目が覚める、場所は自宅のベッドの上。
まだ陽は昇りきっておらず、外も薄暗い。
『なのは、行こう。今日も大忙しだよ。』
見てみるとフェイトちゃんが立っていた。薄く微笑んだ顔に何処か安心させられる。何故かバリアジャケットを着ており、バルディッシュを携えていた。
『ほんまお寝坊さんやなぁ、早くせんと置いてくで〜』
その隣にいたのははやてちゃんだった。いたずらっ子の様な愛嬌のある声が響く。同じくバリアジャケットを着ており、後ろの方にシグナムやヴィータを控えさせている。
返事をして起き上がり、ベッドから降りようとする。
けれど、床に足を付けようとした瞬間、
『ダンッ!!』
体が地面に叩きつけられた。
訳もわからず自分の足を見てみると……そこには何もなかった。
そこにあるはずの脚が、そこには無かった。
それでも挫けず腕で上体を起こすと、また体が倒れた。
腕だ。
今度は腕が無くなっていた。
『カツン、カツン』
皆んなが歩いていく。
皆んなが遠くなっていく。
地虫の様に這いずって何とか付いて行こうとするが、距離は縮まるどころかどんどん開いていく。
『——————————』
いくら叫ぼうとしても声が出ない。出るのは壊れたオモチャの笛の様な、空気の擦れる音だけだ。
『————————————————————』
背中はもう消え入りそうな程遠い。
『——————————』
這う。
『———————』
這う。
『—————』
這う。
『——』
気が付けば……一人になっていた。
「ッ〜〜〜〜〜〜〜〜。」
今度こそ目が覚める。痛い程に心臓は鼓動し、パジャマは汗でぐっしょりと湿っており気持ちが悪い。
「はぁ…はぁ…」
吐く息は熱く、荒い。
息を少し落ち着けた後、恐る恐る布団をめくる。
ある。
そこにはしっかりと脚が付いていて、恐怖に震えている膝が見える。
膝を抱き寄せ震える肩と合わせる様に、腕で自分を抱きしめる。
そうして自分を確かめた。自分がまだそこにあるのだと、自分で自分を安心させた。
♢♢♢♢♢♢♢
降りしきる雪。
奪われていく体温。
動かない体。
今でも、鮮明に思い出す。
突然、激痛が全身を襲い、空に投げ出された。
風に巻かれる感触を感じることもできない程の痛みだったせいか、落下の恐怖は無かった。
地面に叩きつけられた痛みはそれほどでもなかったけれど、身体から何かが抜け出て行って、ゆっくり意識が閉じていく恐怖は忘れられない。
近くにいるのに、遠く感じる声が必死に自分の名を呼んでいたのを覚えている。
その声を頼りに、私は生きるのを諦めなかった。
自分が必要とされている。それだけで、どんな痛みにも どんな苦しみにも耐えられる。そう…信じていた。
医師に宣告されたのは、魔導師生命の断絶。
たとえ復帰できたとしても、第一線には戻れないだろうとの事だった。
呆然とする私に渡されたのは管理局の事務に関する資料、医師なりの励ましだったのだろう。魔導師として闘う事はできなくてもやれる事が有るのだと。
『君はもう、十分に活躍した。もう休んでもいいんじゃないか?』
初老の医師の言葉に、私はどうしても頷くことができなかった。
リハビリは過酷だった。
不随となった下半身にミッドの医療で擬似神経を形成し、動かせる様に訓練した。
立てるようになるまで半月、歩けるようになるまで一月、走れるようになるで三月、戦闘訓練ができるようになるまでに五月掛かった。
擬似神経は基本的に人体と馴染まない。その為、初めは動かすだけでも激痛が走る。一歩進むたびに、ナイフで刺し貫かれる様な痛みが脚を襲う。
まるで人魚姫のようだ…と自嘲する。
『——人魚のひいさまは言いました。人の脚が欲しいのだと。
海の魔女は言いました。いいとも、人間になったお前は美しかろう。それで王子を拐かすが良いさ。けれど忘れてはいけない、その脚は鋭い刃物を踏むかのようで、今にも血が溢れるかと思うほどだろうよ。
構いません。おひいさまは声を震わせて言いました。
ところでお前さん、お礼もたっぷりいただかなきゃならないねぇ。魔女は言った。私が望むはそう軽少なものではないよ、お前の声を頂こう。なぁに心配するでないよ、お前の浮くような美貌があればたとえ声がなくとも王子を惑わすことは難しくなかろうさ。——』
この場合、私が支払ったのは魔法だろうか。
別に何かの対価というわけでは無かったが、どうしても私の姿にダブって見えた。
魔力の許容量の低下。何よりもそれが私にとって重い後遺症だった。
飛行魔法に関して言えば、元々高速機動をするようなタイプでは無かったので、さして問題にはならなかった。
けれど、砲撃魔法が殆ど使えなくなったのは、私にとって最大の武器を奪われたに等しかった。
Cランク相当の魔法では時空犯罪者と渡り合うのは難しい、少なくとも第一線で闘う事は出来ない。
それでも…それでも夢を諦めきれず、ただ訓練に明け暮れていた頃、医師に貰った資料が目に入った。
大きな封筒にまとめて入れらており、それなりの厚さがある。
結局捨てる事も読む事も出来ず机の上に放っていたそれを、何となく手に取り開く。
すると、大きな文字が目に入った。
【魔法が使えなくても——】
『魔法が使えなくても』闘う事は出来る。私はその事を忘れていた、勿論その冊子には『後方支援も立派な闘いだ。』という旨が書かれていたのだが、私が思い出したのはその事では無かった。
いる。魔法が使えなくても、強い人は。それも身近に、身近すぎて気がつかなかった程に。
【地球:高町家】
「私に………剣を教えて下さい。」
なのはは三つ指をつき、深く頭を下げる。
正面からは顔色を伺う事は出来ないが、冗談などではなく真剣な心持ちだという事がその雰囲気から察せられる。
対するは、父 士郎。 兄 恭也。姉 美由希。
三者三様の反応を見せている。
士郎はただ哀しそうになのはの双眸を見つめ、
恭也は眉間に皺を寄せなのはを威圧し、
美由希はそんな二人をオロオロしながら見ている。
なのはの発言から数秒。しん、と辺りは静まり返り美由希が沈黙に耐えきれず何か場を和ませようか真剣に考え始めた頃、ゆっくりとそして重々しく、士郎が口を開いた。
「父さんは…正直安心していた………。なのはがもう戦わなくて良いかも知れないと聞いて、安心していたんだ。」
「……………………………」
「けど……それじゃダメなんだな?」
「………ごめんなさい。うん、私を待ってくれている人がいて私もそこに居たいの……だから………」
なのはの言葉に恭也は目を伏せ美由希も顔を沈ませる。
大きな声ではない、力強い声でもない、はっきりした物言いでも無ければ、説得力のある言葉でも無かった。
けれど、そこには決して曲がらない何かが有った。
「……恭也、なのはに稽古を付けてやれ。」
「ッ父さん!」
士郎の言葉に恭也が怒気を露わにするが士郎は眼光だけでそれを封殺する。双眸に睨まれた恭也は悔しげに唇を噛んだ。
「……魔法の事が無ければどちらにせよ決めなければならなかった事だ、なのはが必要だと言うのなら
その言葉になのはは喜色を浮かばせる。場の空気はほんの少し軽くなったような気がした。
恭也はまだ何か言いたげだったが、何とか納得したようだ。
「なのは、これから俺たちが教えるのは【御神流】、人を守り人を殺す為の技術だ。本来お前が触れる必要のない、触れてはならない技術だ。その事を決して忘れず胸に留めておきなさい。」
そう士郎が締めくくると、なのはは静かに再度頭を下げた。
♢♢♢♢♢♢♢
新暦71年
クラナガンの都市部で二人の少女が歩いていた。
白を基調にした服を着た栗毛色の髪の少女と落ち着いた色の服とは対照的な煌びやかな金髪の少女だ。
むろん、なのはとフェイトである。
「なんだか、二人でこうして歩くのは久しぶりだね」
「私もフェイトちゃんも休日が被るのは珍しいから…はやてちゃんも一緒なら良かったんだけど…」
「実習なら仕方ないよ…はやては今大事な時期だし。」
はやてだけは地上で司令官としての実習訓練で休みが取れなかったのだ、と言うより最近のはやては ほぼ休みなしなのだが…
「今日はどこ行くの?」
「今日はシロウさんの所の喫茶店に行こうかなって」
「フェイトちゃん…本当にシロウさんのトコ好きだね」
「すっ、好きって!そんなのじゃないよ…だだ……その…」
「うんうん、分かってるよシロウさんのケーキ、美味しいもんね」
「…そ、そうだよね〜」
ニヨニヨとしながらフェイトに笑いかけるなのはと顔を赤らめるフェイト、多分なのは分かってやっているのだろう。何がと言えばおしまいなのだが。
けれど、なのはもシロウに感謝の様なものは抱いていた。一時期不安定だったフェイトがシロウの店に通う様になってから落ち着きを見せたからだ。
なお最近では週一のペースで通っており、昼食のテイクアウトも頻繁に頼む様になっているらしい。
そうしてちょっぴり緊張しながら歓楽街に入り、シロウの店まで辿り着いた。
落ち着いた雰囲気の喫茶店でしっかり手入れされているのが一目でわかる。地下一階と地上一階の二階建てで地下は主にバーとして表は喫茶店として経営しているらしい。
けれど二人の表情は残念そうなものだった。
【臨時休業】
と言う立て札が掛かっており、いつもなら少なからず人のいる店内は閑散としていた。
「今日はついてないね」
「仕方ないよ、シロウさんにも事情があるんだろうし、それなりの頻度で臨時休業してるのは有名だから」
シロウの店は大体二週間に一度のペースで臨時休業する。行きつけの客は大体この事を知っているし、勿論フェイトも知っていた。
何故、臨時休業しているのかはよく分からなかったが、前にフェイトがシロウに聞いた時は【副業】とだけこっそり教えてくれた。
フェイトはため息をつき心底残念そうにしているとクイクイッとなのはがフェイトの裾を引っ張った。
その顔は、どこか焦っている様でいて恥ずかしげでもある。フェイトもなのはの意図を察すると顔を赤らめた。
二人がどこにいるのか、『歓楽街』だ。
要するに大人なお店があったりする。二人が微妙なお年頃というのもあっただろうが、前に訪れた時知り合いの局員の男性が○館から出てきたのを目撃した以来、あまり外で長居はしないように心がけていたというわけだ。
二人はそそくさとその場を後にし都市部に戻った。
二人はこれからの予定を立てるために適当なお店にでも入ろうかと喫茶店を探していた。
そんな時だった、二人の端末に通信が入った。
『至急!応答願います。近隣の臨海空港で火災が発生しました。
増援願います!!』
余程、事態が切迫しているのだろう。オペレーターの声に余裕は無かった。
「フェイトちゃん!!」
「うん、行こう」
二人はすぐさまバリアジャケットを纏い飛翔する。
流星とも見紛う速度で二つの光が宙を流れた。
♢♢♢♢♢♢♢
そこには地獄があった。
燃える火、焼ける壁。倒れた柱、割れた床。黒煙が上がり、逆巻く火の風が肌を炙った。
そんな地獄を一人の少女が歩いている。まだ幼い弱々しい女の子だ。煙を随分吸い込んだのだろう、足元はおぼつかず意識も半ば朦朧としている。
「あつい…あついよぉ、…お姉ちゃん…どこぉ……」
今にも消え入りそうな意識で必死に助けを求める。けれどそんな彼女を更なる災禍が襲う。
背後の石像、と呼ぶには巨大過ぎる石柱が傾き始めたのだ、無論少女はその事に気付いていない。
ただひたすらに助けを求める。
そんな少女に石像は無慈悲に倒れ———無かった。
石像は中心で真っ二つに分かたれ少女には倒れなかった。
そのはるか背後、一人の女性が立っていた。
剣の一振りで石像を割り、その余波で少女の周りの炎も消しとばした。
炎を物ともせず、剣を片手に佇む姿は一種の神々しささえ感じられる。
すぐさま女性は少女にかけより抱き上げた。
「もう大丈夫、助けに来たよ」
彼女は管理局のエースオブエース。
白き法の使者、高町なのはだ。
なのはさんの強さを分かりやすく伝えるためにいくつか例を書きます。
『禁書』空を飛べる神裂さん
『うたわれ』ムツミとゲンジマルのフュージョン
『H×H』刀を使えるゴンさん※あくまでイメージです
大体こんな感じの雰囲気です。要するにチート