戦闘機人 code.Archer   作:國真流

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プロローグ

 

 

 

荒廃し生命の存在が感じられないとある滅んだ次元世界

草木は枯れ 建物は風化し それらを灰色の空が覆っている

そんな物寂しい世界を一人の長身の女が歩いていた

年の頃は二十代前半 短めの髪をなびかせ全身を藍色のスーツが覆っておりその首元にはⅢの文字が刻印されていた

たった一人歩くその姿は、モノクロ写真に青い花が咲いている姿を彷彿とさせる

 

迷い込んだ異物故に

 

本来ありえない物であるが故に

 

その姿は一層青々しく そして美しく見えたのだろう

 

 

『トーレそちらの様子はどうだい?』

電子音と共に若い男の声が響いた

「問題ありません ドクター しかし、こんな所にドクターの探し物があるようにも思えません?」

 

長身の女 トーレが辺りを見回しながら言った

辺りには石造りの建物の残骸の様なものこそあれど 何か使い物になりそうな物など見つかる気配もなかった

ただただ灰色の世界が広がるばかりで乾いた地面は踏んだところで虚しい音を鳴らすだけだ

 

『前方約200m先の座標まで行けばわかると思う

巨大な地下空間があるはずだ そこから地面をぶち抜いて進んでくれたまえ』

「了解しました」

 

トーレにドクターの意向に逆らうと言う発想はない例え無意味だとしても命令通り実行するだけだ

 

しばらく進むと一見何も無い場所に出た

今まで通り灰色の地面と石しかない。他の場所と相違点など在りそうもない

しかし常人には分からないレベルで地面に違和感があった。

戦闘機人であるトーレには体内にある高感度センサーにより、はっきりとドクターの言った通り地下に巨大な空間がある事を認識できた。

 

しかしなんらかの魔法的結界が張られているらしく 穴を開けるのは手間がかかりそうだった

 

成る程ガジェットでなく自分が派遣されるわけだ

そう独りごち トーレは渾身の力で地面に拳を叩きつけた

 

粉塵が舞い 石の欠片が飛ぶのも気にせず何発も何発も拳を打ち付ける 一度打つごとに地面が抉られ徐々に穴が大きくなってゆく

そうするごとに一枚一枚結界が割られていく

そして とうとう 最後の一枚に到達した

トーレは体を弓なりにしならせ鋭い一撃を叩き込んだ地面に大穴が開き地下への道が開かれた

 

 

「想像以上に硬かったな とても無人世界のものとは思えん」

呼吸を整える様に大きく息を吐き 体に積もった埃をはらう

 

 

『トーレもう穴は開いたかい?』

 

 

狙いすましたかの様なタイミングでドクターから通信が届いた というかサーチャーでずっと眺めていたのだろう

 

「はい ちょうど今。 ところで此処はどういった場所なのですか?

この結界といいただの遺跡とも思えませんが」

 

 

トーレが大穴を見下ろしながらいうとドクターは何も説明していなかったことに気づいたらしく

少し楽しそうにその口をひらいた

 

『ああ 言っていなかったね そこはその世界の魔導師の研究施設だった場所だよ 』

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

ドクターによればこの世界は数百年前に滅んだ次元世界で、時空航行技術も持たなかったような世界だったそうだ。

しかし様々な《対人で人を殺すこと》に特化した遺失物が多数発掘されているらしい

今回ドクターが目をつけた遺失物は【起源弾】と言うものらしく魔導師を殺す事に特化したものだそうだ

 

 

『【起源弾】はとても興味深い遺失物でね

質量兵器の銃で撃ち出す弾なのだが、素材が特殊なものらしくてね魔導師のレアスキルの恩恵を受けたもののようだが実はそれもはっきりしていないんだ

効果としては被弾者の魔法を使えなくすると言ったものなのだが

原理が面白くてね、リンカーコアを一度砕いて 再構成すると言った現象が起こるんだけどね

これだけ聞くと何の害も無さそうだけど リンカーコアはエネルギー体であると同時に内臓の一種だからねバラバラにされた後適当に繋がれた所で機能しなくなるんだ

その状態で無理に使おうとすると暴発して大抵死んでしまうだろうね

まぁ余程優れた魔導師なら少しは使えるかもしれないが

リンカーコアが砕かれると言うのは凄まじい痛みを伴う。

ショック死一歩手前の痛みの中でそこまで精密に魔力を操作できる魔導師はそうはいないだろうさ

まあそんな訳で

AMFに応用できないかと試行錯誤していたんだが

使い捨てって事を忘れて実験に使ってしまってね

それで探しに行ってもらっているのさ』

 

成る程とわざわざこの次元世界まで来た理由をトーレは理解した。

こう言う未知の力というものをドクターはよく好む、だからこそここまで強い興味を持っているのだろう

しかしそうなってくるともう一つ疑問が出てくる

 

「ドクターその様な強力や遺失物が多数発見されているのであれば管理局も駐屯しているのでは?」

そう、ドクターが言うように強力な遺失物が多数発見されているならば管理局が危険視ないし手中に収めようしない筈がない

 

 

『それはないよ 絶対にね』

ドクターいつも通りな軽薄な顔で、しかしキッパリとはそう断言した

 

 

「それは何故ですか? 」

 

 

『この次元世界に【クモ】がいるのさ』

 

 

『クモ?」

トーレは足が8本でワシャワシャ動く虫を思い浮かべた

ドクターはトーレ想像した物を察して続ける

 

『そう 君が想像している通りの見た目だよ

ただ 物理が無効で 魔法が効かなくて 死ななくて

巨大なクモだけどね』

 

それはクモなのだろうか?

あまりのトンデモ生物にトーレはいっそ呆れすら覚えたが話を続けるドクターに耳を傾けた

 

『もうかなり前のことだけどね 管理局がそのクモを討伐しようとしたことがあったんだ

アルカンシェルで吹き飛ばすつもりだったみたいだけど撃ったアルカンシェルで吹き飛ばすどころかアルカンシェルと時空航行船ごと影みたいなのにパックリ食べられちゃったそうだよ』

 

『それ以来管理局はこの次元世界には来てないね

監視ぐらいはしてるかもしれないけど常時じゃないだろうし まあ 気にするほどじゃないさ』

 

 

 

 

説明を聞き終わりトーレは大穴に向き直った

覗き込んでみると穴はそこまで深くはなく、古びた石の床らしきものが見える

 

 

『さっきの結界の事もあるし中に罠があるかもしれないから気をつけて』

 

 

そんな忠告を聞きつつトーレは穴に飛び込んだ

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

結局のところドクターの心配は杞憂だった

外の結界こそ作動していたものの中は罠こそあれど経年劣化で作動していないものがほとんどだ

が それは遺失物にも言えたらしく中にあったもののほとんどは使い物にならない程に劣化 損傷していた

 

広大な地下空間を探し回ったにもかかわらず何の成果も得られないまま とうとう発見できたうち最後の部屋にたどり着いた

 

一番奥にあり物々しい雰囲気を放つその部屋の前に立ちトーレは深くため息をついた

この部屋もハズレならとんだ無駄足だったなと

 

そんなトーレの内心を知ってか知らずかドクターから通信が入る

 

『その部屋に【起源弾】はあるはずだから見逃さない様に頼むよ』

 

トーレは暫し沈黙し、若干声を震わせながらドクターに聞いた

 

「………この部屋に目的のものがあると知っていたのですか?」

 

『 当たり前じゃないか 【起源弾】の特徴的な魔力を辿ってその施設を見つけたんだから場所くらい分かって当然だろう?』

 

ハッハッハッと良い声で笑いながら説明するドクターに少しイラっとしたが

言われてみればこの次元世界にある事は資料なりで調べることができても

この世界のどこにあるのかを調べる方法が無くては

そもそもこの施設を見つける事もできなかったという事に考えが行き着かなかった自分のミスであり

ドクターを責めるのもお門違いかも知れないが

それにしたってもうちょっと早く言ってくれても良いのではないかと思った

 

『それにしても【封印指定】かどういう意味なんだろうねぇ…』

 

どこか楽しそうで、どこか期待に満ちた声色が聞こえた

ドクターが扉に書かれた文字を読んだ様だ

なお、当然トーレには読めるわけがなく 封印指定 と言われても何かが封印されているのでは?

という印象しか持ち得なかった

 

 

何となく嫌な予感を感じつつ部屋の扉に手を掛け開け放つ

 

 

 

するとそこには

 

 

 

夥しい量の生体ポッドが並んでいた。 いや、生体ポッドと言うよりは どこか牢獄めいた雰囲気を醸し出している 。

広さは小さめのグラウンド程あり、他の部屋と比べるとかなり広めだ

この部屋も他の部屋よりは若干マシとはいえ劣化によって荒れている

ポッドも半数以上は割れて中身が漏れてしまっているし

割れていない物も中身がグズグズになって辛うじて人間だったということが分かるものがほとんどだ

元々そういう形の物もあっただろうが殆どが使い物にならない事は明らかである

 

ポッドの他にも金庫の様なものがポッドの横に並べられナンバリングされている

近くの金庫を開けて見ると中からは資料らしきものと魔力の込められた何らかの道具が出てきた

いずれもポッドに関する資料らしい

 

 

『右奥の方から反応がある すぐそちらに向かってくれたまえ』

 

 

目当てのものか近くにあると分かり、我慢できなくなったのか急かす様にドクターが言う

辺りの様子を見ながら言われた通り右奥に進む

 

すると不意に辺りが明るくなった様な気がした

ハッとして周囲を警戒するが特に危険なものはなく

光源らしきものもなかった

周りには割れたポッドと溢れた中身、画一的な金庫しかなかった

「気のせいか 」と一人納得し前に向き直る

 

しかし そこにあったものを目にし先程のは気のせいでは無かったと思い知らされた

 

 

 

正面数メートル先に不自然なほど状態のいい素体があった

 

 

 

それは一人の少年だった

 

 

 

年の頃は16 か17 と言ったところだろうか

赤銅色の髪に童顔気味の顔

身長は170弱で全体的に筋肉質な体をしている

ただ一点 心臓の上にある傷跡がその少年に不自然さを与えている

死体と瓦礫しかないこの場所でただ一つ、生きているかの様に見えるほど、今にも瞳を開けそうなほど

それは異色で、それは異端で、そして何より美しく見えた

 

 

そんな素体があったからだろう辺りを明るく感じたのは

サーチャー越しに見ていたのかドクターも感嘆の声を上げている

 

 

『素晴らしい…数百年放置されてなお形を失っていないなど … 遺失物? いやそれとも時間操作系魔法の応用? しかし……これはなんとも………興味深い』

 

 

爛々と目を輝かせ まるで新しいオモチャを手に入れた子供の様に 夢中になって観察している

 

 

トーレはポッドに近づきポッドを撫でた

溶液に浮かぶ少年をひとしきり観察した後

横に備えつけられている金庫に目を向け中を確認する

中には紙媒体の資料 ケースに納められた銃弾や人の背骨の様な物があった 銃弾や骨にも興味はあったがひとまず資料から確認することにした

資料の大部分は読めなかったが個体名と思われる表記がミッド表記に近い言語だったのでかろうじて読むことができた

 

【 SIROU EMIYA 】

 

「シロウ エミヤ…」

 

これがこの少年の名前なのだろうか

この少年がどういった経緯でここに居るのかは分からない

死の世界でただ一人取り残されている訳も分からない

死んだまま、この世界での何よりも生きているように見えるこの少年にトーレは心惹かれていた…

 

 

『衛宮…士郎 ふむ 聖杯戦争?……【投影】…アヴァロン? 魔術回路…東の果て………穂村原学園…冬木……sabar…衛宮切嗣……汚染…暴走………大聖杯…消滅…これは…いや……ほう……………………』

 

 

ドクターもサーチャーを使って資料に目を通している様だ 思考の海に沈んでいる

 

 

トーレは邪魔して悪いと思いつつも指示を仰いだ

 

「ドクター どうしますか?」

 

『……うん? ああそうだね こちらからガジェットを送ろう それで彼を回収してくれたまえ

あと その金庫にある銃弾 それが起源弾だよ 隣の骨は原料の様だ 忘れずに持って帰ってきなさい』

 

そう言ったきりドクターからの通信は途切れた。次の実験の準備をしているのだろう

おそらく…この少年を使った

 

 

 

 

 

ガジェットが三機やってきた

トーレは資料その他を一機ガジェットに乗せ

残り二機で生体ポッドごと少年を運ばせた

ガジェットと共にトーレは新たな姉弟になるかもしれない少年を眺めつつ

【スカリエッティの研究所】に帰投した

 

 





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