sideフェイト
三年前、なのはが
異世界からの帰還中、油断もあったのだろう。
予期せぬ攻撃に遭い高高度から落下した。
幸い地面には雪が積もっており、命を落とすことはなかった。しかし、『ある理由』からプロテクションも張る事も出来なかったせいで重大な怪我を負う事となった。
主な負傷内容は、『右手首の骨折』『肋骨数本に罅』『複数個の内臓の損傷』『両足の複雑骨折』そして……『脊椎の重度の損傷』だ。
脊椎の損傷以外はミッドの技術をもってすれば完治はそう難しいものではない。
脊椎の損傷も厳しいリハビリを必要とするだろうが、なのはであれば立ち上がれるだろう。
だが、どうしようもない後遺症が一つだけ残った。
『リンカーコアの変質』
なのはに撃ち込まれた『ソレ』は なのはのリンカーコアを喰い荒らし、全く別の物に変えてしまった。
リンカーコアとは魔力で出来た内臓の様なものだ。それを掻き回され蹂躙されたのだ、本来であれば即死でもおかしくは無かったと言う。
それでも、なのはが生き残ったのは偏にその技量の高さ故だろう。
『変質』という風に言ったが、その実 魔力の質が変わったとかそういう訳ではない。
そして魔力量に変動があった訳でもない。
では何が変わったのか。
……それは、魔力の許容量と出力の低下だ。
分かりやすく言うならば、一度に扱える魔力の量が激減したのだ。
なのはのリンカーコアは変形し最大でもCランク相当の威力の魔法しか放つ事は出来なくなってしまった。
魔力量こそ減っていないものの瞬間威力を出す事は出来なくなってしまったのだ。
それは、なのはの代名詞『スターライトブレイカー』も放てなくなった事を意味する。
なのはは、レアスキル『収束』によって自身の持つ以上の魔力を扱い砲撃を撃つことができた。
しかし、今のなのはが其れをしようとすると魔力を制御出来ず暴走してしまう。
しかも暴走した魔力は外ではなく、内に向かう(なのはのレアスキル故だろう)。非殺傷化されていない純粋魔力が直接体内に取り込まれるのだ、体への負担は凄まじい物になるだろう。
なのはから全てを奪い去った『ソレ』はとある遺失物から作り出されたと推測されている。
未確認物体から発射され、なのはを撃ち抜いたもの。
全ての魔導師の天敵であり、純粋に人の命を刈り取るために作り出された兵器。
私はソレをずっと追い求めて来た。
執務官になったのも、最重要資料を閲覧するのと独自捜査を行うためだ。
正規の方法から、違法すれすれの方法でも情報を集め続けた。上層部の資料部にハッキングを掛けさえした。
そしてついに、手掛かりを掴んだ。
近年問題になっている質量武器の密売。ソレ自体はそう珍しい物でも無かった。…しかし、その中に一つだけ気になるものがあったのだ。
【起源弾】と呼称されるソレはなのはを襲ったものと酷似した効果を持っていた。多少違う点と言えば、なのはに使われたものよりも若干効果が低くなっていることだろうか。けれど、なのはを襲った物と関係がある事は明らかだった。
そして…それを密売している犯罪者の名前も浮かび上がって来た。
通称【アーチャー】、弓兵の名を冠する次元世界最大の裏武器商人であり、次元世界最大の違法研究者スカリエッティとも繋がりがあるとされる危険人物だ。
♢♢♢♢♢♢♢
「時空管理局、執務官フェイト・T・ハラオウンです。違法魔導師アーチャー、遺失物の密輸及び密売の容疑で逮捕します。」
静かな、けれど力強い声が響いた。
そこには金属の鎖で繋がれたシロウとフェイトがおり、正面から睨み合っている。
「まさか、執務官殿がこんな手を使ってくるとはな…正義の管理局ともあろう者が堕ちたものだ…」
「戯言に付き合う気はありません。……速やかに投降するのであれば貴方には弁明の余地が与えられます。武装を解除し私の指示に従ってください。」
「……………」
出し抜けにシロウが皮肉げな顔でフェイトを挑発する。
アーチャーに連絡を取ると言うのは正直なところそこまで難しい事ではない。しかし、違法魔導師に連絡を取るというのはやはりまともな方法では不可能で、少なからず違法行為に手を染めることになる。その点についてシロウは皮肉っているのである。
しかし、フェイトは少しも気にした様子はなく管理局員としての義務である投降勧告をした。
成熟した精神を持っているのか、それとも最早この程度の事では動じない程の事をしてきたのか、それは分からないが一筋縄ではいかない事をシロウは感じ取っていた。
チラリとシロウは自分の手首にはまった手錠を見る。
対魔導師用に製造されている物で魔法は勿論、生半可な質量武器でも破壊する事は難しい。手首を切断すれば直ぐにでも取り外せるだろうが、
切断した後接合出来ないという事ではない。スカリエッティに頼めば直ぐにでも治療可能だろうしそう難しい事でもない。
物理的に切断出来ないかと言えばそういう訳でもない。シロウのもつ投影品ならばいくら戦闘機人の強化された肉体とはいえ切断する事は可能だ。
ならば何故、出来ないのか。
シロウが商品として扱っている武器はほぼ全て、シロウの投影によって製造されている。もしその事が露呈すれば武器としての信用を落としかねない。個人のレアスキルによって作られた武器など信用に足る物ではないからだ。
ならいっそ目の前の少女を殺してしまう、という手も思いつくがすぐさま消し去る。
いくら少女とはいえ執務官だ、完全に逃げに徹せられればいくらシロウでも捕まえられる保証はない。
また、伏兵がいる可能性があるというのもある。
「黙っていないで何か反応してください。このまま沈黙を保つというのなら、反抗とみなし即座に攻撃に移ります」
考えを巡らしていたシロウは意識を上層に戻した。沈黙は僅か十数秒だった筈だがこの状況では長すぎたらしい。
(仕方ない…幸いなことに此処は市街地だ、ある程度壊しても問題ないだろう)
シロウは研究所の床を見る。見るからにボロボロで音からも中のコンクリートが劣化しているのが分かった。
そして幸運な事に
(……やるしかないか)
覚悟を決め目の前の少女に全神経を集中させる。
「いや、すまない…私も管理局員に捕まったのは初めてなものでね、少々困惑していた。そら、これでいいのだろう?」
そう言い両手を前に突き出す。手錠をはめろと言っているかのようだ。
「賢明な判断です。動かないで下さいね。」
フェイトは少し安心したようでバインドを掛けようとする。
こうした所を見ると矢張り優しい人物なのだという事が窺える。
「………それが命取りなのだがな…」
ダンッ!!ピシピシピシピシッ!!!!
「ッッ!!!!!?!?!」
突如地面が揺れ床に大きなヒビがはいる。
フェイトは足元を見るとシロウの足が地面にめり込んでいるのが見える。しかもただ踏み込んでいるのではなく、大きな衝撃がそこから放たれているようだ。
震脚、シロウが似非神父から学んだ技術の一つだ。正確には学んだというよりは直接撃ち込まれたと言った方が正確だが、そこは今言及すべきではないだろう。
震脚とは気を練りこんだ脚で大地を踏み鳴らし遠距離に衝撃を与える技だ。鍛錬を積めばこのように広範囲に渡って衝撃を伝える事ができる。
因みに更に鍛錬を重ねる事で超遠距離からピンポイントで衝撃を与えられるようになるとも言う。
床は崩壊し、次々と落ちていく。地下に空洞があったのだろう、穴が大きく黒い口を開ける。
フェイトは飛行魔法で離脱しょうとするが、シロウと鎖で繋がっていることもあり、バランスを崩され上手くいかない。
何とか体制を整えようとデバイス バルディッシュを構えるも、後ろから掴み掛かられる。
「悪いが付き合ってもらうぞ、後々邪魔されても面倒だ」
「—————————————————」
後ろから伸びたシロウの手がフェイトの首を絞め上げる。血が頭に回らなくなり、意識が遠のく。
最後の力を振り絞り懸命に喉を動かすがフェイトが何か言う前に崩れた天井の瓦礫が二人を襲い暗闇に飲み込まれた。
♢♢♢♢♢♢♢
ピチョン……
水の跳ねる音が響く。小さくもはっきりした音でフェイトは目を覚ました。
白い天井と体に掛かった毛布が目に入る。ぼぅとする頭でしばらく宙を眺めていたが、さっきまで自分が何をしていたか思い出し飛び跳ねるように上体を起こした。
辺りを見回すとそこは殺風景な部屋であり、自分はその部屋にある数少ない調度品のベットに寝かされていたのだと分かった。
ふと、首回りが寂しい事に気づく。何時もならあるべきものが無いような、そんな感じだ。不思議に思い、首に手を当てると何時もなら返ってくるはずの硬い感触がなかった。
つまり、デバイスを取り上げられていた。
嫌な汗が噴き出し、直ぐさま辺りを警戒する。
デバイスを取り上げられている、ということは自衛の手段が限られるという事だ。ほぼ皆無と言ってもいい。デバイス無しで使える魔法ではそうそう戦いになったりはしない。
ガチャ
そうフェイトが神経をすり減らしていると、突然ドアが開く。
アーチャーが出てくるかもしれないと最大限警戒するが、予想に反して姿を見せたのは人の良さそうな青年だった。
「よう、目が覚めたか?」
赤毛に優しげな風貌、筋肉質だが細身の青年が声を掛ける。人型のザフィーラより少し小さい位の背を見上げながらフェイトは自体の把握を急いでいた。
「…えっと、その……あぁ…」
「あぁ、大丈夫。説明はゆっくりするから落ち着いてくれ。それよりお粥作ったから食べないか?」
聞きたいことが多過ぎて上手く言葉にできないフェイトに青年はトレイに乗せたお粥を差し出す。
蓋がされているにも関わらず良い香りが漂ってくる。
「いや、でも……『キューーーー』」
断ろうとしたフェイトだったがタイミング良く、或いは悪く可愛い腹の虫の音が響く。
青年は再度トレイを差し出す。
「……ありがとう…ございます…………ええっと…」
フェイトは笑顔でお粥を差し出す青年から顔を真っ赤にさせながらトレイを受け取りお礼を言おうとしたが、名前を聞いていなかった事に気づく。
「そう言えば…お名前をお聞きしてませんでした…宜しければ伺っても?。」
フェイトはトレイを膝の上に乗せつつ言う。青年の方もつい忘れていたという感じで あぁと息を漏らした。
「俺の名前はシロウ。シロウ・エミヤだ。よろしくな」