残酷な描写注意です。
(入江正一side)
僕は無我夢中で走って、いつの間にか過去…僕の今、現実に戻っていた。
なぜ白蘭さんは他の世界での僕のことを知っているんだ!?
彼は一体何者なんだ。
入江正一は震える手でPCの電源にスイッチを入れた。
僕は彼のことを知らなければならない。
彼は僕のことをなぜか異なる未来でも知っていた…。
PCが立ち上がると、未来へ行ったときの情報をまとめたUSBフラッシュメモリーを差し込み口に差し込んだ。
「!」
入江が気付いたときにはすでに遅かった。
『ダウンロードが完了しました』
そういう文字が出現したと思うと、何やら大量のデータが僕のUSBから放出されたようだった。
ちょっ…、あっ、ちょっと待って!!!この未来の情報を誰にも知られるわけにはいかないのに、気が動転していてオンラインのPCで立ち上げてしまった。 しかもなぜか分からないけど挿した瞬間にダウンロードされ、どこかに転送されたようだった。
ヤバイヤバイヤバイ!!
僕はもしかしたら何かとんでもないことをしてしまっているのかもしれない。
もちろん今に始まった話ではないけど…でも何か決定打となるものを僕が今やってしまった気がする。
真っ青になりながらも入江正一は今のデータの転送先を割り出そうと四苦八苦する。
そして転送先は5分ほどで判明した。
だが、そのサーバー管理者を特定してパスワードを手に入れなければその管理者が誰なのかが分からない。
そして丸一日かけてクラッキングし、パスワードを手に入れることができた。 震える手でそれを打ち込んだ。
見たいような、見たくないような。 だがこれは僕しか知らないことで、僕にしかできないことなんだ。
ええと、この、データの転送先の名前は…
確認したところ英語圏の人に送られたようだった。
その人のメールのログを読んでいく。
1日で膨大な量のメールがやりとりされていた。
はたと目が留まる。
『Future report』
そう題名が冠されたタブを吐きそうになりながらクリックする。
これを見たら確実に僕は…。
それは、僕が未来で体験したことをつづった日記の英語訳だった。
やってしまった…僕は未来のことを何かよく分からない人に教えてしまった。
さらにスクロールさせていくと他のメールには、殺人の依頼、違法薬物の取引、各国スパイの現状、国家クーデタの企画書まである。
僕には荷が重すぎるものばかりが載っていた。
僕は超危険な人物に未来の情報を渡してしまった。
僕は…なんてことを。
僕は衝動的に三度目のバズーカを使った。
そして訪れた未来では世界は荒廃し戦争で焼け野原となっていた。
近くに落ちていた端末から流れてくるのはこの戦争を起こし世界征服を成し遂げた白蘭という独裁者の演説だけだった。
そう、僕が未来で出会った銀髪の男の顔だ。
そして5分後、現実に戻ってきた僕は頭を抱えた。
頭痛と胃痛がする。
動揺して息ができない。
僕が傲慢にも自分の都合でタイムトラベルをしてしまったから、こんなことになってしまったんだ。
ちくしょう。 ちくしょう!
未来を世界が混沌に向かうのを止めなければならない。
僕は一人で戦うしかない。
僕は必ず世界を元に戻さなければいけない。
白蘭という男が支配する未来を無かったことにするんだ。
今後の動きについて必死に思考をめぐらせていた入江正一は、背後からの奇襲に気が付かなかった。
「ガッ!?」
頭を棒のようなもので殴られた入江正一は下にあったキーボードに顔面から叩きつけられる。
痛さと流れてくる血で目がくらみながらも振り向くと、そこには獰猛な肉食獣のような目をした男が立っていた。
棒だと思った物はトンファーだった。
「君は入江正一だよね? ま、どちらにせよただではおかないけど」
パソコンの画面をくいと顎で指した彼はそう言うと、僕に何度もトンファーを振るった。
訳が分からなかった。
なぜ見知らぬ人からこんなにも暴力を受けなければならないんだ。
「やめてくれ! 僕が何をしたって言うんだ!!!」
「君は何もしていないよ。 ただ君は将来僕の並盛の風紀を乱すからね」
「将来だって!?」
将来という単語から推測するに、この男は未来の情報を何らかの形で持っているのかもしれない。
「そうだよ。 だから君はここで死ぬんだ」
「待って!!君は何を知っている?」
「さあ…」
その口ぶりは知らないようには思えない。
何より僕を見るその目は殺意に溢れていた。
このままでは殺される。
生きて僕が未来を変えなければ未来は終わってしまう!
そう思った入江正一は、決死の行動に出た。
床に敷いてあったマットを急に引っ張って雲雀の姿勢を崩し、そしてパソコンデスクの下から取り出しておいた拳銃を、よろめいた雲雀に向かって打ち込んだ。
銃口を見た途端、雲雀の目が少し見開かれた。
そして発砲音が鳴ったと思うと雲雀の腹部が真っ赤な血で染まり、雲雀が倒れた。
「悪く思わないでくれ…!僕は未来を変えたかった…」
入江は拳銃を握る手と喋る唇を震わせながらささやくように言った。
だが入江が驚いたのは、撃たれてもなお雲雀が動こうとしたことだった。 ボヴィーノおわび詰め合わせセットの箱をリュックに詰め、全財産を持って立ち去ろうとした入江の足首を雲雀が掴んだ。
地面に這いつくばりながらも入江を見上げるその目の意志の強さは、全く死にかけのようには思えなかった。
しかし実際は雲雀の呼吸は荒く、つむぎだした声はとても小さくかすれており、死が目前に控えていることを示していた。
「世界を敵に回すな、入江。 白蘭の…」
言葉を最後まで言い終わらないまま血を吐きだした雲雀は何度か痙攣すると、足首を掴む手の力が緩み、支えを失って頭が床に打ち付けられた。 雲雀はそのまま動かなくなった。
入江が首元に手をやると、脈はもう非常に弱く小さかった。
このまま放っておいたら数分と経たずに死ぬだろう。 それより、早く逃げなければ警察が来て僕は捕まってしまう。
だが、最後に一つだけ。
入江正一は雲雀のポケットから財布を取り出して学生証の名前を確認した。
『雲雀恭弥』
部屋の外に出ようとした入江は、最後にもう一度雲雀の方を振り返る。
その獰猛さとは裏腹に、倒れ伏している雲雀はとても小さく感じた。
◆
(雲雀恭弥side)
人は変化するものだと、僕はこれまでの経験から知っている。
確かに、入江正一は未来の危険因子だ。
しかし、子ども時代の無垢な彼を殺してしまってもいいのか?
今の彼に何も罪はないのに。
深夜2時。
今、入江正一の住民票のコピーを手にしている。
そして彼の住む家は今、目の前にある。
愛用のトンファーは懐に忍ばせてあるし、草壁に人払いも頼んである。
彼を殺す準備は万端。
あとは僕自身の気持ちの整理がつけば事は終わるだろう。
雲雀は目を閉じてかつて自分がいた未来を回想する。
「雲雀さんを真似して、俺もトンファー持ってみました! コツとかありませんか?」
「ここはいずれ戦場になります。 私は、雲雀様に生き抜いて欲しい。ここは、私が食い止めます。 さあ、行って下さい!」
「殺せ…白蘭を…必ず、お前の手で! お前なら未来を変えられる…!」
ここまでに背負ってきたものの重さを思い出した。
僕は今、仲間達の犠牲の上に立っている。
何としても白蘭を倒して平和な未来を実現する。
並盛町を戦火の渦から今度こそ守ってみせる。
目の前で死んでいった大勢の仲間たち。
そして、最愛の…。
入江正一はやはり殺さなければならない。
例え今の彼に罪は無くても未来で犯す罪が重すぎる。
雲雀は鮮やかな手際で入江正一の家のドアのピッキングを終え、静かに扉を開けた。真っ暗な廊下が目の前に伸びて、視界の左端には階段が見える。
階段を上り、入江正一の部屋の前に来た。
寝ているのか、とても静かだ。
雲雀が気配を伺いながらドアノブに触れようとしたとき、中から大きな物音がした。
「!?」
警戒して半歩身を引いたがドアが開くことは無かった。
代わりに聞こえてきたのは、激しく咳をする音や、苦しそうな息遣い。
喘息持ちか?
だけど、好機。女の体では万が一の反撃にも対応できないかもしれないし、卑怯だとは思うけど、弱っているところを始末する!
トンファーを素早く装備してドアを静かに開け、部屋の中央、パソコンの前で膝をついてうずくまっていた人物の頭にトンファーを叩きこむ。
ああ、一撃が相当に弱い。
雲雀は自分の身体能力の低さに歯がゆさ感じた。
トンファーで殴った人物の顔は暗くてよく見えないが、眼鏡が一瞬光って、こちらを見ていることがうかがい知れた。
その人物の奥にあるパソコンには、殺人、薬物、スパイ、クーデタなどいかにもな内容が画面にびっしりと書き込まれている。
へえ…。 彼は昔から相当頭が切れると聞いていたけど、もうこの時から黒だったとはね。
怒りがふつふつと沸いて来る。
駄目だ。 怒りを抑えろ。 若すぎる自分に叱咤する。 どんな時でも冷静さを失うなと。
「君は入江正一だよね? ま、どちらにせよただではおかないけど」
言い終わらない内に何度もトンファーを叩きこむ。 この一撃の弱さは想定外だった。 決めきれない自分に腹が立ってきて、自分の動きが雑になっているのを感じる。
「や、やめてくれ! 僕が何をしたって言うんだ!!!」
見かけよりも頑丈らしく、僕の攻撃を食らってもまだ声に力を失っていない。
小さく舌打ちをした。
「君は何もしていないよ。 ただ君は将来僕の並盛の風紀を乱すからね」
「将来だって!?」
声が突然動揺したことを感じた。
なるほど、すでに白蘭と手を組んでいるとみて良いか。
じゃあ、咬み殺すしかないね?
雲雀のいら立ちは最高潮だった。
弱い自分、倒れない敵、白蘭の手先、仲間のかたき。
それゆえに気がつかなかった。
最も自分が油断するタイミングを相手が窺っていることに。
「そうだよ。 だから君はここで死ぬんだ」
「待って!! 君は何を知っている?」
「さあ…」
トンファーでは埒が明かない。
隠しナイフで彼の頸動脈を切り、蹴りを付けよう。
そう思って懐に手を伸ばした瞬間、入江正一の影が急に動いて、足元をすくわれた。
「!!」
入江正一の影から、パンと軽い音がしてすぐに、腹部に激痛が走った。
間違いなく体に穴が開いている。
冷静に状況を見て、雲雀はああ、やられたと思った。
目の前には敵、手には拳銃、撃たれてコントロールが効かなくなってしまった僕の体。
そのままぐしゃりと地面に倒れる。
クソ、動け。 動け…!
こんなに弱くなってしまった自分にイラついてたまらなかった。
血が逆流して口からあふれ出る。
敵が目の前にいるのに動けない自分がイラつく。
入江正一はすでに立ち去ろうとしていた。
たまらず、その足首を掴み、入江正一の顔をにらむ。
一瞬だけその表情が見えた。
その顔は本当におびえた子どもの顔をしていて、本当に一瞬毒気を抜かれてしまった。
この幼い少年が本当に世界を地獄に変える歯車になるのか…?
雲雀の心に今更になってまた迷いが生じる。
このまま僕が死ぬのだとしても、最後に言葉をかけておきたい。
もしかしたら僕の言葉が彼を凶行から遠ざけるかもしれないという一縷の望みにかけて。
「世界を敵に回すな、入江。 白蘭の…」
元へ行くな。
言い終えよろうとした矢先、猛烈な吐き気を感じて吐血する。
クソ、体がもう持たない。
頭が朦朧とする。
入江正一が近づいてきて、僕の首元に手をそえたことを感じた。
とどめを刺されたように感じた。
意識が遠のいていって、僕にはそれがどこか懐かしいものに思えた。
◇◇◇
「…さん! 雲雀さん! あと少しです、死なないでください…雲雀さん!」
必死な声が聞こえた気がした。
薄く目を開けると誰かの背中に背負われて移動しているのだと分かった。
この背中は知っている。
「…くさかべ」
「雲雀さん! あと少しで病院です。 だから耐えて下さい!」
「…」
声を出す気力がもうほとんど残っていなかった。
だが声を絞り出した。
「降ろせ」
「っな!? この状況で何言っているんですか!? 今の状況、分かっていますか?」
「撃たれて、死にかけ」
「そうです。 素直に運ばれて下さい」
「…」
「雲雀さん? …ひばりさ…」
腹部に激痛が走り、瞬間、草壁の声が遠のいていく。
もし、もし次に目が覚めたら、草壁を咬み殺そう。
ああ、本当に。
…