戦闘機人 code.Archer   作:國真流

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16/焦土

 

 

 

 

「なんだよ……これ」

 

  シロウは目を見開き、言葉を零した。

 

 

 逃げ惑う人々、助けを求める声。

 ほんの少し前までは極々平和な場所だったそこは、今や見る影もなく火の手が上がり、シロウの肌を炙っている。

 炎が壁を這い黒い跡をつけていく様子は、シロウのナニかを想起させる様で、胸に石を置かれた気がする程だった。

 

『地獄』

 

 自然と、この言葉が思い出された。

()()………()()()()()

 

 赤く焼けた大地、立ち昇る黒煙、溶けた柱、漂う脂の匂い、ヒトガタの黒い炭、この身を呪う怨嗟の声。

 そして、黒い太陽。

 

 背中が粟立つ。

 これ程鮮明に思い出せる記憶が今までにあっただろうか、我に帰り記憶から意識が浮上してもまだはっきりと映像は目の奥に張り付いている。

 前に向き直ると、記憶にほど近い惨状が広がっている。

 唯一の違いは死の気配がまだ希薄なことだろうか、その事に少し安堵した。

 

 

 

 そんな時、声が聞こえた。

 助けを呼ぶ声では無い。誰かを呼ぶ声だ 誰かを探す声だ、しかもその声はよりにもよって()()()()()()()()()()。美しい物だ、誰か大切な人を思いやってのことなのだろう。

 だが…悪い事に、この声は炎の奥から聞こえる。

 正確には、炎で遮られ奥の空間だろう。まだそのあたりまでは火の手が回っていないのかもしれない。

 

 

 シロウは辺りを見回す。先程より人の数は減り、残っていたとしても自分や家族の手当てで人の事に構っていられそうな者は誰一人居なかった。

 

 シロウを除いて。

 

 髪を搔きあげ、バイザーを着ける。

 

 褐色白髪の青年は藍の外套を身に纏い、炎に一歩踏み出した。

 

 ♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 フェイトの囮捜査を何とか切り抜けてから数週間経ち、表の仕事も裏の仕事も今まで通りに運営できる様になった。日々の生活に(忙しいとは言え)余裕が出来、今も早朝の仕込を終え緑茶を片手に寛いでいた。

 だがシロウは分かっていた。というよりいい加減学んでいた、こう言う日に限って面倒ごとは舞い込んでくるのだと。

 

『やあ、シロウ。少し仕事を頼みたいんだが、少しいいかな?』

 

 突然シロウの目の前にウィンドウが開き見慣れた顔が映し出される。ニヤニヤと粘着質な笑みを浮かべ、何気にいい声をしている男。無論、スカリエッティだ。

 シロウは辺りを見回すが近くに端末らしきものは無い。自分の端末も今は少し遠いカウンターに放り出されている。

 

『ああ、これは新型の通信機でね、ナノサイズの粒子状の機体な上に一切魔法を使っていないから見つけるのはまず無理だよ。

 風で簡単に飛ばされるのが利点であり欠点だがこれから改善するつもりさ。』

 

 どうやらドクターの仕業らしく、お披露目も兼ねていた様だ。この分だと既に管理局にも散布済みなんだろうな、などとシロウは適当なことを考えたが、仕事の話だと思い出し顔を引き締める。

 

『そう難しい任務ではないから気負う事はないよ、前に話したレリックは覚えているかい? その在処が分かったからあの娘達から誰か派遣するつもりなんだが、なにぶん不安でね。

 なにしろ、あまり人気の多い場所での活動はさせていないものだから目立ってしまうかもしれない。」

 

「人気の多いって事は街中とかか?」

 

「いや、場合によってはもっと多い、空港だよ。それもミッドだけでなく他世界からの交易船も停泊する大型のね。レリックも発掘品として他世界から時空航行艦で運ばれて来る予定だ。」

 

 成る程、空港というのは広くて複雑に見えるが、その実何処にでも人がいて隠れる場所が少なく大概開けている。ドクターが不安がるのも無理はない。という事は近くで騒ぎを起こして陽動でもすればいいのだろうか?。

 

「シロウに頼むのは任務のフォローだよ。と言っても何か明確な指示がある訳じゃない、もし何か問題が起こった時収拾をつけて欲しいのさ。

 敢えて言うなら管理局の動向を知らせてくれるぐらいかな、それ以外はすぐ動ける位置で待機していてくれればいいよ。」

 

 

 その後ドクターは、場所や日時のデータを粗方シロウに送りつけさっさと通信を切ってしまった。

 毎度のことながら、嵐の様な人だと思いつつシロウは嘆息する。

 

 

(それにしても……フォローか、何も起こらないといいんだけどなぁ)

 

 そう思いつつも、何かが起こると言う確信の様なものがシロウにはあった。大抵ドクターからの依頼は碌な事にならない上に、レリックは前回のこともある。

 

 と言うのも、前回レリックを発見した時に小規模ながら次元震が起こったのだ。シロウは直接関わっていなかったが、ある世界の違法研究所が一つ壊滅したらしい。

 幸い人的被害はほぼゼロな上に管理局にもそこまで認知はされていないと言う。前者はともかく、後者はドゥーエとクアットロの情報操作によるものだが。

 レリックは莫大な量の魔力を内包した遺失物だ。何かの拍子に暴発なんて事に成りかねない。もう相当な数を集めているとは言え気の抜けない事には変わりない。

 

 シロウは飲みかけた緑茶を一気に飲み干し、軽くため息をついた後その日の営業のため立ち上がった。

 

 

 ♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 臨海空港は人で溢れており、予想以上に賑わっていた。休日ということもあるのだろう、家族連れの姿が多く見られる。

 シロウはそんな中一人寂しく、空港の入り口付近にあるカフェで時間を潰していた。

 

『シロウ兄、もうちょっとでポイントに到着するんだけど大丈夫…だよね?』

 

 不意に声が届く、セインのものだ。丁度壁か床かを潜行中なのだろう水中にも似た音も一緒に聞こえてくる。

 結局、今回の任務はセインの単独との事だった。厳密にはシロウがいるので単独では無いのだが、基本何もしない予定なので単独といっても差し支えない。

 

 正直シロウも能力的にセインが選ばれると予想していたので驚きは無かった。因みに次点でチンク、或いはトーレが候補に挙がっていたが面倒臭いので結局セインになった。

 

『一応、センサーとか罠には気をつけてな。警備員が巡回してるかも知れないから頭出す前に、指でちゃんと確認しろよ』

 

『りょうかい!』

 

 指で確認、と言うのはセインの固有武装【ペリスコープ・アイ】の事だ。セインの両手の指先に付いており普通の眼と同じくらい正確な性能を持つ。また、魔法的電子的ピッキング機能もあり今回のような任務にぴったりの武装だ。

 セインの能力もあいまって雑用を押し付けられる要因にもなっている。

 

 

 シロウはコーヒーを手に持ちゆっくりと味わう。意外にも何事もなく任務が進行しているからだろう、少し気が抜けているようにも見える。

 ふと、店外に目を向けると仲の良さそうな姉妹が空港内に走っていくのが見えた。姉と思しき方が妹の手を引いている。和やかな風景は晴天ということもあって平和を象徴しているようだ。

 

 そうして外を眺めながら寛ぐこと十数分、セインからの連絡が無いことを訝しんでいると…

 

 空気が震えた。

 

 

 突風が窓ガラスを割り、椅子やテーブルを吹き飛ばす。外を歩いていた人々も地に伏し悲鳴を上げている。

 そして遅れて熱波がシロウ達を襲った。見ると既に空港内には炎が上がっており、助けを呼ぶ声が聞こえてくる。

 

 サイレンが鳴り響き避難誘導のアナウンスが流れる。半狂乱になりつつも多くの人が逃げていくのを尻目にシロウはセインに通信を繋げていた。

 

「セイン無事か!」

 最優先で妹の安否を確認する。

 

『……ごめん!、シロウ兄!失敗しちゃった』

 ノイズ混じりだが元気そうな声にシロウは少し安心する。セインは落ち込んでいるようだが取り敢えず命に別状は無さそうだ。

 

「何があった?」

『レリックはすぐ見つかったんだけど、鍵がかかってて…しかも前時代的なアナログなやつ。無理やりこじ開けようとしたらすっぽ抜けて他の遺失物にぶつかっちゃって…』

 

 語尾が小さくなっていくセインの説明を聞き、シロウは大体の経緯を悟った。大方他の遺失物と共鳴して爆発したとかそんなところだろう。

 

「レリックは?」

『たった今回収したよ。それで……どうしたらいいかな?」

 

 恐る恐るといった様子でセインが訊く。

 

「セインはレリックを持ってラボに帰れ。説教は後でたっぷりするから、覚悟しておくように」

『……はい…』

 落ち込んだ顔が眼に浮かぶようだったが、怒る時にはしっかり怒る。正直自分が怒らなくても姉組がこってり絞るだろうなとも思ったが甘やかしてばかりでは兄失格だ。

 

『シロウ兄は?』

「俺は少し様子を見てくる、流石にこのままじゃ寝覚めが悪いしな」

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「…スバルーーー!!何処ーーー!!スバルーーーーー!!!」

 

 半ば瓦礫と化した建物の中を少女が歩いていた。怯えながらも気丈な態度を崩さずに懸命に妹を探している。

 

「大丈夫……私はお姉ちゃんだもの、私が……私がスバルを守らなきゃ……」

 

 目に涙を浮かべながら妹の名を呼ぶ。しかし辺りに人影は見えず、虚しく声は木霊するだけだった。

 

 近くにはいないと悟ったのか、他の場所に移動しようとした時だった。

 

 体から重量が消えた。

 

 丁度少女が立っていた位置の周辺が崩れ下に落下し始めたのだ。

 辺りにばかり気を取られていたからだろう、彼女は初め自分が落ちている事にさえ気が付かなかった。

 けれど、漠然と死を予感していたのかただ胸に穴が空いたような虚無感を感じていた。

 

「………おかあさん」

 

 その一言にどれだけの意味が込められているのだろうか。他人には…否、少女自身にさえも推し量ることはできないだろう。

 

 

 

 突如、閃光が奔る。

 

 

 少女は気がつけば抱きかかえられていて、安全な場所に運ばれていて、命を救われていた。

 

「大丈夫か?」

 訊いてくるのは白髪の男、藍の外套を纏い優しげな笑みを浮かべている。実はバイザーの所為でちゃんと表情を読み取れないので少女の想像ではあるのだが。

 

 急な事で声を出せなかったのか、頷く事で肯定する。

 その時になって初めて男は少女の顔を見たのか驚いたような、それでいて悲痛な顔をした。

 

 何か粗相をしたのかと不安になったが、どうやらそうではないようで男は『気にするな』と頭を撫でた。

 

「君の妹も既に保護されている、だから…もう我慢する事はない」

 不意にかけられた言葉で緊張が解ける。嗚咽が漏れ、涙がとめどなく溢れてくる。

 抱きかかえられたまま、少女は男の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。いくら聡いと言ってもまだ子供、本来なら甘えるはずの立場だ。無理もない事だろう。

 

 暫く泣いていた少女だったが、やがて安心したのかそのまま眠ってしまった。

 

 男は黙って通路を歩く、優しく、少女を抱きかかえ起こさないようにゆっくりと。傍からみると兄妹のようにも写っただろう。

 少なくとも男が少女を見る顔は兄妹のそれであった。

 

 

 そこに、また一人少女が現れた。黒衣を纏い、金の髪を靡かせた少女、フェイト・T・ハラオウンだ。災害地の真っ只中でありながら、煤すら付いていない事からもその力量が伺える。

 その目は明らかな敵意を示しており、手に持つデバイスは油断なく男に向けられている。

 おそらく、男の腕に眠る少女がいなければ警告すらせず戦闘を開始していただろう。

 

 対する男は無反応だった、さしたる敵意もなければ警戒心も無い。数秒の間こそあったが、男は何でもないかのように近づいていった。

 フェイトは警戒するように構えを取るが、男はゆったりとした動きで両腕で抱きかかえた少女を彼女に差し出した。保護しろ、という意味だろう。

 

「何のつもりですか……アーチャー……」

 

 思いもしなかった行動に困惑したように訊ねるフェイトだが、アーチャーはその疑問に答える事は無かった。受け渡すと同時にさっさと背を向け、歩き出す。まるで警戒していないかのように、事実警戒していないのだろうが無防備に背中を晒して姿を消した。

 フェイトも少女の保護を優先と考えたのか追撃はしなかったが、アーチャー対し複雑な気持ちを抱かずにはいられなかった。

 ただ、今自身の腕の中で眠る少女の綻んだ顔だけは決して頭から離れる事はなかった。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 ミッド クラナガン近郊、

  臨海空港にて発生した大規模火災

 

 軽傷者114名

 重傷者22名

 死者0名

 

 なお、管理局も知り得ない事だが約1名の女性が臀部に重傷を負った模様。一時、重体となったが回復し、現在は自宅療養中である。

 

 

 

 





本編とは全く関係ないのですが次回は更新が遅れます、たぶん。
イベント周回(予定)と試験期間がブッキングしていて修羅場です。
正直、書いてる余裕はありません。
もし書いてもギャグになりそう。
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