風紀委員長のパラレル奮闘記   作:まきびし

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ツナ達の文化祭!
読まなくても本編に支障ありません。


閑話2 執事 雲雀恭弥

 中学一年生の春。 笹川京子が文化祭委員になったのは4月の委員決めでのことだった。

 文化祭委員は他の図書委員、広報委員、体育委員、放送委員、美化委員、生徒会役員などのように1年を通して活動することはないが、その代わりに9月に行われる文化祭のため、その2・3か月前から始まる準備を取り仕切り、クラスの文化祭の出し物を成功へと導かなければならない、他の委員と比べて強いプレッシャーを感じる役職である。

 

 委員決めは新学期最初のの恒例行事であり、笹川京子が在籍する1-Aクラスでもその委員決めが行われたのだが、夏休み期間も準備を仕切るため強く時間を拘束される面倒さと人をまとめる難解さがあり、何よりまだ慣れていない中学生活の中、自分がクラスになじめるのかどうか分からないという状況で、責任感やリーダーシップや協調性が求められる文化委員をやりたいと思って手を挙げられる人はそういなかった。

 

 

 だが笹川京子は違った。 彼女はすこぶる人に優しく仲間想いであるから誰も手を挙げなければ率先して手をあげようとするし、何より彼女の天然さは文化委員のそのようなプレッシャーを歯牙にもかけなかった。

 そして彼女は気が付いていなかったが、人当たりの良い性格と可愛い容姿は、ごく自然に並盛中学校のアイドルたらしめたほどの高みにあるため、クラスを取りまとめる際に強い助力となる求心力を彼女は抜群に備えていた。

 そのため「文化委員になりたい人~」と担任の教師が問いかけた後の張りつめたような沈黙を破り、手を挙げた笹川京子に賛成する者はあれど反対する者など誰一人としていなかった。

 

 

 「文化祭委員って大変だって聞くよ~。 本当に大丈夫なの?」

 

 

 その日の帰り道、黒川花は不安げに笹川京子に問いかける。 しっかり者の黒川は笹川京子の性格も能力も把握しているが、その上で彼女の文化祭委員への立候補を不安視していた。 京子はとても柔軟な子だけどため込んでしまうようなもろいところもある。 京子はきっとうまく取りまとめるだろうけど起こる色んな問題を一人で抱え込んでしまうかもしれない。 やっぱりこの子に文化祭委員は荷が重そう、と心配する黒川であったが、京子は「大丈夫!」といつも通り明るい笑顔で返事をするのであった。

 

 客に対して金銭を要求する出し物か否かが、模擬店か常設展示の違いである。 模擬店の場合は客との間で何らかの物やサービスの売買が行われるが、常設展示の場合はその文化祭を盛り上げるため、悪く言えば引き立てる役割であるため、金銭のやり取りはほとんど行われない。

 そのため、お調子者や目立ちたがり屋が多い1-Aクラスが文化祭の主役である模擬店か引き立て役の常設展示のどちらを選ぶのかといえば、もちろん模擬店の方だった。

 

 そして模擬店の種類に議論が移る。 模擬店には客参加型・非参加型・中立型の3型があり、客参加型に代表されるのはお化け屋敷や迷路といった出し物だ。 これのメリットとしては集客の良さが挙げられる。 しかしデメリットとしては内装外装にかかる所要時間が長いこと、何より文化祭当日に裏方の仕事ばかりであることなどがある。 これは、目立ちたがり屋が多い1-Aでは却下された。

 

 次に、非参加型に代表されるのは演劇やダンス、合唱といった見世物系の出し物だ。 これのメリットは衣装代や内装・外装費用だけで事足りるため予算が低く抑えられることである。 しかしデメリットとしてはクラスの結束力や責任感が必須であるため、かなりまとまりのあるクラスでなければならないことが挙げられるだろう。 新入生というよりは3年生向けの出し物である。 そのため、まだクラスの結束力に自信がない1-Aではこれも却下された。

 

 そして残ったのは中立型の模擬店であり、飲食店に代表される。 メリットとしては準備期間が比較的短く済み、客とのコミュニケーションが取れることなどがあり、デメリットとしては文化祭で他クラスにも同様の飲食店が群雄割拠していることなどがある。 それゆえ激戦区となりやすく、いかに個性的で魅力的な模擬店にできるかが競争に勝つ最重要課題であった。

 

 

 1-Aでは、準備期間の短さと魅力的な模擬店を作り上げてそこで店員として個人が目立ちたいという欲望から、中立型の模擬店を出す事に決定する。

 

 そして争点となったのがその模擬店の内容である。 焼きそばやフランクフルトといった文化祭にありがちな調理販売の店にするか、カフェのような形で既製品をコップや皿に出して販売する小売販売の店にするか。

 

 ここでクラスは二つに分かれた。 自分たちがつくった食べ物を販売することにやりがいを感じる人と、カフェで店員としてカッコ良く・可愛く振る舞うことにやりがいを感じる人だ。 この論議は白熱していた。 しかし、途中で入ってきた担任の先生が「調理販売は3年生だけだぞ~」という言葉で水を差されてその白熱っぷりもむなしく鎮火。 調理販売という選択肢が消え、小売販売の店を選ぶ他なくなってしまった。

 

 

 小売販売の店と決まったとき、やはり出たのはメイドカフェか執事喫茶かという論争である。

 

 女の子に可愛い服を着て男子も女子も楽しむか、はたまた女の子に男前な服を着せてそのギャップの可愛らしさを男子も女子も楽しむか。 男子の頭の中ではその二択を迫られていた。 先ほどまで自分たちが目立ちたいと言っていた主張はどこへ雲隠れしたのかは分からない。

 

 だが、女の子の可愛いは正義。 男子の心はその点で一つであった。 そして一方の選択肢、「女子のメイド服」を想像したとき、男子の目線はつい教卓の後ろに立つ笹川京子にくぎ付けになる。

 

 

 クラスのみんながワイワイと話し合うのを可愛らしく微笑みながら聞いている笹川京子は誤って地上に降り立った天使かと見紛うほどの愛らしさ、可愛いらしさだ。

 

 笹川京子がメイド服で「おかえりなさいませ、ご主人様♪」と微笑む姿を想像するだけで男子は幸せな気持ちになった。

 

 

 そのとき。

 メイド服姿の笹川京子を想像してニヤニヤと笑っていた男子の一人の頭に、ものすごい勢いでチョークが投げつけられる。 黒川花が投げたチョークだった。

 

 「あんたらさぁ…、京子でなんか変な想像したでしょ?」

 

 黒川は鬼のような形相をしており、おっしゃる通りですという心持の男子は震えあがった。

 

 

 いやでも待て!諦めていいのか?

 笹川京子のメイド服だぞ!お前ら、それを拝みたくないのか!?

 

 

 男子の間で黒川に反抗しようとする気持ちが芽生えてくる。 そう、だって女の子の可愛いは正義。 笹川京子のメイド服は至高、異論は認めん。

 男子の心が一つとなり、誰かが立ち上がろうとした。

 だが黒川花にチョークを当てられた男子が突如すっくと立ちあがって、反論しようとした男子は立ち上がるタイミングを逃す。

 そしてチョークを当てられた男子は憑き物の落ちたような顔で、「執事喫茶が良いと思う」と一言。

 

 

 「おい、お前ふざけんな!」「許されると思ってんのかこのタコ!」「笹川京子のメイド服見たくないのか!!」

 

 

 様々な罵倒が浴びせかけられたが、チョークを当てられた男子はその意見を変えようとしない。

 

 そして黒川花にチョークを当てられた男子はポツリと言ったのだ。

 

 

 「黒川の執事服が見たい」

 

 

 全員の「え?」という声が聞こえるようだった。 全員が静まり返ったが、全員が頭の中に?を浮かべていた。 なぜここで黒川なんだ?

 黒川花は「へっ!?な、何言ってんの!?」と顔を真っ赤にした。

 

 

 「あっ、私もー!」

 

 

 先ほどまでのやりとりを不安げに見守っていた京子だったが、チョークを当てられた男子のその言葉に、ぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべて賛成した。

 その笑顔はまさに聖母のように神々しかった。

 

 その途端、俺も!私も!という声が教室中から響く。 頭が真っ白になっている黒川花を置き去りにして、1-Aの模擬店は、執事喫茶に決定した。

 

 

 

 

 そして衣装を手作りし内装外装を整え、いざ迎えた文化祭当日!

 

 

 「えっ、あーちゃんが熱でお休み!?」

 

 「そうなのよー!39.8度だって」

 

 「大丈夫かなぁ…」

 

 

 そんなやりとりをしていると、続けてなーちゃんもひーちゃんも高熱で休みという連絡が入る。 どうやらここ数日の追い込みと密室に閉じこもって作業した結果、風邪が蔓延してしまったらしい。

 

 

 「うわ、アカネもナツミもヒトミも12時~13時シフトの人だ!」

 

 

 不運にも風邪を引いた3人は、3人とも同じ時間帯に店員をやる予定だった。 京子が慌てて代わりを探そうとすると見かねたツナが京子に話しかけた。

 

 

 「京子ちゃん、オレ暇だし代わりやろうか?」

 

 「10代目がそうおっしゃるのならオレも」

 

 「んじゃーオレも!」

 

 

 ツナ、獄寺、山本が代わりを申し出てくれたのでほっとした京子は、「ありがとう!」と言って三人に笑いかけた。 照れたツナの顔が赤くなった。

 

 これで12時から13時までの人手は、私と花とツナ君と獄寺君、山本君の五人いる。 だから大丈夫!

 文化祭開催時間中の全シフトの人数の勘定を終えた京子はほっと胸をなでおろし、文化祭の開始時刻を迎えた。

 

 

 そして昼前に差し掛かったとき、黒川花が青い顔だったので京子が心配して話しかけたところ、黒川も夏風邪に罹っていたことが判明する。

 

 黒川は12時から13時までのシフトに入っており、かなり直前であるため代わりが見つからないかもしれない。

 

 だが黒川の体調が心配だった京子は黒川に帰ることをすすめて帰らせた。

 

 

  そして結局、その12時から13時までの間は京子・ツナ・獄寺・山本の4人で回すこととなった。

 

 

 そして迎えた12時は店が人でごった返していた。 お昼時と言うことで込み合う時間というだけではなく、12時前に体育館で閉会したライブステージの客が一気に校内になだれこみ、1-Aは一階にあるため、ライブステージ後の客達が突如としてどっと押し寄せてきたのだった。

 裏方のツナはパニックに陥っていた。

 

 

 「10代目!違います、この人のオーダーはコーラじゃなくてメロンソーダです!」

 

 「うわ、ごめん獄寺くん!」

 

 「明らかヤバそーだな。 大丈夫かツナ?」

 

 

 ひょいとバックヤードを覗き込んだ山本はツナがぐるぐると目を回しているのを見て、これはまずいと思った。

 

 一人裏方役をやっていたツナは飲み物や食べ物の盛り付けが追い付いていなかった。 次々来るオーダー表の順番を覚えきれなかったり、ナイフを落としてしまったりと、ツナが一人で裏方をするとどうなるかは正直本人でさえ想像がついたとは思うが、京子の前で良い恰好をしたいと思ったツナは一人で裏方の仕事を引き受けた結果、無理をして、このような事態になるまでやせ我慢していたのだった。

 

 

 「手を貸してくれ山本!」

 

 

 ツナのその言葉を聞いた山本が「助っ人呼んでくっからちょっとだけ待ってろ!」と言って店を飛び出した。

 

 

 そして呼んできた助っ人はツナも獄寺も、京子でさえも驚いた。

並中の風紀委員長であり不良の頂点であり、みんなから恐れられることはあっても助っ人などといって頼られることは毛頭無さそうな、孤高の浮雲 雲雀恭弥その人だった。

 

 

 「「雲雀さん!?」」

 

 「おい、野球バカ!これどういうことだよ!?なんで雲雀恭弥がここに!?」

 

 

 器用にもお盆を両腕に2枚ずつ載せてケーキを運んでいた獄寺は、山本に連れられて入ってきた雲雀を見て驚き、危うくケーキを落としそうになりながら山本に向かって叫んだ。

 

 

 「ま 細けーこと気になさんなって。 な、ヒバリ!」

 

 

 山本がポンと雲雀の頭に手を載せると、雲雀はピクリと眉根を寄せた。 そして雲雀は何も言わずに山本のすねを蹴り飛ばした。 弁慶の泣き所をピンポイントで蹴られた山本はしばらく悶絶していた。

 

 

 雲雀はいつも不機嫌そうではあるが、よくよく見るといつにも増して不機嫌そうだった。

 そんな雲雀は「今回だけだ」と小さくつぶやくと、いつも背中に羽織っている学ランを脱いで、黒川が抜けるときに置いていったネクタイとベストと前掛けを身に着けた。

 

 そしてその様子を内心ドキドキしながら見ていたツナの方を向くと、カッターシャツの両袖を捲くりながら、くいとあごを外に傾けて、ツナがバックヤードから出て行くように促した。

 

 

 「君と代わるから早く出てくれる」

 

 

 ツナは我に返ったのか慌てて「は、はいっ!」と言ってバックヤードからそそくさと出て行き、入れ違いで雲雀がそこに入って行った。

 

 

 雲雀が裏方になった後はみるみるうちに混み合いが解消され、事態は収束に向かったのだった。

 そして13時前になって交代のクラスメイトが到着すると、役目は終わったとばかりに雲雀は立ち去ろうとした。

 それを見た山本が慌てて呼び止めた。

 

 

 「おいおい!せっかく来てくれたのにそれで終わりか?最後にちょっと執事らしいことやってから帰れよ」

 

 「君は沢田綱吉の代理をすればチャラと言ったはずだけど」

 

 「まーま!いいじゃん!一回くらい。 な 頼むよ!シークレットブーツ、言いふらしてもいいんだな?」

 

 

 最後のほうは雲雀にだけ聞こえる声で囁き、それを聞いた雲雀はもはや目に殺意を宿している。

 

 勝ち誇ったようにニヤつく山本と、今にも山本を殺しそうな雲雀の視線が交錯して数秒。

  雲雀から漏れ出す殺気を感じて、客も店員も周囲の視線が全て二人に向けられていた。

 

 雲雀の血管がブチッと切れる音が聞こえた気がして、見ていたツナはひぃと小さく悲鳴をあげた。

山本が殺される!そう直感して間に入ろうか迷ったツナであったが、実際は雲雀が山本に危害を加えることは無かった。

 

 それどころか雲雀は獄寺が運んでいたティーカップを引ったくって、そしてオーダーした客のテーブルの前で立ち止まった。

 店員の顔がかなり不機嫌そうであるため、客の女性は不安げな表情を浮かべる。

 そんなことはお構い無しに雲雀はカップを机に置いて、「どうぞお嬢様」とそれはそれは不機嫌そうに言った。

 

 

 山本はそれを見て苦笑する。 ちょっとした遊び心だったけどお客さんビビらせちまった。 お客さんに悪いことしたな。 ただ店の印象悪くしただけか。

 

 

 山本がその女性客に謝罪しようと思い話しかけようとしたちょうどそのとき、雲雀の目線がつ、と入り口へと逸れる。

 すると間髪入れずに黄色い小鳥が教室の入り口から入ってきた。 小鳥が雲雀を見つけると、雲雀から漏れ出る殺気を少しも気にかけることなく、ふわりと雲雀の肩に降り立つ。

 そして可愛らしい鳴き声で小さく、ぴぃと鳴いた。

 

 それを見た山本は驚いた。

小鳥を見つけた雲雀から殺気を感じなくなったかと思うと、雲雀がまとっていた空気が和らいだのであった。

 雲雀は肩に乗るヒバードを見て目を細めると、ふ、と微笑んで小鳥を指でくすぐるように撫でた。

 

 雲雀に給仕された客の女性はそれを見て不安げな顔を一転させ、顔を真っ赤にさせていた。

 

 超がつくほど不機嫌そうな顔からの微笑みのギャップ。 そして鳥を愛でる美少年に、周りの女性客は感動していた。 男性客でさえその光景に何か神聖なものを感じていた。

 微笑む雲雀を見て、珍しいものが見られた…とツナと獄寺と山本はしばし茫然としていた。 微笑む雲雀を見た京子は条件反射的に顔を赤くしていた。

 

 そんな周囲の反応など全く眼中に無い雲雀は、衣装を元あった場所に戻して学ランを羽織ると、今度こそもう行くと言いたげにかなり足早にこの場を去っていった。 ツナ、獄寺、山本、京子は四人ともなんだかんだで惚けていたため、誰もそれを止めはしなかった。

 

 実は「黒川の執事服を見たい」という爆弾発言をした男子がちょうどそれらのことを見ていた。

 そしてまたもや爆弾発言をする。

 

 

 「雲雀さん可愛い」

 

 

 またこいつ何か言っているぞ、とツナと獄寺と山本は呆れ顔だったが、京子が笑顔で「そうだね!」とうなずいたから誰も何も言い出せずにいた。

 

 たしかに雲雀が給仕している姿は美少年執事を連想させ、鳥を愛でる姿はとても可愛らしいものだった。

性別でいうと中性的という言葉がよく当てはまる姿。

 

 雲雀の一連の行いは、周りの女性客全てが雲雀に一目惚れをする原因になると同時に、少し危ない何かに目覚めてしまうきっかけになったという。

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