広い空間
そこにトーレとシロウが立っている
二人の距離は約二十メートル
何の合図も無く、トーレは地面を蹴り前進する
シロウも投影した黒白の双剣を構える
トーレが鞭のように右足を振りシロウの上体を狙う
シロウはそれを双剣を十字に交差させ防ぐ
衝撃がシロウを襲うが、トーレはすかさず身を翻し
地面に擦れるほど身体を下げシロウの足を払う
体勢を崩されたシロウは双剣を投げトーレの進行を邪魔する。転けた後すぐさま後方に下がり、黒弓を投影し矢を構える
トーレは飛んできた双剣を下から払うように跳ね飛ばそうとするが
「壊れた幻想《ブロークン・ファンタズム》!!」
突如、双剣が爆破しトーレの視界を奪う
その隙を見逃さず煙に紛れるように矢が放たれるが
トーレはISを発動し高速機動によって避け
先程までシロウがいた場所に目を向ける。
しかしとっくに姿はない
辺りを見回す
と、トーレは自分の足元に不自然な影があるのに気づく
上を見上げるとドリル状の剣のような物を番えたシロウが跳んでいた
「偽・螺旋剣!!」
風を裂く音を響かせながら一直線にトーレに向かう
『ガアアァァァァン!!!』
轟音と爆炎にトーレが飲み込まれる
シロウは地面に降り立ち辺りを確認する
若干その様子には焦りも感じられる
瞬間 、土煙の中からトーレが飛び出し、シロウに上段の蹴りを入れる
「ッ!?」
シロウも咄嗟に双剣を投影し防御するが精度が低かったのか敢え無く砕け散る
蹴りををまともに受けたシロウは跳ね飛ばされ壁に激突する
あまりの衝撃に意識が飛びそうになるが何とか堪え、
構えをとる
トーレも即座に接近し足技の手刀を織り交ぜた攻撃で猛攻する
シロウは投影する暇すらなく徒手空拳で対応するが
徐々にジリ貧になる
「固有時制御……二重加速!」
ISを起動し再起を計ったが…
「遅い…」
『ゴスッ!!』
トーレの回し蹴りがシロウの こめかみにめり込み意識を奪った
♢♢♢♢♢♢♢
「なんだ、この様は!!!!」
広い訓練室にトーレの怒声が響く
床に正座しながら聞くシロウはキーンとする耳を抑えながら 決まり悪そうに俯いている
「攻撃のあと油断するなと言っただろう!!」
「いや、あれは怪我してたら大変だと思って…」
「あの程度の攻撃が当たるか!! せめて撃ち抜いたのを確認してから油断しろ」
「はい…おっしゃる通りで…」
偽・螺旋剣を放った時の事だろう、シロウは咄嗟に反論するが一蹴されてしまった
「それと、ISを使うタイミングが悪い。私に追撃を受けた時すぐに発動すべきだったろう
いや、寧ろ常時展開出来る位にはなっておけ。」
「それは…これからの訓練で出来るようになるさ」
「私が言っているのは心持ちの問題だ。全てにおいて言える事だが、意識しなければ出来るようにはならん」
「………」
シロウは次々とダメ出しされ改善点等を言い渡され、
反論してみるも悉く撃沈した
「だが まあ、投影と防御については及第点だろう
お前はどちらかと言えば遠距離型だが、近接防御はなかなか上手く出来ていた
ISをからめてカウンターを狙えるように出来ればなお良い」
「!!」
褒められて嬉しかったのか今ままで下がっていた顔を急に上げる 。何処と無くその顔は誇らしげに見える
「あとは…。そうだな立ってみろ」
「?」
シロウはトーレの意図が読めず、よくわからない様子で立ち上がった
するとトーレはシロウの前に立ち自分の背と比べ始めた。
「やはり私よりも小さいな。 もう少し体格があった方がお前の戦い方に合いそうだが…」
「それは俺もドクターに聞いたけどさ、これから伸びるって言ってたから……伸びるさ!」
「………フッ…楽しみにしておこう」
身長の事はシロウも気にしていたらしく、ドクターに聞いていたようだ。トーレはさも期待していると言った風を装っているが 実際のところは自分より小さい弟が可愛いくてしょうがないのだろう
曖昧な受け答えになってしまっている
「さて…休憩は終わりだもう一戦するぞ!」
「はい!お願いします!!」
♢♢♢♢♢♢♢
二つの生体ポッドが鎮座されている部屋でスカリエッティが機材を弄りながら鼻歌交じりにクアットロとチンクの調整をしている
丁度ひと段落ついたのか片手にはコーヒーカップが握られていた
『カシュ』
「ドクター失礼します」
「やぁいらっしゃい。どうかねシロウの様子は」
ドアの開く音と共にトーレが入ってきたスカリエッティは、にこやかに応対しシロウの訓練について尋ねる
「順調です。実戦に配備しても、さして問題ないかと………ただ」
「ただ?」
「投影を応用した戦闘は最早完成されているとさえ思います。しかしISの使用と何より…優し過ぎる…」
「……………」
トーレが懸念していたのはISの使用の拙さだけではなかった。寧ろ攻撃した相手の心配をしてしまうような弟に管理局相手に殺し合いができるかを心配していたのだ
しかし、スカリエッティはその懸念を否定した
「心配ないよ…トーレ、彼は確かに優しい………けれどね その優しさは家族だからこそ与えられる物なのだよ」
「? 、ドクターそれはどういう…」
「トーレ、彼はね必要とあらば非情になれる人間だという事だよ」
シロウは優しい。けれどそれはごく狭い範囲でのものだ。そう スカリエッティは言う
スカリエッティにとってこれは思いがけない幸運だった。
トーレも驚きはしたものの不快には思わなかった。
寧ろ喜ばしいとさえ思えた……何故かはわからないが
「ではシロウの事は問題ないね?」
「はい!」
そう締めくくったスカリエッティにトーレは懸念が無くなったことの清々しさを感じさせるような返事をした
「それでドクター、ドクターの方はどうですか?」
「クアットロとチンクのことかい?二人とも順調だよ。チンクは3日後、クアットロは5日後に目覚める予定だよ。」
「二人の訓練も私が?」
「クアットロは必要ないね。そう言う運用ではないから。チンクはシロウと一緒に頼むよ」
クアットロもチンクも順調に調整が終わってきているようであと数日らしい
シロウが甘やかしたりしないか心配だがその分自分が厳しくしよう。と、トーレは思ったがシロウの時ほど頭がスッキリしているのは慣れたからだろうか
「そういえば…シロウの起源弾の成果を聞いていなかったけれどどうだったんだい?」
「シロウの起源弾と言うと新しく作ったモノですか?」
「ああ、シロウを原料にして作った方の起源弾だよ」
【起源弾】、強力な殺傷能力をもったシロウの固有武装だ。スカリエッティの実験では詳細が分からなかったのでシロウに実戦形式で使わせるよう言っていたのだ
「あれは…あまりに殺しに特化しすぎているように思います。的に使った魔力Aの魔法生物が内部からズタズタに引き裂かれて絶命しました」
今でも鮮明に思い出すことができる————
『Unlimited lost works!!』
シロウの詠唱が終わると同時に魔獣の体から刃が飛び出す。何本も、何本も、何本も
そして魔獣を絶命させた後、塵となって消える……
「腕の良い魔導師ならある程度抑え込めるかもしれませんが、半端な魔導師であれば即死は免れないでしょう」
「通常戦闘には向かない…か。もともとシロウの武装は 劣化【起源弾】を使う予定だったし【起源弾・剣】
は奥の手、と言うことにしようか」
「その方がいいでしょう」
通常戦闘において過剰な攻撃にメリットは少ない
殺す事だけを重視するのであればそれこそアルカンシェルでもぶち込んでおけばいいのだ
「他に気になった事はあるかい?」
「いえ特には」
「そうか、ではもう戻りなさい」
「はい、失礼しました」
報告が終わりトーレは速やかに退室する
スカリエッティはトーレを見送った後
背後の生体ポッドに向き直った
「シロウも完成したし、他の娘達も着々と準備が整ってきている…まだまだ駒は足りないが
レジアスゲイズ准将の事もあるし、仕事もちゃんとしなければね」
そしてスカリエッティは生体に向き直り端末を叩きながら作業に復帰したのだった