あの子はこの世界が嫌い   作:春川レイ

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ルーナ

 

自分自身の高笑いが響く。怖い。だれか、助けて。違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う――――。私は、ヴォルデモートじゃない!

「違う!」

シャーロットは何度も見た悪夢に再び苦しめられ、飛び起きた。呼吸が荒くなり、周囲に視線を送る。今は夜中らしい。朝が来るのはまだまだ先だが、再び眠れそうにはなかった。洗面所で顔を洗うと少し落ち着いた。鏡を見て顔をしかめる。昨日より更に隈が濃くなり、顔色も悪くなっている気がした。

ゆっくりと地下に下りていき、一人でコーヒーを入れた。ゆっくりとコーヒーを飲みながらそのまま時間が経つのを待った。

やがて朝が来た。ウィーズリー夫人が最初に起きてきて、すでに起きていたシャーロットを見て驚いていた。シャーロットは笑って、2階に戻り、荷物の整理をしてくると伝えて、再び寝室へと向かっていった。

のんびりと荷物を整理する。しかし、シャーロットの荷物はほとんどスーツケースに入っている。残りの荷物は昨日、アンバーにホグワーツへ直接届けるよう頼んでおいた。ここに泊まったのは一泊だけだったので、まとめる物は少なかった。

やがて屋敷の中の住人達が起き出して、てんやわんやになった。1階からはウィーズリー夫人と、シリウスの母親の肖像画が叫ぶ声が響いている。

「大怪我をさせたかもしれないのよ、このバカ息子!」

「穢れた雑種ども、わが祖先の館を汚しおって――」

シャーロットは思わず笑いながらスーツケースを抱え、1階に降りた。

キングズ・クロス駅にはウィーズリー氏とともに行くことになった。ロンとハーマイオニーも一緒だ。ハリーはウィーズリー夫人とトンクス、そしてシリウスとともに一足先に出ることになった。

キングズ・クロス駅までは徒歩で二十分ほどかかった。

「シャーロット、昨日より顔色が悪くなってない?」

「寝てないのか?大丈夫かい?」

「大丈夫よ。気にしないで」

心配そうにシャーロットを見てくるロンとハーマイオニーに強がるように笑って答えた。実際には体に倦怠感があり、もう一度ベッドに戻りたい気分だった。しかし、寝たらまた悪夢を見ることは分かりきっていた。

駅の中に入ると、九番線と十番線の間をさりげなくウロウロしながら、ゆっくりと柵を通り抜けた。通り抜けた瞬間、煤けた蒸気が視界に入った。ホグワーツ特急が停車し、プラットホームは生徒や家族でいっぱいだ。

荷物を下ろしていると、後からフレッド、ジョージ、ジニーがルーピンと一緒に現れた。

やがて、警笛が鳴った。

「早く、早く」

ウィーズリー夫人が慌ててみんなを抱き締め、汽車へと促した。シリウスは最後まで強くハリーを抱き締めていた。

「さようなら!」

汽車が動き出す。ハリーが別れを告げる声が聞こえた。シャーロットも手を全力で振る。やがて、ウィーズリー夫妻、シリウス、ルーピン、トンクス、ムーディの姿があっという間に小さくなった。

「リーと仕事の話があるんだ。またあとでな。」

フレッドとジョージはジョーダンを探しに、右の通路へと向かって行った。

「それじゃ、コンパートメントを探そうか?」

ハリーがそう言った途端、ロンとハーマイオニーが目配せしたので、シャーロットは笑ってハリーの肩を叩いた。

「ハリーったら。ロンとハーマイオニーは監督生よ。席は決まってるじゃない」

「あっ」

ハリーは今気づいたようで、声をあげた。

「ずーっとそこにいなくてもいいと思うわ。手紙によると、男女それぞれの首席の生徒から指示を受けて、時々車両の通路をパトロールすればいいんだって」

「あっちに行くのは嫌なんだ。僕はむしろ、だけど僕たちしょうがなくて、だからさ、僕、楽しんではいないんだ。僕、パーシーとは違う」

ハーマイオニーとロンが慌てて言葉を繋いだ。ハリーは

「分かってるよ」

と笑ってはいたが、寂しさは隠せていなかった。ハーマイオニーとロンを見送った後、ハリーが少しだけ目を伏せたので、シャーロットとジニーは顔を見合わせて、二人でハリーに声を掛け合った。

「ハリー、大丈夫よ。あの二人ならすぐに来るわ」

「早く行きましょう。二人の席を取っておかないと」

「そうだね」

ハリーが笑ったので、二人はホッと胸を撫で下ろし、それぞれの荷物を抱えて通路を歩き始めた。

コンパートメントはどこも満席だった。生徒の多くがハリーを興味深げに見つめており、シャーロットは嫌な気分になった。

最後尾の車両でネビル・ロングボトムに出会った。

「やあ、ハリー、ジニー。どこもいっぱいだ……」

「こんにちは、ネビル。私には挨拶なし?」

シャーロットがちょっと膨れながら声をかけると、ネビルが昨日のみんなと同じように呆然とした。

「え、ええー!シャーロット?君、どうしちゃったの?」

「ちょっと痩せて、髪を切っただけ!あ、ここ空いてるわ。座らせてもらいましょう」

シャーロットは呆然としているネビルを押し付けるようにして狭い通路を通り、コンパートメントを覗いて言った。ネビルがそれを見て、邪魔をしたくないとかなんとかいっていたが、構わずに戸を開けた。

「こんにちは」

そこに座っていたのはブロンドの女の子だった。バタービールのコルクを繋ぎ合わせたネックレスを掛け、雑誌を逆さまに読んでいる。シャーロットはその姿を見て、ニッコリ笑って声をかけた。

「こんにちは。レイブンクローのルーナ・ラブグッドね?私、グリフィンドールのシャーロットよ。こっちはハリーとネビル。ジニーは同じ学年だから知ってるわね?申し訳ないけど、ここに座ってもいいかしら?」

ルーナがじっと四人を見て、ゆっくりと頷いた。

「ありがとう」

シャーロットとジニーが同時にそう言った。ハリーとネビルはなんだか居心地が悪そうにしながらコンパートメントに入り、荷物を棚に上げた。

「ルーナ、いい休みだった?」

ジニーがルーナに声をかけた。

「うん。うん。とっても楽しかったよ。あんた、ハリー・ポッターだ」

ルーナが夢見るような声でそう言った。

「知ってるよ」

ハリーがそう答えたため、シャーロットとネビルは同時にクスクス笑った。

汽車は勢いよく走り続けた。ネビルが誕生日にもらったという貴重な植物を見せたり、その植物が液体を噴出するのが分かったが、シャーロットの意識は汽車の揺れに合わせてゆっくりと闇の中へ落ちていった。

 

 

 

「あなたは私。私はあなた」

声が響く。シャーロットはうつむいて耳を押さえた。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!聞きたくない!

「逃げるな!こっちへ来い!」

自分とは思えない声が耳奥へと入ってくる。これ以上は聞きたくない。逃げたい、逃げたい!

「逃げられると思ってた?」

すぐそばで声が聞こえ、シャーロットは顔を上げた。そこには唇を歪めて笑う自分自身がシャーロットを見ていた。

「あなたはひとりぼっちよ。永遠に。」

 

 

「シャーロット!」

誰かに呼ばれてシャーロットの意識はようやく光の中へ戻ってきた。ハッと顔を上げる。目の前に心配そうな表情のロンの姿があった。ロンだけではなく、その場の全員が心配そうにシャーロットを見つめていた。

「あ、ごめん、私、寝てた?」

「シャーロット、本当に大丈夫?かなりうなされていたわよ」

ジニーがそう言ったため、シャーロットは顔を渋くさせて答えた。

「ごめん。最近嫌な夢ばかり見るの。大丈夫だから。心配しないで。」

大きくため息をつくと、窓に寄りかかった。

「何か食べなよ、シャーロット。僕さっきお菓子買ったんだ。蛙チョコなら余ってるよ」

ネビルがそう言ってごそごそとポケットを探ったとき、コンパートメントの戸が開いた。シャーロットはチラリと視線を向け、うんざりした。ドラコ・マルフォイといつもの腰巾着、クラッブとゴイルだった。

「なんだい?」

ハリーが先に突っかかった。

「礼儀正しくだ、ポッター。さもないと罰則だぞ」

マルフォイの気取った声が鼻につき、シャーロットはただでさえ貯まっていたイライラが更に増すのを感じた。

「教えてくれ。ウィーズリーの下につくというのは、ポッター、どんな気分だ?」

「減らず口を閉じなさい、マルフォイ。痛い目にあいたいの?」

シャーロットが鋭い目でマルフォイを睨むと、マルフォイは一瞬首をかしげた後、大きく目を見開いた。

「お前、ダンブルドアか?」

「さっさと帰りなさい。マルフォイ。自分の場所へ。あなたのパパはここでは守ってくれないわよ」

マルフォイの唇が歪んだ。全員に憎々しげな一瞥を投げて、ようやく出ていった。

汽車は北へ北へと進んでいった。みんなで着替えを済ませると、ロンとハーマイオニーは監督生の仕事があるため、コンパートメントを出ていってしまった。

やがて、汽車が速度を落とし始めた。ハリーと一緒にホームに降り立つ。

ホームではきびきびとした女性の声が呼び掛けていた。

「一年生はこっちに並んで!一年生は全員こっちにおいで!」

ハリーが驚きで思わず声を上げた。

「ハグリッドはどこ?」

「分からないわ。ハリー、とりあえず出ましょう。馬車に乗らないと。もしかしたら風邪とかで学校で待ってるかも」

シャーロットはハリーを引っ張って馬車の方へ向かった。ハリーがハグリッドに会うことを楽しみにしていたのは知っているが、ハグリッドは恐らくホグワーツにはいない。急かすようにして馬車へと押し出した。途中でハーマイオニーやロンと合流して、ようやく一行はホグワーツへと出発した。

「みんな、グラブリー・プランクばあさんを見た?いったい何しに戻ってきたのかしら?ハグリッドが辞めるはずはないわよね?」

「辞めたらあたしは嬉しいけど。あんまりいい先生じゃないもン」

ルーナの言葉に、ハリー、ロン、ジニー、シャーロットが大声で、

「いい先生だ!」

と答えた。唯一何も言わなかったハーマイオニーはハリーに睨まれて、慌てて咳払いをした。

「えーと……そう……とってもいいわ」

そうこうしながらも、ようやく馬車はホグワーツへと着いた。シャーロットはハリーと一緒にハグリッドの小屋を見た。小屋はどう見ても人の気配を感じなかった。ハリーの不安の色が濃くなってきた。

玄関ホールから大広間へ向かう。レイブンクローのテーブルのところでルーナがふらりと離れようとしたため、シャーロットは声を掛けた。

「またね、ルーナ。今度一緒にゆっくりお話しましょう」

と声をかけると、ルーナは夢見るようにぼんやりと頷き、離れていった。

「あなた、あの子と親しいの?」

ハーマイオニーはルーナに声を掛けた様子を見ていたらしく、眉をひそめながら聞いてきた。

「ううん。今日が初対面よ。でも、ルーナって、なんだか魅力的じゃない?面白いし」

「本気?なんで、あんな、なんていうか……」

ハーマイオニーはどう言おうか迷っていたが、結局うまく言えないようで黙ってしまった。

ハリーとロンはハグリッドの姿が見えないことに不安を隠せずソワソワしていたので、シャーロットが小さな声で話しかけた。

「多分、まだ戻ってきてないのよ。ダンブルドアが何かこの夏に仕事をお願いしてたから……」

「そうか、うん、きっとそうだ」

ロンが無理やり自分を納得させるように頷いたが、ハリーとハーマイオニーは職員席を端から端までじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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