クアットロとチンクが起動してから二ヶ月がたった
二人とも研究所での生活にはもう慣れたようで、
各々が思うままに過ごしている
もちろん訓練以外の時間は、だが…
「はぁ はぁ………」
「……………………………」
息が上がっているのはシロウ
無言で地面に突っ伏し、身動き一つしていないのがチンクだ
二人共訓練場の中央で疲労困憊といった様子で倒れ伏している
「シロウ、チンクを起こしてやれ。流石に呼吸させないと死ぬ」
「………俺もだいぶキツイんだけど………」
「やれ」
「はい…」
地面に倒れる二人を見下ろすようにたつのはトーレだ
案の定、息一つ乱れていない
シロウは言われた通り、疲れた体に鞭打って
気絶し呼吸も止まっているチンクの頬を軽く叩いて起こした
「おーい、チンク起きないと死ぬぞ」『ぺちぺち』
「…………はっ、私は一体……」
シロウに頬を叩かれチンクが目を覚ます
ガバッとと上体を起こすと辺りを見回す
「なんだ……訓練場か。」
安心したように息をつくチンク
その様子にシロウは何となく不安を覚え 勇気を出して聞いてみることにした
「…どうか、したのか?」
「ん?。あぁ言葉にするのも難しいのだがな、お花畑とでも言うのだろうか。そんな場所に一人立っていた気がしてな…見知らぬ場所だったから警戒していたのだが、夢だったようだ」
「………………」
それはあの世の入り口なのでは? そう口にすべきなのか、それともそんな場所でも警戒を怠らなかった事に突っ込めばいいのか、シロウには分からなかったようで 結局、スルーする事にしたようだ
「チンク、お前はもう少し体力をつけた方が良いな
それか動きを最低限にして消耗を減らせ
幸いお前は指揮官に向いている。そちら方面で腕を磨くのもいいだろう」
「そうだな、私もそう思う。そもそも私のISは機動力自体はあまり必要としないからな」
「ああ、あとお前は周りを見て判断する能力に長けている。他の妹を指揮するのが一番良いかもしれんな」
シロウの心情を知ってか知らずか勝手に反省会兼意見交換会を始めるトーレとチンク
シロウは二人の話に参加する事も出来ず一人溜息をついた
トーレにしてもチンクにしても軍人気質と言うか真面目というか、どうにもお堅い雰囲気がある
シロウとしてもその事は尊敬しているが、こういう時話しに入りづらくて気まずいのだ
「———というわけで、シロウはクアットロと共にドゥーエのところに行ってこい」
「………へ?」
話を聞いていなかったのだろう。シロウの口から間抜けな声が出る。【ドゥーエ】というのが自分の二番目の姉であり、対人訓練を指導してもらう予定であるということを思い出すのに暫く時間がかかった
「はぁ…ドゥーエが昨日の夜帰還したから手解きを受けて来いと言ったんだ」
トーレに言い直されて漸く頭が回り始める。
「ええええっ!!??ドゥーエ姉帰ってきてたの?」
♢♢♢♢♢♢♢
初めてシロウがドゥーエに会ったのはクアットロが目覚めて数日した日だった。
『はぁーい、初めまして。ドゥーエです
気軽にドゥーエ姉って呼んでね』
第一印象は明るくて優しいお姉さん
能力が潜入向き、というか潜入目的で製造されたので基本研究所にはおらず 何処かしらに潜入しているらしい
『会話や仕草、態度で人の印象というものは概ね操作出来るわ。情報を引き出したい人、籠絡したい人そういう人については事前にあらゆるデータや記録を知っておかなくてはならない。
それが出来れば平静を失わせたり、場合によっては操ることさえ出来る』
こんな事を言う人だ
クアットロはこれに大変感銘を受けたらしく
以来、ドゥーエお姉様 と呼んでいたりする
特に【操ることができる】辺りが彼女の琴線に触れたのかもしれない
そんな事を考えつつ歩いていると、もうドゥーエの部屋に着いてしまった
『コンコン』
「どうぞー」
シロウはドアをノックし中の住人の了解を得てからその部屋に入った
中に入るともうすでにクアットロは来ていたらしくドゥーエと楽しげに話していた
「それでっ?その後はどうしたんですの?」
「そこの管理をしている司教さまが実はド変態でね、
シスターに破廉恥な格好をさせる趣味を持っていたの」
「そこにつけ込むんですのね」
「そう。最初は新人のシスターとして、それで司祭さまに近づいて徐々に骨抜きにしていくの
最後はスパッと始末して任務完了ってとこ」
「さっすがドゥーエお姉様ですぅ。」
「クアットロもこれくらいなら出来るようになるわ」
「がんばりますぅ」
黒い、鬼畜と形容しても生ぬるいくらいの会話をしている姉妹をなんとも言えない気持ちでシロウは見ていた
性癖を暴露され、変態と呼ばれ、挙句殺された司祭にシロウは少し同情する。この分だと教会側にも今の内容が知れ渡っている事だろう。ドゥーエはそう言う人だ
「司教って事は今回の潜入先は聖王教会だったのか?」
「そうよ。聖王教会の聖遺物の確保とデータの頒布、思っていたより簡単だったわ…」
「シロウお兄様ぁ、今良いところだったのにぃ」
話を中断させたシロウにクアットロが恨めしげな視線を送る。 シロウは『わるい、わるい』と謝りながらドゥーエに重ねて質問した
「じゃあ今度はどの位居られるんだ?」
「ひと月後に次の任務に就くわ。しかも管理局の中枢への潜入だから年単位で戻ってこられないわね」
「そっか………、寂しくなるな」
「ええ……。だから、このひと月でクアットロとシロウには教えられるだけのことを教えるわ
幸い二人共筋はいいからね」
笑顔でそう言うドゥーエにシロウとクアットロも頬を綻ばせてしまう。任務中は非情で容赦ない冷酷なドゥーエだが、家族に対してはとでも優しく、愛情を持って接してくれるのだ。
そもそもナンバーズというのは、それぞれ形に違いこそあれど基本的に皆、家族を大切にする性質を持っている
ウーノは厳しいが全員の事を常に気にかけているし
ドゥーエは側に居られないからこそ、他の姉妹よりも愛情過多で
トーレは愛するからこそ己にも姉妹達にもストイックで
クアットロは見下しこそすれ見捨てはしない
チンクなどまだ生まれても居ない妹の特性を考えながら編成を組み、自己鍛錬に励んでいる
程度の差こそあれど彼女たちは家族を愛している
そして、シロウも。
家族は自分が守らなければならないという強迫観念に駆られる程だ
トーレとの訓練で思わず手を出して抜きかねない程にその気持ちは強い。
(なお最近は自分の全力でもトーレを殺せないと悟り、加減するどころかより苛烈になっているが)
それが、何処からきた気持ちなのかシロウには未だ分からなかったが、とても大切な物の様な気がするのだ
消えない記憶がある
『◼️ったよね、兄貴は妹を守るもんなんだって…ええ◼️はお◼️ちゃんだもの、なら◼️を守らなくちゃ』
何語かも、何を言っているかも分からない言葉
けれどシロウはこの雑音にまみれた言葉が、どうしたって消えないのだ
ドクターに聞いても、曖昧に返される
ただ、それは自分自身のものなのだと、だから大切にしなさいとドクターは言う
その事にシロウは納得して居なかったけれど、どうでもいい事だと、既に割り切っている
「…………ロウ、シロウ!!」
「はぃぃい?!」
「何、ぼぅっとしてるの。授業、始めるわよ」
色々考えて居たせいかシロウはまたも姉に怒られる事になった。いつの間にやらメガネを掛けた(多分伊達)ドゥーエが立っている
「さぁて、じゃあ今日は相手を油断させる会話法ね」
「はぁーーい」
先生らしく言うドゥーエにクアットロが元気に返事をしている
こんな平和な日々が続けばいい
そう シロウは思った