戦闘機人 code.Archer   作:國真流

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14/透過

 

 

 

 ザブッ ザブッ

 

 ザブッザブッ

 

 

 水の流れる狭い空間をシロウが歩いている。彼の背中には気絶した金髪の少女が乗せられており、その腕には切れた鎖がぶら下がっていた。一歩歩くたび、重い水の音が響くが少女に目覚める様子はなく意識は深く沈んでいることがわかる。

 

 

「それにしても……参ったな…」

 

 シロウが背中をチラリと見やる。

 

 シロウは背後からフェイトを絞め落とし下水道に逃げ込んだ後、鎖を切ってフェイトを置いていき、早々に退散するつもりだった。

 しかし、思いの外崩落が激しく放置していれば彼女は生き埋めにされかねない状況だった。

 デバイスも既に起動しておらずバリアジャケットも纏っていない状態の彼女放っておけば死は免れなかっただろう。正直なところ殺しておいた方が後々楽かとも思ったのだが、何となく気が引けてこうして背負って歩いているという訳だ。

 

 が、結局のところシロウはフェイトを持て余していた。執務官と言えば管理局のエリートだ、持っている情報も有用なものが多いだろうが当然対尋問の訓練もつんでいるだろう。

 デバイスから情報を抜き出すことも考えたが、そんな技術はシロウには無いし、あったとしても生半可な技量ではプロテクトを破る事は出来ないだろう。

 

 そんな訳で色々と頭を悩ませながらフェイトを背負って下水道を歩いているのだった。

 

 

(取り敢えず…一般人になりすまして助けた感じにすれば良いか、………信じてくれそうな言い訳を考えなきゃな。)

 

 重い水を掻き分けるようにして歩き出口を目指した。

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 調度品があまりなくこざっぱりした部屋、その部屋のベッドにフェイトは座り目の前の男性の話に耳を傾けていた。

 

「…………では、下水道の排出口に引っかかっていた私をシロウさんが助けてくれた……と言うことですか?」

 

「……あ、ああ そうなるな…」

 

 お粥を綺麗に食べ終えたフェイトに嘘の説明をしたシロウだが、案の定、内心冷や汗をかきまくっていた。

 正直、下水道の排出口に引っかかっていたなんて嘘はバレない無いわけがなさそうだったし、かと言って上手い言い訳が思いつくのかと言えばそう簡単なものでもなかったのだ。

 

 フェイトは一旦目を閉じて、頷くようにしてから口を開いた。

「そうですか……助けて頂きありがとうございます。」

 

 一瞬の静寂。フェイトが何か粗相をしたのかと困惑の表情を浮かべ始めた頃ようやくシロウは反応した。

 

「えっ?、ああ、どう 致しまして……」

 

 まさか本当に信じるとは思っていなかったからか、反応するまでに少し間が空いた。お粥に入れた自白剤の効果かとも思ったが、それではあまりに効果が現れるのが早いので、これはこの少女生来の素直さなのだろう。

 

 と、シロウが安心し肩の力を抜いた頃 急にフェイトの顔色が険しくなる。口元に手をやり眉間にしわを寄せ何か考え事をしているようだ。

 

「………それにしても…」

 ビクッ!!

「わざわざ….クラナガンまで私を連れてきた理由は何だったんでしょう…………情報を得に?でも開放する理由が………」

 

 嘘がバレたのかとシロウは冷や汗をかくが、どうやら違ったようでシロウがアーチャーだとは未だ気づいていなかった。

 考えが口から出ているのは流石に自白剤のせいだろうか…意識を朦朧とさせ考えを纏まらせなくする程度の効果しか無いはずなのだが、まさか考え事を素で口に出すほどドジっ子ではないだろう。

 

「……考えてもしょうがない…か、……あの、シロウさんっ」

「どうした?」

「バルディッシュ……えぇと私のデバイス知りませんか?首元に掛かっていたはずなんですけど…」

 

 一旦落ち着いて他の事から片付けることにしたのか自身の相棒の所在を尋ねる。

 やはり武器が手元に無いのは落ち着かないし、単純に相棒を心配しての事もあった。

 

「あの黄色い三角のやつか?あれなら俺が持ってるよ…ほら」

「あっバルディッシュッ…」

「けど、どっか故障してるのかもしれない…一応手入れはしたけど、ウンともすんとも言わなくてさ」

「大丈夫……みたいです。見たところ自己防衛モードに入ってるだけみたいですから」

 

 シロウが取り出したデバイスを受け取り確認する。いつも以上に綺麗に磨かれているのは、シロウがやったのだろう。下水道を通ってきたにしては汚れがない。

 

「それ…ちゃんと動くのか?」

「はい、特定のコードを言えば直ぐに…で……も、あれ………?」

 

 デバイスを手に持ったままフェイトの体がぐらりと傾く。

 ベッドに手をつき体を支えるも目の焦点はあっておらず不規則に揺らいでいる。

 

(やっと本格的に効果がではじめたか…)

 

 その様子を見つつシロウはベッドの脇に椅子を置きフェイトの姿勢を正させる。フェイトは一切抵抗せず、なすがままになっている。

 

 シロウがフェイトに飲ませた薬は一般に自白剤と呼ばれるものだ。勿論スカリエッティ印の特別製で、通常の物よりも強力かつ後遺症が残りにくく使用の痕跡もほぼ残らない優れ物だ。

 

 一定時間、対象を茫然自失させ尋問出来る。複雑な質問は難しいが簡単なものなら大抵の事は吐かせる事可能だ。

 シロウも姿勢を正し、険しい顔を作ってフェイトに向き直る。

 

「…次元犯罪者アーチャーとのコンタクトのとり方は?………」

「………クラナガン…郊外にある地下街の…掲示板から………」

「何処でそれを?」

「………裏町の…情報屋…」

 

 主に今回の囮捜査に関する事を聞いていく。直近の情報の方が正確に引き出せるし、何より今後の商売方法の見直しについて考える為だ。

 

「捜査は何人で行った?」

「…単独……で」

「……何故?」

 

 囮捜査は非常にリスキーな方法だ。一人でこなすには危険すぎる、例えば法に触れるものだったとしても信用できる人間の一人や二人連れて行くべき作戦だ。

 

「………な…」

「な?」

「……なのは…が、心…配する…、なの…はかわ……いそう.ダメ…危けん………」

「ッ!おいっ!どうした」

 

 徐々に言葉が崩れて行くフェイトの肩を掴み揺する。どうやら地雷を踏んだようだ。

 

「……起…源弾、なの、は殺なな…の、痛い……見つけ……た…聞かなく、ちゃ滅だiじょう、。ぶ?また氏が助けて?アーちャー…憎ぃ管理、局規則なで———」

 

 タンッ、とフェイトの顎を揺らし意識を刈り取る。

 正気が壊れる前に意識を殺した。これなら起きた頃にはほぼ普段通りに戻っているだろう。

 

(壊しかけるなんて…まだまだ未熟だな……)

 自嘲するように笑おうとするが戯ける事も出来ず沈黙する。

 

 一通り自己嫌悪した後、フェイトの発言に何度も出てきた『なのは』と言う単語を思い返す。

 

『なのは』、と言う名前には聞き覚えがあった。

 

 

『高町なのは』、エースオブエースと名高い管理局のエリート局員だ。その活躍はめざましく局内はおろか、ミッドチルダ全域にその名は知れ渡っている。

 

 確か数年前事故に遭い、魔導師生命を絶たれたかに思われたが僅か一年で前線に復帰したと言う伝説を持つ。

 後遺症のせいで武器であった極大砲撃が失われたにも関わらず、未知の古流武術を新たに体得し日夜犯罪者と戦っていると言う。

 

(………復讐…か…)

 

 一般には事故として知らされているが、実はなのはの撃墜は事故ではなく故意に引き起こされた事だ。

 その事はシロウも知りすぎるほどに知っていた。

 

 あの事件はスカリエッティの、ガジェットに起源弾を搭載すると言う計画の最終テストとして起こったものだった。

 起源弾を使用する実験という事で、当然シロウもその場にいた。シロウにとって魔力なしの肉眼で目視できるギリギリの距離、約3km先から観察していた為 探知はされなかったが確かにシロウはその場にいた。

 

 ドクターが実験結果に喜びの声を上げる中、なんとも言い難い嫌な感触が胸に残ったのを未だに覚えている。

 雪の中、小さく赤く広がるシミに感じもしないはずの生臭さを覚えた。

 

 雪、というのがいけなかったのかもしれない。もう欠片しか残っていない遥か遠い記憶にいつかの誰かを重ね見たのだろう。

 酷く残酷でけれど大切なものを踏みにじった様な気がして、ただ気分が悪かった。

 

 

 目を落とすと、フェイトが穏やかな顔で眠っている。胸の内に狂気を孕ませていながら、可愛らしい寝顔を見せる彼女にシロウは肺を潰されるような感覚に襲われた。

 何という感情なのかは知らなかったが、無性に誰かの声を聞きたくなるそんな何かだ。

 

 乱れたフェイトの髪を梳く。くすぐったそうに表情を変える様子を見ていると、ほんの少し呼吸が楽になる。

 しばらくするとフェイトが一層安心したような顔で一定のリズムで呼吸を刻むようになった。

 その傍でシロウはいつかの様にただ座り、ただそこに居続けた。

 

 自分でも気づかない自責の念に駆られながら。少女に闇を植え付けた自身を罰する様に。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 目を覚ます。

 陽光が部屋を照らし、鳥の鳴き声が聞こえる。考えの纏まらない頭で、辺りを見回すと見知らぬ部屋に居ることがわかる。

 

『おはようございます、マスター』

 

 バルディッシュの声で本格的に目が覚めた聞き慣れた声に地に足がついた様な安心感を得る。と、同時に自分がシロウに助けられお世話になっていることを思い出す。

 

「ッ今日何日?」

『新暦七十年の五月四日です。アーチャーへの捜査から丸二日経っています。』

 

 サッと顔が青くなる。なのはも、はやても忙しいとは言え丸二日も連絡が途絶えていれば心配するだろう。

 そう考え直ぐに連絡を入れようとするがバルディッシュは先刻承知だった様で。

 

『既に無事との旨は伝えてあります。』とのことだ。

 

 コンコン

 

 安心し脱力したところでドアがノックされた。入ってきたのはシロウだ。シックなエプロンを身につけておりなかなか似合って居る。

 

「どこか悪いところとかないか?」

「はい、おかげさまで。……昨日は済みませんでした。急に意識を失うなんて。」

「………気にするなよ、目が覚めたのも夜だったし疲れてたんだろ。大事なくて何よりだ。」

 

 本当に心配してくれていたのだろう。心から気にかけてくれる彼の優しさが素直に嬉しかった。

 

「管理局には俺から連絡を入れといた。迎えが来るらしいからそれまでゆっくりしていってくれ。」

「…何から何までありがとうございます。お礼はまた、落ち着いた時に…」

「いいって、気にするなよ。こういう時は助け合うのが当たり前だ。まぁもし本当に恩義を感じてくれてるなら、俺 喫茶店やってるからさ、今度は客として来てくれよ。」

 

 喫茶店、と言うのを聞き翠屋を思い出す。なのはと一緒に来てみるのもいいかもしれない。

 

 

「はい、じゃあまた友達と一緒に来ますから待ってて下さいね。」

 

 

 

 

 妙にスッキリした朝、忙しいスケジュール帳にまた一つ項目が追加された。





なのはさんは不屈なんですよ(震え声)
弱体化とかしない。寧ろ強化していく方向で行く。なおSLBは撃てない模様。
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