ダイアゴン横丁にて、シャーロットはスーツケースを抱えたまま歩きだした。人混みを掻き分けながら、店を目指す。
「さてと、まずは……」
最初はマダム・マルキンの店へと向かい、新しい制服をいくつか購入した。そして、薬問屋へ行き、いくつかの材料を購入したあとは、のんびり歩き回り、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店へと到着した。
「えーと、基本呪文集は……」
キョロキョロしながら本棚の間を歩いていると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。赤毛の中年女性、ロンのお母さんだ。
「ウィーズリーおばさま!お久しぶりです!」
シャーロットが後ろから声をかけると、ウィーズリー夫人は振り返り、キョトンと目を瞬かせた。数秒後、ハッと息を呑み、口を開いた。
「シャーロット!あなたなの!?」
「え?、ええ。」
「あなた、どうしてこんなに痩せているの!?」
ウィーズリー夫人はシャーロットの肩をグッと掴み、頭から爪先までマジマジと観察するように見てきた。シャーロットはウィーズリー夫人の様子に驚きながら、口を開いた。
「えっと、ちょっと体調を崩しちゃって」
「それはロンから聞いたわ!それでこんなに!?大丈夫なの?何か大きな病気じゃないでしょうね!?」
シャーロットは自分が思っているよりも、大きく外見が変わったことをようやく認識し始めた。
「すみません。でも、大丈夫です。病気とかじゃなくて本当にちょっと体調が悪くなっただけなので。ご心配おかけして、本当にすみません」
「まあまあ、なんてこと!シャーロット、本当に大丈夫なんでしょうね?」
「はい!もちろん!」
シャーロットがウィーズリー夫人の目を見ながらしっかり頷くと、ようやく安心したように肩から手を離した。
「ああ、でもよかったわ。あなたと会えて。ずっと心配していたのよ。アーサーもうちの子供達も。ハリーやハーマイオニーも何度もホグズミードに様子を見に行きたいって。そういえば聞いたかしら?ロンとハーマイオニーは監督生になったの!そうそう、それからハリーのことだけど……」
「尋問を受けたそうですね」
シャーロットがそう言うと、ウィーズリー夫人は顔を曇らせた。
「ハリーは大変な目にあったわ。本当に。無罪になったとはいえあの子がどんなに傷ついたか……」
ウィーズリー夫人は悲しそうに首を振った。
「ハリーは今、グリモールド・プレイスに?」
シャーロットが小声で聞くと、ウィーズリー夫人は驚いたようにしながら軽く頷いた。
「よく知ってるわね。ダンブルドアから聞いたの?」
「あー、ええ、まあ」
シャーロットが気まずそうに視線をそらしながら肯定した。本当はダンブルドアから不死鳥の騎士団の本部の場所など聞いていなかった。
「そうだわ!今夜はあなたも本部にいらっしゃい!」
「え!?でも……」
「みんなあなたに会いたがっているのよ!明日はみんなで列車で学校に行けばいいじゃない!ね?そうしましょう?腕によりをかけてごちそうを作るわ!」
シャーロットはウィーズリー夫人に強引に押し切られるように迫られ、結局断ることもできずその日はグリモールド・プレイスに泊まることが決まった。
グリモールド・プレイス十二番地。シャーロットはウィーズリー夫人とともに敷居を跨ぎ、玄関ホールへと進んだ。埃っぽい臭いがして、蜘蛛の巣だらけのシャンデリアが目に入った。
「あの子達は2階にいると思うわ。」
ウィーズリー夫人がそう言った瞬間、バタバタと足音が聞こえた。
「ママ、帰って――」
顔を輝かせたロンの姿が現れた。ロンはウィーズリー夫人の後ろにいたシャーロットを見て、不思議そうに首をひねった。
「ハロー、ロン。久しぶり」
シャーロットが声をかけた瞬間、ロンは驚きで目を見開いた。
「シャーロット!?」
ロンの大声が響いた瞬間、ドタバタと多くの足音が聞こえた。
「シャーロットが来た!?」
「え!?シャーロット!?うそ!?」
「髪が!」
「誰だよ!?」
「本当に誰だよ!?」
ハリー、ハーマイオニー、ジニー、フレッド、ジョージが一緒にやって来て、シャーロットの姿を見たとたん驚きで大声をあげた。
シャーロットは苦笑しながら首を振った。
「みんな、大袈裟ね。ちょっと痩せて、髪を切っただけよ。」
「それ、痩せたってレベルじゃないぞ」
「ああ、どっちかというと、やつれている、だな」
フレッドとジョージが心配そうにシャーロットを見てきた。
「さあさあ、夕食の準備をしますからね。むこうで待ってらっしゃい。いまは包みを開けないで。みんなが夕食に来ますからね。」
ウィーズリー夫人がそう声をかけたことで、ロンがやっとショックから立ち直ったように一番大きな包みを奪い取った。恐らく、監督生就任祝いの新品の箒にちがいない。
「久しぶり、みんな。今まであんまり連絡しなくてごめんね」
「いいんだよ、そんな事。体は大丈夫?」
じめじめとした暗い部屋に案内され、やっとシャーロットはハリー、ロン、ハーマイオニーと落ち着いて話をすることができた。ハリーは心配そうにシャーロットを見つめている。
「うん、ちょっと体調が悪かっただけ。もう大丈夫よ。それよりも、夏休みにあったことを詳しく聞かせて?」
シャーロットがベッドに座りながら言うと、3人は矢継ぎ早に夏休みに起きたアレコレを説明してくれた。プリベット通りの吸魂鬼事件、日刊預言者新聞に書いてあること、魔法省でのハリーの尋問のこと。
「…………うーん。それじゃあ、やっぱりファッジ大臣は暴走しているのね?」
「ファッジはヴォルデモートの復活なんて信じちゃいない。あいつは僕やダンブルドアがでっち上げたって思い込んでる」
ハリーが吐き捨てるように言った。シャーロットは重いため息をついた。
「どうやら今年も波乱が起きそうね」
「……ああ、いつものことさ」
ハリーもため息をつき、ロンとハーマイオニーが顔を見合わせた。
数分後、ウィーズリー夫人に呼ばれ地下へ行くと、テーブルの上にギッシリと夕食が並んでいた。どうやら立食パーティーらしい。深紅の横断幕に『おめでとう ロン、ハーマイオニー 新しい監督生』と書いてあって、シャーロットはニッコリ笑った。
シャーロットはウィーズリー氏、ビル、シリウス、ルーピンとも顔を合わせ、挨拶をした。四人ともシャーロットの変わりようにこれまでの人々と同様とても驚いていた。また、ニンファドーラ・トンクス、キングズリー・シャックルボルト、マンダンガス・フレッチャー、マッド・アイ・ムーディと初めて出会い、握手を交わした。正確にはムーディとは初めてではなかったが。
夕食はとても賑やかだった。ロンは新品の箒を自慢しまくり、ハーマイオニーはしもべ妖精の権利についてルーピンと意見を述べ合っている。フレッドとジョージは何事かをフレッチャーと密談しており、ハリーもそれに加わりコソコソしていた。ウィーズリー夫人は何度もシャーロットに皿に山盛りにのった料理を勧め、シャーロットは苦笑いしながらゆっくりと食事を楽しんだ。
夕食後、部屋に帰ろうとするロンをこっそり引き止めた。
「ロン、ちょっといい?渡したいものがあるの。」
「え?なんだい?」
「あなたの部屋へ行ってもいい?」
「あ、ああ。」
ロンが戸惑ったように部屋へ案内してくれた。
「ごめんね。でもこっそり渡したかったから」
「何をだい?」
シャーロットは大きな包みをロンに渡した。
「はい、これ。私からあなたへ監督生就任のプレゼントよ」
「え、えー?シャーロット、いいのかい?」
「もちろん」
シャーロットはニッコリ笑って頷いた。プレゼントはもうずいぶん前から準備していた。ロンは顔を輝かせて、包みを開いた。その中身を確認すると、目を大きく見開いた。
「……シャーロット、これ……これ……」
「凄いでしょう?あなたにピッタリだと思ったの」
それはクィディッチ用のグローブだった。厚い生地でしっかりとした縫製の高級品だ。
「学校から支給されるとは思ったんだけど、でも、これはきっと役に立つわ。キーパーにピッタリよ」
「シャーロット、でも、なんで、僕……」
「クィディッチ選手になるんでしょう?」
ロンの顔が真っ赤に染まった。
「なんで……」
「あなたならきっとそうすると思ったから。きっといい選手になるわ。ハリーとあなたでグリフィンドールチームは無敵ね」
シャーロットがそう言うと、ロンの唇が震えた。
「で、でも、僕、無理かもしれない。選抜に受からないかも。ハリーみたいにできないかも……」
「ハリーとあなたは全然違うわ。あなたにはあなたの強みがある。私はそんなあなたが大好きよ。あ、もちろん友達としてね?」
シャーロットがクスクス笑いながらロンをまっすぐに見つめた。
「ロン、私は知っている。あなたの勇気や強さを。もっと自信をもって。監督生に選ばれたじゃない。完璧じゃなくてもいいの。あなた自身の力で立ち向かうのよ。」
ロンは顔を更に真っ赤にして、ボソリと呟いた。
「今、僕、監督生になれたことよりも、新しい箒を買ってもらったときよりも嬉しい」
「さあ、グローブを着けてみて」
「……うん!」
ロンは包みを放り投げて、急いでグローブを手に嵌めた。
「ピッタリだ!」
「どうかしら?指は動かしにくくない?」
「さいっこうだよ!ありがとう、シャーロット!!」
ロンは感激のあまり、シャーロットを勢いよく抱き締めた。シャーロットも笑いながらロンの背中に腕を回した。
その時、ドアが開くキィッという音が聞こえ、シャーロットはそこに目をやった。そして顔を青ざめさせた。
ハーマイオニーがシャーロットよりももっと顔を青くして、抱き合う二人を見つめていた。
世界の時が止まったようだった。ロンがシャーロットの体を離し、不思議そうにハーマイオニーに視線を送った瞬間、ハーマイオニーはクルリと背を向け、足早にその場を去って行った。
「ハーマイオニー?どうしたんだろう?何か用があったのかな?なんであんなに顔色が悪かったんだろう?」
キョトンとするロンをよそに、シャーロットは面倒くさいことになったと思い、頭を抱えた。
「ハーマイオニー、いるんでしょう?入るよ」
ハーマイオニーの部屋をノックして、返事を待たずにドアを開けた。ハーマイオニーはベッドにうつ伏せに横になり、そっぽを向いていた。
「……もっとイチャイチャしてくればいいのに。私のことは気にせずに」
ハーマイオニーの言葉を聞き、シャーロットは苦笑した。
「ロンと私はイチャイチャしていたわけじゃないわ。ちょっと話していただけよ。」
「……ふーん、ふうぅぅぅぅぅん?ちょっと話していただけで、抱き締め合うのね?それとも私は幻覚を見たのかしら?」
ハーマイオニーがジトリとした目でシャーロットを睨んできた。シャーロットはその視線を受け止めて、ちょっと意地悪をしたくなってきた。
「あのさ、ハーマイオニー。私とロンが何をしようがハーマイオニーには関係なくない?」
「うっ……」
「ハーマイオニーが怒る理由はなに?あなたのそんなに怒った顔を見たのは初めてなんだけど?」
ハーマイオニーが今度は顔を真っ赤にして黙った。シャーロットは口をきつく結び、唇を噛んだ。そうしないとニヤニヤ笑いを押さえられなかったからだ。その代わりに、持ってきた包みをハーマイオニーに押し付けた。
「……なに、これ?」
「あなたへの監督生就任のプレゼントよ」
ハーマイオニーは少し驚いたような顔をして、包みを受け取った。
「シャーロット、これ!」
ハーマイオニーが包みを開けて、声をあげた。そこに入っていたのは、上品なピンク色のトランクケースだった。
「開けてみて」
シャーロットが促すと、ハーマイオニーは待ちきれないようにしてトランクを開いた。
「まあ!」
トランクの中には、梯子がかけられており、梯子を下りた先には広い大きな部屋があった。
「これって……」
「私のスーツケースほど広くはないけどね。ちょっと一人になりたいときや、勉強部屋にいいと思って。もっと広くしたいのなら、魔法の掛け方を教えるわ」
シャーロットがそう言うと、ハーマイオニーは部屋を見回しながら嬉しそうに笑った。
「これ、本当にいいの!?」
「もちろん。でもね、ハーマイオニー。私が言うのもなんだけど、ここに籠りきりはやめてね。どうしても使いたいときに使えばいいわ。」
「……どうもありがとう。シャーロット」
ハーマイオニーは静かにシャーロットへお礼を言った。
「あのね、ハーマイオニー。さっきのロンにも同じようにプレゼントを渡したの。ロンもとても喜んでくれたわ。それで感激しすぎて、つい抱きついちゃっただけなのよ。だから、私とロンは何でもないの」
「……何をプレゼントしたの?」
どうやら、先程目撃したときはショックが大きすぎて、ロンが嵌めていたグローブに気づかなかったらしい。
「ないしょ。いずれ分かるわ」
シャーロットが笑うと、ハーマイオニーはやっと安心したように笑みを返してくれた。