翌朝、シャーロットは誰よりも早起きをしてゆっくりと紅茶を味わった。やがてウィーズリー家の人々も起き出し、どんどん下りてきた。そんな中、ハリーが何かを話したそうに見つめてきた。シャーロットはそれに見当がついていたが、今は話せなかった。
魔法省の車に全員乗り込み、キングス・クロス駅へと向かった。汽車が出発するまで十分時間がある。シャーロットはハリー、ロン、ハーマイオニーに向かって
「私、先に席を取っておくわ。後ろの方にとるから後で来てね」
と声をかけ、汽車に乗り込んだ。おそらくウィーズリー氏がハリーへ忠告をするだろう。シャーロットは足早に足を進め、後ろの方で誰もいないコンパートメントを見つけた。途中でみすぼらしいローブを着たルーピンを見つけたが、すでにぐっすり眠っていたため、声は掛けなかった。
やがて汽車が動き始めた。どんどんスピードが上がり、駅が見えなくなった頃、三人がコンパートメントへ入ってきた。
「それで、何の話?」
シャーロットが切り出すと、ハリーはポツリポツリも話し始めた。昨晩、ウィーズリー夫妻の会話から、シリウス・ブラックの件を知ったらしい。
「シリウス・ブラックが脱獄したのは、あなたを狙うためですって?あぁ、ハリー…、ほんとに、ほんとに気をつけなきゃ」
ハーマイオニーは心配そうに顔を曇らせ、ロンも震えていた。シャーロットはじっと考え込んでいた。
「シャーロット?どうしたの?」
「なんか、違和感があるのよ。その話」
シャーロットが呟くと、三人は驚いたように見返した。
「違和感?」
「なぜ、今なの?アズカバンから脱獄できるのなら、早いうちがよかったはずよ。だって、ハリーはホグワーツに入学して三年も経ったのよ。ハリーを殺したいのなら、ハリーが魔法を身に付ける前に、もっと小さい頃に狙った方がいいじゃない。」
その言葉に三人も不思議そうに顔を見合わせた。
「まあ、確かに…」
「何か別の目的があるんじゃないかしら。もしくはアズカバンから脱獄するための力を最近になって手に入れたのか…」
「でも、用心するのに越したことはないわ。」
「そうだぜ。ハリー、一人で出歩かない方がいい。」
ハリーは不安そうに頷いた。
その後、ホグズミードの話になり、場を明るくさせようとしたがハリーの顔は暗いままだった。やはり、サインは貰えなかったらしい。マクゴナガル教授に頼んでみるよう伝えたが、おそらく無理だろうなとシャーロットは思った。
更にその後、マルフォイがニヤニヤ笑いながらやって来た。
「へえ、誰かと思えば――」
「行け!クルックシャンクス!」
シャーロットはマルフォイの顔を見た途端、ハーマイオニーのそばにあった籠の紐を解き、クルックシャンクスをけしかけた。頭のいいクルックシャンクスはすぐにシャーシャーと鳴きながら、マルフォイに飛びかかっていった。
「うわあ!なんだ、この猫―」
マルフォイが悲鳴をあげて、コンパートメントから離れていった。それを慌ててクラッブとゴイルも追いかける。シャーロットは引き寄せ呪文でクルックシャンクスを回収すると、ご褒美に猫用のおやつを与えた。快適な旅をマルフォイに邪魔されるなんて冗談じゃない。
「ね?クルックシャンクスはいい子だわ」
「そいつを絶対にスキャバーズに近づけるなよ!」
「ロン、大丈夫よ。ハーマイオニーも私も気を付けるから」
ロンとハーマイオニーはまだ争っていた。スキャバーズはロンのポケットの中で震えていた。幸運にもクルックシャンクスはおやつに夢中で、ポケットの膨らみに気付かなかった。
やがて、汽車が速度を落とし始めた。
「まだ着かないはずよ」
「じゃ、なんで止まるんだ?」
やがて汽車がガクンと止まった。他のコンパートメントからも生徒たちが不思議そうに顔を突きだしていた。シャーロットは静かに杖を握りしめた。そして、何の前触れもなく、明かりが一斉に消えた。
「一体何が起こったんだ?」
「イタっ!」
ロンとハーマイオニーの声が聞こえる。突然、コンパートメントのドアが開き、誰かが入ってきた。それはネビルとジニーだった。どうやらコンパートメントが変わっても、原作の流れは変わらないらしい。
「ロンを探しているの――」
「入って、ここに座れよ」
「ここには僕がいるんだ!」
「アイタッ!」
「みんな、静かに」
一人だけ冷静なシャーロットが静かに声をかけると、ピタリと声が止まった。
「シャーロット、何が起こってるの?」
「大丈夫。できるだけ、動かないで。じっとしていて」
シャーロットがそう言った時、ドアがゆっくり開いた。そこにいたのはマントを着た黒い影だった。分かっていたことだが、シャーロットは鳥肌が立つのを感じた。マントから腐敗したような恐ろしい手が伸びた。シャーロットは一瞬だけ怯んだが、声をあげた。
「ここに、彼はいないわ!去りなさい!」
その言葉に気にも止めず、黒い影は手を伸ばす。シャーロットは一瞬だけ目をつぶり、思い出に集中すると、杖を振るい、呪文を唱えた。
「エクスペクト・パトローナム!」
杖の先から銀色の雌ライオンが飛び出し、黒い影に飛びかかっていった。黒い影は消えるように去っていった。
車内が再び明るくなった。
「ハリー!」
ジニーが声をあげた。床に、ハリーが倒れていた。
「ハリー!大丈夫か!?」
皆でハリーのわきにかがみこんだ時、コンパートメントの扉が開き、ルーピンが入ってきた。
「大丈夫かい?」
突然入ってきた見知らぬ人物に対して、シャーロット以外は警戒するような視線を向けた。また、ルーピンもシャーロットの姿を見て、少し目を見開いていた。
「先生、ハリーが吸魂鬼の影響を強く受けたみたいで」
「あ、ああ、大丈夫かい?」
ルーピンがハリーの顔を覗き込んだとき、ハリーがうめきながら目を開けた。
「何が起こったの?」
ハリーは蒼白な顔で問いかけた。
「ハリー、もう大丈夫よ」
「あれは何だったんだ?」
「とにかく、これを皆で食べなさい。元気になる。私は運転手と話してこなければ。失礼――」
ルーピンはチョコレートをシャーロットに手渡し、通路へ消えた。
「今のは誰なんだよ?」
「ルーピン先生よ。新しい「闇の魔術に対する防衛術」の先生」
「シャーロット、知ってるの?」
「ちょっとね」
シャーロットは誤魔化しながら、チョコレートを配った。
「ねえ、さっきのは何だったの?誰が叫んだの?」
「誰も叫びやしないよ」
「あれは、吸魂鬼よ。アズカバンの看守。」
シャーロットが説明しても、ハリーはあまり理解できなかったようで、震えていた。
「シャーロット、さっきのは何?何か杖から出してたけど」
「あー、あとで説明する。とりあえずチョコレートを食べた方がいいわ」
シャーロットが促すと、みんながチョコレートをかじった。シャーロットも少しだけ口にした。たちまち、手足の先まで暖かさが広がった。
やがて動き出した汽車はようやくホグワーツに到着した。ハリーはまだ顔色が悪い。チラチラとハリーに顔を向けながら、城にも吸魂鬼がいるのを見て、シャーロットは顔をしかめた。途中でマルフォイがからかってきた。ロンは悔しそうに睨んでいたが、シャーロットは華麗に無視し、足を進めた。
「ポッター!グレンジャー!ダンブルドア!三人とも私のところにおいでなさい!」
大広間に入る前に、マクゴナガルが姿を現し、三人を呼んだ。相変わらず厳格そうな顔だった。ロンは心配そうに見ていたが、マクゴナガルに促され、他の生徒とともに大広間に入っていった。
事務室で、マクゴナガルは突然切り出した。
「ルーピン先生が前もってふくろう便をくださいました。」
マダム・ポンフリーも入ってきて、ハリーを心配そうに見つめる。ハリーは少し顔が赤くなっていた。
「僕、大丈夫です。なんにもする必要はありません。吸魂鬼なら、すぐにシャーロットが追い払ってくれました。少し気分が悪くなっただけです」
「追い払った?ミス・ダンブルドアが?どうやって?」
「別に。パトローナスを出しただけです」
シャーロットがそっぽを向いて、できるだけサラリと答えたが、マクゴナガルは呆然としていた。
「ダンブルドア、あなたはパトローナスが出せるのですか!?その年で!?」
「…ちょっと、興味があってずっと練習していたので」
今度はみんなの視線がシャーロットに向いて、シャーロットはますます目を背けた。その後、ハリーは入院を勧められたが、意地になって拒否したため、入院の話はなくなった。その後、ハリーは大広間に向かい、事務室にはシャーロットとハーマイオニーが残された。
マクゴナガルの提案は予想していたものだった。逆転時計を使った授業の提案に、ハーマイオニーは顔を輝かせていた。
「先生、それ、使わせてください!それがあればもっと勉強がはかどります!」
マクゴナガルは少しだけ表情を和らげ、ハーマイオニーに頷いていた。
「ミス・ダンブルドア、あなたはどうしますか?」
「…私はやめておきます」
ハーマイオニーは信じられないと言わんばかりの顔でシャーロットに目を向けた。マクゴナガルも不思議そうに首をかしげる。
「いいのですか?これがあれば…」
「いいえ。私は今の時間だけで精一杯です。自分のペースで勉強を進めます。せっかくのご好意を無駄にしてしまい、申し訳ありません。」
それは本心だった。シャーロットは勉強が好きだが、別の時間を作って勉強するのはあまりにも疲れそうだ。逆転時計を上手に使いこなす自信もなかった。マクゴナガルは残念そうにしていたが、結局逆転時計はハーマイオニーだけに与えられた。