「俺が何者か?俺は、ただの通りすがりの神殺しだ」
「神殺しだと?ふざけるな、グファッ!?」
ふざけてないし、嘘も吐いてないっての。うるさいので背中に魔術で作った圧縮空気弾をぶつけて地面に落とす。
「ふざけてないし、嘘も吐いてない。俺の正体を言ったんだからとっととお前が何で悪魔の領地になってるここに来た目的をはよ言え」
「う、ぐっ、こ、この町に来たのは、私の計画を進める為にここに来た…」
「計画の内容は?」
「そ、それは……言います!?言いますからどうか!」
俺が挙げた右手に反応して、口を開く堕天使。
「そこの天界陣営の教会から悪魔すら治す神器を持つとされ異端として追放されたアーシアの神器を抜き取って、私が至高の堕天使になり、アザゼル様の寵愛を受けるための計画……」
「人の神器を抜き取ったらどうなるか知ってるのか?」
「ええ、知ってるわ。神器を抜かれた所有者は死ぬわ。けど、そんなの貴方には関係ないでしょ」
「……うん?」
何言ってやがるんだ?この堕天使は……確かに関係ないな……。至高の堕天使に成りたいなら強くなれよ。神器を抜き取る事より、身体鍛えた方が良いハズだろ?ここじゃあ違うのか?
「教会から捨てられたアーシアを私が拾ってその命をどうしようが、私の勝手でしょ?」
……………よし。
レヴィアタンの権能で捩じ切って殺ろうと思ったが、この悪党には
アーシアは、祐理と似たような感じがする。首から上を捩じ切る光景を見せるのもあれだし。まあ、見せないように出来るけど……。
「計画の内容を話したでしょ。早く、私を解放しなさい!」
「お前、今の状況を分かってんのか?何でそんなに偉そうな口が出来るんだよ……。俺は、お前の様な反省とか無縁な敵対した悪党は殺すことにしてるけど、特別に命は取らないでやるよ」
「ほ、本当に…?」
「本当だとも」
『(おい、どう言うことだ相棒?殺さねーのか?)』
「(うん?いや、殺すよ。悪の心を持ったコイツを…だけど)」
『(どういう意味だ、それ?)』
「(〈
『(マジかよ!よりにもよってそれを使うのかよ!オレ様の魔法の中でも一、二を争う扱い辛い禁術じゃねぇか!アンラ・マンユから押し付けられた対象の善悪を反転させるだけの物だぞ。そして、かなりの魔力…呪力を持っていかれるぞ!オレ様の七割以上は持っていく代物だぞその魔法は…)』
「(安心しろって、お前を取り込んで呪力量は増えてるし此処んところ呪力は貯めてたし足りるよ。なんとなくだけど今の四割五分は持ってかれるだろうね。……コスパ最悪過ぎるだろ。何故にこんなの創ったんだよ悪神……)」
『(奴に創られたオレ様でも奴の事は分からん。……というか、悪神がそんな事考える訳ねぇだろ。
「(そうだな。神なんて面白いって理由で天変地異を起こしたりするもんなぁ……)」
この善悪反転は、魂に作用するから元に戻ることはない……いや、違うな……魂のあり方を最初っから作り替えるが正しいか。だから戻るって事が起きない。
コイツの場合なら最初っから善人だったって事になるだろう。効果はそれなりにスゴいと思うけど一人だけにしか出来ないってのは……。
堕天使の頭に手を置いて、術を発動する。
うぐっ……。モルスの言う通りかなりの呪力が持っていかれてる。これは確かに禁術だな。ただの人が発動したら絶対、生命も吸われてミイラ確定だぞ。モルスも一、二回だけ使って効果がちゃんとあることは分かっている様だからあれこれ言わない。
「う……あっ……」
堕天使の眼が虚ろだが魂を弄ってるからな仕様だろう。
術が終わり、堕天使はふらふらしている。一、二時間ぐらいで動き出すだろう。
「マオさん……レイナーレ様に何をしたんですか?」
「ん?ちょっとこの堕天使に善の心を与えただけだ」
流石に魂を弄った、とは言えないな。
「そんな事より、アーシアはどうするんだ?この堕天使はお前を殺すつもりだったんだ。例え、善人になっても仲間の堕天使に神器を抜き取られ殺されるかもしれないだろ?これからどうするんだ?これも神の試練だって言って、座して死を待つのか?」
「そ、それは……」
「宗教とか信仰を俺は、別に否定するつもりはない。信じるモンは人それぞれだからな。けどな…人生の大事な選択肢で神なんて不確かなモノにすがって変わるのか?神が目の前に現れて助けてくれるのか?全ての選択肢を決めるのは自分自身だ。断じて神じゃねぇ」
人生の選択か……自分で言ったけど、俺の場合は確かに目の前に神は現れた。しかも、二柱。
死にたくなかった。
これもまた選択の果て。
「選択する意思がねぇなら…意地汚く生きるつもりがねぇなら此処にいれば良い。堕天使の仲間が殺してくれるぞ。……俺だってな、死にそうな女の子を見捨てるつもりはないけど、生きるつもりがねぇなら助けたいと思わんし、助けてとも言われてもいないのに助ける善人じゃあないんでな。何にもないなら俺は帰るぞ?」
「マオさんは…何が出来、ますか…」
「何が出来る、か……。そうだな、日本神話の後ろ盾と日常生活するための家の提供…かな。必要なら闘うためための術も教えよう」
天照に連絡しておかないとな、電話でもいいけど実際に会ってもらった方が良いからな。
「マオさん……私を、助けて…ください…ますか?」
「分かった。俺の出来る範囲でアーシアを助けよう。お前を害するモノは俺の全力を持って排除しよう。……ふぅ、とりあえず家に行くか。安心しな、はぐれを助けるのはこれで二回目だ。俺の同居人とも仲良く出来ると思うぞ」
「……すみません」
「こういう時は、謝るんじゃないぞ?」
「はい。ありがとう、ございます」
「それじゃあ、転移で家に帰るから手を出してくれ」
「は、はい!」
手を握った瞬間に転移してマンションの部屋の玄関前に転移する。
転移する意味があるのかって?大有りだっての。
あの結界の外に堕天使の他に悪魔が隠れていた。人避けとか掛けていたがアレは結界に気付かない様にするためのだったから、教会の方を見ていたのだろうな。駒王町の悪魔…つまり学園にいる悪魔の気配は覚えているがその何れでもない物だったから大事をとって転移で帰ったのだ。
「此処が現在の俺と同居人が住む部屋だ。ただいまーっと」
「……お邪魔しますぅ」
声が掠れてる様に小さくなったな……。
「おかえりなさい、摩桜さん」
「おかえりにゃ~」
「おう、二人とも今日から同居人が増えるからそのつもりでな」
「それは…どういう……ああ、そう言うことですか……」
あれ?祐理の眼が鋭く、光りが消えたように一瞬見えたぞぅ。俺の後ろに隠れていた存在、アーシアを見たからか?
「はぐれのシスターのアーシアだ。殺されそうだったし、助けを請われたから連れてきた」
「アーシア・アルジェントです。よろしくお願いします」
「イタリアの方、何ですね」
う~ん。ここは日本だし、イタリア語は目立つよな……手っ取り早く〈教授〉で教えるか。情報量が少ないなら一週間は持つしな、その間に日本語を喋れる様になってもらうか。
「アーシア、ちょいとデコを出してくれ」
「こう、ですか?」
前髪を上げてもらい、右手の人差し指と中指を当てて〈教授〉の魔術で必要な情報をアーシアの頭に流す。
「応急措置だが、一応これで日本語が分かる様になったハズだがどうだ?」
「あ、あれ?マオさんの言葉が…分かります」
「祐理、夕飯前だがお茶と菓子の準備だ。ちょいと長い話になるからな。黒歌、お前も混じれよぉ」
お茶と菓子の準備を終えて椅子に、ソファに座って説明を始めた。