はぐれ悪魔を倒して直ぐにマンションに帰ったが、完全に日が沈んでしまった。
「ただいまーっと…」
「ただいま帰りました」
「摩桜、祐理、おかえりにゃ~。今日は遅かったけどどうかしたかにゃ?」
匿っている猫又の転生悪魔である黒歌がソファーの上で寛いでいた。
常に追手から逃げて、やっと見つけた安全な場所に腰を落ち着かせた反動なのか普段の俺の様にだらけきっている。
「町の廃工場にはぐれ悪魔がいたから燃やしてきただけだ」
「………その、さも当たり前かの様に言うのやめにゃい?」
「黒歌さん、諦めてください。摩桜さんは、同じ神殺しか神以外は倒せて当たり前って考えてる節がありますから……」
「邪龍の魂を取り込む摩桜ですら倒すのが難しい相手が他にもいる事に驚きを隠せないにゃ……」
呆れながら台所に行く祐理を見送りつつ考える。
そうなんだよな……アジ・ダハーカの魂を取り込んで権能を強化したけど、同じカンピオーネに勝てるかって訊かれても素直に首を縦に振れない。
俺の戦い方は、魔術と権能を用いた中・遠距離攻撃主体の常に相手と距離を取って攻める戦い方だ。
近距離は幻獣に任しているが、たまに強化の魔術とアジ・ダハーカに顕身して肉弾戦もする。
……羅濠のババアと剣バカ以外にしかしないけど……。
そもそも近距離が超得意なあの二人に合わせて近距離攻撃なんてしたくねーよ。
戦ってる場所の事を考えず、魔術とアータルの炎と雷、アジ・ダハーカのブレスを雨の様に隙間がない様に降らして漸く足を止めるんだよ、あの二人は……。そんな攻撃しても倒せないのが常だ。
スミスと黒王子、アイーシャとは闘った事がないから断定は出来ない。
この三人とは共闘だけしかしていないので判断材料が少ない。
ヴォバンのジジイは、三つ巴の時と祐理を拐った時だけで何れもあやふやで終わってしまった。三つ巴の時は、ジジイの劫火に紛れて逃げたし、祐理を拐った時は草薙が闘いを止めろって言いながら横から『白馬』や『山羊』、『猪』で攻撃してきたけど、『白馬』はジジイに喰われて『山羊』はアータルとアンダルの権能を合わせた雷で相殺した。『猪』はジジイの狼軍団と俺の幻獣オルトロス、ネメアー、カルキノス、スピンクス、キマイラ、ヒュドラで一緒に倒した。横槍が入って何故か共闘してしまった事に白けてしまいお開きになった。
草薙とはガチで殺りあったことはない。結界で囲んで一対一の状態で権能と魔術を使わず殴りあっただけだ。だって草薙の権能って発動条件が相手や自分の体の状態で発動する権能で発動すれば周りに甚大な被害をもたらす。だから、わざと権能を使わせない様にした。……物的被害がなくてカンピオーネの闘いにしては平和的だったと俺はそう思う。
勝負の結果はマウントを取った俺がなんとか勝った。もし、草薙にマウントを取られてたら負けていただろう。
「キャリアとか権能の数関係なく、相手を倒すのがカンピオーネ…神殺しなんだよ。実際に、神殺しに成ったばかりの新人が神殺し歴四年の人類最強の剣士と痛み分けしてるんだよ」
「何それ、怖いにゃ……摩桜もそういうことをしたのかにゃ?」
「俺の場合は、大半はあやふやにしたり痛み分けにしてたが…羅濠のババア、二番目に長生きしてる神殺し羅翠蓮に眼つけられて殺し合いして彼奴の腕を二ヶ月ぐらい使えなくして撤退させたんだが俺、一回死んだんだよな……」
「死んだのに何故生きてるにゃ……」
「そりゃあ、死んでも甦る権能を持ってるからだよ。本当に運が良かった。その権能を手に入れてから数日後の出来事だったからな」
いきなり現れて、問答無用で腹に孔を開けられたっけ……。直ぐにアジ・ダハーカの身体に顕身したから即死せずに済んだ。
闘いは格闘戦から魔術戦に移って最終的にサマエルの毒で相手が生み出した植物諸とも毒に当ててやった。羅翠蓮の貫手が腹を貫通したお陰で腕にべっとり付いた血を丸ごと毒に変えて腕を毒で侵してやったが、カンピオーネの耐性のせいで効き目がいまいちだったが、腕を使えなくさせた事と魔術の腕が自分並と上から目線な事を言ったと思ったら帰っていった。
ダメージは大きかった──腹部貫通と骨折数ヶ所──が、フェネクスの権能のお陰で死んで直ぐに治った。
それでフェネクスの権能の効果を知る事が出来た。
話終わったら丁度祐理が夕飯を作り終わったので、三人で一緒に食べた。
黒歌がベッドに入り込んで来るのでやめて欲しい祐理の視線が痛いから……。
それから数日経ち、学園に行くと悪魔の気配が増えていた。
何故増えているのだろうか……土日は、三人で伊勢神宮に行っていたから、土日のどちらかで悪魔に成ったのかも知れない。
せっかく
大事が起きたら流石に出ないとダメだよな。日本神話との約定もあるし、カンピオーネいる所に争い有りだしな。
気休め程度だが元の世界の自宅から持ってきた予備のガネーシャ像に呪力込めておくか……有るに越したことないから。
コンビニに行く途中で金髪シスターに会った。
見たところ道に迷ったんだろうな。そして、金髪って事は外国から来て言葉が分からないって事かもしれない。
「そこのシスター、大丈夫か?」
「あ、あの、すみません。…言葉が…」
イタリア語か……ドニのせいで分かる様になったのがここで役立つとはな……。
「あ、ああ~、うんっ。…これで言葉の問題は解決したぞ」
「イタリアの言葉話せるんですか?かなり流暢ですけど……」
「知り合いがイタリア人でね。そいつからイタリア語を学んだんだよ」
「そうだっだんですね。助かりました、皆さん言葉が分からない様なので大変でした。あ、私はアーシア・アルジェントと言います」
「俺は、鬼崎摩桜だ。言葉に関しては仕方ない。日本は外国語を話せる人が少ないからな。それで、何か困った事が有ったんじゃないのか?」
「そ、そうでした!?すみません、教会が何処に在るか知りませんか?」
駒王町の教会?
確か其所って廃教会のハズ……。シスターって事はクリスチャンなんだろうが、廃教会でミサか?いや、それはないだろう。
何かしらの裏が……つまりこのシスターが裏の世界を知ってる可能性がある。
「悪いが駒王町の教会はとっくに潰れているから誰もいないハズだぞ」
「そ、そうなんですか?で、でもこの町の教会に来いと言ってましたので……」
来いって……上から目線だな。高慢な奴がいるみたいだ。高慢って言えば羅濠のババアも高慢だったな。ま、羅濠のババアは力があるからこその高慢だったからまだ許容範囲だったが、力が弱い奴がやると滑稽な上にイラッと来る。
「一応、教会まで案内するから付いてきな。もし、誰もいなかったらその時にまた考えよう」
「すみません、ありがとうございます」
教会に行く道の途中で転んで怪我した子供にアーシアが向かってしまったので追いかける。
怪我した場所に手を翳したら両手の中指に指輪が出現し、光を放つと怪我を治していった。
成る程、これがこの世界の人間が持つ武器、
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「え、えーと?」
あ、日本語分からないんだったな。
「今の子は、ありがとう、お姉ちゃんって言ってたんだよ」
「すみません、つい…」
「気にしないで大丈夫だ。そんじゃ、行こうか」
「……訊かないのですか?」
「アーシアは、訊いて欲しいのか?」
「え!?あ、あの、いえ、その……」
会話が途切れたが、歩みを止めず教会まで辿り着いた。
そして、またしてもイヤな予感がしてきた。教会から人でも悪魔でもない気配がする。つまり人外が居るって事だ。逃がさない様に結界張っとくか。
『(マオ、カラスども…ああ、堕天使がいるぞ)』
「(堕天使が悪魔の領地(仮)に何で居るんだ?敵対関係のハズなのに…どう考えても無断で独断だよな……何が目的だ?殺されても文句は言えないハズだろうに……)」
『(さぁな、羽虫の事なんざ考えても仕方ねぇだろ。それよりもそいつらをどう料理するかを考えた方が有意義だろ?)』
「(ま、そうだな。羅濠のババアみてぇにいきなり目ん玉抉ったり、耳を削ぎ落とすとかはせんが、敵対する奴に慈悲をやる心なんぞ持ち合わせてねぇからな。敵対者には徹底的にブチのめして心を砕いて歯向かわせない、基本中の基本だ)」
『(クククッ、
「(おいおい、何言ってやがる。神を殺す奴にまともな奴がいると思ってんのか?)」
『(グァーッハハハハッ!確かに神を殺す奴にまともなのがいるわけねぇわな!一本取られたぜ、相棒!)』
心の中でそんな会話をしていたら、教会から誰かが出てきた。
視認して分かった。
コイツは、人間じゃあねぇな。
気に食わねぇ、人間を見下してますって面してやがる。
カンピオーネになってから洞察力とか観察力とかが上がってるからな……まあ、カンピオーネになる前から人の顔をよく視ていた影響もあるだろう。
「遅かったじゃない、アーシア。そこの人間に案内してもらった訳?」
「レイナーレ様……」
レイナーレって言うのかこの堕天使。
それにしてもコイツ弱いな、結界を張った事に気付く様子がない。……まあ、同族か神以外に気付かれるヘマなんざしない。最強の魔術師と言われて、魔導王の呼び名まで付けられたんだ。俺にだってプライドがあるんだよ。汚くても最後は勝てればいいと思うけど魔術で負けるのは俺が赦さない。
堕天使の方に行こうとしたアーシアの前に腕を広げて止める。
顔に出過ぎだぞ堕天使。イライラしてるって顔面に出ている。
「おい、堕天使。お前の目的は何だ」
「へぇー、私が堕天使だって分かってるのね。目的?あんたみたいな下等生物に言うわけないでしょ」
そう言って光の槍を造り出して、黒い羽を広げる。
ヤバイどうしよう。挙動が遅過ぎる。
あ、槍投げてきた。
羅濠のババアと剣バカのせいで神速レベルじゃないと遅く感じる。あの二人が神速と同じ速さで動けるのが問題なんだよ。俺が苦労して権能と魔術の応用で安全な神速状態の維持が出来るようになったのに笑って追い掛けてきたり、見切ったり。
タイミングを合わせて正拳突きで迎撃。特に呪力を込めてない拳──少しだけ漏れ出てたけど──で光の槍が粉々になった。
やっぱり、カンピオーネの体質は卑怯だ。
「な、何でただの人間の拳が私の槍が砕けるのよ!?」
「そんなの俺がただの人間じゃないからに決まってんだろ。さぁ、とっとと目的を言え……言っておくが、仲間に連絡も、転移も出来ないからな」
結界は空間遮断、人避け、気配隠蔽等々を織り混ぜた簡易的な物だ。簡易的な物だが効果は折り紙付きだ。
「マ、マオさん……」
「アーシアは少しだけ待っててくれ。あれに訊きたい事があるんでな……それで言う気になったか?俺は、あんまり我慢できる人間じゃないから早目に言えよ」
言いながら、呪力を少しずつ解放していく。顔がどんどん青褪めていく堕天使。アーシアには結界張ってるから影響はないハズだ。
「き、貴様は、何者だ!?」
俺が何者か……言っても良いか、逃がすつもりはないし。
「俺が何者か?俺は、ただの通りすがりの神殺しだ」