風紀委員長のパラレル奮闘記   作:まきびし

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正ちゃんが宝くじで荒稼ぎを終え、Dr.シャマルに偽の診断書を書いてもらい、無事並森中学校に入学したところからのスタートです!


第8話 二人目の転校生

体育祭まであと二週間を切った並中1-Aクラス。

 

 誰彼も体育祭談義に花を咲かせる中、沢田綱吉は興味が無さそうにあくびをしていた。

それはツナのこれまでの人生、体育祭で良い思い出が無かったからだろう。

 

 運動神経がまるでないツナにとっての体育祭は、個々人の運動能力の品評会のように思えてならなかった。

一年に一度、人より優れた運動能力を持つ者がより得点の高い競技に出場し、人より劣った運動能力を持つ者がさらし者にされ笑われる。

 

 そしてツナ自身は人より劣っていると自覚している。 さらし者にされ笑われると分かっているのにどうして体育祭を楽しみになどできるだろうか。

 

 周りの声がどうしても耳に入ってきて、二週間後に迫る体育祭のことを考えたくないのに考えてしまい、憂鬱な気持ちになる。

 

 ツナがため息をついたところで、担任の先生が教室に入ってきた。

 

 クラス中の話声がさざ波のように消えていく。

 

 

 そしてタイミングを見計らった日直が「起立、礼―」と号令をかけて朝のホームルームが始まった。

それが終わるとまた教室がざわめいた。

号令のあとはいつもであれば担任の話が始まり、一言三言くらいの世間話や注意などが入ってから出席確認に移る。

 

しかし、今日は何やら、生徒のざわめきが収まるのを待っているようだ。

担任が出席簿で肩をトントンと叩きながら、じっと黙っていて、何となく静かにしてほしそうな雰囲気を出している。

 

 その雰囲気を察した生徒が少しずつ黙っていき、教室は再びしんと静まり返った。

担任が普段は出さない真剣な雰囲気に、生徒達は興味を持って、首をちょっと伸ばしたりして担任の顔色を伺う生徒が後を絶たなかった。

 

 そして軽く咳払いをした担任は出席簿を教卓の上に置いて話し始めた。

 

 

 「えーと突然だが、転校生を紹介する」

 

 

 

 そう担任が言った途端、生徒達の大きなえーっという声が教室中に響いた。

 

 生徒達がちらちらと遠慮がちに獄寺の方を見ていく。

盗み見されるような感覚に獄寺はいら立ったのか、その人たちをにらみつけた。

獄寺ににらまれた生徒は慌てて目を逸らした。

 

 そんな生徒達の内心は、

 

転校生6月に引き続いて7月も来るの!?

 

 といったところである。

 

 転校生は基本学期始まりに来ることが多くその途中で来ることはごく稀にしかない。

そのレアケースの一つが獄寺隼人だったが今日また転校生が来るらしい。

 

 転校生が来る。

 クラス中で推測や憶測が飛び交っていた。

 

 

 机の上で寝そうになっていたツナは担任が言った転校生という言葉に驚いて顔を上げた。

 

 

 「え、また?」

 

 「転校生って今もう7月だろ?なんかうさんくせーな。 おい、こっち見んな!」

 

 

 同じ転校生という属性から盗み見してくる人に対してにらみを利かせていた獄寺は、足を机の上で組み、頭の後ろで手を組んだまま椅子を揺らしている。

 

 

 「ハハッ。 それを言うなら6月に転校してきた獄寺も十分うさんくさいよなー」

 

 

 悪意ゼロの笑顔でそれを言った山本に対して、あぁん?と低い唸り声をあげながら獄寺は本日一番の怖い表情で山本に対してガンを飛ばした。

 

 

 「喧嘩売ってんのかコラ」

 「ん?事実を言ったまでだろ?」

 

 「まーまー!やめようよ二人とも!」

 

 

 獄寺と山本の間でひと悶着起きそうだと気付き、慌てたツナがそれを静止した。

 

 ひとしきり生徒の反応を見ていた担任は、パンパンと手を叩いて教室の視線をさらった。

 

 

 「はいはい。 騒ぎたくなる気持ちは分かるがそんな騒ぐと転校生が入ってきにくいからなー。 ま、コイツなら逆に喜びそうだけど。 よし、入ってきていいぞー」

 

 

 担任の合図から間髪入れずに、勢いよく教室の前の扉が開いた。

 転校生との初対面。

教室中の視線がその人に集中した。

 

 その転校生の身長はそこまで高くなく、低くもなく。

 その横顔からして端正に整っているわけではないが、悪くもなく。

 雰囲気で言えば陽気そうでもなく、そこまで陰気そうでもない。

 やや長めのクセっ毛以外は特に特徴もない。

 

 ただただ平々凡々な転校生。

 全員が受けた第一印象がそれだった。

 

 教壇に立った彼は緊張しているのかうつむき気味だった。

 その教壇に立ったときの反応を見て、本当に普通と誰もが思った。

 

 すると転校生は、不意に右手を鼻筋に当てた。

 鼻の上で何かを押し上げるような動作をした彼は、はたと止まる。

 

 動きを止めた彼は「あ、無いんやったわ」と言って、自分で自分がおかしかったのか口元に手をあてて、そのままうつむき気味に堪えるように笑っていた。

 

 ごくごく平凡な人。

そんな第一印象と、大勢の人を前にして一人なぜか笑っている実際との間にあるギャップ。

それについていけていない生徒が、ぽかんとして転校生を見ていた。

 

 ひとしきり笑ったあと、その転校生は笑ってくずれていた顔を元に戻し、顔を上げた。

 

 ようやく生徒達はその転校生の正面の顔を見ることができた。

 

 少し笑いの余韻を残すその顔は、全員に明るそうな人、という印象を与えた。

 

 そして彼は、笑顔を交えながら大きな声でしゃべり出した。

 

 「初めまして!大阪から来た、入江正一(いりえまさかず)って言います。

 なんや東京ってなんでもデカすぎてわっけわからんなー。 オレここに来るまでに何回この言葉ゆーたんか分かるか?

 3回や!1回目は東京スカイツリーでやろ、2回目は東京駅や。 ほんまでかいなぁあのターミナル!んで、3回目は隣で小便する人の息子さんを拝ませてもろたときや。 オレ思ったわ。 これが本当の東京スカイツリーかーっ!!はい。 ほな、皆さんよろしゅー!」

 

 唐突の関西弁に意表をつかれながらも、テンポ良い早口で話す彼の話に引き込まれていった生徒達が、最後の東京スカイツリーのくだりで、どっと爆笑の渦に包まれた。

 

 それを見たマサカズは「やったったでー、おとん」と呟きながらちょっと嬉しそうだった。 ただし黒川みたいなしっかり者系の女子は下ネタじゃない、とあきれ顔だった。

 

 

 「あいつおもしれー!!」

 

 

 山本がマサカズを気に入ったようで愉快そうに笑っていた。

 

 獄寺はケッと言って眉間にしわを寄せていて興味を失ったようにそっぽを向いていた。

 

 面白くてツナも笑っていたが、同時にどこか劣等感のようなものも味わっていた。

 

 たった一度話すだけでこんなにもたくさんの人を笑顔にできるんだ。

 マサカズくんってすごいな。 オレには無いものを持っているって感じ。

 

 ツナはちらっと京子の方を見ると、京子でさえもくすっと笑ってしまっていて、笑ってしまったことに慌てた京子がまた照れ笑いしているのが可愛いらしかった。

 

 京子ちゃんもああいう面白いタイプが好きなのかなぁ。

 運動神経もない、喋りも面白くない、オレみたいなダメダメより…。

 

 やんややんやと喝采を受けながら席に着こうとしているマサカズを見ながら、ツナはその場につられて笑顔を浮かべていたものの、内心ため息をついていた。

 

 

 クラス中の笑顔と共にクラスの一員に受け入れられたマサカズは、あれよあれよの内にクラスの人気者となった。

 マサカズは好奇心旺盛だった。 そして何より話が面白かった。

 色んな人に色んな話を聞き、それをまた笑いに変えるような話術が巧みだった。

 話せば話した分だけ面白い話が返ってくる。

 クラスメイトは並中の色んな話をマサカズにした。

 流行りの遊びから学校の七不思議、タイムカプセルの場所から先生や生徒の噂話、多岐にわたる話をマサカズは笑いに変えていた。

 

 そして昼休憩になってもまたみんなに囲まれていたマサカズが、「なんかおもろい話してやー!」と周りにせがんでいた。

 

 

 「面白いっていうか、並中ならではの話なんだけど」

 「なになに!?めっちゃ知りたい!」

 

 

 好奇心旺盛なマサカズはすぐに話に飛びついた。

 それに気をよくしたその生徒は多少得意げに話を語る。

 

 

 「並中の風紀委員長の雲雀恭弥は、風紀委員長のくせに不良束ねてるんだぜ!」

 

 「えー!おっかなー!オレがそいつ倒そー思たら10年くらい熊と修行せなアカンなぁ」

 

 

 なんで熊なんだよ、と言ってマサカズを囲っていた人たちが笑う。

 

 マサカズはみんなが笑っているのを見て一緒に笑うと、急に表情をころっと真剣なものに変えた。 なんだ、またなんか面白いこと言い出すぞ。 周囲がちょっと期待する。

 

 

 「なぁ…。 もしオレがその熊に負けそうになったときはその熊、動物園まで連れてってくれへん?」

 

 

 普段しないような深刻な表情でバカみたいな頼み事をするマサカズはもはやコミカルだった。 自分で連れていけ!!と言って肩を叩かれたマサカズはその真剣な表情から顔を一変させ、吹き出すように笑った。

 

 

 「10年もしばいていたらその熊、動物園から飛び出して仕返しに来てまうかな?そんときはその雲雀さんって人に助けてもろてええかな?」

 

 「あ、でもねマサカズくん。 最近ヒバリさん並中にいないよ」

 

 

 その女子生徒が発した言葉にほー、と言ってあいづちを打った。

 

 

 「なんか大怪我で入院しているらしいよ。 私のお母さん、並盛中央病院の看護師やっていて、そこで見たんだって。 お腹を怪我しているらしいよ」

 

 「……へぇ」

 

 

 一瞬、無表情になったマサカズのこれまでにない表情に周囲はあれ、と疑問を抱いた。 しかしころころと表情がよく変わるマサカズのことだし、また何か面白いことを言い出すに違いない、という結論に落ち着いた周囲。

 

 彼らは一瞬の無表情の後急に机に突っ伏したマサカズを見て、ああ、やっぱりとニヤつく。

 そして、「どうしたマサカズ」「おい起きろ」などと言って周囲がマサカズの脇や首を突っついたりくすぐらせたりして顔を上げさせようとする。

 

 そして机にふせったままフゴッと汚い音を立てて吹き出した彼は、糸が切れたように笑い出した。 やめてーっと笑いをこらえきれずに彼が身をよじらせて攻撃を避けようとし、結局顔を上げて大笑いするものだから、面白くなってしまった周りの人たちはさらに攻撃を加速させていった。

 

 数分の後、くすぐりの拷問をようやくやめさせることができたマサカズは、「もうアカン…」と言ってぐったりしてしまった。

 

 それを見た周囲の人は面白がって、再びマサカズをくすぐるのであった。

 彼へのくすぐりの拷問は昼休み中ずっと続いて、その間、彼の周りでは笑いが絶えなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 放課後。 帰り道も大人数でぺちゃくちゃお喋りしながら帰っていたマサカズは、最後の一人と別れて人気のない道まで来ると、彼はようやくその道化師の仮面を外すことができた。

 

 常にどこか笑っているようなマサカズの表情。

 そこから一変して現れた…いや、元に戻ったその表情は根は暗めの入江正一(いりえしょういち)の素の顔だった。

 

 雲雀恭弥、やっぱり生きていたか。

 

 昼休憩で女子生徒に雲雀が生きていた話を聞いてから、マサカズの仮面をかぶって大笑いをしながらもずっとそのことについて考え続けていた。

 

 僕が殺したと思っていた雲雀恭弥。

 僕に撃たれて動けない彼をそのまま放置してきたはずなのに、その数分後には僕の部屋から忽然と姿を消していた彼。

 

 将来並盛の風紀を乱すから僕を殺すと言っていたけど、おそらくまた近いうちに彼は僕を殺しに来るだろう。

 入江正一が死ぬのが先か、雲雀恭弥が死ぬのが先か。 彼が僕を殺す前に、何とかして白蘭さんに会わないと。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 「アイツには気を付けろよ」

 帰り道一人になったツナの元に突如としてリボーンが現れた。

 

 「アイツって、誰のこと?」

 

 「入江正一(いりえまさかず)のことだ」

 

 「今日転校して来たあの子のこと?またマフィアだとか言うんじゃないだろうなぁ…」

 

 ツナは次の展開を予想して苦々しい顔をしたが、意外にもリボーンは違うぞ、と言って首を横に振った。

 

 「アイツは本当にただの一般人だ。 だけど一つ嘘をついているな。 アイツは幼少期大阪で過ごしたことを除けば、ずっと並盛町在住だぞ」

 

 「え、じゃ なんでそんな嘘を付いているんだ?」

 

 「さあ、知らねえな。 だけどツナ、オレが言いたいのはそこじゃねえ。 オレが気を付けろって言っているのはアイツの潜在能力だ」

 

 「潜在能力…?」

 つい死ぬ気弾に撃たれたときの自分の力を想像してしまった。

 

 「将来超強い格闘家になるとか?」

 

 「いや、アイツの潜在能力はそんなチャチなもんじゃねぇ。 それこそ世界の勢力図を塗り替えちまうくらいの大変革を起こせる潜在能力だ。 それも、頭でな」

 

 トントンと自分の帽子を小突いて頭を指さしながらリボーンは言った。

 

 「一国の首相とかそういうの?なんかよくわかんねーや」

 

 「ま バカなツナに分かるように言えば、世界のボスになれる可能性を持ったヤツってことだな。 分かったか?バカツナ」

 

 「なるほど…って、バカツナって言うな!」

 ツナが怒るのもお構いなく、リボーンは話を進める。

 

 「今のお前じゃまだ早い。 だからアイツに近づくな。 取って食われるぞ」

 

 「えー!?マサカズくん、オレには全然大したヤツに見えなかったんだけどなぁ…。 」

 

 

 ツナは首をかしげながら、ふと昼休憩に聞こえてきた会話を思い出した。

 「そういえばヒバリさん大丈夫なのかな。 大怪我して入院しているらしいけど」

 

 「ま 大丈夫だろ。 雲雀だしな」

 全く心配していない声音でいうリボーンにツナは少しあきれた。

 「ヒバリさんは女の子だぞ。 」

 「んなもん関係ねーよ。 アイツは並盛がバカみてぇに好きだからな。 必死なんだろ。 雲雀の必死さをお前もちったぁ見習え。

 

 京子に良いところ見せたいんだろ?マサカズってヤツに京子の心を取られてもいいのか?それがイヤならまず死ぬ気で体育祭優勝すっぞ」

 

 マサカズに笑っていた京子のことを考えると、マサカズに負けないくらい良いところ見せたいという気持ちがツナの中でわいてくる。

 オレはずっと京子ちゃんだけを見てきたんだ。 あんなぽっと出のヤツなんかに負けたくない。

 

 そして同時に、雲雀と初めて会ったときに感じた気持ちを思い出した。

爆発の中ハルを助けに飛び込んだ雲雀はとてもカッコよかった。

その後落ちて意識を失っていたりとか、今回もおそらくどこかでミスして腹部を怪我したりと、完璧にやり遂げられないのが惜しいところではあるけれど。

 

 それでもその必死さはとても良いことだと思った。

 

 

 「体育祭…頑張ろうかな! ありがとう、リボーン!」

 

 ツナは勇気がわいてきた。

 お礼を言われてニッと笑ったリボーンは、マサカズと雲雀はツナを焚きつけるのにもってこいだということに気が付く。

少し間を置いてから、良いことを思いついたと言わんばかりにリボーンはニヤリと笑うのであった。

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