風紀委員長のパラレル奮闘記   作:まきびし

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雲雀さんとイーピン
爆発は無しで(笑)
読まなくても本編に支障ありません。


閑話3 求道者 イーピン

 朝焼けに光る空、紅葉に色づく閑静な公園内で一人、風を切って拳を振るう者がいた。

見るものが見れば頭の先から足の先まで神経をとがらせていることが分かる。

そのたたずまいはごく自然ながらも敵と相対しているかのような空気をまとっている。

一瞬たりとも邪魔はさせない。

邪魔など許さない。

もし邪魔をした人はこの拳がその体を貫くと、そう思えてしまうくらいの殺気が公園中に充満している。

 

 彼女―――イーピンは殺し屋だった。

彼女の体は小さいが、その実「人間爆弾」と呼ばれて恐れられるほどの実力を持っている。

幼いながらもその成長性に大きな期待が寄せられているマフィア界の期待の新人。

香港出身の彼女が日本に来たのは、未熟な己を鍛錬するためだ。

彼女が持っている未熟さとは、自らの殺し屋としての能力をコントロールできないことが専らである。 だが、その一方で彼女は人としての弱さも抱えていた。

彼女は知らず知らずのうちに「人の温もり」を求めている。

だが、彼女はそれを求めることを是とはしなかった。

殺し屋はどんな情にも流されず冷徹であるべきだからだ。

 

 彼女が「冷徹さを得ること」を自らの課題として認識したのは、彼女が受けた初めての依頼のことだった。

それは、資産家の老人夫婦を殺せという依頼だった。

その夫婦に後ろ盾も無ければ、その夫婦自身に力も無い。

ごく簡単な仕事だった。

 

 だが、彼女にはその夫婦を殺せなかった。

寝静まったころに家に侵入して寝首を掻こうとしたが、その夫婦を目の前にしてどうしてもあと一歩を踏み出せなかった。

日を改めて何度も挑戦するも結局、最後の最後で踏み切ることができなかった。

最終的にはいつまでたっても殺しを達成しないことにしびれを切らした依頼人がイーピンを首にした。

なぜ殺すことができなかったのか。

それは標的に両親の姿が重なって見えて情が沸いてしまったことが原因だった。

 

 そのような自分を戒めるため、彼女は日本にやって来た。

全ての人との関係を捨て去り、孤独になることこそが、情を捨て、冷徹さを備えた殺し屋となるために必要だと彼女は考えた。

彼女は、孤独が自身を強くすると信じて疑わなかった。 真の強さとは、孤独が生み出すものなのだと。

 

 イーピンの拳は木からの落ちてくる枯れ葉を正確に捕らえ、枯れ葉は拳との接触と同時に粉々になる。

秋の風を切り、落ち葉を砕く。

繰り返す事1061回目、それは起こった。

最高潮に達した自身の殺気をものともせずに、誰かが公園内に侵入してきた。

精神統一を邪魔されたことに多少のいら立ちを感じて横目で確認したソレは、散歩中の老人夫婦だった。

思い起こされるのは、初めての依頼の、初めての失敗。

彼女はたまらず目を背けた。

自身の失敗の記憶がフラッシュバックして途端に心がずんと重く感じた。

 

 すると突然、その夫に異変が起きた。

胸を抱えて苦しんでいる。

しわくちゃの顔をこわばらせ、唇は紫色に変色していた。

ただならぬ状況にあるのは間違いなかった。

その妻は夫の身の危険を察して、蒼白な顔で夫の名前を呼び続けている。

 

 イーピンはその夫を助けるべきだと心では思っていた。

だが真の強さを手に入れるために自らに課した制約はどうなる?

この老人は全くの赤の他人。

人助けをすることで人との繋がりができれば、自分はまた弱くなってしまう。

弱さを捨てるために日本に来たのにまた弱くなって帰ってきたら本当に笑い種だ。

だから誰か他の人が助けてくれることを期待してこの場を離れよう。

 

 しかしイーピンはその場から動くことが出来なかった。

早朝であったため公園内はがらんとしていて人気が無い。

自分が助けなければこの老人夫は死ぬだろう。

そしてそこの老人妻は先立たれた夫に思いを馳せて一人夜に枕を濡らすことになるだろう。

 

 想像しただけで胸が苦しくなる。

吐き気がする。 呼吸がおかしくなる。

 

 人を助けタイ助ケタイ助けてはならナイ助けてはならズ、制約を破ることダカラ許されなイの だから、

 

 血が逆流しそうなほどイーピンは葛藤する。

 

 

 そんなイーピンの目の前に、学生服を肩だけで羽織った黒髪の少年が忽然と現れた。

 

 イーピンは突然現れた少年の顔を見て呆気にとられた。

 

 (お師匠様…?)

 

 涼し気な目がイーピンの顔を一瞬捉えたあと、少年は倒れた老人に近づいて、救命措置を始めた。

今よりずっと幼いころに別れたきり一度も会っていなかった師匠。

久しぶりに再会して見たその顔は記憶にあるよりもなぜかずっと幼くて、心なしか…いや間違いなく不機嫌そうな顔をしていた。

 

 

 

「ねえ、僕の声が聞こえる?」

 

 

 

 少年は倒れた老人に覆いかぶさるようにして、肩を軽く叩きながら話しかけている。

その声は至極冷静だった。

 応答が無いことを確認すると、少年は立ち尽くしていたイーピンを視線で射貫いた。

 

 目の前の少年が敬愛する師匠が何らかの原因で若返った姿なのか、それとも顔が似た赤の他人か、それとも親類の人なのか、などという憶測で頭がいっぱいになっていたイーピンだったが、黒髪の少年に見つめられた瞬間、電撃が走るような衝撃を受けた。

 

 少年の他人を見るような視線で、この人は師匠じゃないと悟ると同時に、この少年の目に宿る意志の強さに圧倒される。

 

 この人、お師匠様よりも強い…!

 

気づいた瞬間に体が硬直し、冷や汗が全身からブワッと吹き出した。

まるで自分がヘビに睨まれたカエルになったような気分だった。

なんだ、なんなんだ、この人は。

この少年の姿から一体どうやったら歴戦の戦人のようなこの気迫が生まれる?

一体どんな経験をすればここまで辿り着ける?

一体、何者。

 

 時間にして一瞬、イーピンにとっては数秒のように感じられた視線の交錯は、少年が口火を切ったことで打ち切られた。

 

 

 「救急車、呼んでくれる?」

 

 

 その有無を言わさぬ物言いに、イーピンはこくこくと頷く。

それを見た少年は頼むよ、と言って、心臓マッサージを始めた。

心臓マッサージをしながら老人妻にも何やら指示を出していた。

視線の圧迫から解放されたイーピンは弾けるように駆け出して、近くの公衆電話機に飛びつき、カタコトの日本語で救助を要請した。

 

 イーピンは元々人助けが大好きだった。

しかし人助けは殺しと対極にある概念であり、まして情に流されることで一度依頼を失敗させた身では最も避けるべきことだった。

しかし目の前の師匠似の少年は、人を一瞬で殺してしまえそうな覚悟を目に宿しながらも人に対する優しさを持っている。

心の底から感服してしまいそうな気持ちをイーピンはこの少年に感じていた。

 

 拙い日本語ながらも救急車を呼ぶことができ、ほっと一息ついた。

少年はそのまま心臓マッサージを続けている。

老人妻はどこかへ行ってしまっているようだ。

おそらく心肺蘇生機械を取りに行っているのだろう。

イーピンは他に何かできることがないかを考えながら少年の横顔を見ていた。

額に汗を浮かべながら懸命に救助を続けている。

イーピンはこの少年のようになりたいと思った。

 

 

 人を殺せる覚悟と、人を助ける優しさを兼ね備えた人になりたい。

 

 

 この日の出来事はイーピンの「孤独が人を強くする」という考え方を一変させた。

老人夫は病院に運ばれ、一命をとりとめた。

後日老人妻に呼ばれて会ったとき、老人妻はイーピンの手を強く握りしめて感謝の言葉を繰り返した。

一言では伝えきれないとでも言わんばかりに何度も何度も謝辞を述べた。

 

 

 「あなたたちのおかげで私たちはこれからも共に人生の旅路を歩めるのです」

 

 

 老人妻は目に涙を浮かべながら熱を込めた言葉をイーピンに投げかけた。

老人妻はそういえば、と言ってもう一人の彼のことを語り始める。

 

 そしてイーピンは少年の正体をついに知るのであった。

 

 

 並盛中学校風紀委員長、雲雀恭弥。

 

 

 雲雀恭弥というあの黒髪の少年は、この並盛町の風紀を守り続けているらしい。

 

 あの少年はなぜ、ああも強いのか。

 カタコトの日本語で老人妻に尋ねると、思慮深そうな瞳の老人妻は少し考えた後、話してくれた。

 

 人を殺すにせよ、救うにせよ、どちらも相応の覚悟が必要だ。

風紀を守るために人を傷つけることもあれば、人を助けることもある。

それは表裏一体のことで、あの雲雀恭弥という少年はその両方を渡り歩く覚悟を持っている。 

だから本当に強いのだ、と。

 

 

 それを聞いた瞬間、イーピンの頭の中の霧がすっと晴れた。

イーピンは「真の強さ」の答えに辿りついたことを確信する。

 

 「真の強さ」とは、覚悟だ。

失うものがある中でも失っていないものを必ず守り抜こうとする覚悟。

そのために人を傷つける覚悟。

 

 自分が本当にしなければならなかったことは、自分が誰か何かを守るために傷つけてしまうことも辞さない覚悟をすることだったんだ。

 

 自分は、人助けがしたい。

そのための手段として殺し屋という自分を使う。

イーピンはこの信念を貫くことを心に誓った。

 

 

 

 朝焼けに光る空、紅葉に色づく閑静な公園内で一人、風を切って拳を振るう者がいた。

見るものが見れば頭の先から足の先まで極度に神経をとがらせていることが分かる。

そのたたずまいはごく自然ながら、まるで敵と相対しているかのように張りつめた空気をまとっている。

一瞬たりとも邪魔はさせない。

邪魔など許さない。

もし邪魔をした人はこの拳がその体を貫くと、そう思えてしまうくらいの殺気が公園中に充満している。

 

 イーピンの拳は木からの落ちてくる枯れ葉を正確に捕らえ、枯れ葉は拳との接触と同時に粉々になる。 秋の風を切り、落ち葉を砕く。

繰り返す事1061回目、それは起こった。

 

 最高潮に達した自身の殺気をものともしない誰かが、何食わぬ顔で公園内を横切りイーピンの前を通り過ぎる直前、顔が少しイーピンの方を向いて、視線が交錯した。

 

 少年の不機嫌そうな顔が一瞬和らいで、ふ、と笑みがこぼれた気がした。

 

 

「今後の成長が楽しみだよ」

 

 

 イーピンは、そのまま通り過ぎて行った雲雀恭弥の背中を視線で追い続けた。

イーピンは初めに出会った瞬間に、雲雀に恋に落ちていた。

だが幼い彼女にはまだそれが分からない。

ここからもうすぐイーピンは人助けのために町へ繰り出し、その最中に沢田綱吉と出会う。

イーピンが雲雀に恋に落ちていると知ったツナが、雲雀がイーピンと同性だということを口に出そうとしてリボーンにしばかれるのは、また、別のお話。

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