あの子はこの世界が嫌い   作:春川レイ

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ダンブルドアの秘密の部屋

 

 

 

「……なんで退学になったのに勉強しなくちゃならないのよ」

シャーロットは口を尖らせながら呟いた。ホグワーツを飛び出してから数日経った。現在、自室の机で課題に取り組んでいる。ダンブルドアが作った課題はかなり高度のものだった。嫌がらせのように難解な問題ばかりだった。はっきり言ってNEWTレベルを超えているんじゃないかと思う。それほど難しいのだ。ただ、ダンブルドアは決してシャーロットを放置しなかった。シャーロットが問題に行き詰まると、要点を押さえながら丁寧に教えてくれる。

シャーロットはダンブルドアが出した課題のレポートを書きなぐりながら昼食兼おやつの林檎を皮のまま齧った。ちなみに日々の食事はダンブルドアが作っている。アパート生活初日の夜、シャーロットがブスッとした顔で作った料理(しょっぱすぎる固いチキン、なぜか酸っぱいどろどろのスープ、ベチャベチャのマッシュポテト)をテーブルに出したところ、ダンブルドアの顔が凍りついたように固まった。それでもシャーロットの料理を何も言わずに全てたいらげたのだから、たいしたものだ。シャーロットはちょっとだけダンブルドアを見直した。しかし、次の日から料理はダンブルドアが魔法で作っている。シャーロットは複雑な気持ちになったが、これで食生活は劇的に改善したため、何も言わずにそれを受け入れた。

今は一日のほとんどをアパートの一室で勉強して過ごしている。ダンブルドアはたまにアパートを出てどこかに行くが、決してどこに出掛けたかは教えてくれなかった。まあ、興味もないが。

「うーん、さすがに気が滅入ってきたなぁ…」

シャーロットはペンを放り出して大きく伸びをした。このアパートに来てから全く外に出ていない。別に外出を禁止されたわけではないが、逃亡中の身だし、誰かに見つかるのは避けたかった。

「……ちょっと散歩でもするかなあ」

今はちょうどダンブルドアは不在だ。少し出掛けるくらいならバレないだろう。シャーロットは椅子から立ち上がると、簡単な服に着替えた。なるべく少年っぽい服をチョイスし、帽子を深く被る。仕上げに眼鏡をかけた。簡単な変装だ。

「うん。これならパッと見、男の子に見えるわね」

シャーロットは鏡で自分の姿を確認すると、意気揚々と鞄を手に取り自室から出て、玄関へ向かう。

「………ん?」

シャーロットは不意にクルリと後ろを振り向いた。目を凝らすが、目の前には廊下の奥に誰もいないキッチンとリビングがあるだけだ。

「………」

最近、誰かの視線を感じる気がする。時々じっと見られているような感覚がするのだ。

「お爺様、監視カメラとか使ってないわよね…」

シャーロットは首をかしげながら玄関の扉を開いた。

 

 

 

 

「うーん、なんか新鮮!」

シャーロットはマグルの町をゆっくり歩いた。シャーロットは自分がかつて住んでいた町の事はすっかり忘れていたが、なんだ懐かしい感覚がした。のどかな町はそこそこ賑わっていた。道路で車が走り、マグルの人々が穏やかな顔で道を歩いている。都会のように大きなビルなどはないが、のんびりした雰囲気は心地よかった。

シャーロットは目に入ったファーストフード店で、ハンバーガーとソーダを注文し空腹を満たした。その後は町並みを楽しみながらのんびり買い物をする。この機会に手に入れたいものがいくつかあった。

「ちょっとは自分でも頑張らないとね」

シャーロットは小さな書店で本を手に取り、難しい顔でレジへ向かった。本の表紙には『これであなたも一流シェフ!美味しい料理』と書いてあった。

「あー、楽しかった。やっぱり息抜きも必要よね」

町の散策を思う存分楽しみ、満ち足りた気持ちでアパートへ戻った。アパートではダンブルドアが心配そうな顔で待っていた。

「シャーロット!」

「あ、お爺様…」

シャーロットは気まずい顔をした。できればダンブルドアが外出から帰ってくる前に帰宅したかったが、一足遅かったらしい。

「どこに行っとったんじゃ?」

「…散歩です」

「一人で出歩いてはいかん!どこかに行きたいならわしと一緒に……」

「変装しました。大丈夫ですよ」

「いかん。今のお主には杖がない。もしも襲われたらどうするのじゃ、一人は危険すぎる」

「じゃあ杖を返してください!」

「ダメじゃ!」

二人はしばらく睨みあった。やがてシャーロットの方が諦めたように視線をそらした。

「…分かりました、分かりましたよ。でも、たまの外出は許してください。ずっとアパートにいると息が詰まりそうなんです」

「考えておこう。すまんかったの。少しきつい言い方になってしまった」

「……」

シャーロットは黙って頷くと、ダンブルドアと視線を会わさないまま寝室へ向かった。

 

 

 

 

その頃ホグワーツではシャーロットが逃亡したあと、ハリーの周囲は散々だった。マルフォイは尋問官親衛隊になるし、フレッドとジョージは自主退学してしまうし、『閉心術』の講義でスネイプの最悪な思い出を見てしまうし、進路指導はマクゴナガルとアンブリッジのバトルとなってしまった。おまけにクイディッチの試合が近づいており、OWL試験も心配の種だった。

「離ればなれになってしまった今、分かる。『ダンブルドアの愛し子』の偉大さよ…」

「ロン、それシャーロットの前で言わないでね。そのあだ名を聞くたびに、あの子悶死しかけるから」

ロンがボソリと言った呟きに、ハーマイオニ-が課題から目を離さずに突っ込んだ。3人ともシャーロットが必ず戻ってくると信じている。ハーマイオニ-は試験の勉強で大変なはずなのに、シャーロットの分までノートを作っているのだ。しかも、ハリーとロンの試験勉強のフォローまでしてくれている。

それでも最近はそれも限界になりつつあった。3人、特にハリーとロンは今までどれほどシャーロットに頼っていたか痛感した。とにかく、クィディッチと試験を乗り越えなければならない。3人は青白い顔で課題をこなし続けた。

 

 

 

 

 

「今頃ハリー達は何してるかなあ」

シャーロットは町の喫茶店でココアを飲みながら呟いた。初めての外出でチクチク説教されたあと、短時間であればと外出許可が降りた。今、シャーロットは茶髪のウィッグを身に付け、瞳の色もコンタクトで変えている。知り合いが見てもシャーロットとはすぐに分からないはずだ。

「ポリジュース薬を作ろうかなぁ。杖は使わないし、それくらいは許してくれないかなあ」

シャーロットはブツブツ言いながら町を散策した。そろそろ帰らなければならない。アパートへ続く道を歩いていると、小さなお菓子の店が目に入った。ちょうど甘いものが欲しかったところだ。少し買い物をしてから帰ろう。シャーロットはフラフラと店に足を踏み入れた。

数分後、シャーロットは小さな包みを手に店から出てきた。なかなか良い品揃えの店だった。また来よう。

「ただいまー。お爺様、イライザ、フォークス……あれ?」

玄関を開けてリビングに入ったが、そこにはイライザしかいなかった。テーブルの上にメモがある。どうやらダンブルドアは急な用事が入り出掛けたようだ。夕方には戻ってくる、と書いてあった。フォークスもどこかに出掛けたらしい。

「もう、お爺様にもお菓子をあげようと思ったのに」

シャーロットはリビングの椅子に座り、さっき買ったお菓子の中から適当にひとつ選んで包みを開けた。中には砂糖で覆われた小さなお菓子が入っている。それを一つつまみ上げ口に放り込んだ。ねっとりとした甘さが口を満たす。信じられないくらい甘い。

「あまっ。なにこれ、ひたすら甘い!」

シャーロットは顔をしかめた。興味本意で買ったお菓子だが、はずれだったようだ。その時、イライザがシャーロットの様子に興味を持ったのか、テーブルの上へ飛んできた。シャーロットは苦笑しながらイライザに声をかけた。

「イライザも食べる?これトルコのお菓子なんですって。()()()()()()()()()()()()っていうのよ」

あれ、でも不死鳥にこんな砂糖まみれのお菓子は大丈夫なのかしら?とシャーロットが考えたときだった。

 

ガチャン

 

「……うん?」

不思議な音が聞こえた。シャーロットが振り向くと、アパート生活初日に、ダンブルドアが立ち入りを禁止した黒い扉が開いていた。

「え!?な、なんで!?」

シャーロットは目を丸くして思わず叫んだ。なんでいきなり開いたのだろう?ダンブルドアは、扉を開けないように合言葉を使ったと言っていたのに……。シャーロットは少し考えて、自分の発した言葉を思い出した。

「も、もしかして…、ターキッシュ・ディライトが合言葉?」

よく考えればホグワーツの校長室はお菓子が合言葉になっていた。この部屋もお菓子が合言葉だったとしてもおかしくない。偶然とはいえ、合言葉のお菓子を買ってきてしまうとは…、

「立ち入り禁止した割には警備が甘いわね…」

少しはホグワーツの秘密の部屋を見習えばいいのに。シャーロットのがそう考えたときだった。イライザが楽しそうに羽ばたきながら、黒い扉の向こうへ入ってしまった。

「ちょ、ちょっと、イライザ!だめよ!!」

シャーロットはあわてて声をかけたがもう遅い。シャーロットはしばらく迷っていたが、やがて決心したように黒い扉を開けた。

「……うわあ、凄い部屋…」

その部屋の中は、凄まじく散らかっていた。大鍋や分厚い本、わけの分からない道具が散らばっている。シャーロットのトランクの中ほどではないが、とにかくごちゃごちゃした部屋だった。イライザはどこかに隠れたのか姿が見えなかった。

「イライザ!早く出てきて!ここに入ったことがバレたら本当にヤバイのよ!」

シャーロットがどこかにいるイライザに呼びかけたその時だった。

「…ん?」

シャーロットの目に入ったのはちょうど部屋の真ん中にあるガラス張りの箱だった。

「………?」

その箱の中には小さな宝石の着いたペンダントが入っていた。空のように透き通った青色の宝石がキラキラと輝いている。

「………」

なぜかその宝石が気になり、シャーロットはじっと見つめた。吸い込まれそうなほど美しい。しばらく時間を忘れたように見つめていた。

ハッと気がつくとイライザがシャーロットの肩にとまっていた。心配そうな瞳でこちらを見つめている。我に返ったシャーロットはあわててその部屋から飛び出した。黒い扉を素早く閉める。幸運なことにダンブルドアはまだ帰ってきていないようだった。シャーロットはホッとため息を着いた。

「どうか入ったことがバレませんように」

いや、ダンブルドアの事だからすぐにバレる可能性が高い。シャーロットは憂鬱になった。今のうちに言い訳を考えておこうか。ふとシャーロットは不思議なことに思い当たり、首をかしげた。

「お爺様はなんでターキッシュ・ディライトを知ってるのかしら……?」

その隣ではイライザがシャーロットに寄り添い呑気にウトウトしていた。

 

 

 

 

 

 

 

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