「シャーロット、何か思い付いたの?」
「うん…」
シャーロットは金色の猫のブローチを弄りながらハーマイオニーの言葉に曖昧に頷いた。
「何なの?教えてちょうだい」
「…ごめん。確証はないの。ちょっと待ってて」
シャーロットが頑なに口を閉ざしたため、ハーマイオニーは諦めたように息を吐いた。
今すぐにでも、秘密の部屋には行ける。しかし、ジニーがリドルの日記を持っている以上、今行くのは得策ではないような気がしていた。
クリスマス休暇があける前、シャーロットはハグリッドの小屋を訪ねた。
「こんにちは、ハグリッド」
「おお、シャーロットか。座れや。どうかしたか?」
「……今から、ものすごく気分の悪い質問をするけど許して。ハグリッド、あなたが退学になった経緯は何なの?」
ハグリッドはグッと言葉に詰まったように、唇を噛んだ。
「…そんなこと聞いてどうする」
「大事なことなの。本当に、とても重要なこと。お願い。教えて」
「…俺がホグワーツの三年生の時だ。俺はペットにアラゴグっちゅう蜘蛛をこっそり飼っちょった。そいつが、そいつが、女の子を殺したって濡れ衣を着せられた」
「……」
「アラゴグはそんな事しねぇ!誰か違うやつが殺したに違いねぇんだ。俺はアラゴグを森に逃がした。その時退学になったんだ。ダンブルドア先生だけは俺を庇ってくれて、森番にしてくれた」
ハグリッドはコガネムシのような瞳を潤ませて語ってくれた。
「…ありがとう、ハグリッド。ごめんなさい。辛い話をさせて」
シャーロットはお礼を言うと、小屋を出ていった。
シャーロットはその足で校長室へ足を運んだ。
「あ、合言葉。なんのお菓子だろう」
ガーゴイル像の前まで来ながら、合言葉を知らないことを思い出した。
「片っ端から言っていくしかないか…」
シャーロットが長丁場を決断した時、ガーゴイル像がピョンと飛び退き、門が開いた。
「…入れってことね」
シャーロットは校長室に足を踏み入れた。
「久しぶりじゃのう。シャーロット」
ダンブルドアは微笑みながらシャーロットを迎え入れてくれた。
「お久しぶりです。少し話があって来ました」
「わしもシャーロットとずっと話がしたいと思っておった」
ダンブルドアとシャーロットは向かい合って座った。
「…夏休み前の事はすみませんでした。反省しています」
「いいや。わしこそすまんかった」
「…お爺様には、本当に感謝しているんです。今の私があるのはあなたのお陰です」
「…」
「ただ、初めてできた友達をまるで手駒にしているようで、お爺様は私もそんなふうに見ているのかなって。そんな事を考えていたら、我慢できなかったんです」
「シャーロット。わしは、君もハリーも手駒とは考えておらんよ。特に、君はわしの唯一の家族じゃ。君の事を世界で一番大切に思っておるよ」
シャーロットはダンブルドアをまっすぐに見つめた。そこに嘘はないように思えた。考えてみれば、この人は家族を悲劇的な出来事によって失い、何よりも家族を、愛の尊さを知っている人物だ。シャーロットに対して、愛情は持っているのだと、初めて気づかされたような思いだった。
「ありがとうございます。」
静かにお礼をいって、うつむいた。夏休み前にひどい言葉をぶつけた自分が恥ずかしく、気分が悪くなった。
「ところで、話はそれだけじゃないのじゃろう」
ダンブルドアが切り出し、シャーロットは再度顔を上げた。
「私は、いえ、私たちはいつかはまだ決めていませんが、秘密の部屋に入ります。」
ダンブルドアがその言葉に目を細めた。
「シャーロット、」
「止めないでください。お爺様だって、分かってるはずです。これはヴォルデモートが関わっていますよね。いいえ、トム・リドルと言った方が正しいですか」
「どこで、その名前を」
「あなたの知らないところでいろいろ調べたんです。五十年前の事件、ハグリッドは無実なんですよね。この事件、大体は見当がついているんです。ただ、一番大きな鍵を犯人に握られているので、どうすればいいか分からない。それでも、秘密の部屋に行きます。決着をつけたいんです」
シャーロットのまっすぐな言葉に対してダンブルドアは気圧されたようだった。
「しかし、危険じゃ。お主は死ぬかもしれん」
「だからこそ、少しだけ力を貸してください。あなたの武器が必要なんです」
「武器?」
シャーロットはそのまましばらくダンブルドアと話を続けた。
クリスマス休暇明け、再び事件が起こった。雄鶏がまた殺されたらしい。
「相当行き詰まっているみたいね」
リドルは思ったよりも被害が少ないので歯噛みしているのだろう。なんせ、被害者は猫一匹のみなのだから。
「ジニーは日記を捨てるかしら?」
シャーロットが考えながら廊下を歩いていると、視線を感じ振り返った。
振り返った先では、ゾッとするような瞳でジニーがシャーロットを見ていた。その視線は一瞬で逸らされ、ジニーはどこかに走り去ってしまった。その暗い瞳にシャーロットは鳥肌がたち、忘れられなかった。
「何?今の?もしかして、何か気づいた?」
シャーロットは考えたが、ジニーが早く日記を捨てることを願うしかなかった。
「あれ?」
「どうしたの?シャーロット」
「え?おかしいな。杖がないの」
「はあ?あなた、授業へ行くのに杖を忘れたの?呆れた」
「ごめん。先に行ってて。後から追いかける」
シャーロットはハーマイオニーに先に授業へ行っててもらい、寮へ戻った。
「私、杖を入れたはずなんだけど。おかしいなあ」
まあ、でも、シャーロットは実は入学前に作った自作の杖を持っている。それを使えなくもないが、いつもの杖の方がやはり使い心地が良かった。
寮へ戻る廊下を歩いているときだった。
ズル……ズル……
何か音が聞こえた。まるで、何かが床を這っているような……。
シャーロットは生唾を飲み込むと、ポケットから手鏡を取り出し、一目散に逃げ出した。
「なんでシャーロット、授業に来なかったのかしら?」
「きっと、気分でも悪くなったんじゃないか?」
「寮に戻ってみよう」
ハリー、ロン、ハーマイオニーが話しながら歩いていると、何人かの生徒達の騒ぐ声が聞こえた。
「誰かが襲われたらしい!」
「また石になっていたって?」
「グリフィンドールの子だって!」
三人は話が聞こえ、顔を見合わせた。何も言わずに保健室へ向かって一斉に走り出す。
「マダム・ポンフリー!襲われたって…」
保健室に飛び込んだ三人は息を呑んだ。
石化したシャーロットがベッドに横たわっていた。