とある土曜日の朝、獄寺隼人はアルバイトをするためにバイト先のコンビニに向かっていた。 獄寺の足取りが急ぎ足でもなく普段通りなのは10分前出勤を心掛けているからこそか。 早朝にも関わらずその目がしゃきっと冴えているのは寝起きの良さからなのか。 髪の毛にアホ毛の一本もないのは早起きをして整えているからなのか。
そんな獄寺はバイト先で、見かけこそは不良であるものの同僚に配慮しながら謹厳実直に働くさまが高く評価され店の売上を扱う作業をも任されている。 獄寺自身も評価されることを嬉しく思っている。 褒められたときに照れくさそうに笑っている顔が可愛いと職場のおばちゃんは語る。 「怖い顔だけど、本当は良い子なのよね」と。
そんなこんなで獄寺にとって今のバイト先はツナの傍の次に居心地の良い場所である。 だが獄寺はコンビニでアルバイトをする目的を並盛の情報収集と言い張っており、この場所で働き続ける理由は並盛町の繁華街に位置するコンビニには情報が集まるかららしい。
バイト先に到着して入店すると深夜帯で働いていた伏島さんが眠たそうな目で会釈をしてきた。
オレの働いているコンビニは所有者が本社ではなく個人であるフランチャイズ店の一種で、そしてそのオーナー兼店長がこの伏島さんだ。 脱サラしてコンビニの所有者になったが深夜帯は働いてくれる人が中々見つからず、店長・伏島さん自ら週に5回くらい深夜帯シフトに入っている。 「僕もう疲れたよ」が伏島さんの口癖だ。 その言葉の通り本当に疲れているらしく、この前伏島さんの発注ミスで飲料(ペットボトル)の箱が通常の5倍ほど届き、それを全て仕分けて倉庫に詰めなければいけないという煩わしさから、スモーキン・ボムでこの飲料の箱を爆破して無かったことにしたのは秘密だ。
加えて、店長・伏島さんの寝坊が増えているらしく、それを受けて他の同僚の間では「伏島さんそろそろ限界なんじゃないの?このお店もうすぐ潰れるんじゃない?」ともっぱら噂になっている。
「おはようございます。 今日も眠そうッスね」
「獄寺くんは今日もシャキッとしてるねぇ。 僕も若いころは君みたいにいつも元気だったんだけどもうほんと年だよ。 ああ、そうだ。 今日の8時にタバコがたくさん届くから僕もうちょっと残るからよろしくね」
「うッス」
バックヤードでバイトの制服に着替えてタイムカードを押し、いつものようにレジの前に立った。 隣のレジをふと見ると伏島さんが今にも寝そうだった。 肩を叩くとハッと我に返ったような顔をした伏島さんはやはり寝ていたようだ。 本当にこの店大丈夫かよ…。
朝の通勤の時間帯となり客がちらほらと入店してくる。 平日であればこの客の数はどっと増えるが、休日の土曜日のしかも朝の客の数なんて知れている。 平日ならまだしも休日にレジ前の列ができることはほとんどない。 だからオレはゴミ出してきます、と言い残して昨晩の廃棄のゴミを捨てに行った。
店の裏手にあるゴミ捨て場は繁華街に面した表に対して住宅街に面している。 そのため人通りは少なく、サボるにはもってこいである。 だが獄寺の根は真面目であるためそのようなことはしない。 ただゴミを捨てに来るだけである。 しかし今日、そのゴミ捨て場には先客がいたのだった。 子猫×5である。 獄寺は無視しようとした。 だが子猫たちは獄寺の持っているゴミ袋(廃棄物:賞味期限切れのお弁当)の匂いを敏感に嗅ぎ付けて、ゴミ袋に飛びついてくる。
「あっコラ、やめろって」
みーみー
可愛らしい声で鳴く見かけも可愛らしい子猫たちの爪は意外と鋭くゴミ袋をすぐに引き裂いてしまった。 中の賞味期限の切れたお弁当が飛び出てそのフタが空いて中身が地面に散らばった。
子猫たちはすかさずそれに飛びつき、うまそうに食べ始めた。
「あー…まあ、本当は廃棄の物は捨てなきゃいけないんだけどよ。 お前らはこのオレから弁当を実力で勝ち取ったんだ。 その漢気に免じてくれてやるよ」
獄寺が子猫たちの頭を強引になでると、子猫は迷惑そうに耳をピクピクと動かした。
それにしてもすげぇ食いっぷりだな。 こんなチビなのに胃袋はいっちょ前に大人かよ。 みるみるうちにアジフライが消えていった。 口の周りを汚すのもお構いなく食べやがって。 …かわいいなぁ。
子猫たちの食いしん坊さ、それに伴う愛らしさにすっかり心を奪われてしまった獄寺は時間を忘れてそこで子猫たちを見ていた。 10分ほどで完食した子猫たちは獄寺にお礼を言うかのようにみーと鳴くと、住宅街の中へと消えていった。 その子猫たちが見えなくなった後、獄寺はハッと我に返った。
ヤベェ、バイト中!
腕時計を見るとちょうど混み合いそうな時間帯である。 伏島さん一人を残してこの長時間出てきてしまったことに後悔しながら急いでコンビニに戻ると、レジに店内を埋め尽くしてしまいそうな長蛇の列ができていた。 それを一人でさばこうとしている伏島さんは目を白黒させ、釣り銭を明らかに多く渡しているなどミスを連発している。
「伏島さん、すんません!!お次のお客様、こちらのレジへどうぞ!」
◇◇◇
やっと客をさばききった獄寺はそれなりに疲弊した顔をしていた。 伏島さんは今にも倒れそうだ。
「獄寺くん、これからはもっと早く帰ってきてね。 僕死んじゃうよ…」
今にも魂が抜けそうな伏島さんは悲壮感を漂わせていた。 獄寺は申し訳ないと思っていたが、先ほど会ったかわいらしい子猫たちのことが忘れられず、次のシフトからも廃棄のお弁当を子猫たちにあげるのはまた別のお話。
そして客足が途切れ、何もない時間がやってきた。 朝のピークの時間帯で飲料の棚はそれなりに空いてきている。 早めに補充しなければ昼のピークで買いに来た客が冷たい飲料を手に取ることができない。 それならばと獄寺は倉庫から飲料の箱を取ってきて、ペットボトルを棚につめ始めた。 左手に箱を持ち、右手で補充する。 その作業が終盤に差し掛かったとき後ろから声が聞こえた。
「ちょっと、君」
「あ?」
呼ばれたので振り向くと、そこにはなぜか雲雀恭弥が立っていた。 休日だがいつも通り並盛中の制服に風紀委員の腕章をつけ、ムスッとした顔でこちらを見ている。 雲雀が買い物をするイメージが無かった獄寺は、短絡的に喧嘩を吹っ掛けられたと判断してしまい、雲雀をギロッとにらみつける。
「ああ君、獄寺隼人か。 」
「なんだてめェ。 人のバイト先にまで来てヤル気か?あぁ?」
「じゃーヤル?」
仕込みトンファーをちらつかせて雲雀はニヤッと笑った。
やはりヤル気だ、コイツ!
獄寺は武器であるダイナマイトの着火剤にしている煙草をくわえた。
「獄寺くん!店内でタバコ吸わない!あと、お客様にガン飛ばさないで!」
伏島さんが遠くレジから叫ぶ声が耳に痛い。 そうだ、オレはバイト中だった。
「チッ…命拾いしたな」
「それは君の方だよ」
獄寺は不機嫌そうにタバコをしまい、雲雀もつまらなさそうな顔でトンファーをしまった。
「で、おまえここに一体何しに来たんだよ?」
「普通に買い物だよ。 何か問題ある?」
「いや、ねーけど…」
「じゃーのいてよ。 僕はそこにあるコーヒーが取りたいんだ」
雲雀が指さしたコーヒーはちょうど獄寺が補充していたコーヒーである。 それはすまなかったと内心思って、獄寺は横にのいた。 そのコーヒーは最上段にあった。 何年も前からある真っ赤なパッケージの缶コーヒーで、朝にはもってこいな名前がついている。
コンビニの棚は一般的に最上段が缶コーヒーとなっている。 それはペットボトルよりサイズが小さいため目立つようにという理由かもしれないし、はたまたコーヒーを買うのは身長が伸びきった大人が多いからという理由かもしれない。
このときまで雲雀恭弥は気が付いていなかった。 男だった前世の身長は男の中でもかなり高く、何よりも女である今世の身長はかなり低めだということに。
雲雀は前に進み出てドリンクケースの前に立った。
そのまま獄寺が見ていると、雲雀の身長(現状153cm)(シークレットブーツでかさ上げ済み)では、最上段にある缶コーヒーを取ろうとしても指先がかするばかりだった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……プッ」
獄寺がこらえきれずに吹き出してしまった。
「クハッハハハハ!!おまっ……届かねーのかよ!!おもしれっ…ヒャハハハッハッハッハ!ハ?」
それまで俯いていた雲雀があげた顔はいつもより不機嫌そうな顔、そのくらいだった。 ただし耳は真っ赤だった。 紫色の光が一瞬雲雀の目に瞬いたかと思うと、雲雀の仕込みトンファーを中心に紫色の火が噴きだして、コンビニ中の物がガタガタと揺れ出した。
「咬み殺す!!!」
雲雀が獄寺に向かって一歩踏み込んだかと思うと人外のスピードでトンファーをめった打ちで振り放ちそれが獄寺にことごとく当たった。 その間、わずか1秒。 ブチ切れた雲雀に獄寺は一瞬で咬み殺された。 そしてトンファーを放つたびに出る紫色の火はまたたくまにコンビニ中を埋め尽くし、すべての商品・備品を焼き払った。 しかし幸いにも獄寺以外の怪我人は出なかった。
「ちょっ、待、待…!僕のお店がぁーーーーっっっ!!」
獄寺の働くコンビニの店長・伏島の悲鳴が並盛中に響き渡ったという。