あの子はこの世界が嫌い   作:春川レイ

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閉心術とコガネムシ

 

 

クリスマス休暇の終わりが近づいてきた。ハリーが出発する日が近づくにつれ、シリウスはどんどん不機嫌になっていく。シャーロットもアンブリッジの顔を見るのが憂鬱で、ため息の数が多くなってきた。

休暇の最後の日、珍しい客が訪れた。

「ハリー、厨に下りてきてくれる?スネイプ先生がお話があるんですって」

チェスをしていたハリーはウィーズリー夫人の言葉を理解するのに少々時間がかかった。

「……何ですか?」

「スネイプ先生ですよ。厨房で。ちょっとお話があるんですって」

ハリーがあんぐりと口を開け、こちらを見てきた。ロン、ハーマイオニー、ジニーも驚きで口を開いていたが、シャーロットは予想していた事なので静かに見つめ返した。

「スネイプ?」

「スネイプ先生ですよ」

「ハリー、とにかく行った方がいい。あんまり待たせるとますます機嫌が悪くなるわ。きっとそんなに悪い話ではないはずよ」

シャーロットが促すとハリーは怯えと戸惑いでそわそわしながら厨房へ向かっていった。

ハリーが厨房でスネイプと話している間に、ウィーズリー氏が全快し、退院したため帰って来た。

「全快だ!」

「退院おめでとう!」

ウィーズリー兄弟は嬉しさでみんな浮かれたように騒いだ。全員で厨房へ入っていく。

「治ったぞ!全快だ!」

ウィーズリー氏が叫ぶように宣言した。しかし、厨房ではシリウスとスネイプが互いの顔に杖を突きつけており、ハリーはそんな2人を必死に引きはなそうとしていた。

厨房へ入ってきた全員が目の前の光景に唖然とした。一番に口を開いたのはシャーロットだった。

「……スネイプ先生に、シリウス。喧嘩なら外でやって来て。今からここでパーティーするんだから」

シリウスもスネイプも杖を下ろした。

「一体何事だ?」

ウィーズリー氏の疑問には何も答えず、スネイプは杖をしまうと、厨房を横切ってドアへ向かっていった。

「ポッター、月曜の夕方、6時だ」

こうしてスネイプは去っていった。シリウスはその後ろ姿を睨み付けていた。

「一体何があったんだ?」

「アーサー、何でもない。昔の学友とちょっとした親しいおしゃべりさ」

シリウスは無理矢理笑顔を作り、誤魔化した。

夜のにぎやかな夕食が終わったあと、ハリーがスネイプに「閉心術」を教わることになったことをこっそり教えてくれた。

「スネイプと課外授業?僕なら悪夢のほうがましだ!」

ロンの言葉にハリーが呻いた。

 

 

 

 

 

翌日、『夜の騎士』バスでホグワーツに戻ってきた。みんなでスーツケースやトランクを引きずりながら城に向かって歩く。ハリーの顔は誰よりも沈んでいた。

次の日、早速ハリーはスネイプに閉心術を習うため研究室に向かっていった。シャーロット、ロン、ハーマイオニーは図書室で宿題の山を片付けつつ、ハリーを待つことにした。

「ハリー、大丈夫かしら……」

ハーマイオニーがその後ろ姿を見守る。

「あんまり大丈夫じゃないかもね。まあ、スネイプ先生を信じましょう。ロン、そのレポート、綴りが間違ってるわ」

「うぅぅ……」

アンブリッジが鬼のように出した宿題に、3人はしばらくハリーの事は忘れて一生懸命取り組んだ。

しばらくして、ハリーが顔面蒼白になりながら帰って来た。

「どうだった?ハリー、あなた、大丈夫?」

とても大丈夫なようには見えなかった。ハリーは痛みを堪えるように顔をしかめている。

「……ねえ、僕、気がついたことがあるんだ……」

ハリーはスネイプの開心術がきっかけで、夢で見た窓のない廊下が『神秘部』だと思い出したらしい。

「じゃ……それじゃ……君が言いたいのは、あの武器が――『例のあの人』が探しているやつが――魔法省にあるってこと?」

「『神秘部』の中だ。間違いない」

ハリーが囁くように、しかしキッパリと言った。

シャーロットは目を閉じて、3人の話を聞きながら物思いにふけった。ついにここまでたどり着いた。ヴォルデモートが狙っているのはただひとつ、予言だ。それを手にいれるために、ヴォルデモートは罠を仕掛けるだろう。大きな戦いが始まる。シャーロットは唇をきゅっと結んだ。

「ハリー、あなた、本当に大丈夫?」

ハーマイオニーの言葉に目を開いてハリーへ視線を向けると、ハリーは両手で額を強く擦っていた。

「うん……大丈夫。ただ、僕、ちょっと……閉心術はあんまり好きじゃない」

「そろそろ帰りましょう。ハリーも今日は宿題はやらずに眠った方がいいわ。顔色悪いわよ。」

シャーロットがそう言うと、3人は特に反対せず、寮へ戻ることになった。

談話室ではフレッドとジョージが悪戯グッズの新作を披露し、ガヤガヤしていた。ハリーは何も言わずに憂鬱そうな顔でロンと共に男子寮へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、最悪のニュースが飛び込んできた。

『アズカバンから集団脱獄』

シャーロットは思わず呻いた。アズカバンから11人の囚人が脱獄したらしい。全員が死喰い人だ。アントニン・ドロホフ、オーガスタス・ルックウッド、ベラトリックス・レストレンジ、そして――、

「あの、クソネズミ――!」

ピーター・ペティグリューも一緒に新聞に大きく写真が載っていた。シャーロットは悪態をついた。

ハーマイオニーは勢いよく新聞を捲っており、ハリーとロンは顔色を悪くしながら何かコソコソ話していた。大広間の生徒達は新聞を購入している者は少ないらしく、ほとんど話題になっていない様子だった。一方教職員テーブルの教授達は深刻な表情をしていた。アンブリッジさえオートミールを勢いよく掻き込みながらも顔をしかめていた。

シャーロットは新聞を一通り読むと、ため息をついて天を仰いだ。チラリとハリーを見たあと、まだ新聞をじっと読んでいるハーマイオニーの服の袖を引っ張った。

「ハーマイオニー、ちょっと来て」

「え?何?」

「いいから、ちょっと」

ハーマイオニーを椅子から立たせて、引っ張っていく。

「どこに行くんだよ?」

ロンが後ろから聞いてきたが、返事の代わりにちょっと笑い、大広間から出ていった。

「どうしたのよ、シャーロット」

「そろそろ、こちらも反撃しましょう」

「反撃?」

「ええ。無能魔法省とボンクラ・ポンコツ・アホファッジに」

「で、でも、どうやって」

「魔法省にクソ爆弾仕掛けて大爆発とか、ファッジをポリジュース薬でトロールに変身させるとか……」

「ちょっと!」

「冗談よ。とりあえずルーナ・ラブグッドを探して」

「はあー?」

 

 

 

 

 

2~3日もすると死喰い人が脱獄した事は生徒達にも広まってきた。ホグズミードで脱獄囚の目撃証言やら「叫びの屋敷」に潜伏してるなどの噂も流れた。更に、ハグリッドが停職になったという悪いニュースも飛び込んできた。ドラコ・マルフォイを筆頭に何人かは大喜びしており、腹立たしかった。

恐怖と混乱が生徒達を支配する。教授達も廊下で切羽詰まったように囁き合っていた。生徒達が近づくとプッツリと話をやめ、そそくさと逃げるように廊下を歩き始める光景がよく見られた。

「きっと職員室では自由に話せないんだわ。アンブリッジがいたんじゃね」

ハーマイオニーが言った通り、アンブリッジは寮の掲示板にこんな官令を貼り出した。

『教師は、自分が給与の支払いを受けて教えている科目に厳密に関係する事以外は、生徒に対し、いっさいの情報を与えることを、ここに禁ず』

「一体どれだけ教育令を出せば気がすむのかしら」

シャーロットは首をかしげながらそうこぼした。

アンブリッジは脱獄囚の事件を気にすることなく、ホグワーツの自分の統制下に置くためにより一層活動するようになった。

「占い学」と「魔法生物飼育学」はどの授業にもアンブリッジがついて回った。トレローニーはストレスでヒステリックになってきたらしい。また、ハグリッドはさすがに危険な動物を教えるのは控えるようになったが、相当神経が参っているようだった。ハグリッドは4人が暗くなったから小屋を訪ねることをはっきり禁止した。

「お前さんたちがあの女に捕まってみろ。俺たち全員のクビが危ねぇ」

4人は寂しかったが、ハグリッドの気持ちは痛いほど分かり、職が危なくなることは慎むことにした。

ハリーはアンブリッジに反発するかのようにDAに力を入れ始めた。死喰い人が脱獄した事はメンバー全員に活を入れたらしい。しかし、なんといってもネビルほど進歩を遂げた生徒はいなかった。両親を襲った連中が脱獄した事に対して、ネビルは何も言わなかった。また、聖マンゴで会ったことに対しても口にしなかったし、みんなもその気持ちを察して沈黙を守った。DAの時間、ネビルは誰よりも集中し、ただひたすらに呪文を練習していた。その上達ぶりはハーマイオニーの次に『盾の呪文』を習得するほどであり、ハリーもその変化に戸惑っていた。

ネビルとは逆に、ハリーは閉心術の授業に相当苦しんでいた。授業がある度に額の傷は痛みが強くなってきているらしい。スネイプとの授業での疲れが蓄積し、ストレスになってきているのは明白だった。

 

 

 

 

 

2月になった。今日は待ちに待ったホグズミード行きの日だ。シャーロットは朝一番にハリーに声をかけた。

「ハリー、今日のホグズミードは予定ある?」

「あ……、僕、今日はホグズミード行けないんだ……」

「へ!?なんで!?」

「クィディッチの試合が近いから、アンジェリーナが1日中練習するって」

「なんですって!?」

シャーロットが怖い顔でズイッと顔を近づけてきたのでハリーは後ずさりした。

「困るわ!今日は大事な日なのよ!」

「大事な日?何が……」

「とにかく、あなたにはホグズミードに来てもらわないと困るの。私、アンジェリーナのところに行ってくる!」

シャーロットは大広間にいるアンジェリーナの元へ向かい、なんとかお昼だけハリーの時間を貸してほしいと頼み込んだ。アンジェリーナは最初はかなり渋っていたが、シャーロットの必死の頼み込みに、なんとか最後には頷いてくれた。

「ハリー、お昼になったら『三本の箒』に来てちょうだい。アンジェリーナからは許可をもらったから」

「いいけど、なんで?」

「後から説明する。お願いね」

ハリーに念を押すと、ハーマイオニーとともにホグズミードへ出発した。

「うまくいくかしら?」

「大丈夫。彼女なら上手くやってくれるわよ」

ハーマイオニーと話しながら『三本の箒』の戸を開けた。

シャーロットが提案したのは、原作のハーマイオニーの考えとほぼ同じ事だ。リータ・スキーターにヴォルデモート卿の復活を証言するハリー・ポッターの記事を書いてもらう。そして、出来る限り多くの人に読んでもらう。載せる雑誌はもちろん『日刊預言者新聞』ではなく、『ザ・クィブラー』だ。

「ルーナ!こっちよ!」

シャーロットとハーマイオニーがパブでバタービールを注文して少ししたあと、ルーナ・ラブグッドがやって来た。

「今回は協力してくれて本当にありがとう、ルーナ」

「いいよ。パパも喜んでたから」

『ザ・クィブラー』の編集長である、ルーナの父には事前にルーナを通して、ハリーの記事を載せる許可をもらっていた。準備万端だ。

やがて、シャーロットが二度と会いたくないと思っていた人物が姿を現した。

「こんにちは、お久しぶりね、リータ」

「……」

リータ・スキーターはシャーロットのにこやかな挨拶に、これ以上ないほど顔をしかめて、黙ったまま席に座った。リータは失業中のためか、以前よりもみすぼらしかった。髪はボサボサ、爪のマニキュアはあちこち剥げ落ちている。シャーロットはリータのためにウィスキーを注文した。

「それじゃ、あとはハリーを待つだけね」

「……こんなところに呼び出して、一体何をやるんでざんす?」

リータがやっと口を開いた。ハーマイオニーがそれに答える。

「あなたやってほしい事があるのよ」

「やってほしいこと?」

「ええ、実は……」

その時、ようやくハリーがパブへ現れた。

「ハリー!こっちよ!」

ハリーはシャーロット達の方を見て、ギョッとしていた。ルーナとスキーターがいたことに驚いたらしい。

「君たち、何をするつもりだい?」

「ええ、それを今から説明するわ。まず、リータ、あなた、ハリーの記事を書いてちょうだい」

シャーロットの一言に、スキーターはウィスキーを吹き出した。

「……失礼、幻聴が聞こえたざんす」

「幻聴じゃないわ。リータ、ハリーの記事を書くのよ。これは決定事項よ」

ハリーとスキーターは信じられないというように、ポカンと口を開けてシャーロットを見てきた。

「もちろん、去年のような低俗かつバカらしい内容じゃないわ。記事の内容はヴォルデモートの復活についてのインタビューよ」

スキーターは名前を聞いて飛び上がったが、誰もその事にはツッコまず、シャーロットが話を続けた。

「ハリーはアホのファッジに本当のことを話したのに、信用してくれない。まずは、信用してくれる人を増やすのよ。そのためには、記事にして多くの人の目に触れさせることが必要よ」

「『預言者新聞』はそんなもの活字にするもんか。お気づきでないざんしたら、一応申し上げますけどね、」

「ハリー。ここで、スキーターに全部話してちょうだい。隠れ死喰い人とか、ヴォルデモートがどんな姿だったとか……」

「こっちの話を聞くざんす!そんな話、了承するわけ……」

スキーターがそう言いかけると、シャーロットはすかさず鞄からヒキガエルを出した。

「スキーター、あなたの旧友よ。ネビルのトレバーはあなたとじっくり話をしたいんですって」

ゲコッとトレバーが鳴き、スキーターの顔が引きつった。去年、トレバーを使っていじめたのは無駄にはならなかったようだ。ハーマイオニーが話を続けた。

「もちろん、『預言者新聞』にそんな記事は載せられないわ。でも、ルーナのお父様が『ザ・クィブラー』でハリーのインタビューを引き受けてくださるそうよ」

「『ザ・クィブラー』だって!ハリーの話が『ザ・クィブラー』に載ったら、みんなが真面目に取ると思うざんすか?」

「そうじゃない人もいるでしょうね。それも全て承知の上よ。興味本位で読みたいと思う人間は多いはずよ」

シャーロットの言葉にスキーターはしばらく答えなかった。鋭い目でシャーロットとハーマイオニー、ハリーを見つめる。

「よござんしょ。仮にあたしが引き受けるとして、どのくらいお支払いいただけるざんしょ?」

「なしよ」

シャーロットがキッパリ言うと、スキーターは苦い薬を飲んだ時のような顔になった。

「ギャラなしでやれと?」

「ええ。もちのロン」

「パパは雑誌の寄稿者に支払いなんかしてないと思うよ。みんなが名誉だと思って寄稿するんだもン。それにもちろん、自分の名前が活字になるのを見たいからだよ」

ルーナがそう言うと、スキーターが信じられないとでも言うように声を上げた。

「そんな、バカな話――」

「あら、引き受けてくれないの?残念ね。あーあ、なんだか私、突然『魔法不適切使用取締局』に手紙を書きたくなっちゃったわぁ……」

「喜んで書かせていただくざんす!」

スキーターがすばやくそう言ってくれたので、シャーロットはにっこり笑った。

「あら、そう?悪いわね、ギャラなしで」

スキーターがぐぬぬと声を漏らした。やがて諦めたように自動速記羽根ペンを取り出す。

「それじゃ、リータ、やってちょうだい」

シャーロットがとてもいい笑顔でそう言った。その姿を見てルーナがポツリと呟いた。

「見たことないけど、悪魔ってあんな顔をしてるのかなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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