あの子はこの世界が嫌い   作:春川レイ

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ボガートと生まれたトラウマ

結果的には四人はハグリッドの小屋へは行かなかった。ハグリッドが自分から夕食の席へやって来たためである。ハグリッドは涙を浮かべながらシャーロットに謝った。

「本当にすまねえ、シャーロット。怪我をさせちまって…」

「もう大丈夫よ。一瞬で治ったわ。気にしないで」

シャーロットは笑ってそう言ったが、ハグリッドは何度も謝罪の言葉を口にした。

シャーロットは自分が怪我をしたことで、事態がどう転ぶのか少し心配だったが、悪い結果にはならなかった。授業中に怪我人が出たことは理事会で多少の問題にはなったようだが、すぐに治癒する軽い怪我だったことと、ダンブルドアが口添えをしたことでハグリッドは厳重注意だけで済んだらしい。ハグリッドは教師が続けられる事を喜び、授業の見直しをすると張り切っていた。そんなハグリッドを見て、四人は安心した。

その後のグリフィンドールとスリザリン合同の『魔法薬学』の授業では、マルフォイが四人を睨み続けていた。シャーロットにかばわれたことが最大の侮辱となったらしい。ネビルをいじめるスネイプの声を聞きながら、シャーロットはマルフォイの視線を無視し縮み薬の製作に集中した。授業中、マルフォイがシリウス・ブラックの件でハリーに意味深な言葉を言ったときだけヒヤヒヤしたが、無事に緑色の縮み薬を完成させた。

 

 

やがて、最初の「闇の魔術に対する防衛術」の授業の日がやって来た。ルーピンは曖昧に微笑みながら教科書をしまうように指示する。生徒達は怪訝そうに顔を見合わせた。ルーピンに連れられて職員室に向かう途中、ピーブズが邪魔をしてきたが、ルーピンは素晴らしい技術でピーブズの鼻の穴にチューインガムの塊を突っ込んだ。生徒達が驚嘆して声をあげ、ルーピンを見る目が尊敬の視線に変わった。

職員室にはスネイプがいて、嫌みな捨て台詞を吐いて出ていった。部屋の奥には古い洋箪笥が置かれていた。

「心配しなくていい。中にまね妖怪――ボガートが入ってるんだ」

ほとんどの生徒が不安そうに顔を見合わせた。

ルーピンの授業を聞きながら、シャーロットはじっと洋箪笥を見つめていた。洋箪笥はガタガタ言っている。

「それでは、最初の質問ですが、まね妖怪のボガートとはなんでしょう?」

シャーロットとハーマイオニーが手を挙げた。ルーピンはハーマイオニーを指名したので、シャーロットは手を下げた。

ハーマイオニーの説明は分かりやすい。ルーピンもニッコリして誉めていた。そのままボガートの退治方法の説明に移った。

「わたしに続いて言ってみよう……リディクラス!」

全員で一斉に繰り返す。ルーピンは満足そうに頷くと、ネビルを指名した。哀れなネビルは今や洋箪笥よりもガタガタ震えていた。

ネビルが世界一怖いものを質問され、スネイプ先生と答えたため、クラス全員が笑った。シャーロットは授業を聞きながら自分の一番怖いものを考える。

シャーロットの怖いもの。認めるのはシャクだが、やはりアルバス・ダンブルドアだろう。シャーロットの後見人であり、この世で最も強力な魔法使い。あの人と本気で戦ったらすぐに敗北する自信があった。

そうこうする内に、ボガートとの対決が始まった。洋箪笥の前にネビルが一人だけ取り残される。

「いーち、にー、さん、それ!」

洋箪笥が勢いよく開き、鉤鼻のスネイプが現れた。

「リ、リ、リディクラス!」

ネビルの上ずった呪文の後、パチンと音が鳴る。スネイプはたちまち高い帽子に緑色のドレスを着た奇妙な姿へ変わった。クラス全員がどっと笑った。シャーロットもお腹を抱えて笑う。スネイプの途方にくれたような顔がまた一段と笑いを誘った。

次はパーバティの番だった。パチンと音がしてミイラに変わった。次のシェーマスの前では恐ろしい声のバンシーに変身した。パチン、パチンと次々にボガートは生徒達の怖いものに変身していく。やがて、ボガートはシャーロットの前に来た。シャーロットは杖を構えた。

パチンと音がした。そこに立っていたのはシャーロットが予想だにしないものだった。

シャーロット以外の生徒達やルーピンが戸惑ったようにそれを見つめた。それは、恐ろしいとはとても言えない美しい女性だった。真っ直ぐな金髪、青い瞳。スラリと痩せていたが小柄で華奢なその女性は無表情でシャーロットを見つめていた。

「え?なんで…」

シャーロットが戸惑って思わず声を出した瞬間、それは口を開いた。

 

 

「チャーリー、あなたのせいで私は死んだのよ」

 

 

シャーロットの顔が凍りついたように固まった。

「あなたさえいなければ、私は自由だったのに。あなたが憎くて堪らないわ」

それは、まるで普通に会話するように淡々とシャーロットを見つめながら言葉を紡いだ。

「どうして笑っていられるの?チャーリー。あなたは何も責任を感じていないの?」

シャーロットの唇が震える。

「あなたなんて生まなければよかった」

「リディクラス!」

シャーロットが半ば叫ぶように呪文を唱えた。金髪の女性は消え去り、パチンと音がした。ボガートは子犬の姿になり、ハリーの足元へ転がった。

「こっちだ!」

ルーピンが我に返ったかのように叫び、急いでボガートの前に飛び出す。ボガートは銀白色の玉になるとルーピンは面倒くさそうに呪文を唱え、再びネビルを前に出しやっつけさせた。

「よくやった!」

ルーピンが大声を出し、ボガートと対決した生徒と質問に答えたハリーとハーマイオニーに五点をくれた。みんなはペチャクチャ言いながら職員室から出ていった。

「「闇の魔術に対する防衛術」じゃ、今までで一番いい授業だったよな?」

ロンも興奮したように言っていたが、シャーロットの顔を見てピタリと口を閉じた。

「…シャーロット?」

三人が話しかけるがシャーロットは答えなかった。シャーロットは見たことがないくらい顔が青ざめ、体が震えていた。

 

 

 

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