ハリーは週末いっぱい医務室で安静にしていた。ハリーはニンバスがもうどうにもならないことを悟ったようだった。まるで一人の親友を失ったように落ち込んでいた。シャーロット、ロン、ハーマイオニーは夜以外はずっと付き添っていた。見舞い客が次々とやってきてはハリーを励まそうとしたが、ハリーはふさぎこんだままだった。
一方、シャーロットは日曜日の夜、寮へ帰る前にルーピンの部屋へ寄った。ルーピンはまだ顔色は悪かったが、少しずつ元気は取り戻してきているようだ。恐らく、明日の授業でスネイプと会うことはないだろう。
「先生、すみません。大変なときにお邪魔して」
「いや、構わないよ。大丈夫かい?」
「ハリーなら…」
「ハリーもだけど、君もだよ、シャーロット。大丈夫かい?」
シャーロットはグッと言葉に詰まり、消え入りそうな声で
「大丈夫です」
と呟いた。嘘だった。あれから何度も母の悪夢にうなされている。守護霊の呪文もうまくいかない。まだ心は晴れなかったが、自分の事情や悩みは置いておき、行動を開始しようと考えた。
「それよりも、先生。試合の時にスタンドで黒い犬を見たんです」
ルーピンはその言葉に身を乗り出した。
「犬!それはたぶん…」
「はい。ブラックだと思います。すぐに動いたんですが見失いました。恐らくは今頃禁じられた森に潜んでいると思います」
シャーロットがそう言うとルーピンは頭を抱えた。
「禁じられた森か!弱ったな。あそこまで探しに行かなくてはならないのか」
「私が探します。ブラックを捕まえたらすぐに知らせます。それよりも、もうひとつお願いがあるんです」
「お願い?」
「ハリーに守護霊の呪文を教えていただけませんか」
シャーロットの言葉にルーピンは渋い顔をした。
「いや、私は…」
「お願いします。この先の事を考えると、ハリーは守護霊の呪文ができた方がいいと思うんです。私が教えられればいいんですが…」
ルーピンは少し迷っていたが、最後には頷いてくれたため、シャーロットは安心した。
月曜日からハリーは復帰した。ハリーはまだ思い詰めたような顔をしており、表情が暗かった。ドラコ・マルフォイが魔法薬の時間に吸魂鬼の真似をしたため、ロンがワニの心臓をマルフォイに投げつけそれが直撃した。スネイプがグリフィンドールから五十点も減点したため、ロンが怒りで顔をひきつらせていた。
「闇の魔術に対する防衛術」ではルーピンの復帰に生徒が大喜びした。ヒンキーパンクの対処法を学んだあと、ルーピンにハリーは引き留められ、教室に残った。きっと、吸魂鬼の話を持ち出し、守護霊の呪文を学ぶことに繋がるだろう。シャーロットは寮へ戻りながら両手でほっぺたをパンと気合いを込めて叩いた。ハリーも頑張っているのだ。いつまでも落ち込んではいられない。自分も動く時だ。
徐々に寒くなってきた冬の初め、シャーロットは荷物をまとめ、長い髪をポニーテールにした。寒くないようにマフラーを着用し、動きやすいようズボンを身につける。
「シャーロット、どこに行くの?今日は図書館は?」
シャーロットの格好を奇妙に思ったのかハーマイオニーが訝しげに尋ねてきた。
「うーん、ピクニック?」
「え?」
戸惑うハーマイオニーをよそに、シャーロットは寮から飛び出した。
外へ出ると、自分に目くらましの術をかける。禁じられた森に入る姿を見られるのはさすがにまずい。静かに動きながらハグリッドの小屋を横切り、森へ入っていった。
森へ入ると、目くらましの術を解く。辺りをじっくり見渡した。シャーロットが禁じられた森に入るのは初めてだ。ゆっくりと足を進めた。迷わないように注意しなければ。
「どうかお爺様にはバレませんように。っていうか吸魂鬼が出てきませんように」
ブツブツ一人言を言いながら、杖を取り出す。歩きつつ、鞄を漁っていたら、何者かの気配を感じ、杖を構え振り向いた。
そこには銀髪のハンサムなケンタウルスが立っており、シャーロットをじっと見つめていた。その姿を見たシャーロットは慌てて杖をしまうと、ケンタウルスと向かい合った。
「突然すみません。あなた方の邪魔をするつもりはありませんでした。私は…」
「ダンブルドアが守っている小さき者だね」
ケンタウルスが突然そんな事を口にしたためシャーロットは驚いた。
「私の事を知っているんですか?」
「全てを知っているわけではない。私達はダンブルドアには敬意を払っているつもりだ。ダンブルドアが守っている者を傷つけるつもりはない。安心しなさい」
もしかすると、彼はフィレンツェだろうか。とても聡明な瞳でシャーロットを見下ろしてきた。
「なぜこんなところに?ここは決して安全ではない。帰りなさい。生徒は来てはいけないはずだ」
「危険だということは分かっています。でも、探している人がいるんです」
フィレンツェが首を傾げた。
「人?ここに人間は住んではいない。ハグリッドなら見かけるが…」
「あ、いや、人っていうか」
犬、なんだよなぁ。シャーロットがどう説明しようか迷っていると、
「ワン!」
いきなり声がして、シャーロットは振り向く。
振り向いた視線の先で、黒い犬がシャーロットをじっと見つめていた。