あの子はこの世界が嫌い   作:春川レイ

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エピローグ~不思議な少女

その日、エイドリアン・シモンズは戸惑いながら喫茶店の席に座っていた。今の季節は夏だが、店内は涼しい。肥満ぎみで妻に引かれるほど汗かきのエイドリアンにはありがたいことだ。帰ったら、夏休みで帰省している息子とゲームをする約束をしている。なぜ、俺はこんなところにいるんだろう。それでも目の前に座る少女から目が離せなかった。

とても綺麗な少女だ。エイドリアンの息子より少し年上だろうか。暗めの赤色の髪に緑の瞳が印象的だ。なぜ、俺は見知らぬこの少女と話しているんだろう。

「それで、あなたはラルフ・エバンズと親しかったんですね」

少女が口を開き、エイドリアンは促されるように頷いた。

「あ、ああ。あいつとは一緒の会社だったんだ。同僚でよく飲みに行っていた。くそ真面目だけどいいやつだったよ。」

「では、エバンズ氏の恋人の事は?なにかご存知ですか?」

「もちろん。同じ会社で働いていた。あっちは清掃員だったが…。ものすごく綺麗な金髪の子で、会社の男はみんな狙っていたよ。俺はその頃、もう今の妻と付き合っていたけど、妻がいなかったらその子に惚れていたかもな。その子は…あれ?なんて名前だっけ?」

「とにかく、エバンズ氏はその恋人と結婚したんですね」

「あ、ああ。割りと早かった気がするな。付き合って一年だったか…。幸せそうだった。恋人の子は天涯孤独だったらしくて早く家族を作りたいとか話してたな。すぐに子どもができて、本当に嬉しそうだった」

エイドリアンはその時の幸せそうな元同僚の姿を思いだし、悲しくなった。その後の悲劇を思い出したのだ。

「結局、ラルフは子どもの顔を見ることはできなかった。会社帰りに交通事故に巻き込まれてね。あっという間に逝ってしまった。悲しかったよ。本当に。でも、奥さんはもっと悲しそうだった」

目の前の少女はじっとエイドリアンを見つめてきた。

「その後は?」

「いいや。何も知らない。すぐに子どもが生まれたらしい。奥さんは一度だけ子どもを抱いて、ラルフの荷物を取りに来てくれた。気丈に振る舞っていたけど、だいぶ憔悴してきたよ。それでも、子どもと一緒にしっかり生活を立て直すと話していた。あの後、どこかに引っ越したらしくて、本当に何も知らないんだ…」

なぜ、見知らぬ少女にこんな話をしているんだろう。ぼんやりと考える。エイドリアンでさえ、とっくの昔に忘れていたことだ。

目の前の少女は立ち上がると微笑んだ。

「貴重なお話をしていただいてありがとうございました、ミスター・シモンズ。ここは私が支払います。今日は貴重なお時間をいただきありがとうございました」

少女は代金を置くと、目礼し、テーブルから離れようとした。エイドリアンはふと我に返ったように顔を上げ、少女に声をかけた。

「お嬢さん…。もしかしてどこかで会ったことがあるかい?なんだか見覚えがあるんだが…」

少女はニッコリ笑って首を傾げた。

「さあ……。どうでしょうね?」

気がつくと、エイドリアンは喫茶店の外に出ていた。もう少女はいない。少女と話していたのは短時間だったのに、まるで深い夢を見ていたかのように感じる。腕時計を見ると、もう夕方に近かった。まずい。営業の途中だった。会社に戻らなければ。エイドリアンは少女の事を頭の隅に追いやると、慌てて駆け出した。もう少女の顔もよく思い出せなかった。

 

 

 

シャーロットは墓地に来ていた。空は明るいオレンジ色に染まっている。黒いシンプルなワンピースが風に揺れてふわりと舞い上がった。目の前には小さな墓石がある。そこにはシャーロットの両親の名前が彫られていた。ここに来るのは数年ぶりだ。ホグズミードに住んでからは来られなかった。来るのがつらかったからでもある。マクゴナガルのお陰で母の思いを素直に受け止める事ができた。けじめをつけるために墓参りをしようと思い付いたのだ。近くの教会が管理してくれてるのだろう、墓は思ったよりも荒れていなかった。シャーロットは花屋で購入した百合の花束を墓の前に置く。そして、墓石の名前をそっと指でなぞった。

「…久しぶりね」

シャーロットは薄く笑った。墓参りをすることはものすごく勇気が必要だと思っていたのに、いざ来てみればなんだか心がスッキリしたような気がする。生前の両親の様子を、父の友人から聞き出したことで少しだけ気持ちの整理ができた。きっと、来年も来るだろう。

「さようなら、ママ。そして、パパ。私は生きるよ」

シャーロットは小さな、しかし強い声でそう言って、しっかりと前を向きそこから立ち去った。

その場には墓の前に置かれた百合だけが残された。

 

 

 

 

 

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