多少のグロ注意です。
※4/27 23:42 加筆修正しました
入江正一は公園の公衆トイレで着替えていた。
先ほど雲雀恭弥を撃ったときに返り血を浴びたためだ。
ランボが家の壁を壊して入ってきたあの日から、僕の人生は敷かれたレールから大きく逸脱してしまった。
最初は非日常だと本当にワクワクした。
だけどこうして自分のところに刺客が現れて殺されかけたり、正当防衛とはいえ人殺しをしたり、こんな物騒な未来は全く望んではいなかった。
もしあの赤子さえ家を訪れなければと、僕は何度思ったことだろう。
ただ、矛盾しているが、僕は未来で白蘭さんに出会えたことだけは後悔したくなかった。
たとえ未来を真っ黒に塗り潰した張本人だとしても、その裏には何か理由があるはず。
そう考えてしまうくらい、あのたった数時間で、僕は白蘭さんを友人として好きになってしまっていたんだ。
それにしても、疲れた…。
今は深夜の2時であり普段ならとうに就寝している時間だった。
服を着た後、壁にもたれかかったままずるずると座り込んだ正一は、そのまま眠り込んでしまった。
はっと気が付くとすでに日が頂上まで登っていて、ちょうど時間は昼の12時だった。
そのままぼうっとして昼の空を見上げていた。
空を自由に飛ぶ鳥を見て、一瞬、このまま世界から消えてしまいたいと思っていた自分に気がつく。
ダメだ、ダメだ。
正一はかぶりを振って雑念を振り払った。
そこで正一ははたと気が付く。
雲雀恭弥が死んだということは世間が知っているのだろうか?
その、犯人については?
これから白蘭さんによる未来の支配を食い止めるために奔走することになる。
そのために雲雀恭弥の痕跡をたどる必要がある。
すでに死んだ彼の足跡を辿るためにはどうしても彼を知る人と話す必要があるし、もし僕が彼を殺したとバレていたら、絶対話してくれないしむしろ敵対するだろう。
早急に調べなければ。
正一はパソコンを取り出すと警察のデータベースへアクセスした。
事件の記録を閲覧していくが、該当するものは無さそうだ。
これは一体どういうことだろう?
正一は以前からお世話になっていたる情報屋にコンタクトを取ろうとして、電源を切っていた携帯電話の電源を入れた。
この情報屋との出会いは小学生のときに遡る。
愛用の自転車が盗みにあってしまい、途方に暮れていた時、友人から紹介を受けた。
『並森町の中の出来事であれば何でも相談に乗り解決に導きます』
というのが謳い文句で、その言葉の通り、電話で相談したら自転車のありかをすぐに割り出してくれた。
変声機ごしに聞く声は男女の性別が不明だが、何となく雰囲気的に女性と検討をつけている。
紹介してくれた友人によれば、おそらく腕利きの私立探偵だろうとのことだった。
便宜上、その電話の主は『ミネルバ』と呼ばれている。
正一が携帯電話の電源を入れた瞬間、けたたましく着信音が鳴り響いた。
母親からの電話だった。
正一は心臓がバクバクと激しく打つのを感じながら、意を決して携帯の通話ボタンを押した。
「はい、もしもし」
「正ちゃん!一体どこ行っているの!?何度電話をかけても繋がらないし、心配したのよ、もう。 」
いきなり大音量で聞こえた母親の声につい耳から携帯を遠ざけた。
「そんなに大きな声でしゃべらなくても聞こえているよ…」
「またそんなこと言って!
正ちゃんの部屋で花火みたいな音がしたと思ったらいなくなっていたし…。
今日学校あるのにどうしたの?
何で家出したの?何かあったの?」
矢継ぎ早に母親が質問を投げかけてくる。
あれ? 雲雀恭弥の話が出ない。
僕の部屋で彼は死んでいたはずなのに、母親はそれに何一つ気が付いた様子がない。
発砲音も花火の音だと思っているなんていつも通り能天気な…。
正一はついため息をつきそうになった。
雲雀恭弥の協力者、風紀委員会の連中が、彼を運んだのかな。
こうなると、彼の生死が分からなくなってしまった。弱ったな…。
正一はここで自分がすべきことを思い出した。
「母さん?聞いて。 僕、しばらく家には戻らないよ」
母親が息を飲む音が聞こえた。
「えっ…そんな、どうして?何か学校で悪いことあった?それともお家にいづらくなった?」
「僕が家族と一緒に住んでいたら母さんたちが危ないんだ。 だから…ごめん!絶対帰るから!!捜索願いは絶対出さないで!僕を信じて!愛してるよ、母さん」
「ちょっ…!正ちゃ」
母親の返事を待つことなく電話を切ると、関節部分を逆向きにへし折って携帯電話を破壊した。
今後自分に何が起こるか全く分からない。
だからこそ、母親の声を聞くのはもしかしたらこれで最後かもしれない。
そう思うと、正一は途端に悲しくなってすすり泣いた。
気が済むまで泣くと、正一は涙をぬぐって立ち上がった。
僕が動かないと未来は何も変わらない。
変えて、平和な未来を取り戻す!
そのためにはまず、雲雀恭弥の調査だ。
僕の未来知識と彼にどのような関係があるのかを彼の足跡をたどることで割り出す。
ふと握り締めた携帯電話を見て、正一はあることに気がつく。
「間違って電話折っちゃって、ミネルバの電話番号分からないや…」
ミネルバの電話番号がアドレス帳に入っていることを正一はうっかり忘れていた。
こうなったら、並盛中学校に潜入して情報収集をするしかない。
奮起した入江は並盛中学校への転学のため、退学手続きをしようと母校に電話をかけた。
持病の悪化により地元の中学校に通いたいという理由にしたら、医師の診断表を持ってこいだの言われたので、後日郵送で送りますと言って、そのまま電話を切ってしまった。
偽の診察書か…。
それならば日陰者の治療を専門にしている闇医者に頼もう。
友人が教えてくれたけど、確か、今並森町にはDr.シャマルという闇医者がいるんだっけ?
さて、情報収集をするにせよ、偽の診断書を書いてもらうにせよ、何にせよ重要なのは資金集めだ。
好都合なことに、僕の頭の中には今後10年間の宝くじの当選番号がある。
実は、タイムトラベル中に白蘭さんのタブレット端末から当選番号を検索して全て暗記してしまっていた。
これを当てれば資金は手に入る。
だがそのために1等宝くじの当選なんて、目立ちすぎるし、さすがにできない。
だから、低額の宝くじをたくさん買ってたくさん儲けようと思う。
正一は通帳を見て、全財産の額面を確認する。 30万円…これが僕の元手だ。
これを全て宝くじ購入に当てても良いが、もう少し増やしても罰は当たらないだろう。
正一は意地悪くニヤリと笑った。
◇◇◇
店でパーカーとジーンズを購入。 着用したまま店を出る。その後、付け髭を購入し、メイク道具も買って、近くの公衆トイレの中で、シミやシワをつくり、できる限り「老け顔」を演出する。
正一は自分の変装のある程度の出来に満足すると、あろうことか、賭博場に入っていった。
拙い変装だと本人も自覚していたが、警備員はちらっと正一を見るくらいで、呼び止められはしなかった。
そしてパチンコ台の前に座っては回し、そして他の台に座っては回し、を繰り返した。
その間、正一は何らかの数式を延々とノートに書き出し続けた。
店の台を一周した後、ただ一つの台の前で正一は延々と回し続ける。
すると、すぐさま台の中央の画面に777の値が表示され、きらびやかな装飾の点滅とにぎやかな音と共に、じゃらじゃらと玉が放出された。
周りの客がうらやましそうに正一の方を見ていた。
正一はそそくさとその玉を回収し、次の台に移動して当たり目を引き続ける。
それを何度も繰り返した。
どの台で打っても、必ず大当たり。
そのとてつもない強運に、周りの客はびっくりして正一にくぎ付けになっていた。
そろそろ何か言われそうだから退散しよう、と思い正一は玉を換金し、逃げ出すように賭博場を後にした。
正一は元いた公衆トイレに戻ると、ふうと息を吐いて付け髭等やメイクを落とした。
種明かしをすると、いや、これは種でも何でもない。 彼はただ確率を計算しただけだった。
台を回しその規則性と当たり目の関係を確率で表し、その賭博場のすべての台の確率を計算し台に当たりやすさのランク付けを行った。
それの上位5つを回し続けたというただそれだけだ。
なぜこのような芸当ができたかというと、正一は数学が人よりもでき、なおかつ彼の中学の友人から賭博場は確率と統計で攻略できるという話を一度聞いていたため、それを実践したのだった。
そして店舗を変えながら賭博場攻略を一日中行った結果、正一の全財産は30万円から320万円とほとんど11倍に膨れ上がった。
そしてその晩、正一は稼いだ金で成人男性の戸籍と偽造パスポートを購入した。
雲雀恭弥の強襲、賭博場の攻略、身分の購入…多くのことをやって心身ともに疲れがたまっていた正一は、シャワーと寝床を確保するため、ネットカフェに来店した。
近所のさびれたネットカフェで出迎えてくれたのは生気の無さそうな店員だった。
その店員はありがたいことに正一の顔を一瞥することもなく会員登録を済ませてくれて、シャワーを浴びエアコンの利いた部屋で寝ることができた。
正一はその晩、雲雀恭弥を拳銃で撃つ夢を見た。
殺してもなお彼が僕の足首を離さず、頭を撃っても首を撃っても手を撃っても、胴体を撃っても足を撃ってもどこを撃っても彼は僕の足首を手を離さず、恨みのこもった目で下から僕を睨み続ける。
僕は「未来のためだ」と言って、彼にひたすら弾丸を撃ち込み続ける。
そして拳銃の中の玉が無くなったとき、僕は足元からふっと何もない真っ暗な空間に落ちていき、そこで目が覚めた。
正一はカタカタと震えながら、荒れていた息が落ち着くまで待った。
分かっていながらも、正一は運命の重さと急に訪れた心細さに、つい涙が出てきてしまった。
一人がこんなにも寂しいものとは知らなかった。
僕は一人で何でもできるって思っていた。
だけど、本当は一人で成し遂げられることなんて無いのかもしれない。
それでも、世界の運命を変えられるのは僕しかいないから。
白蘭さんのことが思い浮かぶ。
彼は僕の未来の親友なんだ。
世界を救うためにも、彼を正しい道に導くためにも、僕は白蘭さんに会いたい。
そこでふと、雲雀恭弥のことが頭をよぎる。
彼は未来のことを知っているような口ぶりだった。
『世界を敵に回すな、入江正一。白蘭の…』
冷静になってみるとつまり、彼は世界の味方?
世界って何?
君が言っていた世界は良いもの?それとも悪いもの?
正一には分からなかった。
彼は正義を掲げて行動しているにもかかわらず、彼は正義とは何かを鮮明に持っているわけではなかった。
(もし雲雀恭弥が自分を殺しにくるのではなく味方になりに来てくれていたら、どれだけ嬉しいことだっただろう)
店舗の扉を出て見た朝焼けの空が美しすぎて、正一はまた一人、泣いてしまった。