あの子はこの世界が嫌い   作:春川レイ

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憤怒

 

「シャーロット!あんなに貴重な物をご褒美にするなんて何考えてるのよ!信じられないわ!!」

1回目の会合の後、ハーマイオニーはプリプリしながらそう言ってきたが、シャーロットは気にせず答えた。

「いいじゃない。これでみんなもやる気が出たみたいだし。ハーマイオニーはフェリックス・フェリシス欲しくないの?」

「……うぅぅ」

ハーマイオニーは悔しそうに呻いたが、その質問には答えなかった。ハーマイオニーだって、本心では欲しくてたまらないに違いない。ロンは顔を輝かせながら口を開いた。

「シャーロット、あのさ、優秀で素晴らしい生徒って、どうやって決めるの?」

「考え中。ハリーと話し合って決めるわ」

ハリーは複雑そうな顔をしていた。ハリーだってフェリックス・フェリシスが欲しいのだろう。でも、ハリーは来年には手にいれる予定だし、今回は我慢してもらうとしよう。

「それじゃあ、次の会合は何をしましょうか?」

 

 

 

 

 

 

会合は順調に行われた。ハリーは集まった生徒たちに『妨害の呪い』『粉々呪文』など様々な防衛術を指導していった。シャーロットは主にハリーの補佐と、生徒たちへ呪文がうまくいくコツを教えて回った。

最近ではハリーも気分が上昇してきたのか、爆発することもなくなっていった。少し心配だったのは集会の日時を決めるのが困難だったことだ。何しろクィディッチの練習日が違う上に、全員に伝えるのは難しい。しかし、ハーマイオニーがそれを解決した。

ハーマイオニーは団員の一人一人に偽のガリオン金貨を渡した。

「この偽金貨の数字は、次の集会の日付と時間に応じて変化します。」

どうやら『変幻自在』の呪文を使ったらしい。他の生徒たちが感心したようにハーマイオニーを見てきた。

 

 

 

 

 

シーズン最初のクィディッチ試合が近づいてきた。アンジェリーナはピリピリしており、ロンの顔色は青くなっていく。

「ロン。大丈夫よ。大丈夫。自信を持って」

「……うん」

シャーロットはロンに話しかけるも、上の空でぼんやりと短い返答が返ってきた。

クィディッチ熱は試合の日が近づいて来るごとに高まっていった。あのマクゴナガルでさえ、宿題を出すのをやめた。

「私はクィディッチ優勝杯が自分の部屋にあることにすっかり慣れてしまいました。スネイプ先生にこれをお渡ししたくはありません」

「前から思ってたけど、マクゴナガル先生って冷静な顔して、本当はウッドに負けないくらいのクィディッチ狂よね」

『変身術』の教室から出るとき、シャーロットが思わずそうこぼすと、ハーマイオニーは笑っていたが、ハリーとロンは真剣な顔をしていた。

このところ、スリザリン生との間では険悪な雰囲気が漂っている。スネイプは露骨に贔屓するし、スリザリン生はグリフィンドールの選手に呪いをかけたりまでしているのだ。シャーロットが何よりも心配なのはロンだった。初めての試合を迎えるロンに対してスリザリン生は容赦なく侮辱、からかい、脅しをかけている。その度にロンは自信を喪失し、両手がブルブルと震えていた。

11月、とうとう試合の日がやって来た。天気はいいが、氷のような風が吹いている。ハリーはコーンフレークを腹に詰め込むように食べていたが、隣に座るロンは青ざめて冷や汗までかいていた。

「ロン」

出口に向かうロンに声を掛けた。ロンはまだ震えている。

「ロン。マルフォイの声なんて聞かないで。クァッフルだけを見るのよ」

ロンはぼんやりと頷いた。

「頑張ってね、ロン」

ハーマイオニーがつま先立ちになってロンの頬にキスした。シャーロットが驚いてハーマイオニーを見ると、ハーマイオニーは視線を無視してズンズンと競技場へ歩いていったので、シャーロットは慌てて追いかけた。

「……何よ?」

「いや何も」

シャーロットはハーマイオニーを思わずニヤニヤしながら見てしまったため、慌てて視線を外した。

観客席に向かうと、スリザリン生が王冠形のバッジを着けているのが見えた。

『ウィーズリーこそ我が王者』

それがいい意味でないことがすぐに分かり、シャーロットは顔をしかめた。

やがて、選手達が並んでキャプテン同士が握手をした。マダム・フーチのホイッスルが鳴る。ボールが放たれ、選手が一斉に飛翔した。

ロンがゴールポストに勢いよく飛び去る。ハリーがブラッジャーを交わしながら競技場を飛び回るのが見えた。試合が始まって数分後、スリザリンから歌声が聞こえ、シャーロットは耳を傾けた。

「ウィーズリーは守れない 万に一つも守れない

だから歌うぞ スリザリン ウィーズリーこそ我が王者♪」

シャーロットは怒りのあまり、思わず立ち上がり掛けた。

「何よ、あの歌!?」

「ロンの邪魔をしてるんだわ。本当に卑怯なやつ!」

ハーマイオニーが呻くように言うのが聞こえたが、シャーロットはロンの動きに集中し、まともに聞いていなかった。スリザリンのワリントンが放ったクァッフルはロンの守備する中央の輪を通り抜け、スリザリンが歓喜の叫びを上げた。

「ウィーズリーの生まれは豚小屋だ いつでもクァッフルを見逃しだ♪」

スリザリンの歌声が高まった。シャーロットはハラハラしながら今度はハリーに視線を移した。ハリーはスニッチが見つからないらしくピッチを飛び回っている。マルフォイもまだスニッチを見つけてないようだ。その後もスリザリン選手がゴールを決めて、グリフィンドールからは沈痛な呻きが広がった。ロンが再びゴールを許したことで、ハリーの顔にも焦りが見えてきた。次はアンジェリーナが見事にゴールを決めて、グリフィンドールが歓声を上げる。大丈夫。スリザリンがリードしているが、三十点差だ。クァッフルが再びスリザリン選手の手に渡ったところで、遂にハリーが動いた。大きく急降下する。マルフォイがそれを見つけ、ハリーの左手についた。

「ハリー!頑張って!」

シャーロットは思わず叫んだ。ゴールポストにあるらしいスニッチへ向かって真っ直ぐに進む。きらめく小さなスニッチにハリーとマルフォイが同時に手を伸ばした。

わずか数秒で勝負は終わった。ハリーの手にはバタバタもがくスニッチが握られていた。それを見届けた後、シャーロットは動いた。

「ネビル、ディーン、シェーマス」

「え?何?」

「なんだい、シャーロット?」

「一生のお願い。ちょっと付き合ってほしいの。こっちに来て」

シャーロットは不思議そうにしている三人を強引に引っ張り、競技場に向かった。

「シャーロット?どこに行くの!?」

後ろからハーマイオニーが呼び掛けてきたが、早く行かないと時間がないため、申し訳ないが聞こえないふりをした。ハリーやフレッド、ジョージがマルフォイに殴りかかるのをなんとしても止めたい。

「スリザリンの選手達が何かをしそうな予感がするの」

「何かって、なに?」

「ちょっとね。私だけじゃ止められないから手伝ってちょうだい」

その時、スタンドでは大きな非難や怒鳴り声が響いた。シャーロットが足を進めながら目を向ける。どうやらクラッブがハリーにブラッジャーをぶつけたらしい。

「あいつ、なんてこと!」

ディーンが怒りで顔を真っ赤に染めた。

「いいから、早く行くのよ!」

シャーロットは大声で三人を促した。

「――『役立たずのひよっこ』っていうのも、うまく韻を踏まなかったんだ――ほら、父親のことだけどね」

スタンドではマルフォイが今まさに、グリフィンドールに負け犬の遠吠えを放っていた。ロンは競技場を出ていったらしく、姿が見えない。一方、フレッドとジョージはマルフォイの挑発に体が強ばり、ハリーはマルフォイを睨み付けていた。シャーロットは思わず舌打ちをした。アリシアやケイティが突然スタンドに入ってきた四人を見て戸惑っていたが、それに構わず、ネビル、ディーン、シェーマスに囁いた。

「ハリーとフレッドとジョージを抑えて。なるべく強く。あの三人に今マルフォイを攻撃させるのはまずいわ」

ネビル、ディーン、シェーマスは戸惑いながらもそれぞれ向かっていった。三人だけではなく、今まさに、マルフォイに飛びかかろうとするフレッドをアンジェリーナ、アリシア、ケイティが抑える。

「だけど、君はウィーズリー一家が好きなんだ。そうだろう、ポッター?休暇をあの家で過ごしたりするんだろう?よく豚小屋に我慢できるねぇ。まあ、君はマグルなんかに育てられたから、ウィーズリー小屋の悪臭もオーケーってわけだ――」

ネビルとハリーが咄嗟にジョージを抑えた。シャーロットもジョージを抑えるハリーの元へ向かい、囁いた。

「ダメよ。ハリー、ジョージ、今は本当に、ダメ」

「離せ、離せよ!あいつ――!」

ジョージが叫ぶ。

「それとも何かい。ポッター、君の母親の家の臭いを思い出すのかな。ウィーズリーの豚小屋が、思い出させて――」

ハリーは動いたが、ネビルがハリーの腕を掴む方が速かった。ジョージもマルフォイに飛びかかろうとしたが、今度は咄嗟にシェーマスがジョージの服を引っ張る。ハリーはネビルの腕から逃れようとしてジタバタした。その瞬間、ハリーの視界の隅で赤い影が動いた。

その時の光景はグリフィンドール生にとって忘れられないものとなった。シャーロットがマルフォイに向かって真っ直ぐ走っていく。そのまま勢いをつけて、大きく飛び上がった。右足がマルフォイのみぞおちに食い込む。マルフォイが大きな飛び蹴りを食らって、後ろに派手に倒れ込んだ。シャーロットは華麗に芝生の上に着地した。怒りと興奮で全身が震えるのを感じる。マルフォイは地面に転がって腹を押さえヒンヒン言っており、その姿を見て少しだけ落ち着いた。

「なんの真似です!」

マダム・フーチの声が聞こえ、シャーロットは振り返った。ハリーを含め、グリフィンドール選手達は呆然としている。シャーロットは静かに声を掛けた。

「私が仕返ししたわ。ね?だから、やめて。」

みんなは戸惑ったように顔を見合わせた。

「こんな不始末は初めてです!ミス・ダンブルドア、今すぐ寮監の部屋に行きなさい!」

マダム・フーチにそう言われ、シャーロットは黙って競技場から出ていった。

本当はネビル、ディーン、シェーマスにハリー達を抑えてもらい、それで終わるはずだった。自分が思っていたより、ずっと深くマルフォイの言葉に怒りを覚えた。後悔はしない。絶対に。

部屋に着く前に、マクゴナガルが廊下を歩いてくるのが見えた。これまでシャーロットに向けたことのない恐ろしく怒った顔をしている。シャーロットは冷静にその顔を見返した。

「中へ!」

シャーロットはその言葉に従った。マクゴナガルは怒りに震えながらスカーフを床に叩きつけた。

「人前であんな恥さらしな行為は観たことがありません。申し開きできますか!」

「いいえ。先生」

シャーロットは静かに答えた。

「ミス・ダンブルドア、あなたという人が、よりによって!マグルの決闘ショーのような真似事をして!自分がやったことの意味が分かって――」

「ェヘン、ェヘン」

シャーロットは振り返らなくてもその場に入ってきた人物が分かり、思わず笑った。予想通りだ。

「マクゴナガル先生、お手伝いしてよろしいかしら?」

マクゴナガルの顔が真っ赤になった。

「手伝いを?どういう意味ですか?」

「あらまあ、先生にもう少し権威をつけて差し上げたら、お喜びになるかと思いましたのよ」

マクゴナガルはアンブリッジの言葉になんか構っていられないとでも言うように、シャーロットに顔を向けた。

「ミス・ダンブルドア、よく聞くのです。あなたの行動は言語道断です。一週間の罰則を命じます。あなたが二度とこのような――」

「ェヘン、ェヘン」

マクゴナガルが怒りに耐えるように目を閉じ、再びアンブリッジに顔を向けた。

「何か?」

「わたくし、ミス・ダンブルドアの行いはその罰則以上のものに値すると思いますわ」

マクゴナガルの口元が引きつった。

「この子は私の寮生ですから、ドローレス、私がどう思うかが重要なのです」

その言葉にアンブリッジはニタニタと笑いながらハンドバッグから羊皮紙を取り出し、読み上げた。

「ェヘン、ェヘン。『教育令第二十五号』」

「まさか、またですか!」

マクゴナガルが絶叫した。ファッジ大臣が性懲りもなくアンブリッジへ送ってきたらしい。

「『高等尋問官はここに、ホグワーツ生徒に関する全ての処分、制裁、特権の剥奪に最高の権限を持ち、他の教職員が命じた処分、制裁、特権の剥奪を変更を持つものとする――』」

シャーロットは心の中で歯ぎしりをした。アンブリッジはニッコリ笑って羊皮紙をハンドバッグに戻すと、口を開いた。

「さて……わたくしの考えではミス・ダンブルドアは一週間の停学処分が必要ですわね」

「て、停学?」

シャーロットよりもマクゴナガルが顔を青くした。

「そんな――」

「ミスター・マルフォイの坊っちゃんを攻撃したんですもの。退学でもいいくらいですのに。それを停学で済ませるのですから、感謝していただきたいわ。一週間授業への出席停止。寮への謹慎処分としましょう。」

「はい、アンブリッジ先生。寛大な処分、ありがとうございます」

シャーロットが顔色も変えずにそう言ったため、アンブリッジはややつまらなそうに唇を歪めた。

「それでは私は明日より寮で自習を行います。今回は申し訳ありませんでした。失礼します」

シャーロットは淡々とそう言って、部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

「停学!?」

シャーロットがマクゴナガルの部屋であったことを話すと、ハーマイオニーが悲鳴を上げた。

「不公平よ!クラッブは書き取りだけなのに!」

ジニーがハーマイオニーに負けないくらい大きな声を上げた。

「仕方ないわ。マルフォイに暴力を振るったのはこっちなんだし。ハーマイオニー、悪いけど、授業のノートを明日から一週間貸してくれない?」

「なんであなたはそんなに冷静なのよ!」

ハーマイオニーがシャーロットに掴みかかるように言ってきた。目には涙さえ浮かんでいる。ハリーやフレッド、ジョージも真っ青な顔をしていた。グリフィンドールの生徒たちはシャーロットへの処分を知ったあと、クィディッチに勝ったとは思えないくらい重い雰囲気が漂っていた。シャーロットは一つため息をついた。

「済んだことは仕方ないわ。大丈夫よ。それよりもロンは?」

シャーロットがそう言ったとき、『太った貴婦人』が開く音がして、ロンが入ってきた。シャーロットは笑顔でロンを迎えた。

「お疲れ様、ロン。どこにいたの?」

「歩いてた」

ロンがボソリと言った。そのままハーマイオニーに導かれるようにして、暖炉のそばへ歩いてくる。ハリーとは目を合わせないようにしていた。

「ごめん」

「何が?」

ハリーがロンに聞き返すと、ロンが苦しそうに声を絞り出した。

「僕がクィディッチができるなんて考えたから。明日の朝一番でチームを辞めるよ」

「ダメよ、ロン。グリフィンドールチームにはあなたが必要なんだから」

シャーロットがキッパリ言っても、ロンの顔は浮かないままだった。

「ロン。私、停学になったの」

「……へっ?」

ロンが間抜けな声を出した。シャーロットはロンが競技場から出ていった後の事を話した。ロンの顔が髪と同じくらい真っ赤に染まった。

「あの野郎――!」

「ロン。クィディッチで優勝して。そして、マルフォイの鼻を明かしてちょうだい。このまま終わらせたらダメよ」

シャーロットが真剣な顔をしてそう言うと、ロンは少し考えた後、頷いた。

シャーロットはホッと息をついた後、グリフィンドール生を見回し、ニヤリと笑った。

「ところで私の飛び蹴りを、親愛なるコリンが写真に収めてくれたらしいんだけど、みんな、もう一度マルフォイの泣きっ面を見てみたくない?」

その言葉にグリフィンドール生の顔が明るくなった。少しずつ笑顔が増えていく。やがてクィディッチ勝利のパーティーが始まった。

シャーロットはハーマイオニーが何かを言いたそうにしているのに気づいた。こっそりとハーマイオニーに声をかける。

「どうしたの?」

ハーマイオニーは微かに声を震わせながらシャーロットの耳元で囁いた。

「ハグリッドが帰ってきたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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