翌日は昨日と同じようにどんよりと曇っており、シャーロットの顔色も負けず劣らず暗かった。どの授業でも、先生方はOWL試験の重要性を繰り返し、大量の宿題を出していった。宿題の量に気が重くなりながらも、マクゴナガル先生の『消失呪文』の授業では一発でカタツムリの消失に成功し、更にはネズミから子猫まで消失させて見せた。マクゴナガルが滅多に見せない笑顔でグリフィンドールに三十点加点した。ハリーの顔はシャーロットよりも更に暗かった。大量の宿題にパニックになっており、更に『魔法生物飼育学』でグラブリー・プランク先生にハグリッドの事を聞いても教えてくれなかったことで不安が増したらしい。
「僕、ハグリッドに早く帰ってきて欲しい。それだけさ」
「大丈夫よ、ハリー。ダンブルドアはハグリッドを辞めさせなんかしないし、何かがあれば私達に教えてくれるはずだわ。だから、ね?落ち着いて。」
マルフォイが授業の間、挑発するせいで、ハリーはカリカリしている。多分、『魔法生物飼育学』の模範的な授業を受けたということもハリーの不安を増大させているようだ。四人で喋りながら温室を横切ると、四年生たちと鉢合わせした。ジニーとルーナの姿が見える。ルーナはまっすぐハリーのところに来ると、話しかけてきた。
「あたしは、『名前を言ってはいけないあの人』が戻ってきたと信じてるよ。それに、あんたが戦って、あの人から逃げたって、信じてる」
「え……そう」
ハリーはぎこちなく答えたが、シャーロットはパッと顔を輝かせた。ラベンダーとパーバティがルーナのつけているオレンジ蕪のイヤリングを見て笑っていたが、それに構わず話しかける。
「ルーナ、そのイヤリング素敵よ。とっても」
シャーロットがそう言うと、ルーナはふわりと笑い、
「ありがと」
と言って、のんびりと立ち去っていった。
「ね、言ったでしょう?ルーナってとっても魅力的だわ!」
「それに、僕を信じてくれるたった一人の人だ」
ハリーは戸惑いながらもそう言ったが、ハーマイオニーは理解できないとでも言うように首を振った。
「何言ってるの、あの子よりましな人がいるでしょう?ジニーがあの子の事をいろいろと教えてくれたけど、どうやら全然証拠がないものしか信じられないらしいわ。……」
ハーマイオニーが話していると、アーニー・マクラミンが近づいてきた。
「言っておきたいんだけど、君を支持しているのは変なのばかりじゃない。僕も君を百パーセント信じる。僕の家族はいつもダンブルドアを強く支持してきたし、僕もそうだ」
「え……ありがとう、アーニー」
ハリーは嬉しそうに微笑んだ。シャーロットもハリーに少しだけ笑顔が戻ってきたのを見て、ホッとした。
夕食はできるだけ多く、腹に詰め込むように摂取した。これから体力を使うのだ。天井をちらりと見る。雨は降りそうだが、仕方ない。
夕食後、ハリーは罰則のためにアンブリッジの部屋へ向かった。シャーロットはロンの肩を叩いた。
「ロン、行くわよ」
「へ?どこに?」
「……選抜の練習」
ロンの耳元でこっそり囁くと、ロンがハッとしたようにシャーロットを見てきた。
「私も付き合うわ。残念ながら教えることはできないけど……」
「シャーロット、でも、いいの?君も宿題が……」
「何とかなる!さあ、行くわよ。箒を持って、早く!」
ハーマイオニーやフレッド、ジョージに見つからないようにしながら、二人はコソコソと寮から出ていった。
クィディッチの競技場は静まり返っている。シャーロットは学校の備品の『流れ星』とありったけのクァッフルを用意した。ロンは新しい箒を持ち、ゴールの前に立つ。二人はゆっくりと浮かび上がった。
「ロン。私は残念ながらクィディッチの教師にはなれないの。経験もないし。だから、とりあえずこうしましょう」
シャーロットがクァッフルではなく、杖を手にしたため、ロンが首をかしげた。
「うわあ、シャーロット!ちょっ、待っ……」
「待たない」
シャーロットはそう言い放ち、杖を振るった。シャーロットの杖の動きに合わせて、クァッフルが次々とロンの方へ飛んでいく。ロンが避けたため、シャーロットは怒鳴った。
「ロン!何してるのよ!クァッフルを受け止めて!」
「あっ、そうか!」
ロンが今気づいたように避けるのをやめてクァッフルを受け止める。シャーロットは次のクァッフルをゴールへ飛ばした。
「さあ、ロン!止めたクァッフルは下に落として。私がゴールを決めるからどんどん邪魔するのよ!」
「う、うん!」
ロンは戸惑ったように、縦に横にと飛びながらクァッフルを受け止める。シャーロットは時々怒鳴りながら、次々とゴールの方へクァッフルを飛ばしていった。
「……疲れた」
「そうね。でも、練習にはなったんじゃない?」
二時間ほど練習をして二人は寮へと戻っていった。
「明日もやるでしょう?」
「……うん。シャーロット、明日もいいの?」
「モチのロン!」
シャーロットがニヤリとすると、ロンが安心したように笑った。
真夜中、シャーロットは1人で宿題を進めていた。疲れが貯まっていたが、とにかくどんどん宿題を済ませていきたい。『魔法生物飼育学』のスケッチを完成させていると、ハリーが飛び込むように寮へと戻ってきた。
「シャーロット!まだやってたの!?」
「おかえり、ハリー。まあね」
ハリーが手を隠すような仕草をしたため、シャーロットはピンときた。
「……ハリー、手を見せて」
「え、シャーロット。なんだよ、何も無……」
「いいから、見せなさい!」
ハリーは嫌がっていたが、シャーロットが怒鳴ったため、渋々手をシャーロットの前に突き出した。その手は赤いミミズ腫れが残っていた。シャーロットは怒りが全身を満たすのを感じた。ハリーが何かを言おうとしたが、遮った。
「何も言わなくていい!ちょっとこのままで待ってて。いい?」
シャーロットはスーツケースからボウルと小瓶と小さな容器を取り出した。まずはボウルにお湯を注ぐ。小瓶に入っている液体を10滴ほど垂らすと、ハリーの手を掴み、ゆっくりとボウルの中に入れていった。
「うわ、シャーロット、これ何?」
ハリーはボウルに手を入れた瞬間、痛みが消えてなくなるのを感じ、思わず声を出した。
「ちょっとした薬よ。痛みはすぐに消えるわ。それに、特性の軟膏もある。明日には傷は全部治っているはずよ。」
アンブリッジの羽根ペンの罰則はあまりにひどい。シャーロットはボウルの中のハリーの手をゆっくり擦りながら、口を開いた。
「ハリー、あなたは何も言わなくていいわ。でもね、私は言わせて。私、今すぐに、あの女の食事に毒を入れてやりたい」
ハリーは少し笑ったが、シャーロットは半ば真剣だった。その後はハリーの手全体に軟膏を塗りたくり、寝室に追いやった。
翌日もそのまた翌日も宿題は増え続け、ハリーはアンブリッジの罰を受けに行き、シャーロットはロンの練習に付き合った。ハリーにはすでに小瓶の薬と軟膏を渡し、使い方を説明してある。毎晩手は傷つくが、軟膏のおかげで傷跡は残らないようだった。ロンのクィディッチの方は着実に腕を伸ばしている。ロンもそれを感じているのか、宿題が全く進んでいないのに顔は明るかった。
「僕、本当に選抜受かるかも!」
「受かるに決まってるわ。まあ、あとの問題はあなたのあがり症くらいね」
二人で話しながら、階段を下りていると、ハリーと鉢合わせた。ロンは慌てて箒を背中に隠そうとするが、もう遅い。
「ロン、シャーロット?何してるの?何を隠してるんだい?」
シャーロットは苦笑した。ロンは顔を真っ赤に染めながら、とうとう夜のクィディッチ特訓の事を白状した。
「それ、素晴らしいよ!君がチームに入ったらほんとにグーだ!」
ハリーは嬉しそうにそう言ったため、ロンが心の底から安心したようにホッと息をついた。
「ハリー、君の手の甲、それ、何?」
今度はロンが鋭く指摘した。ハリーは手を隠そうとしたが、ロンがハリーの手を掴む方が早かった。ハリーの方も早々にアンブリッジのあくどい罰を白状した。
「あの鬼ばばぁ!」
ロンが怒りで眉を吊り上げた。マクゴナガル先生やダンブルドアに訴えるように言ったが、ハリーは頑なにそれを拒んだ。
「僕を降参させたなんて、あの女が満足するのはまっぴらだ。それに、見た目ほど悪くないよ。シャーロットが薬をくれたから傷跡も次の日には消えるし……」
三人で話しながら、グリフィンドールの寮へと戻っていった。
今日はとうとうクィディッチの選抜試験だ。ハリーは暗い顔でアンブリッジの部屋へ向かった。アンジェリーナは罰則のためにハリーが来ないことで怒りで顔が赤くなっていたが、来れないものはしょうがない。
シャーロットは競技場のすみっこで選抜試験の様子を見守った。ロンは最初はぎこちない動きを繰り返し、クァッフルを受け止めきれずシャーロットはヒヤヒヤした。しかし、途中から波に乗ってきたらしく、素晴らしい飛びっぷりを見せた。キーパー候補の中にはロン以上の技術者はいたが、アンジェリーナ達は様々な事情を考慮してロンがキーパーに決定した。
「おめでとう!ロン」
「ありがと、シャーロット!」
「今夜はお祝いね!」
シャーロットはニッコリ笑って、先に寮へと戻っていった。
その夜、久しぶりにグリフィンドールは賑やかだった。ハリーも罰則から帰ってきて、ロンがキーパーになったことを喜んだ。しかし、ハリーの表情にはどこか陰りがあった。その理由は真夜中に分かった。
「額の傷が傷んだ?」
「『例のあの人』がクィレルをコントロールしたみたいに、アンブリッジをコントロールしてるんじゃないかって心配なの?」
ハーマイオニーが訝しげに口を挟んだ。
「可能性はあるだろう?」
「単なる偶然じゃない?」
シャーロットがそう言ったものの、ハリーは難しい顔をしていた。ハーマイオニーがダンブルドアに言うように助言するも、ハリーは首を振った。
「僕、シリウスに手紙を書いてこのことを教えるよ。シリウスがどう考えるか……」
「ハリー、ダメよ。ふくろうは途中で捕まる恐れがあるわ!」
シャーロットがそう言うと、ハリーはイライラしたように立ち上がった。
「分かった分かった。じゃ、シリウスには教えないよ!僕、寝る。」
ハリーはとぼとぼと男子寮へと向かい、シャーロットはため息をついた。
翌日の空は晴れ渡っており、ハリーの気持ちは少しだけ上昇したようだ。クィディッチの練習のため、ハリーとロンは連れ立って競技場へ向かった。シャーロットとハーマイオニーは黙々と宿題をこなしていった。
数時間後、ロンは暗い顔で寮へと戻ってきた。あまり練習が上手くいかなかったらしい。
「そりゃ、初めての練習じゃない。時間がかかるわよ。そのうち……」
「めちゃめちゃにしたのが僕だなんて言ったか?」
ロンはハーマイオニーに噛みつくようにそう言って、荒々しく男子寮へと戻ってしまった。
翌日、シャーロットは山のような宿題を全て終了させて、談話室の肘掛け椅子の上でトロトロしていた。全く手をつけていないに等しいハリーとロンの宿題を手伝うためだ。丸写しはさせられないが、ハリーとロンが質問したときにはすぐに答え、時にはヒントを与え続けた。お昼頃、思いがけない人物からロンへ手紙が届いた。パーシーからだ。ロンはしかめっ面をしながらそれを読み、シャーロットは手紙の内容が想像できて、口を尖らせた。思った通り、監督生就任祝いとハリーと離れるように進言していた。
「あいつは、世界中で、一番の、大バカヤロだ!」
ロンが手紙を八つ裂きにして暖炉に投げ込んだ。ハリーの顔がますます暗くなった。
手紙のことは無理やり頭の隅に追いやり、宿題を進ませた。ハーマイオニーも混じって、レポートに目を通していく。
夕方、シャーロットは夕食には行けなさそうだと判断し、立ち上がった。
「ごめん、ちょっと厨房から何か食べ物を貰ってくる。ついでにハリーとロンの宿題に使えそうな本を図書館から借りてくるわ」
「私も行きましょうか?」
「ううん。大丈夫。ハーマイオニーはこのレポートをもう一回見てて。」
ハリーのレポートを手渡すと、シャーロットはたくさん荷物が入れられるようにスーツケースを持ち、寮から出ていった。
厨房に行くため、階段を降りていると、一番会いたくない人物と鉢合わせしてしまった。アンブリッジだ。
「まあ、ミス・ダンブルドア!ちょうどよかったわ。私の部屋へいらっしゃい。あなたと一度話してみたいと思っていたのよ」
「あー、先生。私、夕食に……」
「少しだけよ。すぐに済みますからね。」
ニタニタとした笑顔でアンブリッジが有無を言わせぬようにシャーロットの手を取り、歩き始めた。この女、絶対に何かを企んでくる。シャーロットは慌てて声をかけた。
「アンブリッジ先生!分かりました!でも、先にトイレに行かせてください。もう我慢出来ないんです!」
「トイレ?」
「申し訳ありませんが、先生はトイレの前で待ってていただけませんか?すぐに済みますから!」
そう言うと、アンブリッジは渋々トイレの方向へ進路を変えた。そのまま女子トイレに向かい、シャーロットは足早にそこに入る。アンブリッジは絶対にここから動くものかと言わんばかりにトイレの前で見張っていた。シャーロットはその様子を見て、ため息を一つつく。予想していた展開だ。スーツケースを持っていて良かった。なるべく早くスーツケースの中に入り、目的のものを取り出す。そして、堂々とトイレから出ていった。
「お待たせしました、アンブリッジ先生」
「では、ミス・ダンブルドア。参りましょう」
二人は連れ立ってアンブリッジの部屋へと向かっていった。