風紀委員長のパラレル奮闘記   作:まきびし

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このシャマル、最低である。


第9話 Dr.シャマルは女に気付く

 Dr.シャマルは二つの顔を持っている。

医者としての顔と、殺し屋としての顔だ。

 

 シャマルは腕利きの医者であり不治の病に罹った誰かにとっては救命の天使となることもあれば、蚊を媒介として必殺の毒を対象に注入し死神となることもある。

 

 正反対の二つの顔を使い分けるDr.シャマルが、今の自分に至るまでに想像を絶する過去を歩んでいることは想像に難くない。

それは666もの不治の病に罹った苦労であり、その体質から四六時中菌やウイルスの猛威に晒されているということ、人を救い人を殺すその矛盾した行為の中にある葛藤をも含んでいる。

 

 もっとも、彼はそのような暗い心の一面を人に一片たりとも見せはしないのだが。

 

 ターゲット以外の普通の付き合いをする人にとっては、シャマルは女好きで、キス魔の変態。

それ以上でもそれ以下でもない存在でありたいとシャマルは常日頃から思っている。

 

 そんなシャマルは今並盛中学校の養護教諭をしている。

その理由を「夜遊びをしすぎておけらになっちまってな」と笑って説明する。

しかし公立中学校である並盛中学校の養護教諭は公務員の一端に過ぎないため、普段要人救命や要人暗殺で何億というお金を受け取る医者・殺し屋稼業をしているシャマルにとって、養護教諭としてもらえる賃金ははした金に過ぎない。

 

 そう、彼は詭弁を弄していた。 彼は仕事でこの学校に潜入していたのだった。

 

 

 「体育祭ねぇ。 女子生徒は全員ブルマ着用で…いや、もはや普段の制服でいいんじゃないか?」

 

 

 早朝の体育祭準備風景を見ながらDr.シャマルは一人妄想に浸っていた。

 ブルマのように若く健康的な下肢をさらけ出すのもいいが、制服スカートとハイソックスで見える絶対領域も素晴らしいものだ…。

 

 彼が仕事に従事していないときは本当にただの変態だった。 椅子に座りながら外を眺めていると保健室の扉が開いた。

 

 

 「すいません…カゼひいて、あの…熱があるみたいで……」

 

 

 ちらっと後ろを見ると沢田綱吉がいた。

ったく。 マフィアのボスになる男が何サボり決め込もうとしてんだか。

Dr.シャマルは内心嘆息した。

 

 

 「カゼぐらいで休ませねーよ。 つーか男に貸すベッドはねーんだ。 女性はいつでも歓迎だけどな。 わかったらとっととけーれ!」

 

 

 顔を青くした沢田綱吉をてきとうに追い払うとまた椅子に深く腰掛けた。

この年になって中学教諭になるなんて人生何があるか分かんねーな。

Dr.シャマルはつい、今回の依頼人とターゲットについて思考を巡らせそうになったが慌ててそれを打ち切った。

しかし、それを抑えきれないでいる自分もいた。

 

 普段、シャマルは依頼をしてくる相手に対して微塵も考えることはない。

「契約厳守」「依頼者の名前は聞かない」「ターゲットを詮索しない」。

この3つのルールを仕事に課すことで医者・殺し屋としての信用を得てきた彼はそのルールを厳守したい。

 

 だが、今回の契約はつい興味を持ってしまうほど奇妙なものだった。

まず、何の前触れもなく億単位の金がイタリアの銀行口座に入金され何事かと目を白黒させていると、仕事用のメールボックスに一通のメールが届いた。

 

 おそらく海外のサーバーをいくつも経由してきたのであろうそのメールの内容によると、銀行口座に入金された億単位の金は前払い金だというから驚きだ。

 

 何より、そのターゲットはただの中学生だという。 一体全体この中学生は何者なんだ?

 

 

 添付されていたターゲットのプロフィールを頭に思い浮かべる。

 

 今回のターゲットの名前は、『雲雀恭弥』。 並盛中学校の風紀委員長でありながら不良の頂点に君臨しているという。

まあ中学生にしては強そうではあるが、大金をはたいてまでオレに依頼をされるようなターゲットとは思えない。

 

 こいつにゃ何か絶対裏がある…って、ああ!何ターゲットのことを詮索しようとしているんだオレは。

シャマルは首を左右に振るって思考を散らそうとした。

 

 ええい!やめだやめだ!それに、何が楽しくて男のことなんか考えにゃいけねーんだ!

 

 

 「…何やってるの、君」

 

 

 いきなり後ろから声がした。

驚いて後ろを振り向くと、ぼさぼさの髪に不機嫌そうな顔、オレのターゲットである『雲雀恭弥』だった。

 何より驚きなのが、このオレが後ろに来られるまで気配に気が付かなかったことだ。

そんな中学生が本当にただの中学生か?

 

 まじまじと雲雀恭弥の顔を見ていると、彼の顔がさらに不機嫌そうになった。

 

 

 「イラつく。 僕の顔をそんなに見るな」

 

 

 そう言うか言わないかの内に雲雀恭弥が恐ろしいほどの早業でオレを押し倒した。

オレが地面に倒れこみ、さらした首元をトンファーで固く押さえられる。

オレは低くうめき声をあげた。

雲雀恭弥と目が合う。

ヤツは笑っていた。

その目は人殺しの目だった。

 

 

 「ねえ、Dr.シャマルだったね。

君が養護教諭に採用されるにあたって履歴書を見たけど、どれも嘘ばかりだ。

君の住所を訪ねてみたけど、そこにシャマルなんて人物は住んでいなかったよ」

 

 

 命の危険を感じたオレはとっさに三又矛の蚊(トライデント・モスキート)を使おうとポケットに手を伸ばしたが、動くなと言って雲雀恭弥はもう一方のトンファーでオレの左右の手を封じた。

 

 

 「何が目的で並盛中学校に来たのかは知らないけど、もし風紀を乱すようなことがあれば、ただじゃ済まさないから」

 

 

 「ぐっ…!」

 

 

 「僕の目が届く範囲で好き勝手はさせないよ。 」

 

 

 オレが無言でうなずくと雲雀恭弥はようやくそのトンファーをしまった。

張りつめた空気がようやく弛緩して、今更になって冷や汗が噴き出してきやがった。

やれやれ…とんでもない中学生もいたもんだ。

殺しを何年もやっているオレが気配に気づかないことや一瞬でオレを制圧してしまうこと、ただの中学生ができる芸当じゃねぇ。

 

 今回の依頼は一筋縄ではいかないことがよく分かった。

 

 雲雀恭弥は大きくあくびをすると、起こしたら殺すと言ってベッドで寝始めた。

 

 シャマルは起き上がり白衣についた埃を払った。

そしてベッドで寝ている雲雀恭弥の横に立った。 近寄っても起きないのは当然のことだ。

オレの三又矛の蚊(トライデント・モスキート)は象をも一瞬で眠らせる。

 

 オレは初めに雲雀恭弥を視認した時すでに蚊を放っていた。

その瞬間ヤツはオレの術中にはまっているはずだった。

なのにこいつ、しばらく普通に動き続けやがって。

一体どんな体質してんだよ。

オレの術の触れ込みの面目丸つぶれだぜ。

 

 そしてシャマルは再び、雲雀恭弥の顔をじっと見つめた。

最初に出会ったときに感じた違和感。

男にしては華奢すぎる肩、ごつくない手、長すぎるまつ毛…。

それはつまり。

 

 

 起きないと分かっていながらもシャマルはそろそろと両手を差し出し、雲雀の胸に当てた。

ほんの少しだけだが…ある。

 

 やはりこの子、女の子だ。

 

 眠らせた女の子の胸を触っているという事実に興奮しなくはないが、オレにそんな趣味は無い。

胸から手を離した。

シャマルは起きている女の子にセクハラをして嫌がる様子が好きだった。

どちらにせよただの変態である。

 

 無料で胸を触らせてもらった礼だ。

これが夜遊びだと何万ぼられるか…。

そんなことを考えながら、シャマルは本日2匹目の三又矛の蚊(トライデント・モスキート)を取り出すと雲雀にそれを付けた。

 

 そう、シャマルは雲雀が腹部を怪我していることを見抜いていた。

戦闘中、雲雀の上体を支える力が弱くブレがあることから見抜いていたのだった。

 

 シャマルの知らないことではあるが、その腹部の怪我は雲雀が先日入江正一に撃たれた傷であり、普通の人であればしばらくは動けないような傷だった。

だが体育祭というイベントに風紀の乱れはつきものであり、雲雀は居ても立ってもいられず病院を脱走してここまで来ていた。

だが校内を歩いているとき調子が悪くなり、近くにあった保健室のベッドを使いに来たのであった。

 

 

 シャマルが放ったその蚊は回復力増進作用のある薬を持っていた。

 心なしか雲雀の呼吸が穏やかになる。

 

 シャマルは後になって気づく。

こいつはターゲットだと。

傷の治りを早めてしまうなんて敵に塩を送るようなものではないかと。 彼は多少後悔した。

 

 だが、女の子でありながら屈強な不良達をまとめ上げ、校内のみならず町全体の風紀を守るその頼もしくも凛々しい姿を、応援したくなっちまうのはなぜだろう。

老婆心か?シャマルは一人自嘲する。

オレも年を食ったもんだ。

だが、仕事は仕事。 その点に関しておまえさんに容赦はしねぇ。

そしてトンファーでぶたれた恨みも忘れちゃいねぇ。

次会ったら、覚悟しておけよ。

 

 

 それにしても恭ちゃんは僕っ子か…。 うーん、たまらん。

 

 また椅子に腰かけて、運動場の方を眺めた。

女の子同士でズボン下しをしようとしているのをデレデレとした表情で眺めている。

内心「いいぞ、もっとやれ!」と思っているに違いない。

シャマルはやはりただの変態であった。

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