく答える。
「あなた達も手伝ってくれない?」
突如声をかけられた2人は斎藤の方を向く。そこには、3人ほどを拘束している斎藤がいた。
「ボーっとしてないで、手伝ってくれない?」
斎藤の2度目の呼びかけで藍那と刀華は作業に取り掛かった。
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刀華の剣術や斎藤の発勁を目にし、藍那は武術に興味がわいていた。
これまでは、CQCやナイフによる格闘術などの訓練受けてきた。しかし、未知の戦闘技術を目にし、藍那は更に自分の戦闘技術を高められるのではないかと思っていた。
戦場において、生還できるかどうかは8割が運、残りの2割が自分の技術だと藍那は思っている。
自分の運は鍛えることは当然できない。しかし、残り2割の自身の戦闘技術は鍛えることが出来る。少しでも自分を鍛えることで生還率を上げる。これは、藍那が子供兵時代に刻み込まれていることである。
藍那自身、SF学園へ入学した段階で自分が国防軍へ入隊すると思っていた。
日本国防軍はあくまで日本国の専守防衛を目的としている。国防軍は以前自衛隊という名前であったが、第3次世界大戦の影響で憲法を含む国防関係の事柄を一新した。
国防軍は日本に隣接している中華連邦共和国からの度重なる軍事的挑発などにより、2国間の関係は一触触発という状態であった。
SFは日本の航空戦力の主力である。
しかし、中華連邦は日本に次ぐガルダニウムの産出国であるため、中華連邦による領空侵犯の9割はSFによるものである。
そのため、1度戦闘が発生してしまうと威嚇行為では終わらず、命のやり取りになってしまう。
現に数年前には領空侵犯を行っていた中華連邦軍のSFと日本国防軍のSFとの戦闘が発生し、両国合わせて13名もの死者を出すという不幸な事件が起きた。
そのため、国防軍に入隊するというのは正真正銘命を懸ける覚悟が必要なのだ。
しかし、藍那自身に自殺願望はない。死にたくはない。
死なないように自分を可能な限り鍛え上げたいと思っていた。
藍那と刀華は斎藤と共に逮捕者を移送し、事後処理を済ませていた。
「藍那、なんであそこに副会長がきたの?校舎と校舎の間なんて普通分からないでしょ?」
刀華は自分たちの増援として斎藤がどうやって問題が起きたのを知ったのかが気になるようだ。
「これよ。」
藍那は胸ポケットから、風紀委員に配られている携帯端末を取り出した。
「これで、一部始終を録画して、副会長の端末に位置情報を添付して送信したの。無策で敵についていくなんて愚行はしないわ。」
「ふふーん。なるほどね。それなら証拠も押さえているから言い逃れもできないしね。藍那ってかなりの策士だね。」
刀華は笑いながら藍那を冷やかす。
「策士ではないわ。当然のことよ。」
藍那は刀華の冷やかしをサラッと流す。
「それより、刀華に頼みたいことがあるのだけれど。」
「ん?なんだい?」
「私に剣術を教えてくれない?その代わりと言っては何だけど、銃やナイフを教えるわ」
刀華は藍那からの頼みごとが意外過ぎたのか、少しの間フリーズする。
「何で私から?剣術だけなら剣道部でもよくない?私はともかくとして、藍那は剣道部にとって恩人的な立ち位置だから、教えてくれないってことはないでしょ?」
「確かに、ダメとは言われないと思うわ。でも、実力は刀華の方が上だから、刀華に指導してほしいの。」
刀華は藍那の言い分に一理あると思う。それに、刀華自身銃というものをSF学園に入学して初めて握った。そのため、教えてくれるというのはとてもありがたい。
「藍那って、元子供兵だったよね。ってことは、やっぱり銃の扱いも慣れてる?」
刀華は聞いていいことなのか分からず、恐る恐るといった感じで藍那にきく。
「えぇ、ライセンスを持っているわ。それに、実弾実習で教官の補佐もしているわ。」
さも当然のように藍那が答える。
「そっか・・・。まぁ、私はいいけど、いつ稽古する?」
「早朝と放課後でどう?」
刀華は「早朝か・・・。」と呟いていたが、了解したようだ。
「それじゃあ、明日の早朝5時半に第一グラウンドに集合にしましょ?」
藍那の提案に刀華が頷く。
事後処理も終わり、今日の仕事は終了となった。
早朝に集合の予定を立てたため、出来るだけ早く帰って休もうということになった。
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藍那が自室に戻ると、香奈子がラフな部屋着姿でゴロゴロしながらノートパソコンをいじっていた。
「香奈子。あんまりゴロゴロしていると、太るわよ?」
藍那は香奈子の方を見ずに声をかけ、自分のクローゼットの前まで行く。
「藍那さんお帰りなさい。私、お腹にお肉が付きにくいんですよね。どうも、胸に集まっているようで・・・。」
藍那が香奈子の方を見ると、うつ伏せの姿勢により潰れた豊満な胸が目に入った。
「チッ!」
藍那の舌打ちに香奈子がビクッとなる。
藍那の胸も平均に比べれば大きい部類に入るだろう。しかし、学年のなかで1位2位を争う大きさを持つ香奈子に比べれば小さく見える。
藍那も1人の女性である。当然、自分の容姿や身体つきが気になる。
そのため、舌打ちが反射的に出てしまった。
香奈子はこの話題を長引かせると、自分も藍那もいろいろとダメージを受けると思い話題を変える。
「そういえば、昼休みに小林さんが藍那さんを呼んでいたようですよ。あの闖入者に邪魔されたようでしたけど・・・。」
藍那は聞きなれない『闖入者』という単語の意味が分からなかったが、あえて追及する必要がないと判断した。
「『小林さん』って言ったら、確か委員長だったわね?」
「えぇ、2組のクラス委員長の小林静さんです。」
「クラス委員長が私に何か用事でもあったのかしら・・・。」
藍那は少し考えるが、答えは見つからない。
幸い、藍那はまだ部屋着に着替えていない。今から小林の部屋を訪ねることも可能だろう。
「香奈子、私は委員長のところへ行ってくるわ。急ぎの用事ではないと思うけれど、重要な話だといけないから。」
「分かりました。いってらっしゃ~い。」
香奈子は上半身を起こして部屋を出る藍那を見送る。
藍那と香奈子の部屋は309号室である。今回の目的である小林の部屋は306号室である為、さほど距離は離れているわけではない。
自室を出てすぐに目的地に到着する。
藍那が3回ノックをすると、「はーい」という声とともに、小林のルームメイトである佐々木七海が扉を開けた。
「こんな時間にごめんなさいね。小林さんはいる?」
まだ19時を迎えていないためあまり遅い時間ではないが、課題などをやっていた可能性があるので謝っておく。
「仁科さんか・・・。珍しいね。まぁ、入ってよ。」
七海はいきなりの藍那の訪問に少し驚いた様子だったが、すぐに部屋に迎え入れてくれた。
藍那は「お邪魔します。」と言いながら入室する。
「静は夕飯を買いに行ってるから、ちょっと待ったら帰ってくると思うよ。」
「わかったわ。それじゃあ、少し待たせてもらうわね。」
「はいはーい。」
七海は藍那に椅子をすすめ、自分はデスクトップパソコンを置いている机に向かった。
「ただいまー。」
5分もしないうちに静が帰ってきた。
静が自室の扉を開け、初めに目に入ったものは藍那だった。静は状況が呑み込めず混乱する。
「お邪魔しているわ。小林さんに用があってきたの。」
藍那が一礼して、要件を述べる。
静には藍那が自分への用事ということに一切心当たりがない。そのため、要件を話すように勧める。
「香奈子に聞いたのだけれど、あなたが昼休みに私を呼んでいたのよね?何か大切な用事があったのではないの?」
静は「なるほど」っと思う。どうやら、香奈子が気を回してくれたと理解した。
「昼の件は、午後の実習にちゃんと参加するように言おうと思っただけだから、気にしないで。」
「何故そんなことを?」
首を傾げつつ藍那が聞く。
「前回は途中退出したから、もしかしたら参加しないんじゃないかって思って。クラスの不和に繋がるから、あまり勝手な行動はしないでほしいのよ。」
「ご迷惑をかけたようね。ごめんなさい。次からは気を付けるわ。」
藍那は素直に謝罪を述べ、静に頭を下げた。
静は素直に謝罪されるとは思っていなかったため、再び混乱する。
「頭を上げて、仁科さん。」
藍那は謝罪を受け入れてもらえたと判断し、頭を上げる。
「私も仁科さんに謝らないといけないことがあるの。月曜日の放課後、急いでいたのに引き留めてしまってごめんなさい。まだ怒ってる?」
静はずっと藍那が怒っていると勘違いしており、あの時睨まれたに違いないと思っていた。
しかし、藍那はそんなことがあったことを忘れていた。恐らくは自分の目つきの悪さが原因だろうと予測が出来た。そのため、適当に流すことにした。
「心配しないで、あの時含め怒ってないわ。この目つきのせいでよく怒ってると思われるけど、基本的に怒っていないわ。」
「そうだったんだ。よかった・・・。」
静は胸をなでおろす。
「用件も済んだことだし、私はそろそろ部屋に戻るわ。それじゃあまた明日。」
「ええ、わざわざありがとう。また明日。」
藍那は大した要件ではなかったものの、自分への勘違いが晴らせたということに多少の満足感を得ながら自室に戻った。