「ルーモス」
ハリーが呪文を唱え、杖から光が溢れる。部屋はトンネルのように奥まで続いていた。
「ねえ、あれ…」
ハーマイオニーが何かを見つけ、指差す。そこには何メートルもある大きな蛇の脱け殻があった。
「なんてこった…」
ロンが力なく言った。
三人はゆっくりと用心しながらトンネルを進む。すると、二匹の蛇が象られている壁に突き当たった。
『開け』
ハリーが呟くように言うと、壁が二つに避けた。壁の奥は再び道が続いていた。その道を歩くと、開けた場所に出た。そこは巨大な蛇の像が並び、大きな髭の男の像があった。
「ロン、あそこ!」
ハーマイオニーが急に走りだし、人面像の前を指す。そこにはグッタリと横たわったジニーの姿があった。
「ジニー!」
すぐにかけより、抱き起こす。石にはなっていなかったが、信じられないほど顔色が白く、体が冷たかった。
「ジニー、起きて!ジニー!」
「その子は目を覚ましはしない」
突然男の声が響き、三人は顔を上げた。
三人の前に立っていたのは信じられないほど整った顔をした青年だった。美しい笑みを浮かべているが、その姿はどこかぼんやりしている。
「だ、誰?ジニーが目を覚まさないって」
「その子は生きている。かろうじてね」
「あなた、誰なの?」
「僕かい?僕は記憶だよ」
「記憶?」
青年はジニーの横に落ちていた日記を指した。
「僕はトム・リドル。その日記に残されていた記憶だ」
「日記?記憶?」
「ハリー、ロン、この人何か変よ」
ハーマイオニーは囁くように言った。
「僕はずっと待っていた。ハリー・ポッター。君と会えることを」
「僕?」
「去年の夏だったかな。ジニーが僕を手に入れたんだ。僕はいわゆる魔法具でね。日記に何かを書くと返事ができる。ジニーはこの一年、誰とも分からない目に見えない人物に心を開き、僕の日記に自分の秘密や君のことを洗いざらい打ち明けた。僕は魔力を得るために、十一歳の小娘の他愛の無い悩みを聞き続け、辛抱強く返事も書いて、同情もし、親切にもしてやった。」
「君は、ジニーに何をしたんだ」
「分からないのか、ハリー・ポッター。ジニーが秘密の部屋を開けた。学校の雄鶏を殺し、あの生意気な娘を襲わせたのもジニーだ」
「まさか…」
「僕が体を乗っ取っていることにジニーはなかなか気づかなかった。なのに、あの生意気な赤毛の娘は何かに気づいていた。なぜなのかは分からないが…。あの小娘のお陰で僕が思ったほどには犠牲は出なかった。全くイライラするよ。だからこそ、これ以上の邪魔はさせないように襲わせた。」
三人は顔を強張らせリドルの話を聞いていた。
「ジニーが日記に夢中になればなるほど、ジニーは自分の魂を日記に注いだ。おかげで僕はただの記憶でありながら、強力な力を得た。こうして、実体化できるまでにね。ようやくジニーは僕を信用しなくなった。何かがおかしいということに気づき始めた。僕を捨てようとしたので慌ててこの部屋に連れてきたのさ。捨てられるわけにはいかないんでね。」
ハリーが声を上げた。
「お前の目的は何なんだ!」
「これといった特別な魔力も持たない赤ん坊が、偉大な魔法をどうやって破った?ヴォルデモート卿の力が打ち砕かれたのに、ハリー・ポッターが額に傷を負った程度で逃れたのは何故だ?」
「どうしてあなたがそんなこと気にするのよ!?」
ハーマイオニーが叫ぶように口を開くと、リドルはニヤリと笑った。
「ヴォルデモートは僕の未来であり、現在であり、過去だ」
リドルがジニーの杖を取り出し、空中に文字を書いた。
‘’TOM MARVOLO RIDDLE‘’
リドルが杖を振ると文字の並びが変わった。
‘’I AM LORD VOLDEMORT‘’
三人は脳が停止したように固まった。
「僕は自分の名前を自分でつけた。ある日必ずや、魔法界の全てが口にすることを恐れる名前を。その日が来ることを僕は知っていた。僕が世界一偉大な魔法使いになるその日が!」
「違う!」
ハリーが叫ぶ。
「世界一偉大な魔法使いはアルバス・ダンブルドアだ!」
「ああ、そういえば言ってなかったか?五十年前、ハグリッドを犯人にでっち上げたのは僕だよ。僕は怪物を倒したことでホグワーツ特別功労賞を手に入れ、ハグリッドは退学になった。まあ、ダンブルドアはお見通しのようだったがね。そして、今回も僕が勝つ。この事件でダンブルドアは学校から排除されるんだ!」
「ダンブルドアは君が思うほど遠くに行っていないぞ!」
「その通りよ!」
突然この場にいないものの声が聞こえた。四人は声が響いた方を見上げる。
そこにいたのは炎のように美しく大きな深紅の鳥、色鮮やかで金色の羽が輝いている。その鳥の足を持ち、ぶら下がっているのは、
「シャーロット!?」
石になっていたはずのシャーロットだった。