戦闘機人 code.Archer   作:國真流

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10/始動

 

 

 

 薄暗い部屋。 埃っぽく、切れかけた電球がぶら下がり、チカチカと瞬きながら其処を照らしている。

  そんな場所に四人の男が立っていた。いや、三人と一人の男が立っていた、というのが正確だろう。

  三人の男に一人の男が対している。

 

 ダンッ

 

  三人の男の一人が近くにあった小汚い机の上にアタッシュケースを置く。中には何かが詰まっている様で重い音がした。

 

「……約束の金だ…、其方もちゃんと持ってきたんだろうな…」

 

  ガチャリと後を立てケースを開く。中には紙幣が詰まっており、その金額は数年遊んで暮らせる程のものだ。

 

「ああ、商談成立だ。 それにしても、また随分と買い込んだな。何処かで抗争でもあるのか?」

「余計な詮索はするな『アーチャー』、……マナー違反だ。」

 

 アーチャーと呼ばれた男は肩を竦め、息を吐く。バイザーが顔を覆っている為表情を伺う事は出来ないが、軽率な発言だったと反省している様だ。

 

「いや、すまない。私も自分が卸した武器で殺されては堪らないからな、つい気になってしまったんだ。 ほら、これが依頼の品だ。」

 

 アーチャーが先ほどのケースよりも更に大きく重いケースを取り出す。黒く 横に長いそれからは、何処もなく冷たい空気が感じられる。

  男は後ろに控えていた2人に命じ、中の確認をさせる。

 ガコンッと開いたケースの中には、刀剣の類が何本も入っている。他にも銃弾が入っていると思われる箱もいくつか入れられていた。

 

「無銘10本、【無毀なる湖光(アロンダイト)】一本、【劣・起源弾】15ダース…確認しました」

  「そうか……アーチャー、私達はこれで失礼するよ」

 

 男達はアーチャーに背を向け、出口に向かった。古びたドアに手を掛け開く。外から光りが漏れ、彼らを陰で隠す。

 

「一つ忠告だ、アーチャー。近いうちに西区で小規模だが抗争が起こる。管理局も黙認する程度のものだろうが、なるべく近づかない事だ。」

 

  そう言ったっきり足早に出て行ってしまった。

 

 

 

 彼らはミッドチルダの首都クラナガン近くの廃墟街を根城とする暴力団の組員だ。ヤクザと言った方が分かりやすいかも知れない。

 クスリや風俗を主に収入源とする無法者達だが、管理局もある程度黙認している。

 ヒトは何処かで欲を発散する場所が必要であり、管理局の人間がそう言った場所を運営出来れば一番良いのだが、既に骨子が出来上がっていたのでいっそ認めてしまおう。というのが管理局の考える所だろう。

  なお、余りにも危険な薬物や劣悪な環境の風俗は取り締まられている様だ。当然と言えば当然なのだが。

  なので対外的には、管理局とこういった組織は敵対している。という事になっている。

 

 そんな彼らだが、もちろんのこと一つに統合されているわけでは無い。数多くの組織が縄張り争いに明け暮れている。

  男が最後に忠告してきたのもそう言ったものなのだろう。

 

 

「それにしても……中々繁盛するもんだな…」

 

 シロウが『アーチャー』としてクラナガンで密売人を始めてから二月が経っていた。

 スカリエッティが宣伝でもしてくれていたのか、飛ぶように売れている。先ほどのヤクザのような反社会団体や、反管理局団体が主な相手だ。

 稀にコレクターらしき一般人や他世界の武人が買い付けに来るが、やはり未だ少なめだ。

 

 因みに、反管理局団体で最も利用者が多いのは聖王教会である。

 勿論、聖王教会自体を反管理局団体と呼ぶのは間違いだが、一部には管理局体制を快く思わない者がいる。

 聖王教会の比較的緩い戒律がそうさせているのだろう。教会は内部で多くの派閥がある。その一つが【ベルカ独立派】だ、所謂タカ派に近いかも知れない。

 表立って反目はしないものの、日々独立の為行動している。

 

 他にベルカの騎士は元から砲撃主体ではなく、刀剣を使った者が多いのも利用者が多い理由の一つだ。

 

 

 プルルップルルッ

 

 シロウの端末から着信音が鳴る。それを手に取り画面に表示されている名前を見る。

 シロウにとって見慣れたその名は件の教会の者だった。まぁ、『彼』はタカ派でもハト派でもないのだが……

 

『私だ…』

『注文はいつもと同じで、黒鍵10ダースを頼む。場所も私の教会まで来てくれればいい。今日中にな…』

 

 一方的に話を進める男だったが、シロウは慣れているようでスムーズに商談が進んで行く。

 

「此処からなら二時間で着く。それまでに金は用意しておけ。」

『了解した。楽しみに待つとしよう…』

 

 通信が切れる。

 

 シロウは深く溜息をついた。シロウはこの男のことがどうにも苦手だったのだ。

 けれどそんな事も言ってられず、商品を速やかに用意する。

 黒鍵とは、シロウの投影できる剣でも投擲に適した物の一つだ、十字架を象っており重心が切っ先にあるので 普通の剣として使う事は難しい。

 

 シロウは再び溜息をつく、先程より重く 深い溜息だ。彼としてはあの男に会うのは、正直嫌だったのだ。

 とはいえ仕事、顔を合わせたく無いからと言ってすっぽかしていいものでも無い。

 

 シロウは重い足取りで教会に足を運んだ。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢♢

 

 丘の上に建つそれ程大きいとは言えない古ぼけた教会、其処が男の住処だった。

 男は上機嫌だった、少なくとも数少ない趣味であるワインを傾ける程度には機嫌が良かった。

 グラスに注いだワインをステンドガラスに透かし揺らす。

 血のように赤い其れは男の趣向を表しているようにも見える。

 

 ギィィィィィ

 

 教会の重く大きい戸が開く。

 立っていたのはバイザーを掛け、顔を隠した白髪の男であった。

 

「よく来たな、アーチャー…」

「来たくはなかったがね……コトミネ…」

 

 互いに軽口を叩く。こういったやり取りは、今までに何度も交わされているようでごく自然なものだった。

 

 シロウは肩に掛けていたバックを床に下ろす。中に入っているのはおそらく黒鍵だろう。幾ら黒鍵が刃を魔力で編めらと言っても、柄だけでかなり重量があるようだ。

 10ダースも有るのだから当然である。

 

「それで?用はなんだ。」

「なんだとは?」

「お前みたいなエセ神父が、用もないのにこんな所に呼び出すわけが無いだろう……」

 

 シロウの目がバイザー越しにコトミネを刺す。

 コトミネはそれを些かも気にした様子もなくグラスを傾けている。

 

「………………………………………」

「………………………………………」

「………ときに、……」

「?」

 

「喫茶店の経営はどうだ?繁盛しているか」

「…ああ、繁盛しているとも、()()()()な。」

 

 シロウは密売商の隠れ蓑として、喫茶店を経営している。殆ど取引場として使う事は無いが、ごく稀に仕方なく使う事もある。

 因みに夜はバーとして経営しており、最近隠れた名店として有名になりつつある。なので正しい意味でも昼と夜、両方繁盛していると言える。

 

「それは何よりだ、そう言えば、最近 世間を騒がせるのにも一役買っているようだな」

「何のことだ?」

「無論、先日殉職した、若き管理局員の話だ。」

 

 コトミネはそう言うと、側に置いてあった新聞を放り投げてくる。

 

【ティーダ・ランスター/一等空尉、無駄死にか…】と一面に取り上げられている。

 彼は先日、殉職した管理局員で違法魔導師を取り逃がした挙句、亡くなった。

 それについて、彼の上司が辛辣なコメントをした事が物議を醸している。

 

「その一等空尉を殺した武器……お前が卸した物だろう?」

 

 コトミネは何が楽しいのか、愉悦を顔に滲ませながら嗤う。

 その表情はとてもでは無いが聖職者と呼んでいい物ではなかった。

 否、いっそ聖職者に徹しすぎているからこその物でもあった。

 

「………そうだが、それが何か?」

「いや何、間接的にとは言え、未来ある者を殺した感想はどんなものかと思ってな………………」

「別に、何も感じはしない。間抜けな局員が一人死んだ。それだけだ。」

 

 シロウはただ淡々と何の感慨もなく口にする。まるで些かの興味もなく、正に今知ったと言わんばかりの態度だ。

 

「自分のせいで人が死んでいても興味がないか」

「あぁ、()のせいで人が死んだとしても興味は無い」

 

 ハッキリと、断言する。

 

「………………………………………」

「………………………………………」

 

 暫しの沈黙、互いに言いたい事はいい終わったようで、もう何も言う事は無いといった風だ、

 

「………成る程な参考になった。無駄話に付き合ってくれて感謝する、シロウ・エミヤ…」

 

「…今度からはもっと手短に頼む、キレイ・コトミネ………」

 

 

 シロウは金を受け取りさっさと出て行こうとする。1秒でも早くここから去りたいと言う気持ちが見て取れるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばアーチャー、かの上司殿は今朝亡くなったそうだが…何か知っているか?」

「——知らないな。」

 

 

 

 扉が閉まった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

全く面白いな、あの男は

 

シロウ・エミヤ。またの名をアーチャー、裏ではもっぱらアーチャーで知られている。

ここ数ヶ月で急に台頭した密売人で、その特異な武具は多くの無法者達に注目されている。

かくゆう私も彼の武器をとても気に入っている。

アーチャーはその武器だけでなく、彼自身の技量の高さも有名だ。噂によれば、彼から武器の出所を聞き出そうとした組織が数刻で壊滅したと言う。

 

また、情報屋としても一定の信頼を得ており、徐々に顧客を増やしつつある。情報の出所はおそらく彼が経営するバーで局員から聞き出しているのだろう。

最近は局員もよく利用するようになってきている。昼の喫茶店も同様だ。

なお、シロウ・エミヤがアーチャーだと気付いているのは私ぐらいの物らしく、恙無く店を繁盛させているようだ。

 

強力な武器、優れた戦闘力、巧みな話術。裏でのアーチャーの評価は大体こんなものだ。

 

 

けれど、私があの男に注目するのはそんなことではない。

力、技、芸。こんなものはあの男の人側面どころか付属品に過ぎない。

真にあの男をあの男足らしめているのはその精神性だと私は考えている。

 

一見、あの男は冷徹で冷酷で無感情だ。

 

——違う……

 

あれは、己が業に苦悩する咎人だ。己が罪にねじ切れるほどの苦しみを感じながらも。見事に人形を演じきっている。

 

否、人の心を得た人形が人になりきれず、かと言って人形にも戻れず苦悩していると言った方が適切だろう。

 

 

 

——冷酷で無慈悲で機械的………けれど

 

「………慈愛 いや、【やさしさ】………か」

 

 

私は未だかつて、これ程までに美しくも醜悪で捻れて複雑に壊れている者を見た事がない。

 

 

………だから………

 

 

「これからも私を楽しませろ…………エミヤ・シロウ………」

 

 

 

聖職者は神の血を口に含み、その愉悦に歓喜した。

 





言峰綺礼なら出しても怒られないかなって…
いいよね?別に。因みにこの小説内設定では妻子持ち(どっちも生きてる)
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