とうとうホグズミード行きの土曜日の朝が来た。
「シャーロット?また行かないの?」
「ちょっと他に用事があって」
「まだ一回も行ってないじゃないか!」
「僕の事は気にせず行ってきなよ」
「ちがうのよ、ハリー。本当に用事があるの」
ホグズミードに行かないシャーロットを三人が不思議そうに見てきた。
「お菓子をいっぱい買ってくるよ!」
ロンが楽しそうに手を振ってハーマイオニーとともに走っていった。シャーロットはロンに対してものすごく罪悪感を感じ、胸が痛んだ。
「じゃあ、ハリー。行きましょうか?」
「へ?行くって?僕、この本を読んで過ごそうと思ってたんだけど」
ハリーが『賢い箒の選び方』という本を手に取り不思議そうにシャーロットを見返した。シャーロットは少し笑うと、ハリーの手を引いた。
「やらなきゃいけないことがあるの。協力してちょうだい。あなたにも関係してるのよ」
「え?」
戸惑うハリーを伴い、グリフィンドールの寮へ急いだ。
「ハリー。あなたたちの部屋に誰もいないか確認してきて」
「なんで?」
「いいから、お願い」
ハリーが不思議そうに首を傾げ、男子寮へ入っていく。一方、シャーロットは少し大きなガラス製の水槽を用意し、割れないように呪文をかけた。
「シャーロット、誰もいないよ」
「そう!よかった!じゃあ、お邪魔しまーす」
「えっ、ちょっ、待って。入るの!?」
「へー、意外ときれいね」
「シャーロット!まずいよ!」
「何がまずいのよ。誰もいないじゃない。あっ、これロンのベッドね!下に何か隠してる!」
「やめて!ロンの名誉のために!」
ハリーと二人でワーワー騒ぎつつ、ロンの物らしいベッドへ近づく。ベッドの上にはお菓子の空箱や服が散らばり、枕の横ではスキャバーズが寝ていた。
「アクシオ!」
シャーロットが不意に叫ぶように呪文を唱えた。ぐっすり寝ていたネズミはすぐに引き寄せられ、シャーロットが持っていた水槽に入ってきた。シャーロットはすぐに水槽に蓋を閉め、鍵をかけた。
「シャーロット!?何してるの!?」
「うふふ。いいからいいから。やっと今年一番の仕事が終わりそうだわ」
シャーロットは笑ってネズミを見る。水槽の中のネズミは何が起こったのか理解できず、キョトンとしていた。
「ねえ、シャーロット、どこに行くの?スキャバーズをどうするの?ロンが怒るよ。」
「まあまあ。ハリーも来てちょうだい。紹介したい人がいるのよ。あっ、クルックシャンクス!こっちへおいで!」
談話室にいたクルックシャンクスを呼ぶと、すぐに駆け寄ってきた。シャーロットはクルックシャンクスを水槽の上に乗せる。ネズミが怯えるようにキーキー鳴いた。
「スキャバーズを見張ってちょうだいね。念のため鍵はかけてるけど万が一逃げ出そうとしたら、ペロリといっちゃいなさい。」
「シャーロット!?」
ハリーが大声をあげるがそれに構わず、シャーロットは微笑むと、校長室へ向かった。
「ナメクジ・ゼリー!」
事前に教えられた合言葉で校長室へ入っていく。ハリーもおずおずと付いてきた。
「シャーロット、入っていいの?」
「ええ。事前に話してるから」
校長室ではダンブルドアが静かに待っており、その横ではマクゴナガルも心配そうに控えていた。ダンブルドアはシャーロットの姿を見るとニッコリ笑った。
「うまくいったようじゃの」
「ええ、お爺様。これ、預かっておいてください」
シャーロットが水槽を差し出す。クルックシャンクスがヒラリと飛び降り、ニャーと鳴いた。
「久しぶりじゃのう、ピーター」
ダンブルドアの言葉にネズミが今度こそ悲鳴をあげるようにキーキー喚き出した。
「水槽には割れないように呪文をかけておきました。鍵もかかっています。もし逃げ出そうとしたらこの子に追わせてください」
シャーロットが説明する。クルックシャンクスが任せろと言わんばかりにニャーニャー鳴いた。
「じゃあ、犬のところに行ってきます。ついでにハリーにも全てを話します。いいですね?」
「ああ、よかろう。ゆっくり話をしてきなさい。きっと彼らも待っておるよ」
ダンブルドアの言葉を背に、シャーロットはハリーの手を引いて校長室から出ていった。
「シャーロット、何がなんだか分からないよ。スキャバーズがなんなの?ピーターって?犬がどうしたの?」
ハリーは混乱のあまり限界のようだった。シャーロットはとりあえずルーピンの部屋へ行く前に、誰もいない空き教室へ入った。鞄から温かい紅茶の入った魔法瓶を取り出し、コップへ注ぐと、一緒に持ってきたチョコレートをハリーに勧める。
「ハリー、落ち着いて聞いてね。今年からホグワーツを騒動に巻き込んだシリウス・ブラックのことだけど」
「…うん?」
「彼、無実なの。」
「はあっ?」
ハリーはシャーロットがおかしくなったんじゃないかというような目で見てきた。
シャーロットは一から全てを説明した。シリウスとハリーの父親が親友だったこと、シリウスがハリーの名付け親ということを知ると顔を真っ青にしていた。その後ペティグリューがシリウスとハリーの父親を裏切り、シリウスに罪を被せた事を知ると、もはや真っ青を通り越し、顔が白くなってきていた。
「大丈夫、ハリー?話についてこれてる?」
「……」
ハリーの顔を見て、ちょっとヤバいかもとシャーロットは思った。無理もない。今まで考えていた前提がひっくり返ったのだ。しかも、自分の知らない過去を第三者から聞かされ、混乱するどころじゃないだろう。
「………なんで、シャーロットは知ってるの」
ハリーがようやく口を開いた。シャーロットは忍びの地図でペティグリューを見つけたこと、ルーピンに相談したこと、そしてシリウスを捕まえた経緯を話した。
「どうして、どうして、言ってくれなかったんだ!」
「…言えないわよ。中途半端な情報しかなかったし、混乱させたくなかったの。それにあなたがシリウスに復讐するかもしれないって思ったの。でも、ごめんなさい、ハリー。」
ハリーは泣きそうな顔になって顔を歪めた。
少し経ってから、徐々にハリーは落ち着き、シャーロットに向き直った。
「シリウス・ブラックは?」
「ルーピンの部屋にいるわ」
「僕の名付け親?」
「そうよ」
「…ねえ、もしかして、今年ちらちら現れる黒い犬って、死神犬じゃなくて」
「シリウスね。あなたのことが心配だったのよ」
ハリーが再び泣きそうな表情をした。
「ハリー。どうする?」
「え?」
「シリウスと会う?無理しなくてもいいわ。あなたの名付け親とはいえ、まだ混乱してるでしょうし、決して無理して会う必要はないのよ。」
ハリーは考え込んでいたが、やがて決心したように顔を上げた。
「会うよ。会わせて、シャーロット」
ハリーの真剣な瞳を見て、シャーロットは頷き、二人は席を立った。
「準備はいい?」
コクリとハリーが頷く。シャーロットはコンコンとノックをした。
「シャーロットです。ハリーも一緒にいます。入っていいですか」
「どうぞ」
ルーピンの声が聞こえ、シャーロットはゆっくりドアを開けた。
ドアの先ではルーピンが椅子に座り、微笑んでいた。机の横ではシリウスがモゾモゾしながら立っている。今日のシリウスは髭をきちんと剃りあげ、髪も整えている。こうして見ると本当にハンサムだ。服装はルーピンに借りたらしい、みすぼらしいがきちんとしたローブだった。
シリウスはハリーの姿を認めるとパッと顔を輝かせた。ハリーはシリウスの顔を見ると一瞬怯んだが、恐る恐る話しかけた。
「ミスター・ブラック、えーと」
「……シリウス。シリウスだ、ハリー。会えて本当に嬉しいよ」
シリウスがクシャリと顔を歪めた。
その後、ハリーとシリウスは最初はぎこちなかったが、たくさんの話をしていた。シリウスはハリーの両親の事を謝ると、おいおいと泣き出し途中で三人が必死に宥めなければならなかった。
「シリウスの無実、証明できるのかな?」
「ペティグリューも捕まえたし、あとはお爺様が調査を進めて証拠を集めたら大丈夫よ」
短時間だったが、ハリーとシリウスはだいぶ打ち解けたらしい。ハリーは心配そうにしていたが、シリウスは無実が証明されるまではこれまでと同様ルーピンの部屋で犬の姿で過ごすことになった。
「そういえば、これ」
シャーロットはハリーに羊皮紙を手渡した。
「何これ?」
「昨日、シリウスに書いてもらったの。マクゴナガル先生に渡すといいわ」
羊皮紙には書かれた文章を見てハリーは顔を輝かせた。
『わたくし、シリウス・ブラックは、ハリー・ポッターの名付親として、ここに週末のホグズミード行の許可を、与えるものである』
「シャーロット!」
「一年生の時、約束したでしょう?ホグズミードを案内するって。これで約束が果たせるわね」
シャーロットがニッコリ笑った。
寮に戻るとホグズミードに行っていた生徒が戻ってきていた。
「あ、ハリー、シャーロット」
「二人ともどこに行ってたの?」
ロンとハーマイオニーが声をかけてきた。二人はまるで悲しんでいるような怒っているような奇妙な表情をしている。ハリーを見てソワソワしており、シャーロットはピンときた。ホグズミードの「三本の箒」でマダム・ロスメルタやフリットウィック、ハグリッド達の話を聞いてしまったに違いない。
「ハリー、あなたから説明して。」
ハリーに全ての説明を任せると、シャーロットは寝室に入っていった。
今夜は夢に苦しむことなく、ぐっすり眠れそうだ。