アザゼルと会話していた兵藤がいきなりキレて力が跳ね上がった。
「ははは、何だよそりゃあ、マジかよぉ。主様の胸が小さくなるって理由で力が跳ね上がったぞ」
「おいおい、さっきの親を殺されるって理由よりも力上がってるじゃねぇか。親の命より女の胸って……」
「親御さんが哀しむでしょうね……」
「イッセー君……」
「今代の赤龍帝は性欲に正直過ぎるな」
「ドライグ、可笑しくなった?」
『やめろぉー、オーフィス!オレは可笑しくなどなっていない!可笑しいのは相棒の頭だーー!』
『ドライグ………お前……』
『アルビオン!そんな残念な奴を見た様な声を出すなー!うおおおぉぉん!オレは可笑しくなどなってない!さっきのシリアスな感じはどうした相棒!せっかくアルビオンの力を奪ったのにこんな、こんな……』
『(ブフッ!クックックック、は、腹イテー!あの、ドライグがほとんど邪龍みてーに好き勝手やってた二天龍の片割れが泣いてるなんてレアだぜ、レア!)』
「フフフ、まさかドライグが泣くとは……あの宿主は相当ですね。龍の中でもプライドが無駄に高いドライグを泣かす性欲ですか……面白いモノを見れたので、今は蘇らせてくれた事を感謝しますよ神殺し」
兵藤一誠の性欲に赤い龍が泣いた。
尚、トドメは純粋な無限龍の一言の模様……。
「胸だけで強くなるって……お巫山戯が出来る余裕があるなら、丁度良いか……」
「おい!今、おっぱいの事をお巫山戯って言ったか!」
「アア?戦ってる最中に性欲を爆発する余裕があるなら、十分巫山戯てんだろ」
巫山戯てるだろ、実際。殺し合いの最中に女の胸なんか考えてるんだから。
普通なら格上相手をどう殺すかを考えてるだろ。
「つーかテメェは、さっきから偉そうにしやがってヴァーリより先にテメェからぶっ殺すぞ!」
へぇー。俺をぶっ殺す?大きく出たな変態赤蜥蜴が……。
「ククク、クハハハハ!面白れぇ、俺をぶっ殺すだと?殺れるモンならやってみろ変態野郎!ヴァーリとさっきからガン飛ばして殺気出してるフェニックス!お前らもついでに掛かってこいや!まとめて格の違いを魂に叩き込んでやる」
翼を広げて空へ飛び出す。
「まさか、三対一を望むなんてな……白い龍と赤い龍と不死鳥の共闘か…面白い。そして相手は神を殺した人間。心が踊るな、行くぞアルビオン!」
『気を引き締めろよ、ヴァーリ。邪龍であるアジ・ダハーカを取り込み、ラードゥンを従えさせる相手だ。さっきの赤龍帝よりも警戒しろ』
「ふん、人間如きが…本当のフェニックスの炎を食らわせてやる!」
「あ~ぁ、摩桜君の犠牲者が新たに三人追加………」
「鼻が天狗に成ってるし、丁度良いと思うにゃん」
「それは言えてるな」
「やり過ぎて結界を破壊して学校を壊さなければ良いんですが……」
「主殿がそれを気にするでしょうか?」
「オーフィスちゃん、チョコが付いてますよ」
「ん……アーシア、ありがとう」
鳥人状態でライザー・フェニックスの炎に正面から突っ込んで無傷でライザー・フェニックスの前に出る。
「そんな温い炎で俺を傷つけるなんて一生ムリなんだよっと!」
「そんな、俺の炎が……ゴファッ!」
姐御に文字通り身体に叩き込まれて覚えた掌底をがら空きの腹に叩き込む。
衝撃を逃がすこともせず、そのまま吹っ飛んで校舎に張られていた結界にぶち当たってから地面に沈んだ。不死性に胡座をかいてロクに体を鍛える事もしていなかったみたいだな。
劣化コピーの掌底一発で沈むなんて不死性を持つのも考えさせられるな。
不死だろうが鋼の様に固かろうが内臓を攻撃されたら動けなくなるモンだ。
フェネクスの権能を一度解除して元に戻り、次の準備をする。掌握が進んで権能を解除出来るようになったが解除しても一週間はONの状態になるので死んで甦るときに消費する呪力が増えてしまう。
「
『(全く以てその通りだぜ、相棒!あの生意気な二天龍を倒すなら同じ龍だよなぁ!)』
「こんのぉー!当たれぇーー!!」
「ハアッ!」
フェイントとかもしないで、ただひたすら突っ込む事しかしない赤の鎧と白の鎧の攻撃を全て避けながら、俺の呼び名の基になった権能の聖句を唱える。
「悪辣なる神よ、嗤え!災厄は此処に来たり、厄祭は此処から始まる。恐れ慄け、悲嘆に暮れよ。私は全てに苦痛を与えるモノ也、俺は全てに苦悩を与えるモノ也、我は全てに死を与えるモノ也!輝く輪を以て、生きとし生けるもの全てに絶望を贈るモノ也!」
身体がどんどん膨れていき、黒い鱗に被われていく。
首が増えて三つ首になり、三対六枚の龍翼、人の様な身体付きから伸びる手足には鱗と爪が映える。
真ん中の首は緋い双眸、右側の首は黄金の双眸、左側の首は白銀の双眸が耀く。
この世界に来て、初めてのアジ・ダハーカの権能の完全顕身である。
「『おい、どうした二天龍!
「殺し合いだろうが!」
「掛かってこいや、タマ無し共がー!」
俺とアジ・ダハーカが一緒に喋っているような声に変わり、ペインとディストも表に出てきて喋っている。
幽体離脱をしてモルスに戦いを任せるのも良いかもしれないが、やり過ぎたらいけないからこのままで戦う。
「何だよ、アレ……。クソ!ドライグ、アスカロンに溜めた力を全部譲渡だ!」
『Transfer』
アスカロンって聖ジョージ……ゲオルギウスの竜殺しのアレか……。
まぁ、イリナが今持ってる天羽々斬を使えばワンチャン有っただろう。速須佐之男命は天羽々斬で八岐大蛇を殺しているから、天羽々斬には蛇殺しの概念が宿っているから斬るなら天羽々斬の方が良かった。
「これでも喰らいやがれぇー!」
──パキィーン……………。
兵藤の殴った左腕の鎧が砕けた。
「…………は?」
「『ククク、随分と柔らかい鎧だな。竜殺しを使ったのは良い選択だ。流石はゲオルギウスの竜殺しだ。針に刺されたみたいな痛みが流れたぞ。けどなぁ、そんな腰も力も入ってないへなちょこパンチで沈むオレじゃねぇぞ!言っておくが、
「殺したかったら、全てを切り裂く魔剣でも持って来いや!」
「無双の剛力でもイイゼ!」
──バゴンッ!
おっと。背中をヴァーリに殴られた。
「フッ、油断し過ぎだ。これで戦いは終わる……」
確か彼奴の能力は〈半減〉と〈吸収〉だったな。俺の呪力を半減して吸収するつもりか………なら……。
『Divide』
能力が発動した瞬間、ヴァーリの鎧に罅が入り崩れ落ちる。
能力が発動する前に抑えていた呪力を解放したからかなりの量がヴァーリの神器に流れたのだろう。
「ぐっ、まさかたった一回の半減吸収で俺のキャパを超えてしまうとは……」
『ヴァーリ!?これ以上は神器が機能不全を起こして禁手が一時的に出来なくなるぞ……ヴァーリの総容量を軽く超える力か……。下手したら数十倍…いや、百倍近くはあるかもしれん』
「先程の奇跡って言葉は俺の為にあるのかもって言ったのは訂正した方が良さそうだな……力のない人間で神を殺した彼とその同族に言った方が正しいだろうな」
『アレはヤバイぞ、相棒。奴の力は生前のオレとアルビオンを確実に超えている。一人の人間が持って良い量じゃない。理不尽の塊が服を着て歩いている、か……これ程分かりやすい喩えは無いだろうな……』
「おい、何弱気になってんだよ!まだ終わってないだろ!」
『悪いが相棒……そろそろ腕輪の効果が切れるからもう無理だ。まあ、例え相棒が禁手に至れていても結果は変わらないだろうがな』
「そんなのやってみねーと分かんないだろ!」
『相棒が彼奴に質問した時に彼奴が言ったことを覚えてるか?「蟻が竜を殺す様な偉業」……今のオレ達はその蟻の方だ。アレを殺したいなら奴と同じ場所に立つか、奇跡や幸運を連続で起こして奴を一撃で葬る力が必要だろうな』
「なんだよ、それ……勝てる、勝てないの問題じゃあねぇだろ。ただの理不尽だろ」
『奴が殺したまつろわぬ神ってのは理不尽な天災。つまり、理不尽を殺した奴もまた理不尽って事だ。アレは人間じゃない、化け物だ。認識を改めた方がいい』
なんかボロクソ言ってんなぁ。
正しい認識をしたならそれで良いか。
「『何だよ、ドライグとアルビオンの宿主は全然ダメだな。アルビオンの宿主は天才と呼べる才能を持っているのに胡座かいてて技術が成ってねぇ。接近戦がしたいのか中、遠距離がしたいのかよく分からん。テメェにバランスよく両立して熟す才能は無いな。やるなら一つに絞れや。態々神器を鎧にしたなら近距離格闘の技術を極めてから他のモノに手ェ出せや』」
「触らないと能力使えないのになー!」
「そんなだから素人に足元掬われんだよ!」
この際だ、色々と言ってやろう。
「『ドライグの宿主は才能が無い……いや、そもそも鍛えてねぇんだから当たり前だな。ドライグの力を存分に振るいたいなら、下地を鍛えて鍛えまくって空手とかの道場なんかに行って専門家から技術を手に入れないとな。独学は神の才とも言える才能を持つ者が行えるモンだ。お前らがやっている事は喧嘩の延長だ、闘いですらない』」
まつろわぬ神とドニと姐御と戦う時に正直に真っ直ぐな攻撃なんてしない。裏をかいて確実に殺す様にする。
「『ああ?何だその顔は……言っておくが俺の才能は魔術に特化し過ぎてるせいで剣術や体術の才能が丸で無いんだぜ?それなのにお前らはオレに攻撃を当てられなかった、何故だと思う?………答えは簡単だ、剣術を使う規格外と体術を使う規格外と何度も殺し合いをして対処の方法を身体に文字通り切り刻まれ、叩き込まれたんだよ。まあ、これは不死の権能を持つオレとかそこで伸びてるフェニックスにしか出来ないがな』」
俺のアドバイスを聞いてこいつらは変われるだろうか………。ま、きっかけ作りにはなるハズだ。
それよりも二人ともダウンかよ……。俺、フェニックスにしか攻撃らしい攻撃をしてないな。
二天龍はどちらも自爆だし。ちょっとイライラを解消する為に地面を殴ってその衝撃で二人を吹き飛ばす。
あ~あ、不完全燃焼だわ~、ちょっとラードゥンと殺し合うか。
「『おい、ラードゥン!オレ、不完全燃焼だから今から次元の狭間か冥界に行って殺し合いすんぞ!』」
「フフフ、いいですね。私も不完全燃焼気味でしたので丁度良いです。邪龍らしく好き勝手に殺し合いましょうか」
「『スキュラ、デルピュネー、コルキオン!祐理達を家までちゃんと護衛して行けよ!』」
それだけ言って俺はラードゥンと一緒に転移してその場から立ち去る。