シャーロットは喫茶店から戻ると、荷物を整え始めた。
「アンバー、出掛けるわね」
「お嬢様、どちらへ?」
「知り合いの家よ。しばらくはそこに泊まるから。お爺様にはもう伝えたわ。いってきまーす!」
シャーロットは学習道具等はホグワーツに届けるよう手配し、鞄を持つとアンバーに別れを告げて飛び出した。
「さあ、猫さんたち。ごはんよ。あっ、ちゃんと人数分あるから慌てないで」
「………あんた、一体何がしたいんだい?」
シャーロットの行動をアラベラ・フィッグは呆れたような目で見つめ、息を吐いた。
ここはプリベット通りの二筋向こう。フィッグ邸である。シャーロットはキャベツの匂いが漂う家で、フィッグの猫たちの世話をしていた。ここ2~3日の間、シャーロットはフィッグの家に泊まっていた。この後家出をする予定のハリーを見守り、合流しようと考えていた。
「猫さんたちにごはんをあげているだけですよ、フィッグさん」
「…まあ、いいか。その後ちょっと掃除を手伝っておくれ。言っとくけど魔法はなしだよ。」
「ええ、もちろん。私、未成年ですし。こう見えて掃除は得意なんです」
シャーロットはにっこり笑った。
最初はシャーロットを胡散臭そうに見ていたフィッグだったが、誠心誠意家事や猫の世話をすることで少しシャーロットへの対応も柔らかくなっていった。
「フィッグさんは、ここでハリーを見守っていたんですね」
「ああ、そうさ。あたしゃ見守ることくらいしかできないしね」
「見守ること“くらい”なんて言わないでください。大変なお仕事のはずですよ。」
シャーロットがそう言うとフィッグは目をパチクリとさせた。
「ハリーのこと、見ていてあげてください。いつか必ずフィッグさんの助けが必要な時が来るはずです」
「…あんた、本当に不思議な子だねぇ」
フィッグは呆れたように呟いたが、その声には温かさがあった。
「フィッグさん。少しの間ですけどお世話になりました。今夜、出ていきます」
「え?今夜?」
シャーロットは手早く荷物をまとめはじめた。ダーズリー家に滞在していたマージョリー・ダーズリーが、家に戻るらしいという情報を掴んだためである。
「今夜って、あんた、せめて朝になってからにしときなさい」
「いいえ。今夜でないと意味がありません。」
フィッグは心配そうにしていたが、シャーロットはキッパリ言った。
そして、その夜。シャーロットがフィッグ邸の庭でプリベット通りの向こう側を見ていると、それは現れた。
「ギャアァァァァァァァ」
「わーお。飛んだ飛んだ。さすがハリー」
風船のように丸く膨らんだ中年女性が空へ飛び出すのを見届け、シャーロットはフィッグに挨拶とお世話になったお礼のお菓子を渡すと、フィッグ邸から出ていった。
暗い通りを、購入していた懐中電灯を照らしつつ、歩く。マグノリア・クレセント通りは、今の時間誰も歩いていない。これは好都合だ。ロンドンまで行くには、あのバスをぜひ使ってみたいと考えていた。しばらく歩いていると、石垣にポツンと座っているハリーを見つけた。ハリーの近くには大きな黒い犬がいた。
「こんばんは。ハリー、やっと見つけた」
「うわぁっ!え?シャーロット!」
突然声をかけるとハリーは驚いて立ち上がった。
「なんでここに!?」
「もちろん、あなたを助けるために」
シャーロットはそう言いながらチラリと犬に目を向けた。犬は突然現れたシャーロットに、目を見開いて口を開けている。どうやら立ち去るタイミングを失ったようだった。
「わんちゃんもこんばんは。いい夜ね」
シャーロットが話しかけると犬はビクリとして、少しだけ後ずさった。このまま逃げるかどうか迷っているらしい。シャーロットは鞄からランチボックスを取り出すと、犬に差し向けた。
「ずいぶん痩せているわね。私の夜食だけど、もしよければどうぞ。全部食べてもいいわよ」
ランチボックスには少しの野菜とたくさんのチキンが入っていた。犬はしばらく迷っていたが、空腹には勝てなかったようでその場でチキンにかぶりついた。
「シャーロット、その犬…」
「たぶん野良犬よ。心配ないわ。それよりも、早く行きましょう。」
「行くって…」
「とりあえず、漏れ鍋かしらね」
シャーロットはハリーの荷物を一緒に持った。そのあと、チキンに夢中になっている犬へ近寄ると耳元に囁いた。
「またね、わんちゃん。もしも困ったことがあったら、ホグワーツにいらっしゃい。私はグリフィンドールのシャーロットよ」
犬が食べるのを中止し、シャーロットをじっと見つめた。そんな犬に微笑みながら、シャーロットはハリーとともに歩き出した。犬は二人の後ろ姿をいつまでも見つめていた。
「シャーロット、どうやって漏れ鍋まで行くの?僕、マグルのお金を持ってないんだ」
「大丈夫よ。ちょっとバスにお世話になりましょう」
まだ心細そうにしているハリーに微笑むと、シャーロットは杖を取りだし、杖腕を突き出した。
その途端、バーン!という衝撃とともに紫色のバスが登場した。
「『ナイト・バス』がお迎えに来ました。迷子の魔法使い、魔女たちの緊急お助けバスです…」
ナイト・バスの出現にハリーは顔をひきつらせていたが、構わず車掌のスタンに漏れ鍋まで行くようお願いし、料金を払うとシャーロットはハリーの手を引っ張りバスに乗り込んだ。
「シャーロット、これ何?」
「ナイト・バスよ。さっき車掌さんが言ったとおり、迷子の魔法使いのためのバス。杖腕を突き出すとどこでも来てくれるし、どこへでも連れて行ってくれるわ」
スタンと運転手のアーニーはハリーの名前を言うと、興味津々で見てきたが、シャーロットが急かすとどんどんバスを進めてくれた。バスは居心地がいいとは到底言えなかったが、それでも狭い田舎道をガンガン突き進んだ。ハリーはバスの構造に驚きながらも、まだ不安そうな顔をしていた。
「シャーロット、僕、どうしよう。たぶん退学だ」
「おばさんを膨らませちゃったから?」
シャーロットが悪戯っぽく言うとハリーは驚いた。
「なんで知ってるの?」
「空を飛んでいるのが見えたの。でも、あなたがわざとそうするわけないもの。何か理由があるんでしょう?」
ハリーは悔しそうに唇を噛んだ。
「僕の両親を侮辱したんだ。聞こえなかったふりはできなかった」
「当然だわ。私だって自分の親が侮辱されたら呪いをかけるわよ」
「でも、魔法、使ってしまった。どうしよう。もうホグワーツに行けないかも…」
「大丈夫!お爺様が退学なんて絶対にさせないわ!」
シャーロットがそう言うと、ハリーは少しだけ笑ったが顔は暗いままだった。
バスの中ではスタンの読んでいる新聞にハリーが注目していた。一面記事になっているシリウス・ブラックの写真に驚いている。ブラックが十三人も殺したと知り、身震いをしていた。シャーロットはそんなハリーをじっと見つめていた。
やがてバスはブレーキを思いっきり踏みつけ、急停止した。小さなパブ、漏れ鍋にようやく到着したのだ。ハリーとシャーロットはお礼を言ってから、バスを降りた。
「ハリー、やっと見つけた」
ハリーが驚いて振り返った。シャーロットは冷静にその人物を見返す。
魔法大臣、コーネリウス・ファッジがそこに立っていた。