あの子はこの世界が嫌い   作:春川レイ

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プロングス

レイブンクローとの対戦から数日後の事だった。朝の新聞の一面にとんでもない記事が載った。

 

『シリウス・ブラックに無実の可能性!ペティグリュー逮捕!』

 

どうやらダンブルドアが当時の目撃者や証拠の写真などをかき集め、ようやく魔法省へ報告したらしい。ホグワーツはもちろん、魔法省も上を下へと大騒ぎのようだった。

「それで、ペティグリューは今どこに?」

「魔法省で聞き取り調査をされておるよ。もちろん、真実薬片手にのう」

記事を見て校長室を訪れたシャーロットにダンブルドアはニコニコしてそう言った。

「ファッジ大臣はよく信じましたね」

「最初はわしが錯乱させられたのだとかなんとか叫んでおったがのう。事前にシャックルボルトにも話はしておったし、しばらくすると落ち着いて証拠を確認しておったよ。今頃どういう言い訳をしようか考えているじゃろう」

「シリウスはどうなります?」

「まだ居場所は魔法省には知らせておらんよ。これから魔法省に行かねばならん。ペティグリューの聞き取りが終わったあとは改めて裁判のやり直しじゃ。心配しなくても、今回はペティグリューの自白もとれておるし、大丈夫じゃ。ああ、そうそう、吸魂鬼もアズカバンへ送り返せねばならんの」

シャーロットはホッと息をついた。これで、もう大丈夫だろう。シリウスはすぐに自由の身となるはずだ。

「お爺様、ありがとうございました」

「いやいや、礼には及ばんよ。危うく無実の男に吸魂鬼のキスが行われるところじゃった。シャーロット、今年もよく頑張ったのう」

「いいえ、ハリーのためなので」

シャーロットは薄く微笑んだ。ダンブルドアはそんなシャーロットをじっと見つめた。

「シャーロット、もう大丈夫かの?」

「…はい。マクゴナガル先生のおかげで、なんとか。お爺様、申し訳ありませんでした。たくさん、失礼な事を言ってしまって…」

「いや、わしも悪かったの。どうやってお主に接すればよいか分からず、結果的に傷つけてしまった」

シャーロットはダンブルドアを見返した。なぜ、シャーロットに母の話をしなかったのかは分からない。きっとこの人にもこの人の考えがあったのだろう。しかし―――

「お爺様、私に何を隠しているんですか」

「…シャーロット」

「いつまでも隠し通せないですよ。今はいいです。でも、必ずいつか話してください。」

シャーロットはクルリと背を向けて校長室から出ていった。決して振り返らなかった。

 

 

 

 

 

「これでひと安心だね」

「そうねー。シリウスもすぐに自由よ」

ハリー、ロン、シャーロットは校庭をブラブラ歩いていた。周りには誰もいない。ハーマイオニーは大量の宿題を抱え込んでいるため、談話室にいる。新聞に記事が載ったおかげで、周囲は騒がしいため、三人は息抜きに散歩をしていた。

今日一日でたくさんの事が変わった。「太った貴婦人」はグリフィンドール生に頼み込まれて、記事が載ったこともあり渋々職場復帰をした。「カドガン卿」のせいで合言葉に一番苦労しているネビルが「太った貴婦人」に泣きついたおかげでもある。シャーロットはハリーに忍びの地図を譲った。ハリーは父親の形見でもあるその地図を嬉しそうに何度も眺めていた。一方でスネイプはシリウスの記事を読んだことでギラギラとした目で憎悪に燃えていた。

「来週はホグズミードだ!」

「やった!」

「楽しみね、ハリー」

ハリーはこれ以上ないくらいニコニコしている。シリウスの無実は証明できそうだし、初めてのホグズミードに胸が踊っているのだろう。クィディッチはすぐにハッフルパフとの対戦があるため、練習しなければならなかったが、ハリーは優勝杯をとるため頑張っているようだ。

「僕、ハニーデュークスに行きたい」

「ええ、みんなで行きましょう」

「ハーマイオニーは来るかな?勉強で発狂しかけてるけど」

「うーん、難しいかもね」

シャーロットは苦笑した。こればかりはハーマイオニーが自分で頑張るしかないのだ。

その時、突然聞きなれた声がした。

「ハリー、ロン、シャーロット!」

「シリウス!」

シリウスは堂々と人の姿で校庭を歩いてきた。きちんとしたスーツを着ており、手には何か籠を持っている。

「シリウス、出てきてもいいの?」

「ああ、今は誰もいないし。見られたってどうってことない!もう逃げなくても済むんだ!」

シリウスの顔はふっくらとしており、少しずつ体調も戻ってきたようだ。

「これからダンブルドアといっしょに魔法省へ行ってくる。裁判のやり直しを要求するんだ」

「絶対にうまくいくわ!」

「ああ。あ、そうそう、ロン、これを受け取ってくれ」

「え?」

シリウスはロンに手にもった籠を差し出した。籠の中には小さなフクロウがいて、嬉しそうにほーほー鳴いている。

「僕に?」

「ああ。ネズミがいなくなったのは私のせいだし。君を巻き込んでしまうところだった。受け取ってくれ」

ロンは戸惑ったようだが、嬉しそうに籠を受け取り籠の中のフクロウを覗きこんだ。

シリウスはハリーへ向き直り、突然モジモジし始めた。

「ハ、ハリー。」

「どうしたの、シリウス?」

「わ、私は君の名付け親だ!」

「いや、知ってるけど…」

「あ、いや、だから、その、つまり君の両親は私を君の後見人に決めたのだ」

ハリーは戸惑っていたが、シャーロットはシリウスが何を言いたいか察した。

「その…私の汚名が晴れたら、考えてはくれないだろうか。もし…君が、その、別の家族を欲しいとか思うなら…」

ハリーの顔が爆発したように耀いた。

「え?あなたと暮らすの?」

「むろん、君はそんなことは望まないだろうとおもったが…。ただ、もしかしたらと思って…」

その時だった。突然冷たい風が体を切り裂くように吹いた。シャーロットの体はその感覚に鳥肌を立てる。シリウスがハッとして当たりを見渡した。何十人もの吸魂鬼が真っ黒な塊となって滑るように近づいてきた。

「な、なんで吸魂鬼が!?」

「シリウスが無実だって伝わってないの!?」

四人は慌てて逃げようとするが、四方八方から現れ、四人を包囲した。シャーロットの体を氷のように冷たい感覚が貫く。

「やめろ!やめてくれぇっ!」

シリウスは恐怖のあまり、うずくまっていた。ロンは今にも倒れそうな表情でへたりこみ、体が固まっている。ハリーとシャーロットは急いで杖を取りだすと、二人揃って大きな声で呪文を唱えた。

「エクスペクト・パトローナム!」

シャーロットの杖の先から大きな雌ライオンが姿を現し、吸魂鬼の周りを飛び交った。また、ハリーの杖からは大きな馬のような影が疾走し、吸魂鬼に突進していくのが見えた。二つの守護霊は暗い影の周りをグルグル駆け巡る。吸魂鬼は後退りし、散り散りに去っていった。雌ライオンは最後にすり寄るようにシャーロットに頬擦りし、スッと消えた。シャーロットの体に暖かさが戻ってきた。

ハリーが出した守護霊は暗い湖の向こうまで行くと、向きを変えハリーの方へ緩やかに近づいてきた。ハリーはまるで夢を見ているような表情でそれを見つめる。それは銀色に光輝く牡鹿だった。大きな瞳でハリーをじっと見つめている。牡鹿はゆっくりと頭を下げた。ハリーは震える手を伸ばし、触れようとした。

「プロングス」

ハリーが呟くように声を出した瞬間、それはフッと消えた。ハリーは手を伸ばしたままその場にしばらく佇んでいた。そんなハリーの姿をシャーロットは声をかけることなく静かに見守っていた。

 

 

 

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