クィディッチ優勝杯を取ったことでしばらくはみんな浮かれていたが、すぐにそれどころではなくなった。試験が迫っているのだ。シャーロットももちろん毎日図書館に行き、勉強に没頭した。ハーマイオニーは人一倍気が立っていた。試験が始まる頃には異様な静けさに包まれていた。シャーロットは『変身術』でティーポットを完璧な陸亀に変身させたし、『呪文学』ではラベンダーを相手に「元気の出る呪文」をかけ、見事ニコニコとハイテンションにさせた。『魔法薬』『魔法史』『薬草学』と試験は続き、いつも通りうまくいったと感じる。唯一心配していたのが「闇の魔術に対する防衛術」だったが、障害物競争もどきの試験をシャーロットはすべて完璧にこなした。最後のボガートがひそむトランクでは母の顔が見えた瞬間、それが口を開く前に「リディクラス」を唱え、やっつけることができた。ルーピンも満足そうに頷いていた。シャーロットの後に続いたハーマイオニーはボガートがマクゴナガルに変身して泣き出すというハプニングはあったものの、シャーロットの試験はすべて終了した。少しだけ心配していたのはハリーの『占い学』の試験だ。
「ハリー、トレローニーは変じゃなかった?」
「あの人はいつも変だけど……」
「いや、そうじゃなくて。試験の途中で目が虚ろになったり、怖いことを言ったりとか…」
「うーん?水晶玉を見るように言われて、何も見えなかったから適当にヒッポグリフが見えるとかでっちあげたら先生は残念そうにしてたけど、それだけだったよ」
「そう…」
ハリーの言葉で安心した。今回、トレローニーは本物の予言はしなかったらしい。
試験が終了した次の日の朝、新聞の一面にシリウスの記事が載った。ペティグリューの真実薬を使った自白とダンブルドアの証拠によって、正式に無実が認められたらしい。ペティグリューは無事にアズカバンに収監された。魔法省が正式に認めたことで、新聞はファッジの言い訳を書き綴っていた。その無能ぶりにシャーロットは苦笑した。ハリー、ロン、ハーマイオニーとともにホグズミードに行くかどうか話し合っている時、とんでもないニュースが飛び込んできた。
「ルーピン先生が狼人間だったって!」
「嘘だろ!?」
「スネイプ先生が話してた!ルーピン先生は辞めるんだって!」
ハリーとロンとハーマイオニーの顔が蒼白になり、シャーロットは顔をしかめた。シリウスの記事を読んだスネイプの表情を見て危ないと思っていたのだ。ただでさえ、スネイプはシリウスと学生時代の確執がある。十二年もの長い間、スネイプはシリウスを恨み続けてきた。シリウス・ブラックが、リリーを、ポッター家を壊した犯人であるのだと。今更違う人間が裏切り者だと知り、いろいろな感情がごちゃ混ぜになったような顔をしていた。元々、グリフィンドールが優勝杯を取ったことでイライラしていたに違いない。切れたスネイプは八つ当たり気味にルーピンの正体を話してしまったようだ。
「嘘だろ、ルーピンが狼人間?」
「それよりも、辞めるなんて!」
「…仕方ないわよ。自分の子供の教師が狼人間だって知ったら、親は黙ってられないはずよ」
ハリーはショックを受けて棒立ちになった後、駆け出した。
「ハリー!どこに行くの?」
「きっとルーピンのところよ。ハリーなら大丈夫。そっとしておきましょう」
三人でハリーの後ろ姿を見送った。
ルーピンは結局荷物をまとめ静かにホグワーツから去っていった。ルーピンの正体を知っても、ルーピンの辞職を嘆く生徒は多かった。ハリーもしばらく深い悲しみに沈んでいたが、その後ダンブルドアと少し話したことでもっと落ち込んだ。シリウスの無実の証明だけがハリーを慰めていたが、シリウスと暮らすのは反対されたようだ。恐らくは『護りの魔法』のためだろう。シャーロットは知っていたが、そんな事情を知らないハリーはダーズリー家に戻らなければならない事を嘆いていた。
学期の最後の日、試験結果が発表された。シャーロットはもちろんぶっちぎりの1位だった。ハーマイオニーは悔しそうにしていたが、それよりも今年の逆転時計を駆使した授業によって疲れ果てており、『マグル学』をやめることにしたと話していた。グリフィンドールはクィディッチの目覚ましい成績のおかげで三年連続で寮杯を獲得した。宴会では大広間が深紅と金色の飾りに彩られ、最高に賑やかなものとなった。
「今年も大変じゃったの」
「ええ。無事に終わって何よりです」
アルバス・ダンブルドアとミネルバ・マクゴナガルは教員席から大騒ぎする生徒を見つめながら静かに話していた。
「来年は更に忙しくなりそうじゃ」
「そうですね。ですが、きっと楽しい一年になると思いますよ」
マクゴナガルはグリフィンドールが寮杯を獲得したことで上機嫌であり、ニコニコしていた。
「ミネルバ、シャーロットの件はすまんかったの。わしが話すべきことじゃったが、お主が実際の記憶を見せたことであの子は吹っ切れたようじゃ。本当に感謝しておる」
「いいえ!私もミス・ダンブルドアとはじめてきちんと話せました。あの子はいい子ですね。きっと将来は優秀な、いい魔女になるでしょう。」
マクゴナガルがそう言うと、ダンブルドアは少しも考えるように目をつぶった後、
「そうじゃな…」
とだけ呟き、シャーロットの方へ視線を送った。シャーロットはハリー、ロン、ハーマイオニーと楽しそうにじゃれあっていた。
「ハリー、元気出して」
「うん…」
「大丈夫よ。シリウスとならすぐに会えるわ」
汽車に乗る日の朝、ハリーの顔は暗かった。朝早くシリウスからふくろう便が届いた。手紙によると、無事に病院を退院し、新たな生活を立て直すために奮闘しているそうだ。いつか必ず一緒に暮らそうと書き綴っていた。
「来年はクィディッチのワールドカップだ!一緒に行こうよ!」
ロンが慰めるように明るくそう言って、少しだけハリーは元気を取り戻していた。
「今年もやっぱり騒がしかったわね」
「ハーマイオニーが時計のことを言わなかったなんて、いまだに信じられないよ」
ロンが膨れっ面をした。ハーマイオニーはマクゴナガルに逆転時計を返した後、ハリーとロンに話したらしい。
「誰にも言わないって約束したの」
ハーマイオニーがキッパリ言って、クルックシャンクスを籠に入れた。
「まあまあ。それよりも早くしないと汽車が出るわよ」
シャーロットが急かすようにそう言って、一緒に荷物を運ぶのを手伝った。
「来年の事件は、もっと騒がしいわ…」
「え?シャーロット、どういうこと?」
「なんでもない。でも一つ言っておくけど、来年はものすごく特別な一年になるわよ」
三人はその言葉に顔を見合わせた。
「なんなの?」
「すぐに分かるわ。ほら、汽車に乗って」
シャーロットは駅で三人を見送った。
「ハリー、ロン、ハーマイオニー、いい夏休みを!」
汽車が出発する。シャーロットは三人に大きく手を振った。そのまま汽車が見えなくなるまでずっとそこに立っていた。
シャーロットは誰もいない校庭をゆっくり歩いた。ここは来年どんな風に変わるのだろう。湖の畔でぼんやりと座り込んだ。来年はどんな一年になるのだろうか。
「シャーロット」
「…お爺様」
いつの間にかシャーロットのそばにダンブルドアが立っていた。
「早く家にお帰り。きっとアンバーが心配しておる」
「はい…」
シャーロットはゆっくり立ち上がった。
「こんなところで何をしておったのじゃ?」
「…別に。ただ、来年の三大魔法学校対抗試合はどうなるのかなって考えてただけです」
ダンブルドアの顔が固まった。
「…なぜ知っておる?誰がその事を…」
「さあ?私は結構何でも知っていますよ。例えば、」
「来年、ヴォルデモートが復活するとか」
ダンブルドアの時間が止まった。シャーロットはそんなダンブルドアの表情がおかしくてクスクス笑った。
「シャーロット、どういうことじゃ?なぜ、そんなことを…」
珍しくダンブルドアが動揺している。シャーロットはお腹を抱えて笑った。
「冗談です。まあ、そんなこともあるかなって」
ダンブルドアはまだ動揺し、口をパクパクしていた。シャーロットはそんなダンブルドアを見据えた。
この人は絶対になにかを隠している。それが何かは知らないが、必ずヴォルデモートに関係あるはずだ。来年、来年こそははっきりさせてみせる。必ず。
「それでは、お爺様、ごきげんよう」
シャーロットは優雅に微笑むと、その場を立ち去った。ダンブルドアは何も言えず、シャーロットの後ろ姿を黙って見送っていた。
ミネルバ・マクゴナガルは自室で書類の整理をしながら物思いに耽っていた。そして、昨日の学期末パーティーの事を考える。気のせいだろうか。きっと見間違いに違いない。いや、でも……。
ダンブルドアとシャーロットの話をしていた時のことだ。あの時、ダンブルドアは静かにシャーロットを見つめていた。マクゴナガルは考える。その時、ダンブルドアは鋭い目をしていた。
その瞳にはまぎれもなく静かな敵意が光っていた。