ホグワーツで働く屋敷しもべ妖精、アンバーがダンブルドアに呼び出されたのは寒い冬の事だった。
「なにかご用でしょうか、ご主人様」
「ふむ。君はホグワーツに来て、あまり日が経っておらぬの?」
「はい…。数日前の事でございます。」
アンバーが前の主人から“洋服”をもらったのは、突然だった。前の主人の大切にしている指輪がなくなり、その犯人としてアンバーが疑われた。アンバーは本当の犯人が前の主人の息子だと分かってはいたが、どうしようもない。否定するも結局疑いは晴れず、アンバーは“洋服”を頂く形になってしまった。
前の主人は暴力は振るわないものの、かなりわがままであり、その家族も同じような人間性だった。次の就職先として、アンバーは比較的待遇のいいと噂に聞いたホグワーツを選んだ。これは自分でも正解だと思っている。生徒たちに隠れて料理をしたり、掃除をしたりと仕事は忙しかったが、同じような仲間はたくさんいたし、居心地がよかったのだ。
「実はのう。君の仕事場を変えたいのじゃが…」
「変える?し、仕事場をですか?それはつまり…」
「いやいや!解雇ではない。実はある場所に屋敷しもべ妖精が必要なんじゃ。君はホグワーツに来て日が浅いし、できればそこに行って欲しいんじゃが…」
「一体そこで、何をすればよいのでしょうか?」
「ふむ…。」
次のダンブルドアの言葉にアンバーは思わず眉を潜めた。
「子育てじゃよ」
「………は?」
数日後、アンバーが案内されたのはホグズミードの隅にある小さな家だった。生活に必要な最低限度の物が揃っている。
「ここが新しい職場でございますか?」
「ああ、そうじゃ。もうすぐここに小さな女の子がやってくる。その子がお主の新しい主人じゃ。」
「お嬢様、でございますか。」
「お主の仕事はここでその女の子の世話をする事じゃ。その子が11歳となりホグワーツに行くまでの生活の世話をしておくれ。ホグワーツに入学した後も、夏休みはここに帰るはずじゃ。その間の世話も頼みたい。」
「お任せください!」
アンバーは勢いよく頷いた。少なくとも小さな女の子の世話なら自分にもできそうだ。精一杯頑張ろうと思った。
そして、それから少し経ち、ダンブルドアが予告した通り小さな少女を連れてきた。少女の姿を見てアンバーは少し驚いた。年は5歳くらいだろうか。少女というより少年だ。短いグシャグシャの赤毛、緑色の瞳は鋭く、服はボロボロだった。本当に女の子だろうか。そう思ったのは一瞬で、アンバーはそれを表に出さず、すぐに挨拶をした。
「お帰りなさいませ、ご主人様!お待ちしておりました、お嬢様!」
少女はアンバーを見て驚き、少し興奮したように見つめてきた。
「シャーロット、これは屋敷しもべ妖精のアンバーじゃ。元はホグワーツのキッチンで働いておったのじゃが、君の世話人として引き抜いた。何か困ったことがあればアンバーに言えばよい。」
「分かりました。よろしく、アンバー」
「よろしくお願いいたします!」
少女、シャーロットは少し緊張したように挨拶を返してくれた。こうして、シャーロットとアンバーの二人暮らしは始まった。
シャーロットは不思議な子だった。まず、ほとんど家から出ない。たまに訪ねてくるダンブルドアに本をねだり、朝から晩までひたすら読んでいる。アンバーが声をかけなければ、食事も忘れるほどだ。また、ある時は庭の大きな木によじ登り、大きな太い枝をとって来ると、包丁やナイフで削り始めた。アンバーがハラハラしながらそれを見つめているにも関わらず、シャーロットは枝から見事に杖のようなものを作った。それはやはり杖だったらしく、今度は朝から晩までずっと魔法の練習をしていた。アンバーが呆然と見守っていると、ダンブルドアには黙っていて欲しいと懇願したため、思わず頷いてしまった。
また、女の子なのに可愛らしい服や靴に興味を持たない。アンバーがダンブルドアから渡されたお金でホグズミードやダイアゴン横丁に買い出しに行った。いろんな服を見せても、シャーロットはピンとこないという風に首を捻り、アンバーの選んだ服をそのまま着ていた。可愛らしい顔立ちをしているので、何を着せても似合う。ここに来てから、シャーロットは髪を伸ばしっぱなしのため、アンバーがたまに長さを揃えるために切っていた。
「綺麗な髪ですね、お嬢様。見事な赤毛です」
長い赤毛を髪を櫛でとかしながらそう言うと、シャーロットはフンと鼻を鳴らした。
「そう?私は金髪がよかったわ」
そう言ったシャーロットの瞳は悲しみを秘めていたため、アンバーはそれ以上なにも言わずに髪を整えた。
やがて、シャーロットは11歳となり、とうとうホグワーツに入学した。アンバーは成長したシャーロットを見て誇らしかった。会えないのは寂しいが仕方ない。シャーロットが帰ってくるその日までに居心地のいい部屋を整えておこう。
一年経ち、シャーロットは帰って来た。シャーロットはダンブルドアと喧嘩したらしく、その年の夏はダンブルドアが訪ねてきても部屋から出てこなかった。アンバーはシャーロットの部屋を掃除するために入り、呆然とした。アンバーがシャーロットが気に入るように、可愛らしい小物や家具を用意して整えたはずだった。その部屋は今や凄まじく散らかっている。一番多いのは本だろうか。分厚い本があちこちに散らばり、アンバーが今まで見たこともないヘンテコな道具が転がっている。シャーロットは部屋の真ん中で楽しそうに杖を振るったり、ヘンテコな道具をアレコレ作っていた。声をかけたところ、自分なりに研究して魔法の道具を製作したらしい。シャーロットは心の底から楽しそうだった。
アンバーは見なかったことにして静かに部屋から出ていった。
シャーロットは2年生になった。アンバーにとって、その年が今までで一番忙しい年になった。学校に行ったシャーロットから、ロックハートという男の身辺調査を頼まれたのだ。シャーロットに頼まれたのだから仕方ない。アンバーはたくさんの土地を回り、調査を進めた。なぜかロックハートと会ったはずの人物が記憶がなかったりして、調査は難航したが、それでもめげなかった。何度も調査の結果の報告書をシャーロットにふくろう便で送り、その甲斐あってシャーロットの目的は達成されたらしかった。夏休みが始まってすぐにシャーロットは輝くような笑顔でお礼を言ってきた。何か欲しいものがないかと尋ねられたが、そんなものはない。アンバーにはシャーロットの笑顔だけで満足だった。
そして、やってきた今年の夏休み。今日はシャーロットがホグワーツから帰ってくる。アンバーは朝から大忙しだった。掃除をして、シャーロットの好きな料理を作る。デザートにケーキも用意した。きっと今年もアンバーの小さな主人は家の中をたくさん散らかすだろう。きっと髪も伸ばしっぱなしのはずだ。学校でできた友達のお陰で多少のおしゃれは覚えてきたようだが、きっと今年も主人の髪を整えるのはアンバーの仕事だ。だが、それもいい。シャーロットの髪をとかすとき、アンバーは紛れもなく幸福を感じるのだ。今年はいつまでこの家にいてくれるだろうか。一昨年も去年も途中から友達の家に行ってしまった。シャーロットがこの家にいる間は心から落ち着けて、寛げるような空間にしたい。アンバーはそのための努力は惜しまない。
そして、すべての準備が整った頃、ガチャリと扉が開いた。入ってきたのはもちろん、小さな赤毛の少女だ。アンバーはニッコリ笑って迎え入れた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。」