全てが始まった日
思い返してみれば、チャーリーの人生は最初から不運続きだった。
まず、チャーリーに父親はいない。母に聞いたところ、チャーリーが生まれる前に事故で亡くなったらしい。父の話をする母は悲しい表情をするので、チャーリーはあまり父のことは話題に出さなくなった。
チャーリーの母は美しい人だった。金髪の髪はサラサラと流れ、青い瞳は空のように澄んだ色だった。母を見るたびに、チャーリーは自分の真っ赤な髪や緑の瞳が恨めしくなる。一度母に、母の髪と目の色が欲しかったとこぼしたところ、母はフワフワと笑いながら、
「あなたの色は誰よりも綺麗よ、チャーリー」
とチャーリーのグシャグシャな短い赤毛を撫でてくれた。
母は誰よりも美しかったが、反面身体が弱かった。季節の境目には必ず体調を崩す。仕事をしていたが、どの職場でも長続きをしない。そのため二人の暮らしは決して楽なものではなかった。チャーリーは少しでも母の助けになるように、母がいないときは家事を終わらせるようにしていた。さすがに料理はさせてもらえなかったが、簡単な掃除ならチャーリーにもできた。
ところでチャーリーはある秘密を抱えていた。チャーリーには超能力が使えた。チャーリーがこうしたいなあと思うことが、現実になってしまうのだ。例えば戸棚のコップを取りたいとき、戸棚まで行くのがめんどくさいなぁと考えていたら、突然ひとりでに戸棚が開き、コップが飛んできた。また、自分で切った髪を、切りすぎたかなと考えていたら、次の日の朝には元に戻っていた。近所のいじめっ子に追いかけられたときにはなぜか自分の家まで瞬間移動をしたこともある。チャーリーはその事を母にさえ話さなかった。母に話すと心配するのは分かりきっていた。あまり心配をかけたくなかったし、幸運にもその力を発揮する時に誰にも見られていなかった。
チャーリーが五歳の誕生日を迎えた夏と秋の境目に母が亡くなった。母は風邪をひいたが、病院代を惜しんで無理して働いていたらしい。結局風邪をこじらせ、肺炎となりあっさり亡くなった。母は最後までチャーリーの事を気にしていた。
母を亡くしたチャーリーは悲しんだが、周囲の大人はそんなチャーリーを気遣う様子もなくすぐに孤児院へ入れた。孤児院では、チャーリーと同じように親がいない子供達が必死に生きていた。必死に生きる子供達はチャーリーをいじめた。あるときは施設の掃除を押し付けられ、あるときはロッカーに閉じ込められた。チャーリーは面倒くさいため特に抵抗しなかった。抵抗したらもっといじめがひどくなるのは分かっていた。しかし、いじめっ子が数少ない母の写真を破いたときは我慢ならなかった。チャーリーの怒りは爆発し、チャーリーがいじめっ子に手を出す前に、周囲のおもちゃが突然子供達に飛んできた。まるでポルターガイストのように浮遊するおもちゃに周囲の子供達はもちろん大人たちさえ恐怖した。すぐにチャーリーは我に帰ったが、時すでに遅く、今度は施設の子供達や職員にさえも遠巻きにされた。
周囲の人間から無視をされる生活をおくっていたチャーリーは自業自得だなと、幼い歳ながら悟っていた。そんなチャーリーに施設の職員が恐る恐るという風に声をかけた。どうやら自分にお客様が訪れたらしい。自分に会いに来る客など全く心当たりがなかった。そのため警戒心剥き出しで、施設にある応接室に入った。
そこのソファでチャーリーを待っていたのは奇妙な人物だった。かなりの高齢と思える老人。地味な色のしかし、不思議な服を着ている。眼鏡の奥の瞳はキラキラと光っていた。何よりも目が行くのは長く伸ばした髭だった。
チャーリーを見た老人はホッホッとサンタクロースのように笑った。
「不思議じゃな。親子でもないのにあの子にそっくりとは」
「あんた、誰だ?」
チャーリーは警戒を隠さず老人を睨む。老人はそんなチャーリーに気を悪くした様子もなく笑いかけた。
「そんな顔をするとかわいらしい顔が台無しじゃよ」
「質問に答えろよ。あんた、何者だ」
すでにチャーリーはこの老人が只者ではないと感づいていた。老人は何故か一瞬悲しむようなまたは懐かしむような表情をしたが、すぐに笑顔に戻り口を開いた。
「わしの名前はアルバス・ダンブルドア。自分が何者か知りたくはないかの?君を迎えに来たんじゃよ。チャーリー、いや、シャーロット・エバンズ」