『――――愛してるわ。チャーリー』
シャーロットは目を閉じて意識を集中させる。母の美しい顔、優しい眼差し、抱きしめられたときのぬくもり。すべて、覚えている。すぐに、思い出せる。いつかのそのぬくもりは懐かしく、考えるだけで胸が詰まった。あの愛に包まれていたからこそ、どんなに苦しい瞬間でもシャーロットは進んでいけた。そして、今でもその愛を感じる。その愛を覚えている。シャーロットが手離したくなかったもの。それは、シャーロットだけの、この世で一番大切な思い出だ。
『あなたの事が大好きよ。この世界で、一番。』
シャーロットはゆっくりと杖を動かした。
「エクスペクト・パトローナム」
杖の先から大きな動物が姿を現した。それは銀色に光る美しい雌のライオンだった。今まで見たどんな生物よりも美しい。銀色の雌ライオンは部屋中を駆け回ると、最後にシャーロットの足元にすりより、やがてスッと消滅した。
「うーん、これで大丈夫なのかな?」
シャーロットは呟いた。今は夏休みの始まる前。そしてここは必要の部屋だ。シャーロットは去年からこっそりと守護霊の呪文を練習していた。さすがは強力な防衛呪文。なかなか成功しなかったが、一年かけてようやく銀色の霞が実体化するようになってきた。しかし、ここにはまだ吸魂鬼がいないため、効力があるか分からないのが難点だった。
「まあ、来年になれば分かるか」
シャーロットはフッと息を吐くと、荷物をまとめ部屋から出ていった。
「よお、シャーロット!」
「何してるんだ?ロン達と一緒じゃないのか?」
シャーロットは赤毛の双子を廊下で待ち伏せしていた。
「こんにちは。フレッド、ジョージ」
「あ!そうだ!今度の夏休みもうちへ来いよ!」
「そりゃ、いいや!賑やかになるぜ!また去年みたいになんか悪戯しようぜ!」
双子は楽しそうに話を続ける。その弾けるような笑いにシャーロットも自然と頬が弛んだ。
「ありがとう。それよりも、私、二人に聞きたいことがあって」
「ん?なんだい?」
「勉強ならパーシーの方がいいぜ。僕たちにはお手上げさ」
「勉強じゃないわ」
シャーロットは少し真剣な顔で切り出した。
「あなたたち、たまにホグズミードに行く日以外にもお菓子とか悪戯グッズを持ち込んでいるけど、どうやってホグワーツから抜け出しているの?」
その言葉に双子はギクリと肩を揺らした。二人は顔を見合わせたが、やがてニヤリと同時に笑うと、シャーロットの手を引き、空き教室へ入った。
「仕方ないな。僕たちの悪戯に貢献してくれている君には特別に教えるぜ」
「見て驚けよ。こいつがその秘密さ!」
二人がシャーロットに見せたのは空白の羊皮紙だった。
「…それは」
「おっと!これがただの羊皮紙だと思ったら大間違いだぜ!」
「そうさ!これは僕らがフィルチから奪った最高の道具なんだ!」
双子は羊皮紙に呪文を唱え、忍びの地図にした。シャーロットは驚いて、目を輝かせるふりをした。
「これ、スゴいのね!」
「これを使ってちょくちょく脱けだしてるってわけ!」
「いろんな悪戯に利用させてもらってるよ!」
双子は得意気に胸を張った。シャーロットは驚くふりを続けながら、なんとかしてこの地図を双子から譲ってもらえないか考えを張り巡らせていた。
「フレッド、ジョージ。この地図…」
「シャーロット、君にあげるよ!」
「シャーロット、君にあげるよ!」
「へ?」
双子がそろって意外な事を言ったため、シャーロットは本当に驚いて目を見開いた。
「え?だって、これって大切な物なんでしょ?」
「まあね。でも、いいんだ。僕らは抜け道を暗記したし」
「それに聞いたところによると、君は体を張ってジニーを助けてくれたんだろう?」
「僕らからのプレゼントさ!受け取ってくれよ!」
双子は笑うと地図をシャーロットに差し出した。シャーロットは少し迷ったが、それを受け取った。
「…どうもありがとう。フレッド、ジョージ」
シャーロットは思わずほっと息をついた。これがあれば、三年生になった時、とても動きやすくなる。この地図が手元にあるのは有り難かった。
「この地図の価値には遠く及ばないけど、お礼にいいことを教えるわ。パーシーの事だけど、レイブンクローの監督生のペネロピー・クリアウォーターと付き合ってるわよ。夏休みに手紙を書いてたわ」
シャーロットがそう言うと、双子は今までで一番顔を輝かせ、パッと顔を見合わせた。