戦闘機人 code.Archer   作:國真流

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6/強襲②

 

 

 

爆発音と叫び声が響き渡る。床には機械の残骸が散らばっており、所々に赤い斑点が付いているのが見られた。大量のガジェットに埋め尽くされたそこは正に地獄絵図。四方をガジェットに囲まれた管理局員は防衛線を張り、ひたすら耐久戦を強いられていた。

 

そんな中メガーヌはインゼクトを使いガジェットを操ることで何とか持ちこたえていた。

しかし、幾ら動きが良くなったとは言え十数機のガジェットでは防衛線を全て網羅する事などできようも無い。他の局員も努力こそしているものの魔力不足もあり犠牲者が出始めていた

 

「ぐぁ!!」

「下がって!! 怪我の治療をしつつ可能なら後方支援に!魔力がある程度回復した人は今抜けた穴を塞ぎに行きなさい!絶対にガジェットに突破させては駄目!重傷者はなるべく中心に。」

 

必死に声をかけ部下を鼓舞する、そして何より自分自身に言い聞かせる様に 声を張り上げた

 

(大丈夫。ゼスト隊長もいる …救難信号も送った。耐え続ければきっと……)

 

 

ふと、娘の顔が目に浮かぶ

 

あどけない表情、少しわがままなそぶり、日に日に成長していく背丈。

最近 仕事が忙しくてかまってあげられなかったから、今頃拗ねているかもしれない…

ちゃんと歯磨きしているだろうか、好き嫌いして居ないだろうか、お手伝いさんを困らせてないだろうか、……さみしくて 泣いていないだろうか

 

早く帰って安心させてあげないと…

だから……絶対に生きて帰る。

あの子が待つ私の家に……だから…

 

(だから、待っててねルーテシア)

 

「ゼスト隊!! 全員生きて帰るわよ!!!」

 

『応!!!』

 

メガーヌは諦めない、決して勝てない戦いに引き分け続ける。全身全霊をもって耐え続ける。信じる、助けは来ると。願う、奇跡は起きると

上司の信用に応えるために、部下を生きて返すために、

そして何より、愛する娘に逢うために……

 

彼女は自分を奮い立たせ、懸命に抗い続ける……

もう既に……甘い幻影に自分達が侵されているとも知らずに

 

 

 

 

 

 

「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

 

彼女達の誰一人…少女が影の中で嗤っていることに気づく事はなかった

少女は嗤う。滑稽な程に希望に満ちた美しいその姿を

そしてそれが、呆気なく崩れて壊れて絶望するそんな光景を夢想する

「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

その甘ぁい笑い声は誰に聞かれる事もなくただただ不気味に響き渡っていた

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

「ゼァァァアッッ!!!」

「フッ!ハァァ!!」

 

火花が散る。ゼストは槍型のアームドデバイスを振るいトーレとチンクの攻撃をいなす。

トーレは高速機動と斬撃を駆使しヒットアンドアウェイを狙うが、完全に死角の筈の攻撃も全て読まれている。チンクも爆発を応用して進行方向の制限をしている筈なのに気づけば出し抜かれている。

2対1という状況にも関わらず戦局はゼスト有利に進んでいた。

 

「チンク…」

「ああ、勝てない」

「クアットロの方は?」

「まだ時間がかかる様だ」

 

一旦距離を取り方針を確かめあう。ゼストは空戦Sランク魔導師な上に圧倒的な経験値を持っている。長年犯罪者と戦ってきたその力量は二人掛かりでも容易には突き崩せないものだ。

勘。幾ら知識があっても経験の少ない戦闘機人では獲得し得ない物だ。

速さで優っていても、先に行動されれば追いつく事は出来ない。

幾ら罠を仕掛けても、見抜かれれば対処される。

 

「なら…」

「私がひたすら攻め続ける、お前は中距離からISで誘導しろ、決して部隊の方に近づけるな」

 

 

彼女たちにとっての勝利条件はゼストを打ち負かすことではない。時間が来るまでただ足止めする、それだけだ。

 

一方ゼストも嫌な予感を感じていた。時間さえ掛ければこの二人を倒す事は可能だ、部隊もあの様子ならば、自分が戻るまで持ちこたえてくれるだろう。だが見あたらない少女のことが気がかりだった。ガジェットを操作しているのかとも思ったが、それにしては動きが単調だ。

いや、単調すぎる。まるでビデオでも流しているかの様な……

 

 

「…ッッ!!アルピーノ!!幻術だ!!」

 

ずっと感じていた違和感の正体、それは…部隊の統制がとれすぎていることだ。怪我をしたものが下がり、回復したものが前線に出る。だが、普通ここまで上手くいく筈がない。何処かで無理がでてくるものだ

しかし、そういった様子はない、全員必死で、けれど単調に繰り返している。唯一不規則な動きをしているのはメガーヌくらいのものだ。

 

ゼストは叫びメガーヌに警告を送る…だが…

 

 

「ざぁぁんねん♡ちょっと遅かったかなぁ…」

 

 

突如、メガーヌの背後にクアットロが現れる。メガーヌは魔法で離脱しようと試みるが、その前に胸を熱い感触が襲う。痛みは感じな。ただ熱いそしてその中に冷たいナニかがある。恐る恐る見てみるとそれは血に濡れたナイフだった。

刺された部位から熱が溢れていく様に、傷の熱さとは裏腹に指先から身体が冷えていく。

 

他の隊員はどうしたのかと辺りを見回すが自分以外に立っている隊員は既に居なかった……

 

 

「どう…やって……」

血を吐きながら誰にと言うわけでもなく問う

 

「ありがとうごさいますぅ、わざわざ隊員をローテーションして下さったおかげで予想より速く幻術との入れ替えができましたぁ」

 

「ッ!!?それは……どういう…」

 

「ですからぁ貴方達が必死に守っていた重傷者の何人かは幻術でコーティングしたガジェットなんですよねぇ、後はもう…分かります?」

 

つまりこう言うことだろう

後方支援の何人はガジェットと入れ替えられていた

いや、最悪全員ガジェットだったのかもしれない。前線から戻ってきた隊員を殺して幻術を追加するだけで すぐに見事入れ替わりが終了すると言うわけだ

前線で必死に戦っている間に背後に気を使うことなどありはしない。そもそも、気にしない為の後方支援だ

その前提が崩されていた時点で遅かれ早かれ負けるのは確定していたのだ

 

 

「アルピーノォォォ!!!!!!!」

ゼストが吠える様にしてメガーヌの名を呼び側に駆け寄ろうとする

 

しかし

 

ザシュ……

 

その隙を見逃そうとするトーレではなかった

インパルスブレードがゼストの胸に深く突き刺さる

 

「ぬぅぅ!! あぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!」

 

それでもゼストは前進を辞めない。

トーレを突き飛ばし全力で部下達の元へ向かう。ガジェットの残骸を踏み倒し、血を吐き意識を半ばトばしながら進む

 

「アルピーノ!!」

 

メガーヌの元まで辿り着いた時既にクアットロの姿はなくメガーヌは胸から血を流し、浅い掠れる様な呼吸を繰り返していた。

床に広がる血溜まりは一目で致死量だとわかる

ゼストはメガーヌを抱き上げると微かに声が聞こえた

気管に血が詰まっているせいだろう、蚊の鳴くような声だが、ゼストにははっきりと聞き取ることが出来た

 

『娘を…』

 

ルーテシアの事だ。メガーヌの最愛の娘、不幸なことにメガーヌは夫をはやく亡くしてしまったが

ルーテシアがいた。

その溺愛ぶりは凄まじく乳飲み子だった頃から隊舎に連れて来ては皆に自慢していたほどだ

 

それだけ伝えて力尽きたのだろう、微かに力の籠っていた腕が落ちる様に血溜まりを叩く

それっきり彼女は動かなかった

 

「おお…おぉぁ ぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁ!!

キサマらぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

さながら獣の様にゼストは猛る。もはや魔力すら通わないデバイスを構え少女達に突貫する

 

 

「もう眠れ……」

チンクはナイフを投げゼストの額に直撃させた

 

額を撃ち抜かれたゼストは膝から崩れ落ち

大地に倒れ伏した

 

チンクは死んだことを確認すると背を向け歩き出す

回収はガジェットが勝手にするだろう

そんな事を考えつつ …気を緩めた瞬間……

 

 

「チンク!!」

トーレが彼女を呼ぶ。何事かと後ろを振り返ると

デバイスを槍をつがえるように構えたゼストが真後ろに立っていた。その目に生気はなく黒い穴の様にも見える。

ゼストが槍を突き出す。

突然の事だったので対処の遅れたチンクは右目を抉られる。眼孔を蹂躙する鉄の塊の痛みに顔を顰めながら

ナイフを取り出す。ゼストと自分の間に割り込ませる様にナイフを投げ爆発させる。

 

その衝撃でなんとか離脱したが 防御外套の甲斐もなく

自身も火傷を負う

 

ゼストは流石に力尽きたのかその場に倒れ込んだ

今度こそ命を燃やし切ったようだ

 

 

「チンク!無事か!?」

トーレが安否確認の為か駆け寄ってきた

 

「ああ、大事ない右目をやられたが他はたいした事はない」

右目を抑えながらチンクは言う

その様子にトーレは一安心したと同時に怒りが沸き起こってきた。

 

「敵の目の前で背を向ける奴がいるか!馬鹿者め!」

 

「すまない、油断した……」

 

「今回は大事にならなかったから良かったものの、

お前は…」

「長くなるなら後にしてもらってもいいか? 少し、やりたい事が出来た…」

 

トーレの説教を遮るようにチンクは顔を上げた

その様子に、ただならぬものを感じたトーレはおし黙る。

 

「わかった、………だがすぐに戻れ此処にいつまでも長居は出来ない」

 

「ありがとう…」

 

不承不承といった風に歩き出したトーレにチンクは礼を言う。トーレの後ろ姿を見送った後、彼女はゼストに向き直った。

 

「騎士ゼスト…だったな、ここが戦場でなければ負けていたのは私だ。その強さ、感服した…」

 

チンクは倒れ伏すゼストに向かって語りかける。

 

「死してなお、お前は立ち上がった。技量も魔法も何もかも、かなぐり捨てて私の右目を奪った…

その意思だけで。

私は………心から貴方を尊敬する。

この眼の痛みと共に…決して忘れはしない」

 

 

それだけ言うとチンクはトーレが向かった方に歩き出した。その顔はどこか満足げで誇らしさが滲み出ていた

 

 

その頰が少し上がっている事に彼女は気づいていただろうか?

 

 

 

 

 

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