ハリーは辛い顔をしながらも、ヴォルデモートが復活した夜の事をスキーターに語った。ハリーのインタビュー記事がいつ『ザ・クィブラー』に載るかは未定だが、必ず大きな反響があるはずだ。
「ハリーの話が大っぴらになったら、アンブリッジがどう思うか楽しみだ」
「いいことをしたね。ハリーは大丈夫かな」
夕食の席で今日の出来事を話したらディーンは感服したように、ネビルは心配そうにそう言った。ハリーはインタビューのあともクィディッチの練習に行ってしまい、まだ帰ってきていない。
シャーロットがデザートのルバーブ・クランブルを自分とハーマイオニーの方へ引き寄せたとき、ハリーとロンが泥んこになって帰って来た。ロンはこれ以上ないほどぶすっとしている。
「お疲れ様、2人とも」
「クィディッチの練習はどうだった?」
「悪夢だったさ」
ロンは気が立っていた。練習はあまり上手くいかなかったようだ。ロンがあまり話したがらないので、夕食を早々に切り上げて、みんなは寮に帰った。
「そういえば、ロンのグローブ、あなたがプレゼントしたのね?」
ハーマイオニーがベッドに入る前、話しかけてきた。
「ああ、ロンから聞いたの?」
「ええ。とてもいいグローブだったから、どうしたんだろうと思って……」
「でしょ?今度のクィディッチではぜひとも活躍してほしいわ」
などと会話しながら、ベッドに潜り込む。すぐに眠気が襲ってきた。
「あんな愚策で上手くいくなんて、思ってないわよね?」
目の前の自分が馬鹿にしたように笑った。
「成功するとでも思ってる?分かっているでしょう?あなたの世界は、あなたには優しくない」
シャーロットは生唾を飲み込み、後ずさりをした。
「物語は進んでいる。もう止められない。ハリーは闇に引きずり込まれようとしている。でも、あなたには、何もできないわ。ええ、なーんにもね」
笑い声が響く。
「だって、本当は、この世界にあなたは存在していないんだもの」
「シャーロット?」
ハーマイオニーの声が聞こえて、シャーロットは目を覚ました。
「シャーロット、大丈夫?うなされていたわ」
「……ごめん。起こした?」
「起きてたから大丈夫。怖い夢でも見たの?」
「……ちょっとね」
ハーマイオニーの質問を誤魔化し、シャーロットは体を起こした。
久しぶりの悪夢だった。のどはカラカラに渇き、頭が痛い。頭痛を堪えながら支度をし、ハーマイオニーと朝食へ向かった。
土曜日、クィディッチ試合が開催された。グリフィンドール対ハッフルパフだ。
ロンが14回もゴールを抜かれるという失敗はあったが、無事にハリーがスニッチを掴み、グリフィンドールの勝利で終わった。まあ、ロンの不調は、スリザリン生が相変わらず「ウィーズリーは我が王者♪」の大合唱を止めないせいもあるのだろう。
その夜のパーティーでも、ロンはバタービールの小瓶を持ったまま、部屋の隅っこでじっとしていた。
シャーロットはロンに何と声をかけていいか分からず、迷った。しかし、迷っているうちにロンはのろのろと寝室に行ってしまった。
週明けの月曜日。朝食の席で何匹ものふくろうがハリーに群がった。シャーロットは何が起こったかすぐに分かって、パッと顔を輝かせた。そしてふくろうの中に手を突っ込む。待ち望んでいた日だ。
「ハリー!これを開けて!」
戸惑うハリーにシャーロットは茶色の包み紙を渡した。包み紙を破ると、中から『ザ・クィブラー』の3月号が転がり出てきた。表紙から、ハリーがニヤッと笑いかけてきた。
『ハリー・ポッターついに語る 「名前を呼んではいけないあの人」の真相―――僕がその人の復活を見た夜』
ハリーの写真と一緒に真っ赤な大きな字でそう書いていた。
「昨日出たんだよ。パパに一部無料であんたに送るように頼んだんだもン」
いつの間にかルーナがグリフィンドールのテーブルにやって来てそう言った。どうやら、今日ハリーの元に大量に届いたのは読者からの手紙らしい。皆で困惑しながらも手紙を開封し始めた。シャーロットだけは楽しそうに手紙を片っ端から読み始めた。ハリーがイカれていると書いてる者が多い。しかし中には、記事に説得された人、信じる人もたくさんいた。
「何事なの?」
甘ったるい世界一嫌な声が聞こえて、シャーロットは振り向いた。
ガマガエルのように目が飛び出したアンブリッジがそこに立っていた。その背後には大勢の生徒が不思議そうな顔でこちらを覗きこんでいた。
「僕がインタビューを受けたのでみんなが手紙をくれたんです」
ハリーは隠しきれないと思ったのか開き直ったように『ザ・クィブラー』をアンブリッジに放り投げた。
「よくも……どうしてこんな……」
アンブリッジが怒りのあまり、わなわなと震えた。シャーロットはこっそりと笑いをこらえるために唇を噛んだ。
「あなたには、嘘をつかないよう、何度も何度も教え込もうとしました。その教訓がどうやらまだ浸透していないようですね。グリフィンドール50点減点。それと、さらに一週間の罰則」
そう言うとアンブリッジは肩を怒らせて立ち去った。
昼間に学校中に告知が出た。
『ホグワーツ高等尋問官令 『ザ・クィブラー』を所持しているのが発覚した生徒は退学処分に処す』
この告知を見てシャーロットとハーマイオニーは思わずハイタッチした。
「二人とも、いったいなんでそんなに嬉しそうなんだい?」
ハリーが不思議そうに聞いてきたので、シャーロットはクスクス笑い、ハーマイオニーは小さな声でハリーに言った。
「学校中が、一人残らずあなたのインタビューを確実に読むようにするためにアンブリッジができることはただ1つ、禁止することよ!」
その日はあらゆる場所で『ザ・クィブラー』は全く見かけないのに、その内容が話題になった。みんなが魔法を使ってどうにか『ザ・クィブラー』を読んでいるらしい。
「ハリー、みんながあなたを信じたと思うわ。本当よ。あなた、とうとうみんなを信用させたんだわ!」
ハーマイオニーが目を輝かせてそう言う。恐らくは学校中の生徒と教師は一人残らず『ザ・クィブラー』を読んだに違いない。先生たちもハリーに高い点数を与えたりお菓子をくれたりと、違う形で気持ちを示してくれた。特に『占い学』のトレローニーはアンブリッジの前で、結局ハリーは早死に
また、マルフォイは『ザ・クィブラー』を読んだことを認められず、こっちの悪口らしきものをヒソヒソ囁くしかできなかったらしい。『ザ・クィブラー』の増刷も決まり、ルーナの目が興奮で輝いていた。
グリフィンドールの談話室ではフレッドとジョージが『ザ・クィブラー』の表紙写真に魔法をかけて壁に飾った。ハリーの巨大な顔が大音響でしゃべり続けた。
「魔法省の間抜け野郎」「アンブリッジ、糞食らえ」
シャーロットはその魔法に苦笑いし、ハーマイオニーもあまり良くは思わなかったらしい。二人で早めに寝室へ向かった。
「この世界にあなたは存在していない。あなたは、いらないの」
暗闇で声が響く。目の前には自分自身が立っていた。自分がニヤリと笑う。その微笑みがヴォルデモートに似ている気がして、シャーロットは後ずさりした。
「やめて、……もう来ないで」
「あら、逃げるの?所詮、あなたはその程度なのよ」
自分自身がますます笑みを深くしてバカにしたような目で言葉を続けた。
「ヴォルデモートを越えるですって?今のあなたが?」
自分自身が耐えきれないように高笑いをした。その声が自分の声なのに、そうではない気がしてシャーロットは崩れ落ちそうになった。
「無理よ。あなたには何も守れない」
ガバッと身体を起こすと、まだ夜明け前だった。シャーロットはボサボサになった頭を抱える。不快感が増し、気持ち悪くなってシャーロットはゆっくりと立ち上がりトイレへ向かった。
その日、ハリーも悪夢を見たらしく、その時の様子を詳しく話してくれた。どうやら、ハリーは夢の中でヴォルデモート本人になって死喰い人のルックウッドと話したらしい。話を聞いて、ハーマイオニーは難しい顔で何かを考えるように黙ってしまった。一方、シャーロットは自分の悪夢のせいで気分が悪く、ハリーの話を聞いても考えるのが辛くてぼんやりとしていた。
「シャーロット?君、大丈夫?」
「体調が悪いのかい?医務室に行く?」
あまりの顔色の悪さに、ハリーとロンが心配そうにシャーロットを見てきた。シャーロットは頭を弱々しく横に振りながら絞り出すように声を出した。
「……大丈夫。それよりも、ハリー。その夢はよくないわ」
「え?」
「『閉心術』、うまくいってないのね」
ハリーが痛いところを突かれたような顔をした。ハーマイオニーもシャーロットに同意して、大きく頷いた。
「あなたは、これから『閉心術』にもう少し身を入れてかかるべきよ」
そうは言っても、スネイプの個人授業での進歩は少ないようだった。ハリーはほとんどその事については何も話さなかったが、疲れきったようにスネイプの授業から帰ってくるハリーの顔を見てその事は察していた。
それから2週間ほど経った時、ちょっとした事件が起こった。シャーロットが夕食の後、ハーマイオニーと別れて図書館に行こうとした時、女性の悲鳴が聞こえた。シャーロットだけでなく、周りの生徒たちも驚き、悲鳴の聞こえた方へ走って向かった。
悲鳴は玄関ホールで響いていた。多くの生徒たちが集まっている。シャーロットは素早く中を掻き分けて前に出た。
そこにいたのは眼鏡をかけて、奇妙な服装の女性だった。最初、シャーロットはそれが誰か分からず首をかしげたが、すぐに『占い学』のトレローニーだと分かった。ほとんど食事の席に下りてこないし、シャーロットは『占い学』の授業を受けてないので、顔を忘れかけていた。
「いやよ!いやです!こんなことが起こるはずがない……」
そう叫ぶトレローニーのそばにはトランクが置かれていた。それを見て、シャーロットは何が起こったか大体分かった。
「あなた、こういう事態になるという認識がなかったの?」
アンブリッジの高い声が響いた。やはり、トレローニーは解雇されることになったらしい。
「あなたにそんなこと、で――できないわ。あたくしをクビになんて!」
トレローニーの大きな眼鏡の奥から大粒の涙が流れた。それを見てシャーロットはちょっとだけ気の毒に思った。
「さあ、どうぞこのホールから出ていってちょうだい。恥さらしですよ」
アンブリッジが楽しそうな声で言い放ち、トレローニーが嘆きの発作を起こした。その時、マクゴナガルとダンブルドアがようやく登場した。
マクゴナガルはトレローニーの背中を慰めるように叩き、ハンカチを差し出す。ダンブルドアはアンブリッジに堂々と近づき、ニッコリと微笑んだ。
アンブリッジは教育令がどうのこうのと言っていたが、ダンブルドアは冷静に言葉を返した。結局トレローニーは解雇となったが、ダンブルドアはトレローニーを学校から追い出すのは食い止めたらしい。マクゴナガルとスプラウトが泣きじゃくるトレローニーを抱えて大理石の階段を上がっていった。
「それで、わたくしが新しい『占い学』の教師を任命し、あの方の住みかを使う必要ができたら、どうなさるおつもりですの?」
アンブリッジの言葉にダンブルドアは朗らかに返答した。
「おお、それには心配及ばん。それがのう、わしはもう、新しい『占い学』教師を見つけておる」
アンブリッジが戸惑ったように甲高く叫んだ。そして、ダンブルドアが開け放った玄関扉の方を向く。その視線を追って、シャーロットは目を大きく見開いた。
夜霧の中から出てきたのはプラチナブロンドの髪に聡明な瞳、頭と胴は人間だがその下は馬だった。
「フィレンツェじゃ。あなたも適任と思われることじゃろう」
シャーロットは思わず近くを見てコリン・クリービーを探したが、姿が見えずガッカリした。ショックのあまりに顔が凍りついているアンブリッジの顔を撮ってもらえなくて残念だ。
「『占い学』をやめなきゃよかったって、今、きっとそう思っているでしょう?ハーマイオニー?」
その二日後の朝、パーバティが楽しそうにハーマイオニーにそう言ってきた。今日がフィレンツェの最初の授業らしい。
「そうでもないわ。もともと馬はあんまり好きじゃ……」
「ハーマイオニー!ダメよ!」
シャーロットが言葉を遮るようにハーマイオニーに鋭くそう言ったため、ハーマイオニーはビクリと新聞を捲る手を止めた。
「ケンタウルスは誇り高くて、人間を良く思ってはいない者も多いのよ。馬なんて、言っちゃダメ!」
シャーロットが少し厳しい目でハーマイオニーを見ると、ハーマイオニーは戸惑いながらも頷いた。
その日、『数占い』の授業が終わってから、シャーロットは『占い学』の授業がちょっと気になって1階の11番教室の方へ行ってみた。
ちょうど授業が終わったらしく、生徒たちが楽しそうにしゃべりながら廊下を歩いていた。
「あら、シャーロット、どうしたの?」
途中すれ違ったラベンダーに声をかけられたが、シャーロットは曖昧に笑って誤魔化し、教室へ向かった。
教室のドアからはハリーとロンが出てくるところだった。
「あれ?シャーロット、なんでここに?」
「あ、ロン、ハリー……」
ロンがシャーロットを見て不思議そうに首をかしげた。シャーロットがどう答えようか迷ったとき、フィレンツェが教室から声をかけてきた。
「ああ、君か。『ダンブルドアの愛し子』」
「……ん?」
シャーロットはフィレンツェの奇妙な言葉の意味が分からず戸惑ってフィレンツェを見つめた。フィレンツェもまた、シャーロットをじっと見つめた。
「また会えるとは思っていた。」
「……それも予言でしょうか?」
「いいや。会いたいと私が思っていた。」
「……それは、えっと、ありがとうございます」
フィレンツェに招かれるようにして教室へゆっくりと入る。ハリーとロンが戸惑ったように顔を見合わせていたが、戸惑っているのはシャーロットも同じだった。
「ずいぶんと成長した。髪を切ったのだね」
「あー、ええ。そうです」
フィレンツェは無表情で何を考えているのかよく分からない。少なくとも怒ってはいないようなので、シャーロットは気になっている事を切り出した。
「……私は、森には入りませんし、あなた方の暮らしを脅かす気もありません。あなた方は素晴らしい能力を持った素晴らしい隣人だと思っています。だからこそ、あなたには聞きたいことがあります」
フィレンツェはシャーロットの真意を確かめるようにじっと目を見つめてきた。シャーロットはハリーとロンに聞こえないように少しだけ近づいて囁くように尋ねた。
「フィレンツェ先生、ハグリッドは大丈夫でしょうか?」
フィレンツェはその時になって初めて、ほんの少しではあるが目を見開いた。
「『ダンブルドアの愛し子』、君は森で何が起こっているか知っているのか?」
「……なんとなくですが。」
「その事ならあなたの友人にもハグリッドへの忠告を頼みました。私は追放の身なので、森には近づけません」
「……そうですか」
シャーロットは顔をしかめて思わずため息をついた。今まで避けていたが、ハグリッドに協力するべきだろうか。
「『ダンブルドアの愛し子』、友人たちがあなたを待っていますよ。早く行きなさい」
フィレンツェの言葉に後ろを振り替えると、ハリーとロンが不思議そうな顔でこちらを見ていた。シャーロットはそれを見て、慌てて教室から出ようとしたが、どうしても気になる事があり、フィレンツェに声をかけた。
「あの!さっきからあなたの言っている言葉は、何ですか?『ダンブルドアの……』?」
「『ダンブルドアの愛し子』。君は多くの生き物からそう呼ばれている。知らなかったのか?」
シャーロットは顔を引きつらせて、何も答えずに教室から出ていった。
「シャーロット、何を話していたの?」
「……老後の不安と今後の魔法界の社会情勢について」
「嘘だろ、それ絶対嘘だろ」
適当に返した言葉にロンがツッコむが、さっきの『ダンブルドアの愛し子』云々がショックでまともに聞いてなかった。なんだ、あのこっぱずかしいあだ名は。自分の知らないところで自分がそんなあだ名で呼ばれていたなんて……、
「うわぁぁぁ!」
「シャーロット!?どうしたの?」
ハリーとロンがオロオロするのも構わず、シャーロットはしばらく小さく叫んだり呻いたりを繰り返した。
「シャーロット、『数占い』のあと、どこに行ってたのよ?」
昼食の席でハーマイオニーがそう聞いてくるが、いまだにショックが冷めず、答えるのも億劫だった。ロンがシャーロットの代わりに答えてくれた。
「『占い学』の教室まで来たんだよ」
「『占い学』?なんで?まさか、ラベンダーやパーバティだけじゃなくて、あなたまであのケンタウルスのファンになったの?」
「あれ?そういえば、フィレンツェはなんでシャーロットの事を知ってたの?」
3人が矢継ぎ早に言ってきたので、シャーロットはぼんやりとアップルパイをつつきながら答えた。
「前に話したことあるのよ。禁じられた森に入ったとき……」
「は?森に入った?」
「……あ」
ヤベっ、と思った瞬間、ハーマイオニーがギロリと睨んできた。
「どうやら、詳しく聞く必要があるみたいね」
「……お手柔らかに、監督生サマ」
さあ、どう誤魔化そうか。シャーロットは疲れきって、ため息を吐きながらチラリと思った。どうやら今夜は夢も見ずにグッスリ眠れそうだ。